第5話 番外編・メンテナンスに入った、テイアとテクト

「今から全校集会をするので、講堂に移動します」

朝のホームルームの時間に、先生が言った。

僕達は、講堂へ移動した。

全校生徒が集まったのを確認した校長先生が

マイクの電源を入れた。

「おはようございます。これから、『傘』を配るので、教室に戻ったら、通学鞄に入れて、常に持ち歩いてください」

校長先生が言うと、各クラスの担任の

先生達が、傘を配り始めた。

「これは、晴れ雨兼用なので、日差しが強いと感じた時や雨が降った時に、使いましょう」

校長先生が言った。

「スカイ、リアム。傘をあげる」

ダヤ先生が、傘を1本ずつくれた。

「ありがとう。どうして、傘?」

リアムが聞くと、

「あとで、校長先生が話してくれる」

ダヤ先生は、そう言って移動した。

「どうして、傘がいるのかな?」

僕の前にいたジュールが振り返った。

「どうしてだろう? ここ数年? 雨傘も日傘も使ったことないよね」

「うん。使ったとこない」

「テイアが、人が濡れないように雨を降らせてくれていたし、程よい太陽光があたるようにしてくれていたから、必要なかったものね」

リアムのうしろにいた、エレナが言った。


テイアが気象の管理をするようになって

からは、

「傘」や「カッパ」、「帽子」などを

ファッションアイテムとして使う人はいる

けど、日差しから体を守るため、雨で体が

濡れるのを防ぐために使う人はいなかった。

なぜなら、テイアは、家や店舗の出入り口、

遊園地や公園などの屋外施設、歩道や車道、

飛行場や飛行機の航路、道路などを避けて、

街中なら、植木や花壇、森や耕作地だけに

雨を降らせ、

夏の強すぎる太陽光は、

太陽の光を遮らない程度の薄曇のカーテンを

対流圏に作ってくれていたので、

日傘や帽子がなくても、頭皮が熱くなる、

体が日焼けする、熱中症になる、といった

トラブルが起きなかったからだ。



僕達もら、周りの人達も、

「どうしてだろう?」と話をしていたので、

講堂の中は、ザワザワしていた。

「配り終わりました」

傘を配っていた先生とダヤ先生達が、

校長先生に報告をした。

「どうして、傘がいるの? と思ったでしょう、先生もそう思いました。実は、大量の傘と共に、コアから手紙が届きました」

校長先生が言うと、

「コアから、手紙?」

「傘となんの関係があるのですか?」

講堂のあちらこちらから、質問が聞こえて

きた。

「答えは、コアの手紙にあります。今朝、来た手紙を読むので、聞いてください。『テイアとテクトは、本日の夕方からメンテナンスに入ります。それに伴い、今まで起こらなかった気象現象や地震などの自然災害が起こる可能性がある、というか、起こります。雨や太陽の強い光は、お配りした傘でしのいでください。メンテナンスには、数年かかる場合があります。申し訳ありませんが、自然災害などにお気をつけください。コアより』以上です。傘が必要な理由は、分かりましたか?」

校長先生が言うと、

「自然災害が起こるの?」

「メンテナンスに数年もかかるの?」

「地震が起こるのは嫌だ」

講堂の中がまたザワザワした。

「みなさん、落ち着いてください。不安になる気持ちは分かります。テイアとテクトが今まで、ありとあらゆる自然災害から私達を守ってくれていたので、雨の日に傘をさす、ことだけでも慣れないと思います。でも、以前は、自然災害と共に暮らしていましたよね?

私達には、経験があるので、大丈夫です。メンテナンスが早く終わることと、その間に大きな自然災害が起こらないことを祈りましょう 」

校長先生は、明るい表情で言ったけど、

僕を含めみんなが、不安そうな表情をして

いた。

「大丈夫かな……テイア達のおかげで、台風とか竜巻が起こらなくなったんだよね?」

「うん、そうだよ。昔すぎて、記憶があいまいだけど、夏場? 台風がよく発生していたような気がする」

「嫌な予感がするね……もうすぐ夏だよ」

「そう言えば、台風で屋根が飛ばされたことがあるって、昔、おばあちゃんが言っていたよ」

不安だ! という空気が、講堂の中を埋め

尽くしていた。

「みんな、集会は終わったので、教室に戻ります」

担任の先生が言った。



教室に戻った僕達は、貰った傘を、通学鞄に

入れた。

雨さえも降らなければいい……と思っていた

のに、夕方、下校時刻の少し前から雨が

降りだした。

幸い、どしゃ降りではなかったので、ホッと

したけど、テイアとテクトがメンテナンスに

入った時間付近から、これでは、先が思い

やられると、不安に襲われた。

「雨が傘にあたる音って、こんな音だったね」

リアムが嬉しそうに、傘にあたる雨の音に

耳をかたむけていた。

「そうだね、忘れていたね」

不安を感じていた僕だったけど、少し、

懐かしさを感じた。

自然に生まれて、自然のままに降る雨……

自然の恵みか、災いか……。


「ただいま!」

おじいちゃんは、リビングの大きな窓の前に

立って外を眺めていた。


「お帰り。今日は、雨が降っているね」

おじいちゃんが、振り返って言った。

「そうだね。テイアがメンテナンスに入ったって」

僕が言うと、

「あぁ、そうらしいね。さっき、回覧板がきたよ」

おじいちゃんが言った。

「雨を見ているの?」

「うん。なんだか、懐かしくてね。ここから雨を見るのは、何年ぶりだろう……雨の音、匂い……最近の雨や匂いは、偽物感があったから。自然のままに降る雨は、キレイだね」

おじいちゃんが、嬉しそうに言った。

「そうだね……でも、こんな小雨ならいいけど、大雨や雷、地震が自然のままに起こったら、怖くない?」

僕が言うと、

「う……ん、そうだね。もちろん、大規模な自然災害が起きたら、すごく怖いよ。でも、小規模なら『懐かしい』という感情で、終われる気がする」

おじいちゃんが、静かに言った。

「懐かしいか……その感情でいられるうちに、メンテナンスが終わればいいな」

「そうだね」

僕とおじいちゃんは、自然に発生した雲から

降ってきた雨が、庭に植えた木や花にあたる

音、軒先から滴る雨水の音に耳をすませた。



次の日、昨日降った雨でできた水たまりが

少し、日陰の場所に残っていた。

それも、下校時刻の前に乾いてしまっていた

ようだ。

朝は、水たまりが嬉しくて、

あえて、水たまりを歩いていたリアム。

でも、帰りは水たまりがなくなっていて、

少し悲しそうだった。

「また雨……降るかな?」

登校する時にあった水たまりの場所に

リアムがかがんでいた。

「メンテナンスが今日にでも終われば、雨は降ることなくテイアに消されるけど、終わらなければ、雨はきっと、また降るよ。水たまりもまた見られる」

僕は、リアムの横にかがんだ。

「スカイ」

「何?」

「また水たまりができたら、葉っぱで船を作って、浮かべよう」

「幼稚園? 小学生の時に作って、遊んでいたよね」

「うん、雨が降ったら、写真を撮ろう」

「うん、そうしよう。小規模な雨なら、いつでも歓迎だね」

「うん」

僕とリアムは、顔を見合わせて笑った。


また降ると思っていた雨は、その次の日も、

その次の日も、その次の日も、1㎜も

降らなかった。

それどころか、雷も台風も地震も、

自然災害は何も起こらなかった。


「このまま、平穏な感じでメンテナンスが終わる日が来て欲しいな」


多くの人が、同じような思いを抱いていた。


だけど、嫌な予感はあたるのだ。

しかも、予想をはるかに超えてきた。


テイアとテクトが、メンテナンスに入った

6日後、

学校にいた、教育担当のAIヒューマンの

ダヤ先生達がメンテナンスに入った当日、

「あの日」がやって来た。



もし、身近にいたAIとAIロボット達が

「メンテナンス」に入り、

周辺からいなくなった時、あらゆる機器の

中から姿が見えなくなった時、

何かが起こる前触れかもしれない。



○次回の予告○

『違和感』

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