幕間 新年の人々

 十二の月、聖人せいじんの祝日。降神日こうしんびの翌日は、神の代理となった聖人が役目を終えお休みをされる日である。新年を祝う期間に入るこの日から、人々は本格的に家に閉じ籠って年明けを待つ。聖人を労い、共に新年の訪れを待つのだ。

 ヴァーミリオン家では、降神日こうしんびに遅れること一日、この日に家族一同が集まり晩餐会となる予定であった。その為に朝早くやって来たのは、レイナードの婚約者、クラベル・ランバル公爵令嬢である。彼女は簡素な装いで、少ない荷物を自ら持っている。およそ公爵令嬢らしくない姿であったが、ヴァーミリオン家の人々も彼女自身も気にした様子はない。


「お待ちしておりました、クラベル様」

「おはよう、ガブリエル。お世話になるわ」


 荷物を受け取るのは侍女長のガブリエルだ。ヴァーミリオン家には、余所と比べると使用人の数が少ない。来客に対応できる人間は限られる。いつもクラベルがやって来た時にはガブリエルが世話役に付いているから、もう慣れたものだった。

 まずは居間へ向かうクラベルは、扉をくぐると、そこにいた人物に目を見開いた。


「リリアン!」

「お義姉ねえ様」


 リリアンに駆け寄ったクラベルは、そのまま彼女を抱き締めた。


「ああ、リリアン、会いたかったわ!」


 リリアンはクラベルの背に腕を回した。


「わたくしもですわ、お義姉様。お元気でしたか?」

「ええ、元気よ。リリアンも元気そうで嬉しいわ」


 ぎゅうぎゅうとリリアンを抱き締めるクラベルは、そのまま顔をリリアンに擦り付ける。すべすべの肌、さらさらの髪。そしてほのかに鼻を掠める香り。花の香水は、リリアンにぴったりの上品さを兼ね備えたものだった。それを胸いっぱいに吸い込んで、クラベルはようやくリリアンを離した。


「少し見ない間に、また美しくなったわね、リリアン」

「まあ、お義姉様。先月会ったばかりではありませんか」


 クラベルは肩を竦めてみせる。


「仕方がないじゃない。あなたは毎分毎秒美しくなるんだもの。先月より美しく見えるのは当然だわ」

「そんな事はないはずですけれど……」


 リリアンの髪を撫で付け、愛おしげに見つめるクラベルの瞳はどこまでも優しい。落ち着いたブラウンの瞳はリリアンを穏やかな気持ちにさせてくれる。それもリリアンが彼女を慕う理由のひとつだった。

 とは言え、クラベルは快活な女性である。ブラウンの髪と瞳という、地味に見える色合いを持っているけれど、人柄のためにそんな感じはしなかった。華やかではないが、リリアンからしてみればきらきらした見た目のアルベルトやレイナードよりも、クラベルの方がよっぽど明るく見えた。

 いつまでもこうしていたかったが、そういうわけにもいかず、クラベルは名残惜しそうに再度リリアンを撫でる。そうして、たまらずといった様子でもう一度抱き締めた。


「ああ、もっとこうしていたいけれど、時間が無いわね。リリアン、また後でね」

「ええ、お義姉様」


 仕方なくクラベルはリリアンを離して、居間を出る。と、扉の向こうからレイナードが中の様子を伺っていたことに気が付いた。


「あらレイ、居たのね」

「……ベルは、ずるい」


 きゅっと寄せられた眉に、クラベルはふふ、と笑いを漏らした。


義姉あねの特権、かしらね」

「僕だってリリーをハグしたいのに……」

「残念だったわね。お兄ちゃんにされるのはもう恥ずかしいのよ」


 時間が無いことでもあるし、クラベルはレイナードを連れて部屋へ向かった。クラベルが使うのはいつも同じ部屋だ。もう慣れたものなので案内は必要ない。けれども、レイナードが着いてくるのもいつものことであった。普段は会えない婚約者ということで、リリアンの手前、一緒にいるようにしているのだ。

 二階へ上がる階段を登りきったところで、クラベルは悲しそうなレイナードの肩をぽんぽんと叩く。


「恥ずかしいだけで、嫌なわけではないと思うわ」


 慰めたというのに、レイナードの眉は寄ったままだ。仕方がないなあと思いつつ、リリアンにハグを遠慮されたら悲しくなる気持ちも分かるから、クラベルは揶揄したりしなかった。


「女の子同士は、仲の良い子ならハグくらいするもの。家族にされるのと、友達とやるのとでは意味が違うから」

「そうだろうか……ベルはそのうち家族になるだろう?」

「小さな頃からやっている男の兄妹と、友達付き合いの延長のような女性とでは違うものよ。でも、そうね。例えばだけど、正面からでなくて、横から抱けばいいんじゃないかしら」

「横から?」

「そうよ、こんな風に」


 クラベルは、レイナードの左隣から、右腕ごと胴体を包み込むように彼の体を抱き寄せる。体格差があるからこんな形になってしまったが、レイナードがリリアンにやる場合だと、肩を抱くことになるだろう。


「上腕でも肩でもいいと思うけれど。ソファの横隣だともっとくっつけるわね。これならリリアンも、きっとそんなに嫌がらないわ、多分」


 クラベルに抱かれたままのレイナードは、ぴんと伸ばしていた背筋を折り曲げた。


「リリーは可愛いんだ、すごく」


 レイナードの突然の告白にもクラベルは動じることなく、「うん、そうね」と同意する。


「誰かに取られちゃのが不安?」

「そういうわけじゃない。ただ、あの可愛いさを独り占めしたい気持ちと、世に知らしめたい気持ちがせめぎ合って、どうしたらいいかわからない時があって」

「分かるわ!」


 クラベルは力強く頷く。


「あの子の美しさは独占して良いものではないのよ。でも、ずっと手の中に納めて慈しんでいたいと思うのよね」


 その通りなのでレイナードは頷いた。


「でも……」


 そう続けるクラベルは表情を曇らせる。


「そうやって慈しんでいては、リリアンの美しさは輝かないのだわ」


 レイナードは目を瞑る。そうなのだ、リリアンは、屋敷で慈しんでいるだけでは十全に輝かない。呼ばれた王宮や他家のパーティーでこそ輝きを増す。それは着飾っているとか、シャンデリアの明かりを反射したアクセサリーが光るとか、物理的にそう見えるという話ではない。ヴァーミリオンの名に恥じないようにと、胸を張るその姿こそ、リリアンの輝きは内側から溢れ出すのだ。良からぬ輩の視線には晒したくないと思いながらも、リリアンを連れて行くことがあるのはそのせいだった。決して見せ物にするのではなく、あくまでリリアンの素質を磨く為だ。アルベルトもそれは把握している。あとはまあ、美しいリリアンを自慢しているというのもあるけれど。

 ともかく、ヴァーミリオン家の人々はいつもそうやって、葛藤をし続けているのだ。

 その気苦労たるや押して知るべし、とは言い難い部分もあるが、それを常に続けているレイナードを痛ましく思うクラベルは、抱いたままの腕を摩っていた。

 その時、ぼーん、と鐘の音が鳴って、クラベルははっとその手を離した。


「大変! 時間が無いんだったわ」

「すまない、引き留めて」

「いいのよ、その分頑張れば良いだけ。リリアンの為だもの、それならわたしはなんだって出来るわ」


 にこりと笑うクラベルには、なんの迷いも無い様に見えた。レイナードはそれが心強く思える。

 彼女は、レイナードよりもリリアンを優先してくれる令嬢だった。それはレイナードが何よりもパートナーに求めるものである。だからこそ、彼女はここに居られるのだ。

 レイナードは慌ただしく身なりを整える婚約者を見送った。


「頑張って、ベル」

「当然よ」


 そう言って、クラベルは部屋を出て行った。



 厨房にやってきたクラベルは、茶色い髪を三つ編みにして、それを更に纏めた。

 彼女がこれ程早くやって来たのには理由があった。リリアンの為に大きなケーキを作るためだ。その為だけに前日には必要なものをヴァーミリオンの屋敷に届けさせている。ケーキの材料の方が、彼女自身の荷物より多いのだから、気合いの入り方が伺える。厨房の一角に高く積まれたそれは、ヴァーミリオン家の使用人の手によって綺麗に整えられていた。


「忙しいのに悪いわね」

「準備はこれで宜しいでしょうか」

「有難う、大丈夫よ」


 リリアンの為のケーキは、過去に見た事のないような、特別なものにするつもりだった。それで構想に構想を重ね、最近の流行と最新の技術を学んで作り上げたのが三段に重なった巨大なデコレーションケーキである。土台のスポンジケーキは前日に焼き上げ運び込んであるので、今日はこれを仕上げるのだ。厨房の料理人がクラベルに手を貸してくれる。これならばなんとか間に合うだろう。クラベルは最終的な完成イメージを料理人に伝え、必要なクリームやデコレーションに使用するチョコレートなどの準備に取り掛かる。


「急ぎましょう、時間がないわ」


 そうして手早く材料を計量する姿は、貴族令嬢とは思えないほど手際が良かった。何を隠そう、リリアンにクッキーの作り方を伝授したのはこのクラベルなのである。その味は王都の人気店にも勝るとも劣らない。リリアンは、クラベルが作るお菓子が大好きなのだ。だからヴァーミリオン家の料理人達は、クラベルに対してとても丁寧な態度で接する。敬愛するお嬢様の好みの物を作られるお方を、ヴァーミリオンの人々が邪険にすることなどないのだ。


 砂糖とナッツの粉を合わせて練ったもので薔薇を作り、絞り袋でクリームを載せ、果物を飾れば、見た目も華やかなケーキの出来上がりである。料理人の尽力もあって、時間までに完成させることが出来た。クラベルはほっと肩の力を抜くと、手を貸してくれた彼らに礼を伝えた。


「有難う、とても綺麗に出来たわ!」


 間に合って良かったです、と返してくれる料理人は、いい笑顔だった。


「素晴らしい出来映えです。これはきっと、リリアン様もお喜びになりますね」

「ええ、本当に。我が儘に付き合ってくれて有難う」

「とんでもございません」


 そうして慌ただしくお茶の準備に入る。ケーキはまず、家人に振る舞われ、その残りは使用人に配られるだろう。あれだけ大きなものであるから、十分に行き渡るはずである。

 味見をしたクリームも添えられた焼き菓子も非常に美味であった。こっそりと楽しみにするくらいのことはお許し頂けるだろう。後片付けを託された料理人は、そのように思った。



 そのケーキを前にしたリリアンの、驚きが溢れたその表情! すぐに弾けて、それが喜びに変わった時、クラベルは頬が緩むのを抑えられなかった。


(ああ、なんて美しいの……!)


 大きなケーキを、目を輝かせて色々な方向から眺めるリリアン。その笑顔はたまらなく美しい。それをアルベルト、レイナード、それから使用人一同全員が愛おしげに眺めている。

 皆の視線を集めるリリアンは、一通り視覚でケーキを楽しむと、それの制作者であるクラベルを振り返った。


「すごい、すごいわ、お義姉様! 三段のケーキなんて、見た事がない!」


 リリアンの可憐な姿にクラベルは笑みを深める。


「ふふ。リリアンの為に頑張ったの」

「ふわふわのクリームも、お花の形の飾りもとっても綺麗。この焼き菓子はなあに?」

「これはフィナンシェよ。薔薇の型を特注したの」

「薔薇の形のフィナンシェ? そんなものができるものなの?」

「あら。現にここにあるでしょう?」


 ちょっとだけ胸を張る思いで、クラベルはナイフを手に取った。綺麗に飾られたケーキにナイフを入れる瞬間はいつでも緊張するものである。そっとケーキを切ると、それを皿に移した。間に挟んだ果物が瑞々しくて実に美味しそうだ。うまく出来たようで良かったと、クラベルは安堵しながら皿をリリアンに差し出す。


「さあ、食べてみて頂戴?」


 リリアンは、一口分だけフォークにケーキを取ると、それを口に運ぶ。口に入れた瞬間に感じたのはクリームのミルクの風味。それに驚いていると、柔らかな甘みが広がってくる。滑らかなクリームが、しっとりとした舌触りのスポンジと合わさって、混ざり合いながら消えていく。残った幸福感がリリアンを包んだ。いつも味わっているクラベルのケーキよりも、一段も二段も上の味わいだ。大きさと言い味と言い、彼女がどれだけこだわり抜いて作ったのかが伺えた。


「美味しい!」


 有り体に言って、ほっぺたが落ちそうだ。リリアンは頬に手を添え、クラベルを見る。


「お義姉様、このケーキとっても美味しいわ!」


 クラベルは、ふふ、と笑って、


「喜んで貰えて嬉しいわ。でも他の段も美味しいわよ?」


と、他の段から少しずつケーキや焼き菓子を皿に取って、リリアンの前に差し出した。

 リリアンはそれを少しずつ味わう。その度に、大きな瞳を更に見開いて煌めかせるのだからたまらなかった。

 一口含む度、表情を輝かせるリリアン。それが嬉しくて楽しくて、クラベルはもう大満足だった。



「美味いな」


 もごもごと口を動かすのはアルベルトだ。実に短い感想であるが、それは最高の賞賛だった。それを知っているレイナードは、意外とも思わなかったが、意見には同意だったので頷く。

 クラベルは努力家で研究熱心だ。ただひたすらリリアンに喜んで貰いたくて、職人の域に達するほどにお菓子作りの腕を磨いた。修行の為に、他国に留学に行ったのは三年ほど前のことだ。そのせいでレイナードとの不仲説が広がってしまったが、磨いた技術が今こうして役に立っているのだからどうでもいい。レイナードも再びケーキを口にした。

 とてもいい笑顔で頬張るリリアン。それを見ているだけでも構わなかったが、リリアンと同じものを共有できるのであれば、苦手なお菓子だって食する。それがレイナードである。甘ったるいものが王都には多いが、クラベルの作るものはどれも甘みが抑えられた上品なものだった。特にフィナンシェは絶品だ。焦がしたバターの風味がたまらない。美味しく頂くレイナードはいつもの通りの無表情であるが、気持ちは十分上気していた。

 なにせ、リリアンの輝かしい笑顔を間近で見られるのだ。これ以上の幸福があるだろうか?


「最高ですね」

「ああ」


 最早言葉は要らなかった。ただただひたすらはしゃぐリリアンを鑑賞することに全力を尽くすレイナードとアルベルトは、一瞬もリリアンから視線を逸らすことはなかった。



◆◆◆



 昼食代わりにひとしきりケーキと軽食を食べ、お腹を落ち着けている間に、リリアンはシルヴィアに頼んで部屋からプレゼントを持ってきて貰うことにした。他の家族からリリアンへの贈り物に宝飾品があったりするから、晩餐会の前にプレゼント交換をするのがヴァーミリオン家の習慣であった。

 シルヴィアから包みをひとつ受け取って、それを両手に持つ。手に収まる小さな箱は、リリアンからアルベルトへの贈り物である。


「これは、お父様に」


 シンプルな包み紙は白地に銀で百合を簡略化したものが描かれたものだ。リリアン専用の包み紙である。それを受け取るアルベルトの手は震えている。もうすでに感極まっているのである。

 ぷるぷる小刻みに震える手に、リリアンはそっと包みを乗せた。


「使い易いデザインの、カフスを選んでみました。気に入って頂けるといいのですけれど」


 アルベルトは、はにかむリリアンを見つめる。


「リリアンの選んだものだ、絶対に気に入るに決まっているだろう?」


 冷静に言っているように聞こえるが、顔はデレッデレに蕩けているし、声は震えている。つっかえずに言えたのは奇跡かもしれない。


「違ったデザインで、石の色も違うのを選んだんです」

「ああ、有難う、リリアン。後でじっっっっっっくり眺めるよ」


 言葉の通り、その夜は空が明るくなるまでカフスを眺めたアルベルトであった。言い分は「時間の経過で光源が変わって、色合いが変化しているのを見ていたら、つい」とのことだ。ベンジャミンが重くため息をついたのは言うまでもない。

 包みを胸に掻き抱くアルベルトは幸せそうにしているのでそのままにしておくことにしたリリアンは、次に細長い小箱を持って、レイナードの元へ向かう。


「お兄様には、こちらを。書き物が増えたと仰っていたので、万年筆にしました」


 お仕事に使う物になってしまって申し訳ないけれど、と続くリリアンに、ふわりと笑うレイナードは小さく首を振る。


「いや。ちょうど新調しようと思っていたところだったから」


 その言葉にリリアンはにこりと笑んだ。レイナードは、道具を大事にする人だから、定期的にきちんとメンテナンスしていることを知っている。それでもそのように言うのは妹を想ってのことだろうと、そう解った。


「お兄様がいつも使っているメーカーにオーダーしましたの」

「そうなのか。有難う、大事にする」


 レイナードは笑顔でいつつも驚いた。ということは、既製品ではなくて特注品だろう。どんなデザインでどんな書き味なのかが気になるところだ。もしも疲れにくいようであれば、職場で存分に使いたい。けれど、リリアンから貰ったものが紛失してしまったら大変だ。やはり家で使うべきだろうか。実に悩ましい問題である。レイナードは持った箱を見て思いを馳せた。

 そうやってレイナードも動かなくなってしまったので、リリアンはクラベルにプレゼントを渡す事にした。

 クラベルへのプレゼントは、花束だ。ただし、ただの花束ではない。これはプレート伯爵家で作られた、『枯れない花束』の完成品である。まるで生花のようだが、水分を抜いてあるからなかなか傷まない。数ヶ月以上このままなのだそうだ。ヴァイオレットにそのように聞いて、リリアンはすぐにプレゼント用に作成を依頼した。クラベルならばきっと気に入ると思ったのだ。

 実際、クラベルは興味津々で花束に見入っている。


「お義姉様には花束ですわ」

「有難う、リリアン! すごく綺麗だけど、これは生花ではないの?」

「ええ。わたくしのお友達の家で考案したドライフラワーで、変色の少ないものです。もっと状態を良くしたものを試作中なんだとか」

「凄いわ、これがドライフラワー? こんなに色が残っているなんて」

「そうでしょう?」


 友人を褒められたリリアンは嬉しそうに返した。

 クラベルはそんなリリアンを花束ごしに眺め、堪能する。クラベルは年明けには国に戻る。だから、時間が経っても大丈夫なものを選んでくれたのだろう。それも友人が考案したものだというから、自信がある物に違いない。装飾品にしなかったのはクラベルの事情を慮ってのことのはず。その気遣いも嬉しくて、胸がいっぱいになる。


「数ヶ月も楽しめるだなんて嬉しい。有難う、リリアン」

「ええ」


 大事そうに花束を抱えるクラベルの姿に、リリアンは胸が温かくなる。

 家族がそれぞれ贈った物に熱中してしまったので、リリアンは残りのプレゼントを配ることにした。残りは使用人のへのプレゼントだ。多分きっと、貴族令嬢が使用人に贈り物を配ることはしないものだろうけど、そんな常識が通用するヴァーミリオン家ではない。

 リリアンは普段の労いにと、準備した包みを順番に手に取る。ちなみに、ここにあるものはシルヴィアやベンジャミンには内緒で入手したものだ。入手経路はアルベルトとレイナードだったりする。二人に知られないよう、こっそり揃えるのはリリアンには難しかったのだ。無論二人とも二つ返事で了承してくれたのは言うまでもない。


「ベンジャミンにはこれ。いつもお父様に付き合っていて疲れるでしょう? リラックス出来るというお茶よ、試してみて?」


 ベンジャミンはこの時ばかりは、普段の厳つい顔を綻ばせる。包みを受け取ると、珍しくにっこり笑った。


「これは、有難うございます。是非試させて頂きます」

「効果があるといいのだけれど」

「きっとございますよ。お嬢様の選ばれたものですから」

「もう、あなたまでそんな事を言うのね。お父様とお兄様もいつもそう言うのよ」


 そんなことはないのに、と笑うリリアンは楽しげだ。釣られて高揚してしまうのは仕方のないことだろう。可憐なお嬢様は、微笑むといっそう愛らしく変貌するのだから。

 次はシルヴィアの番だ。可愛らしい袋にリボンを結んであるのは、花束と同じくヴァイオレットに依頼して購入したハンドクリームである。


「冬になると手荒れが気になると言っていたから」

「お嬢様……! 有難うございます」

「ハーブの香りのする物は苦手だって言っていたでしょう。これは花の香りなんですって」

「まあ、そうなんですか?」

「シルヴィアも気に入ると思うわ。とってもいい香りなのよ?」


 小首を傾げるリリアンに、シルヴィアの我慢は限界を迎えそうになっている。もう、「お嬢様可愛い!!」と叫んで楽になりたいなどと思いながら、それではリリアンが困るだろうと堪えていた。有難うございますとひたすら繰り返して意識を保っている状態だった。

 そうして、テーブルの上に残ったのは四角い包みが一つだけ。それは、一人残ったルルのものだ。

 ルルに渡すものはなにがいいかとリリアンは散々悩んだ。服もお菓子も、ルルが喜びそうなものならなんでも贈りたかったが、他の使用人の手前そういうわけにいかなかった。ルルだって一人贔屓されては困るだろう。だからリリアンは、あえてそういう類のものは候補から除外した。ベンジャミンと相談した結果選んだのは、物語が書かれた本だった。


「はい。これはルルに」


 ルルは、自分も貰えると思ってなかったのだろう。えっ、と漏らして、それから目を大きく見開いた。


「そんな。わ、わたしにですか?」


 リリアンはもちろん、と頷く。


「簡単な読み書きは出来るのよね? それならこれも読めると思うわ」


 はい、と差し出せば、ルルは呆然とした様子でそれを受け取った。包みを不思議そうに眺めるので、リリアンはくすりと笑ってしまう。


「難しくて読めないところがあったら、聞いてちょうだい。教えてあげるから」

「そ、そんな。リリアン様に聞くなんて」

「だったらシルヴィアでも、同室の子でもいいのよ?」


 茶目っ気たっぷりにリリアンが首を傾げれば、ルルは「はわあ……」とおかしな声を上げてぎゅっと目を瞑ってしまう。でも、それでは失礼だとシルヴィアに肘で突かれて、慌ててお辞儀をしてみせた。


「リリアン様、有難うございます!」

「ええ。良かったら、感想を聞かせてね」


 ……と、この様にして、リリアンからの贈り物は喜ばれたのだった。余談であるが、家中の使用人にも贈り物は配られている。リリアンの側に近い者には、こうやって手渡ししているのだ。


 アルベルトは小箱を胸に抱いて天を仰いでいる。

 レイナードは、手の中の箱を見て淡く微笑んでいる。

 クラベルはドライフラワーの花束にうっとりと頬を染めている。


 三者三様の、でも見慣れた姿に、喜んで貰えたようだと、リリアンも大満足であった。



 午後から家人はそれぞれ食後の休息と身支度のための準備に入った。リリアンは、クラベルと共に準備用の一室でお喋りに興じる。先程のケーキの感動が忘れられないリリアンは、興奮が収まらない様子だった。クラベルにケーキの作り方を訊ねていたが、聞いているうちにしゅんとしてしまう。


「そんなに工程があるのですか? では、わたくしには無理そうです……。パウンドケーキを焼くのだって精一杯なのに」


 クラベルはリリアンの様子に眉を下げた。慣れればきっとリリアンにも作れる、そう言うのは難しかった。なにしろお菓子作りに慣れきったクラベルでさえ、今回のケーキはかなり難しかった。


「そんなにしょげないで。リリアンが食べたいのなら、またいつでも作ってあげるから」


 小さいものになるけれどね、と続ければ、リリアンはぱっと顔を上げる。


「お義姉様、本当?」

「もちろんよ」


 クラベルが頷くとリリアンの頬は紅潮する。


(ああ、ほんとうに可愛い……)


 それをクラベルは堪能していた。


(こんなに喜んでくれるのなら、毎日だって作ってあげたいのだけど。流石にそれは無理なのが悔しいわ……。代わりにお願いされたらいつでも作れるよう、準備しておきましょう。ああ、それなのに、こんなに目を輝かせて。もう、これだけで満足だわ。この子のこんな笑顔を見られたのよ。それ以上の幸福がある?)


 嬉しそうにしながら身支度を進めていくリリアンを、クラベルは目を細めて見つめる。


(いえ……そうね。それ以上の幸福と言うのなら、リリアンに出会えたこと、それそのものが最高の幸福だわ。リリアンとの出会いを授けて下さった、閣下とレイに感謝をしなければね)


 抑えきれない衝動が溢れていたせいで、クラベルはそんなトチ狂った思想に陥っていた。誰にも知られることなく、密かに想いのままに祈りを捧げるクラベルなのだった。



◆◆◆



「うおぉっ!!」


 午後を目一杯使って着飾ったリリアンが食堂へ入った時、先に待機していたアルベルトは、あまりの眩さに網膜が焼き切れる思いがした。もちろん物理的にそうなったわけではない。眩さに目が眩み、美し過ぎるリリアンの姿に気が遠くなって意識が飛びかけ、視界が真っ白になったのである。それは仕方のないことと言えよう。

 この時の為に半年以上前から布地から準備をしていたドレス、淡いグリーンのそれは滑らかな光沢のあるものだ。そこに金の糸で刺繍を施してある。刺繍は、裾の方から密度が減るように腰の辺りまで伸びている。図案は古くからあるものだ。豊穣を祈るシンボルの中から好みのものを選んで組み合わせる。色合いの異なる糸で、立体的に縫い付けられた刺繍は煌びやかだった。ところどころに縫い付けられた宝石も見事なものだ。小さくとも輝きの良い物を選んでいるので当然である。

 胸元を彩るのはやはり金糸の刺繍、それと深い色合いのサファイアの首飾り。大きな大きなその石は、きらきらと輝くダイアモンドで縁取られている。美しいデコルテで輝くそれは、リリアンの圧倒的なまでの輝きにも負けていない。

 そして、いつもよりもしっかりと施された化粧で飾られた、その顔。ふわりと口角が上がれば、誰しもが魅せられ、身動きひとつ取れなくなる。


(美……!)


 なんなのだこれは、とアルベルトは思った。こんなものが地上に存在していていいのだろうか。

 何故って、ほんのり紅に染まる頬は滑らかで絹のよう。青い瞳は蒼穹そうきゅうで、それを縁取る銀は微かだけれど明かりに輝いて瞳の存在感を増している。桃色の唇は実に艶やかだ。

 それらを更に輝かせるのがその銀の髪、それとそこに飾られた黄金色の真珠。リリアンの美貌を持ってしても損なわれないその輝きは、アルベルトの思惑通り鎮座している。

 が、それらが完璧に揃った場合の破壊力は、アルベルトの想像を上回っていた。数倍は輝くだろうと思っていたリリアンの美しさは格が違ったのだ。相乗効果は何十倍にも膨れ上がり、月の女神は美を体現してこの世界に降り立ったのである。

 正直なところ、まばゆ過ぎて直視できない。だが、これだけは脳裏に焼き付けねばならぬ。例えこの身が滅びようとも。

 清らかで神々しいリリアンに浄化されそうになりながら、アルベルトは全力で瞼を上げていた。

 レイナードはその横で、アルベルトと同じようにリリアンの姿に魅入っている。

 リリアンのこのドレス姿は、あまりに美しい。年始に新しいドレスで着飾るリリアンは特に美しい。その度に、これ以上はないだろうというその美しさが、毎年更新されていくことに驚きが隠せなかった。去年はとても愛らしかったが、今年はどうだろう。愛らしさに加えて美貌に磨きがかかり、こうして化粧をしていると非常に大人びて見える。


「綺麗だよ、リリー」


 だからレイナードは素直にそのように伝える。リリアンは桃色に染まる頬をさらに紅潮させ、レイナードに向く。


「ありがとう、お兄様」


 リリアンのその表情は喜びと照れが垣間見えるもので、当然美しい。リリアンを輝かせる為の装飾品が品良く肌や髪を照らす。それでより一層、リリアンの存在は眩いものになるのだった。

 クラベルはそんなリリアンの後ろで身悶えしている。同じ部屋で身支度をしていたクラベルは、リリアンが次第に着飾られていくのを見ていた。工程をひとつ経るごとに美しくなっていくリリアン。花の芽が伸び、蕾が膨らんで咲くようなひと時は至福であった。


(あああなんて綺麗なの。かわいい、可愛いわリリアン。最高に美しい。艶やかな髪、瑞々しい肌。ふっくらしたほっぺとぷるぷるの唇。シルヴィアの化粧の腕もいいわね、最低限に留めているのに、リリアンの魅力を引き立てているのだから。素晴らしい、素晴らしいわリリアン。天使よ天使。紛れもなくこれは天使よ……!)


 ぎゅっと両手を握って、クラベルはリリアンを見つめる。クラベルはリリアンの後方に居るから、見えるのは後ろ姿だ。それでもその美しさは一級品だった。いや特級かもしれない。頭のてっぺんから爪先まで、減点する場所がなく加算されるばかり。加点は限界を超えてもはや評価できない域に達している。これが特級でなくて何になると言うのか。

 ほぅ、と息を吐く、クラベルの恍惚とした姿も、今では見慣れたものである。涙を浮かべたクラベルはそのままリリアンの後ろから、美しい義妹を見つめていた。

 あまりの美しさに意識を失っていたアルベルトは、リリアンが席に着いたことで目を覚ました。気が付いた時にリリアンが間近に居た為にまた昇天しそうになったものの、なんとか気合いでそれを堪える。これ以上気絶してリリアンの姿を鑑賞する時間が経るってはたまらない。ふんぬと気力を腹に込め、改めてリリアンの姿を記憶に刻もうとその姿を視界に収めた。と、ちょうどリリアンと目が合う。リリアンは、アルベルトを見つめるとにこりと笑んで、そうして小首を傾げた。


「かわいい!!!」


 アルベルトは叫んだ。


「ああ、もう、かわいい。可愛過ぎてどうにかなってしまう! その仕草はなんだ、可愛い。すごく可愛い。角度と表情が完璧だ。それを自然とやってのけるのだから素晴らしい。ああもう、かわ、かわいい……どうしようかわいい……」


 突然のアルベルトの絶叫にも、リリアンは動じずに「まあ、お父様有難うございます」と返している。レイナードもクラベルも、なんてことない顔をしていた。視線はリリアンに向いていて、ご当主様のご乱心にも動揺した様子はない。にこやかにリリアンを鑑賞している。

 アルベルトは両手で顔を覆うと、今度は静かに呟く。


「こんなに美しくていいのか? 信じられん……確かにリリアンに相応しいものを用意しているが、それが揃っただけでこんなに美しくなるだなんて……。ドレスはリリアンのスタイルを引き立てていて見事だ。柔らかいグリーンにしたのは正解だった。春の訪れを待ち望む妖精のようだ。私が神だったらすぐに春にしてあげるのに……。ネックレスとイヤリングのばかでかいサファイアに呑まれないだなんて、リリアンはさすがだ。存分に散らしたダイアモンドも、輝きを添えるのに一役買っているな。それでようやく吊り合うのだからリリアンの美貌は素晴らしい。ああ、それにしても本当に美しい。可愛さが全身を強打している。しかしこれは喜ばしい痛みだ。なんならもっと浴びたい。完璧だ、完璧すぎる。なんて美しいんだ……」


 そして、指の隙間からちらりとリリアンを覗き見る。そこには変わらず美貌の天使が佇んでいる。


「ぬあぁっ!!」


 今度はガバッと頭を後ろに倒して天を仰いだ。勢いが良過ぎて背もたれに頭がぶつかって、派手な音を立てた。だが、興奮しているアルベルトは痛みを感じない。

 その後も「いやもうかわいいなんてものじゃない……」とか「美し過ぎる。天使だ」とかぶつぶつと言っている。リリアンは、アルベルトが自身の姿に満足してくれたようで嬉しかったが、あまり目を合わせてくれかったから、きちんとお礼を伝える為にアルベルトに声を掛けた。


「お父様、こっちを見て下さいな」


 けれど、アルベルトはやはりちらっと指の隙間から視線を向けただけで、すぐにぱっと逸らしてしまう。


「いや、無理。可憐過ぎて直視出来ない」

「まあ」


 リリアンは眉を下げる。けれどもこのまま何も言わないわけにもいかなかったので、仕方なくそのまま告げることにした。


「お父様にお礼を言おうと思っていたの。素敵なドレスと首飾り、それからイヤリングと、髪飾りをありがとうございます。初め髪飾りを見た時は不安でしたの。わたくしの銀髪に、この淡い金の真珠が合うかしら、って。でも杞憂でしたわ。シルヴィア達が綺麗に結ってくれた髪に飾ったら、とっても綺麗だったの! さすがお父様だわ、わたくしに合う物を作って下さったのよね?」


 リリアンの澄んだ声に、アルベルトは呆けて聞き入っていた。最後のほうはもう、ぽかんと口を開けてリリアンの方を向いている。

 リリアンはそんな父に、心の底からの笑顔を向けた。


「とても素敵な物を、どうもありがとう」


 リリアンのあまりの可愛さに、アルベルトの脳が弾ける。もちろん物理的にではなく、アルベルトの感覚的に、である。理性も感情も弾け飛んで、残ったのは本能だけ。なのでアルベルトは本能のままに叫ぶ。


「リリアーーーーン!!!」


 ふぐぅ、と顔を歪めて涙を噴き出させるアルベルト。アルベルトも勿論高価な服を着ているから、後ろに控えていたベンジャミンがおもむろにハンカチを広げてアルベルトに持たせた。ぎりぎり袖に掛かる前に間に合ったようだ。それで顔を拭うアルベルトの後ろ、ベンジャミンがほっとした表情をしていた。リリアンはちょっと困ったように笑う。

 しばらくの間ひぐひぐと鼻を啜っていたアルベルトだったが、やがて考えを改めてきっちりと涙を拭う。


(こんなに……こんなに素晴らしいリリアンの姿をもっと見ずにどうするのだ……!)


 目元を赤くしたアルベルトはリリアンを視界に収める。


(あ、駄目だ。可愛い)


 やはり直視出来ない。だが、ここで踏ん張らなければ、その姿を堪能できない。アルベルトは理性を総動員して意識を保つ。頬の内側の肉を噛み、更に太腿を指で摘みあげた。その痛みでぎりぎり踏み留まることができたので、アルベルトは椅子を立ってリリアンの前で跪く。そうして手を取った。

 間近で見上げたリリアンの姿は輝きが違った。


(じょ、浄化される……)


 現にこの場の空気は清浄なものに変化しているかもしれない。なんなら清らかなものを感じる。それを胸一杯に吸い込むことで、呼吸を整えて改めてリリアンを見上げる。


「リリアン、とても……綺麗だよ」


 途中神々しさに息が止まってしまったが、なんとか続けることができた。言い切ると、再び崩壊しそうになる表情をできるだけ留めて、意識して口角を上げる。そうでもしないと、また泣いてしまいそうだったからだ。

 リリアンは、更に笑みを深めて「ありがとうございます」と言った。その言葉に感動したアルベルトは倒れそうになる。が、それを察したベンジャミンがさっとアルベルトの視線を手で遮った。間一髪だった。興奮する猫を大人しくさせる方法と同じ手段を主人に使ったベンジャミンは、ごく冷静に「では、食事の準備をさせますので」と指示を出した。


 そうして、この時の為に準備されたご馳走が卓に並び、晩餐会が始まる。一流の選び抜かれた食材を、最高の料理人が調理するのだから、料理は美味しいに決まっている。それを口に運びながらする会話の中心は、無論リリアンについてである。綺麗、可愛い、美しい。それをひたすら繰り返すアルベルト達に嫌な顔ひとつせず、リリアンはご馳走を頬張る。その姿すら一同を魅了するのだから罪深い。

 デザートまでを平らげ、お茶を飲む間も、全員がリリアンを見つめていた。リリアンはそこで、全員に改めてお礼を伝えていた。リリアンへのプレゼントは事前に渡されており、その際に個別にお礼を述べたのだが、今日あまりに皆が褒めそやすものだから堪らなくなったのだ。でもそれ以上に、アルベルトもレイナードもクラベルももっと褒めてくる。さすがにリリアンも気恥ずかしくなってしまうが、でも、リリアンが綺麗な格好をしているのが何よりの喜びである人達だ。甘んじて受ける他なかった。

 その日は結局、夜遅くまで「リリアン賞賛会」が続いた。

 リリアンは次の日、ほっぺたが筋肉痛になるという、貴重な体験をしたのだった。



◆◆◆



十二の月 聖人の祝日 ーベンジャミンの手記ー


 ようやく今年も終わりが近付いて参りました。

 賊がやって来たと聞いた時から嫌な予感はしていましたが、こうも最悪の予想通りになろうとは……。これもアルベルト様の普段の行いの賜物でしょうか。

 素晴らしい品であることなので、あのサファイアが目を付けられるのは当然です。とは言え、連中も相手が悪い。あれに手を出さねばまだ軽傷ですんだものを。

 ですが、あそこまでの騒ぎになって、死者が一人も出なかったのは降神日の奇跡と言えるでしょう。無事首飾りが戻ってきて本当に良かった。もしも戻らなかったらどうしようかと思いました。金銭的な意味ではなく、アルベルト様が何をしでかすか、という意味で。

 これまで幾度も肝が冷えることはありましたが、久々に寿命の縮まる思いでした。ああ、本当に良かった。


 翌日の晩餐会も滞りなく終わり、皆様も満足されたよう。クラベル様のケーキも見事でした。お嬢様のドレス姿は言わずもがな。真珠の髪飾りもお似合いでございました。ここまでの準備を考えると、胃の痛みがぶり返してきますが……。

 お嬢様にも労って頂けたのは、ここ数日の疲れが吹き飛ぶようでした。消え物にして頂いて良かった。以前手袋を頂いた際は、アルベルト様の視線が痛かったですから。


 ともあれ、今年も公爵家の皆様が無事に過ごされたことを喜びましょう。……来年は平和であることを、聖人様に祈っておこうと思います。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る