最終話

 ダンジョンから帰還するや、俺は病院に搬送された。


 回復魔術も万能ではない。修復しきれない部位を、医師プロの手で丹念に治療された。入院してリハビリを済ませるまでに一ヶ月。


 退院した途端、取材の申し込みが殺到したのには驚かされた。救世主などと持てはやされている事実には気後れしてしまう。


 そんなこんな……あわただしい日々を送っている内、さらに半月が経過していた。


          ★ ★ ★


「ねえ……て……起……ってば!」


 揺さぶられる感触に、俺は目を覚ました。


「っぅん……なんだっ――でえええええええ!?」


 俺は布団をはいで上半身を跳ね起こす。起こした張本人を指さした。


「エミル……なんでお前が俺の寝室にいるんだよ!?」


 たしか、俺は昨夜しっかり戸締りをしてから床についた。ようやく身辺が落ち着いたので、リラックスして眠れたことを覚えている。


 不法侵入しようにも、ただの女子高生にこのマンションのセキュリティを突破するのは不可能だ。


「しかもお前! なんつー恰好してんだよ!」


 恵美がベッドの脇に立っていた。寝起きらしく寝間着ネグリジェを身にまとっている。薄いレース生地らしく、なかば透けて下着が見える。およそ異性にさらしていい姿ではない。


 恵美が困ったように小首をかしげる。


「だってイチイチ着替えるのもメンドいじゃん……今はウチの家でもあるんだし」

「あっ……そういえば、そうだったな」


 その一言を聞き、俺は恵美がここにいる理由をさとる――というか思い出した。


 数日前、恵美が俺の家に転がり込んできた。なんでも今後の生き方について、親と口論になって実家を追い出されたのだとか。

 もともと不仲だったことは察せられる。ギャルっぽいファッションを好むようになったのも、親への反発がキッカケらしい。


 恵美に戻る気はないようだ。もともとミーチューバーとしての稼ぎがあるので、生活費や学費には困らないという。


 普通ならたしなめて実家に送り返すところだが、あの毒親のそばが正解とは思えなかった。あの屋敷は恵美の居場所じゃない。


 だから俺は同居人として受け入れた。他人が自宅にいるというシチュエーションに慣れていなさ過ぎて、ついつい失念していたが。


「ホラ、起きて起きて! 二度寝は禁止だよ! なんたって今日は再スタートの日だし!」


 恵美が窓のカーテンを開き、室内に朝の陽ざしを取りこんだ。


 俺はよろよろと起き出した。


「朝ごはんできてるから! 一緒に食べよ!」


 そう言い置くと、恵美が廊下に出ていった。


 その後、俺と恵美は身支度をととのえて、外に出かけるのだった。


 なお、恵美は料理も得意であり、健康的な献立に舌鼓を打って活力がみなぎった。


          ★ ★ ★


 新宿ダンジョンの第4層。俺と恵美はカメラの前で並び立つ。


「――というワケで! ウチらは正式に冒険者パーティを組むことになりました! イエーイ!」


 リスナーへの説明を終え、恵美が拍手をはじめた。


“イエーイ……と言いたいところだが! これはどういうコトだ、レオポルト!”

“お前、ボッチだって言ってたよな!? なに!? 今どきのボッチは友達ができない代わりに美少女のオプションが付いてくんの!?”

“俺たちと約束したよなあ? エミルには手を出さないって! ……覚悟はできてるか?”

“地上だったら! 俺らでもお前ひとりくらいボコせるんだぞ!”


 案の定、リスナーたちが俺に怨嗟を浴びせてきた。


“だいたいお前! 世のボッチたちを勇気づけるって宣言してただろ! なに、ひとりで脱ボッチしてんだコラアアア!”

“主義主張がブレブレで草。低評価、押しときますね!”

“二重の意味で俺たちを裏切りやがってええええ! この嘘つきモンがああああ!”


 俺は咳払いをひとつ、つとめて冷静になだめていく。


「いいですか、みなさん。俺は嘘つきではないのです。間違いをするだけなのです」


 即座にリスナーのツッコミが入る。


“詭弁やろがい!”

“そんなんで納得すると思ってんのか! このエロポルト!”

“エムポルトめ! エミルにどんなプレイで責めてもらってんだ! 白状しろや!”


 しまいにはエロだのエムだの、不本意なコメントを連投されてしまった。


「お前ら、こっちがおとなしくしてりゃ調子に乗りやがって――」


 俺は余裕をくずして恒例のプロレス大会をはじめる。


 恵美がその様子を見てケラケラ笑っていた。


 俺は叫び疲れてゼエハアと息をつく。


「真面目な話……俺の夢、その軸はブレてないつもりだ」


 俺はボッチの生きかたを狭量に捉えすぎていた。他者とふかく関わるなんてムリだと決めつけていた。


「今はボッチだったとしても……将来、理解者が目の前に現れるかもしれない。事実、俺も世界観がくつがえるような衝撃を受けたしな」


 俺はチラリと恵美を一瞥する。彼女のおかげで、新天地に辿り着いたような心地になれた。変化を過度におそれなくてもいいんだと学べた。

 手のひら返しかもしれないが、そういう人生もアリだろう。


「もちろん、そんな相手と巡り合えずにいる人もいるだろうし、それでもボッチを貫くって人の信念も否定しない……けど、いろんな可能性があってもいいんじゃないか? 俺はただ! 世のボッチたちが各々、最良の道を進めるように手助けしていきたいんだよ!」


 俺も道半ば、恵美やリスナーたちと模索していけたらと願っている。


“ふーん……ま、いいんじゃね?”

“せいぜい足掻きな! 俺を楽しませてくれりゃ文句は言わん!”

“賛同したくなる理想論ッスね……お前の相手がよりにもよって! エミルだということを除けば!”


 コメントにひねくれ成分を混ぜつつも……リスナーたちがおおむね、俺の言い分を認めてくれたみたいだ。


 俺は感謝をこめて頷く。


「こっから俺の第二の人生がはじまる! よければ、応援してくれ!」


 これからも騒がしい日々が続いてくれそうだ。ひと昔前の俺なら億劫でしょうがなかったろうが、今の俺は胸を弾ませている。


“うーい! ……ところでレオポルト、パーティの名前は?”


 我が意を得たりと、俺は破顔する。恵美と視線を交錯させた。


「いい質問だ! エミル、そろそろ――」

「発表といきますか!」


 阿吽の呼吸で、恵美が応じてくれた。


 俺と恵美はせーので息を合わせて告げる。


「「俺たち(ウチら)のパーティの名前は――」」



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ユニークスキル『我慢』持ちの底辺配信者、ダンジョン探索中に有名なJKギャルを助けたら急にバズってしまう……あの、無自覚に誘惑するのはやめてください。我慢できなくなるので 大中英夫 @skdmsz9

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