第19話 幕間・その後の彼ら・1

 最初は三人称視点。


◆から後ろはアトリの一人称視点です。



「13回目は297,000クラウン」


 そう言うと、テーブルを囲むミハエルたち4人の間に重苦しい沈黙が流れた


 ミハエルたちはいい配信時間を貰いギルドの宣伝もあって、デビュー当初は其れなりに注目を浴びた。

 収入も9回目は500,000まで伸びたもののその後は頭打ちになって10回目、11回目のいずれも下降線をたどっている。


 この金額は低くは無いが、パーティ4人で分けることを考えれば高いとは言えない。

 ましてや、休日前の夕方という最高の配信時間を与えられているパーティとしては全く物足りない数字だ。


 折角いい配信時間を貰ってはいるものの、他のパーティに紛れてしまっているから、時間枠が仇になっている。

 新進気鋭の若手なら声が掛かる先行配信とかそう言うオファーもない。

 

 そして、アストンたちの躍進がミハエルをいら立たせていた。 

 アストンたちは小さな酒場相手とはいえ、早くも先行配信契約を勝ち取ったという。


「次はそう……俺達ももっと足の速さを活かしたやり方で行く」

「それってあいつらの真似……」


 1人が言うのをミハエルが遮った。


「真似じゃねぇよ。あんな奴らの真似なんてする気はない。むしろ俺たちが独自のスタイルを切り開いてやる。そう、バトルもスピードも併せもつ、俺流、ミハエル流のアタックだ」


 ミハエルが言って仲間たちが顔を見合わせた。


「RTAとか御大層な名前を付けてるが、所詮逃げながら走ってるだけだろ。

そもそもあいつらに出来るなら俺たちにできないはずがない……そうだな、ロゴス宮殿に行くぞ」


 ロゴス宮殿は敵が少なく、出てきてもさほど強くは無い。

 俺たちのアタックには適しているはずだ、彼はそう考えた。


 それに、まだアストンたちはロゴス宮殿に入っていない。

 ここでロゴス宮殿で良い記録を出せばあいつらに先んじて行くことができるはずだ。



 休日前の夕方7時半と言う、いわゆるゴールデンタイム。

 星空の天幕亭はほぼ満員で、店内に設置された映し板ディスプレイにはそれぞれ違うパーティのアタックが映っていた。


 それぞれのファンらしき客が映し板の前に陣取ってビールやワインを片手に声援を送っている。

 ああいうのを見るのもなかなか面白い。俺達の配信の時はどんなふうになっているんだろうな。


 天井からは俺達のホームであることをアピールするように、俺たちの顔の刺繍と、揃いのコスチュームをモチーフにしたような赤いフラッグもかかっている。

 いつ見ても中二病っぽくて気まずいが、アストンたちは嬉しそうだ。

 

『見ていてくれ。俺達はこのロゴス宮殿の10階層を目指す。目標は35分だ。バトルも入れていくぜ』


 聞き覚えのある声が聞こえたと思って、声の方を見る。

 映し板ディスプレイの一つに映っていたのはミハエルたちのパーティだ。

 どうやら今からアタックらしい。映し板ディスプレイの前には何人かの客の姿が見える。


「ああ……あいつらロゴス宮殿でRTAやるのか」

「アニキ、知ってるのか?」


 さっくりと揚げた白身魚にタルタルソースっぽいものをつけた、フィッシュアンドチップス風の料理を食べながらアストンが聞いてくるが。


「そりゃ勿論知ってる……あそこはRTAをやる分には最悪なんだよな」


 ロゴス宮殿は複数の四角い部屋が通路でつながった感じのダンジョンだ。

 フロアは狭く、敵は比較的少な目だ。


 これだけだと一見楽に見えるんだが、罠が多い上に、ランダムに通路が切り替わっていくからルートが全く安定しない。

 それに部屋の作りが似たような感じで現在位置がつかみにくい。

 ダンジョンそのものにギミックがあるタイプだ。


 そしてグダグダしている間に敵に絡まれて時間をロスし、HPやMPを削られる。

 時間を掛ければ攻略は難しくないが、長期戦になりやすい……まあRTAをやるには最悪のステージだ。

 

『くそっ!いま何処だよ、これ!』

『わかんねえ。ていうか今きた通路が閉まっちまったぞ』

『敵が来る。動く鎧リビングメイルだ』

『くそがぁ!なんでこうなるんだ』


 画面の中で動く鎧リビングメイルとミハエルたちの戦いが始まっている。10階層30分どころか、3階層の時点ですでに25分経っている。

 周りを見ると客も興味なさそうに画面から目を切っていた。暫くして別のパーティのアタックに画面が切り替わる。


 まあ……こうなるわな。

 ほとんどのダンジョンを調べた俺ではあるが、ロゴス宮殿でのRTAはやらないだろう。

 その位面倒なところなのだ。


 確かRTAの記録もそこまで良くはなかったと思う。

 しかも通路のつながりの運の要素が強すぎて、記録を出しても評価を受けにくい。


 俺でも10階層30分はツキに恵まれない限り無理だろう。

 とはいえ、そんなことをあいつらは知る由も無いだろうが。


「はいどうぞ」

「わ、ボクこれ好き」


 グレイスが大きめのスープ皿を机に置いて、マリーチカが嬉しそうに言う。。

 皿の中に入っているのは、トマトスープで炊いた米を半熟卵でとじた、リゾットとオムライスの中間のような料理だ。

 ゴロゴロした鶏肉と根菜が入っている。


 芯が少し残った米はしっとり柔らかいような硬いような不思議な食感だ。トロリとした卵とトマトスープが絡んで美味い。

 しかし、米を食べると白米が恋しくなるな。


「ほんとにあんたたちが来てくれてよかったわ。感謝してる」

 

 グレイスが感慨深げに言う。

 まあ確かに、明らかに最初に来た時より賑わいの度合いが違う。

 店内の調度品はなんとなく新しくなった気がするし、雰囲気も最初の来た時より明るい気もする。


 賑やかな客の声と明るい店員さんの声がそうさせるのかもしれない。

 繁盛店の雰囲気って感じだな。

 

 俺たちに会える酒場というイメージもあるらしく、それも客入りに影響してるっぽい。

 実際、声をかけられることも多い。おかげで晩飯代が浮いたりすることもある。


「あんたたちに賭けて良かったわぁ」


 そう言ってグレイスにハグされた。

 ふんわりと香辛料とかオリーブオイルとかのが混ざった香りがする。

 ちょっと目をやると、マリーチカがなんか嫌そうな目で俺を見ていた。

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