第31話 その後の彼ら・2

 最初は三人称視点。◆から後ろはアトリの一人称視点です。



「こちらが15回目の報酬です」


 ギルドの係員がミハエルに報酬を記録した目録を渡す。その目録には198,000クラウンと記載されていた。

 これでまた前回の配信を下回った。落ち込みに歯止めがかからない。 

 

「ところで、次回からあなたのパーティの配信時間を変更させてもらいます。この時間以外で希望の時間を申請してください」

「ちょっと待て。どういうことだ」


 ミハエルが怒ったように言って、がらんとしたギルドのホールに声が響いた。

 後ろにいたアレックスたちのメンバーが不安げに顔を見合わせる。ギルドの係員が表情を変えずに言葉を続けた。


「あなたの時間枠は誰しもが使いたい枠です。現状ではあなた達はこの枠にふさわしいアタックをしているとは言えません」

 

 彼等に今与えられている時間枠、週末の安息日前の夕食時は一番アタッカー配信酒場に人が集まる時間だ。

 誰しもがその時間に配信したいと望むが、配信の枠には限りがある。


「ちょっと待て……俺の父親が誰だか知っているのか?」


 ミハエルが脅すように言う。


「もちろん知っています。コード1578、ミハエル。だから今まであなたには十分な恩恵を与えたはずだ」

「われらギルドの目的はアタッカーがよりよい環境で配信すること。より多くの人たちにこのアタックを見てもらい楽しんでもらうことです」

「貴族であっても、全ての我儘が通るわけではありませんよ」


 ギルドの職員が取り付く島もないと言う感じで答えた。

 ミハエルが奥歯を噛みしめて職員たちを睨みつける。


「というよりも、父上がお越しになっておられます」

「なんだと?」


 係官が言って、ギルドのホールの入り口から豪華な黒の上着を羽織った50歳くらいの細身の男が入ってきた。

 この街の貴族であるエレファウス家の当主である、ミハエルの父、アンドレイだ。


 革靴が床とぶつかってカツカツと音を立てる。

 少し皺が目立つ顔には疲れと怒りが混ざったような表情が浮かんでいた。

 

「父上……なぜここに……どういうことですか?」


 動揺が隠し切れない口調でミハエルが言う。


「これ以上はお前の面倒は見切れん、ということだ」


 ミハエルの父、アンドレイが言った。ミハエルの表情が強張る。


「我が家の力をもってしてもギルドに何でも言うことを聞かせられるはずはないだろう」


 アタッカーのギルドは全国的な組織だ。そしてこの世界の娯楽の大きな部分を担っていて、それなりに権威がある。

 それに対してゴリ押しを続ければ、市井の悪評を招き家名を傷つける。


騎士ナイトのクラスを得たから期待していたが……研鑽を怠ったうえに、なんでも他のパーティの妨害をしていたというではないか」

「いや……それは」


 マルズたちをアストンたちにけしかけたことは誰にも知られていないはずだ。

 動揺が顔に浮かばないようにミハエルは平静を装うが。


「しかもその相手があの闇を裂く四つ星だとは。まったくつまらんことをしよって……我が家の恥だ」


 アンドレイが全てを知っていると言わんばかりに言い募って、ミハエルが青ざめた。

 アンドレイがその反応を見て舌打ちする。


「今後は大人しくしてもらうぞ……家から放逐されないだけありがたいと思え」


 アンドレイが言ってミハエルががっくりと項垂れた。



 今日も夕食は星空の天幕亭だ。いつも通りではあるが、いつも通りじゃないのはマリーチカと二人きりだってことだな。

 映し板ディスプレイにはいつもどおり何処かのパーティのアタックが映っている。

 それを見つつふとあいつらの事を思い出した。


「そう言えば、あいつら最近は見かけないな」

「誰が?」


「ミハエル」


 最後に会ったのはあの真理に迫る松明のカイエンたちと会った時だった気がする。

 配信はその直後に一度見た気もするが、正確には覚えていない。


「そういえばあの連中……最近は配信してないな」


 隣のテーブルに居たマーカスが答えてくれた。


「だが……ああいうのだったら別に他でも見れるからなぁ」

「連携がうまかったり、強かったり将来性があるやつは最初の段階で結構わかるもんさ。お前らみたいにな」


 マーカスがビールを飲みながら言うが……結構辛辣だな。

 いい時間枠は競争が激しい時間枠でもある。その時間に人を引き付けるためにはそれなりの実力が無くてはならない。


 いい時間にはいい時間の難しさがある。

 新人がいい時間に入るのはいいことばかりじゃない気がするな。


 俺達は人がいない時間枠だったが、うまく見てもらえたから運が良かった。

 ただ、どうやっても見られずに消えていくなんてことは俺が元居た環境でもいくらでもあったし、きっとここでもあると思う。


「それによ、あいつら、ここでお前のことをバカにしてただろ?」

「ああ言うのって、いい気分はしねぇよな」


「あんなの見てると、なんか目が向かなくなるぜ」

「貴族だからって偉そうにすんなって感じだよ」


 そう言ってマーカス達が頷き合った。


 上手く行っているときに浮かれて周りを見下せば、立場が変わった時にその報いを受ける。

 上手く行っている時には調子に乗りたくなるが、良い時は永遠には続かない。

 

 俺達も今は上手く行っているが、心しないといけないな。

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