第4話 『握り飯』永井荷風著を読んで 竹久優真
『握り飯』永井荷風著を読んで 竹久優真
この握り飯という短編小説は、戦争の大空襲から逃げた男女が炊き出しの握り飯を分け合うところから物語が始まる。この握り飯が、縁結びのきっかけとなったのだ。
放課後、下校時間となり部室を出て駅へと向かう僕と瀬奈。電車に乗り遅れてしまい時間をつぶす羽目になった。田舎の電車はそう次から次へとくるものではない。
小腹も空いていたので駅向かいのコンビニでおにぎりを買い、駅構内のベンチで座って食べることにした。
――ぱりっ
「いや、コンビニのおにぎりの海苔ってホントにうまいよな。なんでこんなにぱりぱりしているんだろ」
「ああ、それはね。コンビニのおにぎりの海苔には見えないような小さな穴がたくさん開いているから噛んだ時にパリッっときれいにちぎれるようになっているからだよ」
「そうか、知らなかったな」
瀬奈は調理科の生徒で、食べ物に関してはやたらと知識が豊富だ。
「ちなみにね、自分の家で作るときはパイ生地とかに穴をあけるパイローラーで海苔に穴をあけると簡単だよ」
「簡単って言ってもなあ、家にパイローラーなんてあったかな……」
おにぎりをもう一口齧る。口の中に磯の香りが広がる。
「やっぱり、おにぎりの海苔はパリパリ派だな」
「そこは意見が割れたわね、アタシはしっとり派よ」
瀬奈の食べている天むすは海苔を巻いてから包装して販売する、しっとり海苔タイプだ。海苔と同様に天ぷらだって、本来は揚げたてのサクサクのほうがおいしいのだが、おにぎりに包んでしっとりさせることでその油がご飯に浸み込みおいしくなる。
どちらが正しいかなんて、鶏が先か卵が先かよりもむつかしい問題だ。
「ところでさ、瀬奈、知ってる? 同じコンビニのおにぎりでも西日本と東日本では海苔が違っていたりすること」
「あ、知ってるよ。東日本では焼き海苔なのに西日本だと味付け海苔になるんだよね。確か明治天皇が京都に行く際に東京の土産として海苔を持って行こうとしたのだけど、鮮度を保つために味付けをする必要があったのがきっかけだったとか」
「そ、そうなのか……」
やはり、食べ物に関する蘊蓄では瀬奈にはかなわない。
「ねえ、ところでさ。おにぎりとおむすびって何が違うのかな?」
「それは、特に違いはないらしい。『握る』と、『結ぶ』がそれぞれ語源になっているけど、だからと言って違いがあるわけではないらしい。場合によって『おむすび』と呼ぶことで『縁結び』とかけて商売をするお店もあったりするんだけど……瀬奈の食べている『てんむす』って、考えたら中々におめでたいな。海老には『腰が曲がるまで』という縁起が担がれたりするわけだし」
「なるほど、腰が曲がるまでの縁結びとなると、それはもう夫婦だよね」
言いながら、瀬奈は目をししっと細めて天むすにかじりつく。
「ところでユウがさっきから食べているおにぎりの具って何?」
「ああ、これはおかかだよ。あ、瀬奈知ってる? 昔カツオのことは〝かか〟と呼ばれていて、室町時代の女官たちはそれをていねいに〝おかか〟と呼んでいたんだ。だからおかかは女性的な言い回しなんだよ」
「へー、そーなんだ。でもさ、でもさ。イタリア語ではカッツオと言えば男性的な意味なんだよね。知ってる? カッツオってさ、イタリア語で――」
「うん、その話はやめておこうか……」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます