第4話 (絵あり) ある準備が、始まった 。

# 近日ノートに挿し絵があります。

本文と合わせてご覧ください。

近日ノートの○1○、☆14☆です。



階段を下りて……下りて……下りたのに、

階段はまだ続いていた。

「これ、どこまで下りていくのかな? 何だか怖くなってきたよ」

リアムが僕の腕に、しがみついてきた。

「うん、僕も。薄暗いし、不気味だよね」

僕も、リアムの腕をつかんだ。

しばらく下り続けると、

階段の先が、うっすら明るくなっているのが見えた。

出口かな?

おじいちゃんに、すぐに会えるといいなぁ。

あれ?

おじいちゃんって、どんな顔だっけ?

思い出そうとした時、

ヒューマンレベルを調べるアプリを、初めて使った日の風景が、頭の中に浮かんできた。


――兄さんの顔は、はっきりと見えるし、

覚えているのに、

おじいちゃんの顔のあたりにだけ、

白いもやがかかっていて、顔が見えないし、どんな顔だったか、覚えていなかった。

「おじいちゃん、手首を出して」

兄さんが言った。

「どれどれ……ん? どこだ?」

おじいちゃんが言ったので、

「ここだよ」

僕が教えた。

「レベル5だって……」


急に、目の前が眩しい光に包まれて、

顔の見えないおじいちゃんも兄さんも、

僕の姿も、光の中へと吸い込まれるように、

消えていった――


「うわっ、急に眩しい! 目がチカチカする」

リアムの声がした。

「な、何? うわっ、眩しい」

目が明るさに慣れるまで、

数秒かかった。

さっきの記憶は何だったのかな?

階段を下りる前は、おじいちゃんの顔が

はっきりしていたのに、

下りている間に、どんな顔だったのかが、

曖昧になってしまった。


目が明るさに慣れて、

その景色を見て僕達は、驚愕した。

「何、ここ!?」

僕とリアムは、顔を見合わせた。

階段を下りていたから、地下深くの場所に

いるはずなのに、太陽の暖かい光や青空、

木々がそよ風で揺れ、小川のせせらぎや姿は見えないけれど、小鳥のさえずりも聞こえてきた。

地面は一面、青々とした芝生で、

ところどころに赤、白、黄、ピンクの

コスモスが咲いていた。

「地下に向かっていたよね? この平和な雰囲気は、何?」

リアムが、目を丸くして言った。

「うん、地下のはずだけど……実は別の何も起きていない町に、移動して来たとか?」

僕が言うと、

「そうかも! てっきり、世界の終わりが来たのかと思って、焦ったよね」

リアムが言った。


階段の出口では、僕とリアムのように、

下りてくる人、下りてくる人が、

眩しさと驚きで立ち止まり、混雑していて、後ろの方から、

「早く進んで!」

と声がした。

後ろから背中を押されて、

僕達は青々とした芝生に、足を踏み入れた。

「ん?」

僕とリアムはまた、顔を見合わせた。

周りの人も、不思議そうにしていた。

「何か少し……硬くない?」

「うん! 芝生って何かもっと、モフッてするよね?」

僕とリアムは、その場にかがんで、

芝生を手でさわってみた。

そして、また顔を見合わせて、

「これ……芝生じゃない!?」

同時に言った。

芝生をさわった時の感触はあったけど、

透け感があって、なんだか変な感じだった。

芝生の上から地面を手でたたくと、

コツコツ、

音がした。

「コンクリートかな?」

僕が言うと、

「うん、この感じは、それっぽい」

リアムが、うなずいた。

青々とした芝生はあるけど、

その地面は、土ではなかった。

「君たち今、来たばっかりの人?」

突然、声をかけられた。

僕とリアムは立ち上がって、

「うん」

と答えた。

「僕も、ここに来た時は、驚いたよ。だって、地下だと思っていたのに地上!? という感じの場所に出てきたから。しかも、外は酷い状況なのに、ここは平和な感じで驚いたよね」

声をかけてきた少年が、笑いながら言った。

「ここがどこか、知っているの?」

リアムが聞くと、

「確かなことは分からないけど、さっき大人達が、地下シェルターかな、と言っていたよ」

少年が言った。

「地下シェルター!?」

僕とリアムは、同時に言った。

「うん! あ、僕は、レオナルド。よかったら気軽に、レオって呼んでね。君たちは?」

突然、自己紹介が始まった。

「僕は、リアム、高校3年生だよ。こっちは、親友の……」

リアムが続きはどうぞ、と目配せをしてきたので、

「僕は、スカイ、高校3年生だよ。レオも学生?」

簡単に、自己紹介をした。

「うん……と言いつつ、留年したから歳的には、ひとつ上かな。少し休学して」

レオが言った。

「そっか、レオはお兄さんだね」

リアムが言うと、

「レオ兄と、呼んでくれていいよ」

腕組をして、

エッヘン! という感じで言った。

「レオ兄!」

僕とリアムが叫ぶと、

「はーい!」

明るく返事をしてくれた。

気が合いそうだなと思って、こんな感じの

ノリで、楽しく話をしていると、

こちらへ向かって来る、リリアさんの姿が

見えた。

僕とリアムを順番に抱きしめて、

「会えてよかった。中々、2人の姿が見えなくて、上に行こうとしたら、出るなと言われて、心配していたのよ。それで、お兄さんは見つかった?」

リリアさんが言った。

「いなかった」

と僕は答えた。


この会話に、何となく違和感があったけど、それが何かは分からなかった。


「そう、上にもいなかったのね。ここを探したけど、見つけられなかったの、ごめんね」

リリアさんが、

申し訳なさそうに言ったので、

僕はとっさに嘘をついた。

「兄さんのレベルは5ではなくて、4だったって今、思い出しました……探してもらう手間をかけてしまって、ごめんなさい」

僕が言うと、

「手間だなんて、これっぽっちも思っていないわ。大丈夫」

リリアさんが、

僕の背中を1回だけ、優しくたたいた。

「うわっ」

僕は、少し前に倒れかけた。

「ごめん、少し強かった? でも、左だから」

今度は、僕の背中を優しくなでてくれた。

「もう! 母さん、気をつけて。大切な親友にケガをさせないでよ」

リアムが言うと、

「分かっているわよ、だから右手じゃなくて、左手にしたでしょう」

リリアさんが言った。

「左でも、力が強いから、元々。ね、スカイ」

僕に向かって、ぼそっとリアムが言うと、

「リアム、何か言った?」

右手をちらつかせて、リリアさんが言った。

2人のやり取りを見ていたレオに、

この人は誰? と聞かれたので、リアムの

お母さんの、リリアさんだよと教えた。

そして、リリアさんにもレオを紹介した。

「リリアさん、右手、サイボーグなの?」

レオが聞くと、

「カッコイイでしょう」

右手をレオに、見せびらかした。

「うん、すごくカッコイイ」

「重い物も、軽々持てるのよ」

リリアさんは、右手のひらを地面に置いた。

「実演してあげるから、ここに立ってみて」

「え!? ここに? 人の手に足で乗るのは……」

困った様子のレオを見て、

「ほら、見て。ケガをしていないでしょう?」

リリアさんは、右手を地面に打ちつけて、

そんなことをしたら、ケガをするよ、

とあたふたするレオに言った。

「本当だ、ケガをしていない。硬い! 何で、できているの?」

リリアさんの右手をさわって、

レオが言った。

「すごく丈夫で軽い素材の、何とかメタル?

だって、言っていたと思う。だから、手を踏まれても平気なの。これでもう、乗れるよね? 」

「いや……そうだとしても、人の手の上に乗るのは、抵抗が……」

レオが渋っていたので、

リアムが乗って見せた。

右手だけで軽々と、

リアムの体を持ち上げたのを見て、

「おぉ! すごい、カッコイイ」

レオは拍手をした。

「でしょう、もっと褒めて」

リアムを降ろして、

リリアさんは小躍りをした。

レオとリリアさんの様子を見ていたリアムが

「何か、母さんを取られた気分……」

口を尖らせた。

僕は、リアムの頭を優しくなでて慰めつつ、笑った。


兄さんにそばにいて欲しいのに、

どこにいるのか分からなくて、気持ちが落ち込んでしまう。

だけど、親友のリアムやリリアさん、新しい友達のレオのおかげで、ひとりぼっちでは

ないと思えて、心が少し、救われた。


「あ、あ、音声のテスト中」

急に、どこからか声が響いた。

「何かしら?」

リリアさんが、言った。

「中央にある噴水の近くに、集まってください」

と声がしたので、

噴水って、どこだろう? 辺りを見渡した。

「あ、あそこ!」

レオが、指をさした。

ぞろぞろと、周りの人が移動を始めていた

ので、僕達もついて行った。


噴水の周りには、

すでに人だかりができていて、噴水の水柱が少ししか見えなかった。

その水柱の頂点あたりの空間が歪むというか

蜃気楼のように揺らめき出したと思ったら、

テレビの映像が乱れた時のような感じで、

ザザザ……と砂嵐が起きて、

真っ黒の人影のような形が現れた。

「え!? 何?」

僕達も、周りの人達も騒然とした。

その人影のような形に、一瞬で色がついて、

人の顔と上半身になったので、

「人!?」

また、みんなが騒然とした。

「驚かせてしまいましたか? 初めまして、私の名前は、サミュエル。地球人のような姿をしていますが、地球人ではありません。スーパー人工知能・特殊な映像製タイプで、型番は、MS5913です」

頭だけ360度、ゆっくり回転させた。

「スーパー人工知能!?」

「AIヒューマンとは、違うのかな?」

さらに、みんなが騒然としていると、

その様子を見ていたサミュエルは、

「ざっくり言うと、私とAIヒューマンは、親戚のようなものです」

と言ったので、

なんとなく、みんなが納得した。

「それでは、これからのことについて説明します。質問がある人は、手をあげてください」

サミュエルの顔が、後頭部、左右の側頭部にも現れて、全部で4つになった。

「まず、どこから話ましょうか……」

サミュエルが言うと、

「質問いいですか?」

女の人が、手をあげた。

その人がいる場所の方向にあった

サミュエルの顔が、

「どうぞ」

と言った。

「ここは、どこですか? 外みたいですけど……室内ですよね?」

女の人が言うと、

「そうです。ここは、地上から約45メートル地下に作られた、円柱状のシェルターで、草花の香りや小鳥のさえずり、流れる水に冷たさ、そよ風を足して、本物により近い環境を特殊な映像の技術を使って再現している空間になります」

サミュエルが言った。

「地下、45メートル!? それで階段があんなにあったのか」

「そんな地下に、こんな空間をいつ作ったのかな?」

「それで、鳥の姿が見えないのに、鳴き声が聞こえてきたのか」

みんなが、すごい! と話をしていると、

サミュエルが、「ん?」と思うようなことを

言った。


「地上では、天変地異が今までになかった規模で、地球全体で起きていて、この先どれくらい続くのか分からない状況なので、地球に住むことは難しいでしょう。ですから、このシェルターで過ごしつつ、準備ができ次第、新しい世界へ、移住をしてもらいます」


「え? 移住!? 新しい世界?」

「あの災害は、地球規模で起きていたの?」

またみんなが、騒然とした。

「新しい世界へ移住とは、どういうことですか?」

男の人が、質問をした。

「それは、『アムズアスペース』略して、『アムズ』という名前の避難場所での生活のことで、ここは、地球、月、火星、浮遊コロニーで構成されていて、みなさんは、ひとつの集団となり、太古からの地球人の願いでもあった、『不老不死』というものを、手に入れることができますよ。これは、アムズのシンボルマークの『イイイイスター』の基本の形です」

サミュエルは、4つの顔、それぞれの前に、

同じ絵を出現させた。


シンボルマークのイイイイスターは、

丸みのある6つの角がある星型で、

その中には、楕円形の目が2つあって、

片方の目の下にだけ、まつ毛が4本生えて

いた。

鼻はアルファベットの小文字の「e」の

ような形をしていて、口の無い顔が描かれて

いた。


「月と火星って、宇宙?」

「コロニー?」

さらにみんなが、騒然とした。

「あの、つまり地球を捨てて、宇宙へ行くということですか?」

少年が質問をすると、

「それは、違います」

サミュエルは、きっぱりと否定して、

「地球は、捨てません。むしろその逆で、助けます」

と言った。

「何を助けるの?」

2、3人が同じタイミングで、

同じ質問をした。

「邪魔なものを排除し、アムズで暮らしながら、地球人と私達AI、科学を駆使して、地球の環境が正常な状態に戻れるように手伝う、ということです。そして、地球の環境が正常になったあと、地球へ戻ります」

サミュエルが言った。

「捨てるわけではないのか。でも、助けるって、どうやって?」

「スケールの大きな話だ。SFの世界みたいで、すごい」

みんなが、それぞれの思いを話していると、

少し年配のおじいさんが、

「気になることがあります……宇宙へ行くということは、訓練が必要ですよね? テレビで見たことがあるのですが、体力的にあの訓練の内容を、こなせるか自信がありません」

不安そうな表情で言った。

すると、

サミュエルの4つの顔が、同時に笑顔に変化して、

「安心してください。その心配は、一切ありません。本来なら、宇宙へ行くためには、数か月以上の厳しい訓練が必要ですが、年齢に幅のあるこの大人数です。全員が訓練の項目をやり遂げることができるとは、思っていません。必ず、多数の脱落者が出ることは、目に見えています」

と言ったので、

デリカシーがないというか、傷つくかもしれないことを、軽い感じで言うところが、

さすがAIだなと、僕は思った。

誰も口には出さなかったけど、そんなに

はっきりと、酷いことを言わなくてもと、

僕と同じ気持ちになった人はいたと思う。

「そこで、全員が移住できるようにと考えられたのが、宇宙空間に適した体に変化させるという方法です。どうやって変化させるのかというと、この薬を2、3回服用してもらうだけです。簡単でしょう?」

サミュエルは自分の頭上に、

頭の3倍くらいの大きさの薬を出現させた。


薬は楕円形で、半分ずつ左右で色が違って

いて、左は白色でイイイイスターのマークと

数字の1が書いてあって、

右は、エメラルドグリーンの色をしていた。


「この薬を2、3回服用すると、順調に進めば、1か月ほどで、細胞レベルでの変異が完了するので、順に移住を始めます。それまでは、このシェルターでの、集団生活になるので、年代別でいくつかのグループに分かれてもらいます。何か疑問点はありますか?」

サミュエルの4つの顔だけが、回転した。

僕達含め、周りの人も、

さっきから突拍子もない話ばかりで、何を

どう聞けばいいのか、頭が混乱していた。


しばらく見渡したあと、

サミュエルの4つの顔の回転が止まり、

3つの顔が、体の正面の顔に吸収されて、

ひとつになった。

「質問は、ないみたいですね。では、グループに分かれて、部屋へ行ってもらいます。その前に、このシェルターの内部構造を軽く紹介しておきますね」

サミュエルが、シェルターの構造図を頭上に出現させた。

「今いる場所は、ここです」

サミュエルが言うと、

丸いマークが、青く点滅した。

「このシェルターは、7階建てで、地下4階から7階は倉庫なので、立ち入り禁止です。この奥へ行くと、居住空間があって、その上には運動広場と図書室、地下3階に薬を服用する医務室Bがあります」

説明する言葉に合わせて、ここですよ!

丸いマークが、移動しながら青く点滅して、教えてくれた。

「ここは、思っていたより、ずっと広いな。図書室があるのは、嬉しい」

「やっと、お風呂に入れる」

「布団で眠れるのかな?」

あちらこちらで、歓喜の声がした。

シェルターの構造図が消えて、

サミュエルの体の正面に、僕の目には見えないけど、何かがあるらしくキーボードを

打ち込んでいるような仕草をしていた。

すると、壁だと思っていたのに、

円形の穴が開いて、

宇宙に浮いたイタチ? ネコ?

何か分からないけど、そんな感じの

動物っぽいフォルムのやつが現れた。


それは、灰色の体で、青い瞳に、まつげが

目の下に4本だけ生えていて、

片方の耳に花をモチーフにした飾りがついて

いて、お腹と背中に星の形と、その中に

アルファベットと数字の模様があって、

長めの細いしっぽのつけ根付近に、星の形と

同じ色のリボンがついていた。


それらは、壁の穴から次々と出てきて、

壁に沿って一列に並んだ。

「これらは、アニマルタイプの浮遊AIロボットのリサと言います。体に表示されている文字は、それぞれのグループの名称で、お世話として1体ずつ、配置されます。リサに声をかけられた人は、ついて行ってください。みなさんの生活のサポートをしてくれるアニマルタイプの浮遊AIロボットは、リサの他にも何体かいます」

サミュエルが紹介し終えると、

リサがフワフワと動き出して、

僕達の方へ近づいて来た。

「スカイとレオと一緒がいいな」

リアムが言うと、

「母さんとは、一緒になりたくないの?」

リリアさんが言った。

「母さんは、年代的に別のグループでしょ」

笑いながら、リアムが言った。

リリアさんの頭から、鬼の角が生えかけて

いたのに、リアムは笑い続けていた。

僕は目配せをして、危険を知らせてあげたのに、リアムは気づいてくれなかった。

「リ、ア、ム! そんなことを言って、ただで済むと思っているの?」

リリアさんがニヤリとして、

サイボーグの右手をちらつかせた。

リアムは、笑うのを一瞬でやめて、

「母さんは、若いよ。見た目はね」

僕の後ろに隠れてきた。

「そこをどいて! この右手が、リアムに用があるって言っているのよ」

僕をはさんで、親子のケンカが始まった。

「巻き込まないで!」

僕はかがんで、2人の間から抜け出して、

この争いから逃げた。

「うわぁ、スカイ、待って!」

リアムが僕を追いかけてきたので、

僕は振り返って、

「謝っておいで」

ニコッとして、助言した。

トントン。

背中をたたかれて、リアムが振り返ると、

リリアさんがいた。

「母さん、まさか、右手で僕の背中をたたいた?」

「右手よ」

とリリアさんが言ったのに、

「駄目だ、骨が折れた……」

リアムが大げさに騒ぎだした。

「そんなわけないでしょう、この子は本当にもう」

リリアさんが笑った。

「スカイ・ウィンスティー、リアム・イザベライト、レオナルド・ディ・ホワイベル、ついて来て」

リサが声をかけてきた。

僕とレオは、同じグループになれて嬉しいねと顔を見合わせて笑った。

「母さん、もう行かないと」

リアムは、手のひらを顔の前で合わせて、

「ごめん」と、声を出さずに、

口を動かして言うと、

「ずるい!」

リリアさんも、声を出さずに言ったその時、

「リリア・イザベライト、ついてきて」

リリアさんに、別のリサが声をかけてきた。

「私は、グループF9みたいね。グループA8のみなさん、またね」

リリアさんは、僕達の頭を順番に左手で、

優しくなでてくれた。

そして、リサと同じグループの人達と行ってしまった。

僕達も、A8のリサについて行った。

少し歩いたところで、

ピピッ。

音がしたあと、立ち止まり、

「エドワード・ルーヴィル、ステファン・リ・トトン、ついてきて」

2人に声をかけた。

「揃ったから、部屋に行くよ」

リサが言った。

みんなが話をしながら、移動を始めた時に、

サミュエルが、どこか遠くを見つめながら、

さっきとは打って変わって、ひとり言かな? と思えるくらいの音量で、話を始めた。


「大切な人を、避難所の外へ置いてきて辛い人、その気持ちは痛いほど分かります。何らかの理由で、本来ならレベル5だった人がレベルゼロとか……レベル3以下の人の多くは努力を怠った、自業自得だから同情の余地はない。忘れましょう、忘れられるかな……忘れたくないな……個人差はあるけど、ここにいれば、数日の間に忘れるので、前を向いて進みましょう。地球を再生させるという大切な、共通の目標に向かって」

と言うと、

サミュエルは、消えてしまった。


大切な話じゃなかったのかな?

周りのざわめきで、聞こえなかった部分が

あった。

こんな移動を始めているタイミングで、

聞いている人と、聞いていない人がいる感じでよかったのかな? と考えながら、

サミュエルの消えた噴水を、

じっと見ていたら、

「行くよ」

リサがしっぽで、僕の肩をさわってきた。



僕達は、合流した二人と軽く会釈をして、

リサの後ろについて行った。

「ねぇ、スカイ。その大事そうにずっと抱えているのは、ぬいぐるみ?」

「あ、うん……変だよね?」

僕が苦笑いすると、

「え? 何が?」

レオがキョトンとした。

「高校生なのに、ぬいぐるみを抱えているのは変だ……と思ったかな、と思って」

「あはは。そんなこと気にしたの? 大切な思い出でしょう?」

レオが、シータに向かって言った。

「うん、そうだよ」

僕がうなずくと、

「一緒に避難できてよかったね」

レオがニコッとした。


庭園風の場所を出ると、

8畳くらいの大きさの部屋があって、

どんな仕組みかは分からないけど、

たたまれた淡い水色の服がたくさん、水面の上を漂っているかのように、

宙に浮いていた。

「これに着替えて、今、着ている服全部と装飾品、鞄、靴は、箱ね」

リサがしっぽで、宙に浮いていた大きな箱をさした。

「ここで? 全部?」

「さすがに、男同士だけど……全部は、初対面の人もいるしね」

僕達が、服を脱ぐのを躊躇していると、

「後ろから、次の人が来るから、早くしてくれる?」

リサが、しっぽの先だけをクルクル回すと、

浮いていた服が5着、

僕達の方へ近づいて来た。

「これを上から着ればいいから、急いで」

リサが言うので、

僕達は、ゴワゴワするなと思いつつ、

言われた通りに、淡い水色の服を着た。

すると、ブカブカだった服が、徐々に縮んでいき、ちょうどいいサイズに変化して、

これがまた、どんな仕組みかは分からないけど、首まわりや袖口から、

スルスルと今まで着ていた服が、出てきた。

服はつなぎタイプで、左胸辺りに自分の

名前が、徐々に浮かび上がってきて、

名前の最後に、イイイイスターの輪郭と

その中に数字の5が出てきた。

この数字はたぶん、ヒューマンレベルだと

思う。

「みんな、お揃いだね」

「うわぁ、くすぐったい」

「どうなっているの!? 勝手に出てくる」

僕達は、驚いた。

そして、靴や装飾品もスルスル取れて、

大きな箱へ吸い込まれて行った。

「うわぁ」

「スカイ、どうしたの?」

僕の叫び声に驚いたリアムが言った。

「シータが連れていかれそうだよ!」

僕が言うと、

「吸い込まれたら、大変だよ! この部屋をすぐに出よう」

リアムもシータの体をつかんでくれた。

「ねぇ、何をしているの? 私物は持ち込めない」

リサが、僕とリアムの手を、シータから

はなそうとした。

そんな僕達の様子に気づいたレオが、

リサの体をつかんで、引っ張った。

「ちょっと、何を騒いでいるの?」

着替えを終えたリリアさんだった。

「母さん、助けて!」

「リサが、シータを奪おうとするんだ!」

僕とリアムが助けを求めると、

「お母さんに、任せなさい」

リリアさんが、凛々しい表情をして、

サイボーグの右手で、シータをつかんでいた

リサの指を1本ずつはなして、

神隠しのように、一瞬でシータを、右腕の

収納スペースにシータを入れた。

「出して。私物は持ち込めないの」

リサがしっぽで、リリアさんの右腕を

つっついた。

「し、私物じゃないわ。体の一部よ」

リリアさんは、目を見開いて、

リサに断言した。

しばらく、ひとりと一体のにらみ合いが

勃発した。

「何をしているの? 着替えたなら、先に進んでよ」

別のリサがやって来た。

「仕方ない。地球人は頑固だね」

リサは、リリアさんをにらんだ。

「AIロボットもなかなかね」

リリアさんが、ニコッとした。

「行くよ」

着替えが終わったことを確認して、

リサが移動を始めた。

「リリアさん、しばらくシータをお願いします」

僕が言うと、

「任せて」

リリアさんが、ウインクした。


僕達はそれぞれ、3人と2人で話をしながら

リサについて行った。

「リリアさんの右腕には、収納スペースがあったんだね」

僕とレオは同時に言ったので、

顔を見合わせて笑った。

「知らなかった?」

リアムが得意気に言った。

「うん、知らなかった。もしかして、みんなあるの? 先進的な肉体改造をしている人は」

「どうかな? 確か……母さんはオプション、だと言っていた気がするよ」

「オプションかぁ。リリアさん、ナイスだね。おかげでシータが助かったよ」

嬉しそうに僕が言うと、

「母さんに、まさかの先見の明があったなんて、僕は、鼻高々だよ。シータ救うためにあったんだな、あの収納スペースは」

リアムも嬉しそうに言った。


白が基調の長めの通路に出て、

しばらく進むと、頑丈そうな扉が出てきて、「この先が、部屋とか色々ある場所」

と言って、

扉の横に設置してあった画面に、リサが

近づくと、

「こんにちわ、リサ。入室を許可します」

音声が流れて、

扉が下にさがって、開いた。

「下に開くタイプか」

リアムが言った。

「意外だったね、下に開くとは」と僕。

「ついてきて」

リサが、フワフワ動き出した。

さっきより短い通路で、その先が円形の

空間になっていて、

絵が描いてある扉が、3つあった。

リサは、四角から片手が出ている、顔のある絵が描かれていた、中央の扉へ移動した。

ここにも扉の横に画面があって、

「こんにちは、リサ。入室を許可します」

音声が流れて、扉が下に降りた。

中へ入ると、また白が基調の通路で、

いくつのも扉が、等間隔であった。


このシェルターは、上から見ると、

ドーナツの形をしている。

ドーナツの実の部分の4分の3が、

各グループの個室で、

あとは、管理室A、管理室B、AI管理室、

土で栽培している作物と魚介類を培養する

ガラス張りの部屋で、

ドーナツの空洞の部分は、食堂、トイレ、

お風呂室になっていると、

サミュエルの説明に補足する感じで、リサが教えてくれた。

これだけの設備があれば、何か月でも余裕で暮らしていける、と思った。


水色で「A8」と大きく書かれている扉の

前で、リサが止まった。

僕達の方を見て、

「ここが部屋で、この画面で顔をスキャンすると、鍵が開いて、施錠は自動でしてくれる」

しっぽの先で画面を、たたいた。

僕達は、順番に画面の前に立って、顔を登録してから、入室した。

部屋の扉は、

左にスライドするタイプだった。


「え!?」

最初に入室したリアムが言った。

「え!?」

次に入ったレオも僕も、あとの2人も同じ

反応をした。

なぜなら、引っ越しの後か前かな?

という感じで部屋には、何もなかったから。

てっきり、ベッドや机、椅子にテレビ、

冷蔵庫がある、ホテルの一室のような感じ

かなと思っていたから、

あまりにも殺風景で、驚いた。

家具は何もなかったけれど、

先ほどの庭園風の場所と同じ仕組みかな?

地下なのに出窓があって、カーテンが風に

揺れていて、その隙間から見える外の景色は青空で、とても平和な雰囲気だった。

地べたで眠るのかな?

まさかね……不安に思っていたら、

リサが、部屋の出入り口の扉の近くの壁に

埋め込まれていた機器をしっぽで、

たたきながら、

「これは、ここ専用に作られた、『ベゾニソル・オクビディギーロ・プラス』、名前が長いから、『ベゾラス』と呼ぶ。必要な家具を選んで、柄や色を決めて、この間取りの画面で、設置したい場所にスライドして指を離すと出現して、『収納』というところにスライドさせると消える。新しい服は、お風呂室に置いているから、ここにはない。分かった? じゃあ、ベッドを設置して」と言った。

ベッドがあってよかった、

僕は嬉しくなった。

誰からやってみる?

探り、探りの雰囲気だった。

そう言えば、名前とか知らないなと思った

ので僕は、

「自己紹介でもする?」

提案してみると、

みんながうなずいてくれた。

自己紹介って、何から言えばいいんだっけ……提案してみたものの、知らない人が

2人いて、緊張して困っていたら、

それを察してくれたのか、レオが先人を

切ってくれた。

「僕は、レオナルド。歳は19だけど、留年したから、まだ高校3年生です。レオって、気軽に呼んでね」と言ったあと、

僕を見ながら、次どうぞ、と目で合図をしてきたので、

「僕はスカイです。高校3年生です。留年は、していません」

と言うと、

レオが、コラ! という表情をしてきたので「ぷっ」

少し笑ってしまった。

その様子を見たリアムが、空気を読んで、

「僕は、リアム・イザベライト。高校3年生で、留年はしていません!」

笑いを堪えながら言うと、

またレオが、コラ! という顔をした。

それを見た少年が、

「もしかして3人は、知り合いなの?」

と言った。

「うん、スカイと僕は同じ高校で、レオは、さっき知り合ったばかりだけど、いい人で、気が合って。ね、レオ」

リアムが言うと、

「うん。僕って、いい人なの」

レオが髪を右手でかきあげながら言った。

「そんな感じするね! 僕は、エドワード。高校2年生で、妹がひとり、グループE4だったかな? 名前はエマ。僕のことはエドって気軽に呼んでね」

エドは、隣にいた少年に次だよ、と背中を

1回、軽くたたいて合図をした。

でも、何も言わなかったので、

「恥ずかしがり屋なので、代わりに紹介するね。名前はステファン、初めは声が小さいかもしれないけど、慣れてきたら普通に話してくれるようになるよ。僕達は幼馴染みで、ステファンは頭がよくて、学年で常に1位の成績だよ。ねっ」

エドがステファンに話をふると、

顔と耳を赤くした。

「ステファンは、天才だね!」

リアムとレオが、

キラキラした瞳で見つめると、

ステファンが目をそらしたので、

そらした方向にリアムとレオが移動して、

ステファンとまた目を合わせた。

これを繰り返していたら、

「しつこいよ」

ステファンが笑った。

「よし! ステファンの笑顔を、いただきました」

リアムとレオも笑った。


ゴン、ゴン、ゴン、ゴン、ゴン。

「痛っ!」

リサがなぜか突然、僕達の頭を硬いしっぽで強めにたたいてきた。

「急に何!? 痛いよ」

「無駄口をたたいていないで、早くベッドを置きなさい」

リサが言った。

「口で言ってよ」

「暴力、反対」

リサにそれぞれが、ちょっと文句を言うと、音をキャッチする機能を停止させた?

と思うくらい、完全に無視だった。

しっぽを小さくユラユラさせながら、

じっと、こちらを見てくるリサに一瞬、

恐怖を感じた。

「と、とりあえず、ベッドを出そうか。リサが怒っている気がするし」

僕が言うと、

「そうだね。僕、やってみるよ」

エドが、ベゾラスの前に移動した。

しばらくすると、

「種類がたくさんあって悩むよ、これ」

機器を操作していたエドが、振り返って

言った。

僕達は、ベゾラスの前に、集まった。

ベッドのフレーム、布団と枕の色と柄が、

それぞれ100以上も種類があって、

どれにするか、すごく迷った。

決めた人から順番に、ベッドを出現させた。出現したベッドは、さわろうとすると、

通り抜けてしまいそうな、透け感があった。

どんな感じかな?

さわってみると、感触が思った以上に

しっかりとあった。

「ダーイブ」

レオが、勢いよくベッドへ飛び乗ると、

ベッドがしなった。

「うおー、すごい! フカフカだ」

レオが言った。

「本当だ、しっかりしている」

ステファンは、

ベッドの端にそうっと座って、小さめの声で感想を言った。

ぐうぅ……リアムのお腹が鳴った。

「そういえば、お腹空いたね」

僕が言うと、

「食堂へ、行こう!」

リアムとレオが、元気よく言った。

「食堂へは、どうやって行くの? リサ」

エドが聞くと、

「さっき、説明したよね? ベゾラスで、構造図、見てくれる?」

リサが言った。

「氷のような冷たさだね。初日だし、案内してよ」

エドが何回もお願いをすると、

「仕方ない。ついでがあるから、行ってやる」

部屋を出て行ったので、

僕達は、リサのあとを追いかけた。


食堂に到着するとリサは、

「じゃあ、行くわね」

と言ったので、

「どこに行くの?」

と聞くと、

「エネルギー補給ですけど?」

と言って、行ってしまった。

「リサってなんか、口調が不安定じゃない?

優しかったり、きつかったり」

とエドが言ったので、

確かに、と僕も同じように思った。

食堂には扉がなくて、出入り口はアーチ状になっていた。

そこをくぐって中へ入ると、

リサとは違う動物がモデルっぽいリスの

ような、アニマルタイプの浮遊AIロボットが浮いていた。

「こんにちは、メラです。メニューは2種類、魚か肉かどっち?」

メニューが載っている透け感のある、

下敷きのような物を持っていた。

「食べたい方を押して、受け取り口で貰って、空いている席で食べて、返却口へ返す。分かった?」

食堂のシステムを、教えてくれたので

みんなで、

「分かりました」

と返事をした。

「どっちにしようかな?」

どちらもおいしそうで、

僕達は悩んでいたけど、ステファンは迷う

ことなく、魚の方を押した。

するとエドが、

「ステファンは、肉が苦手で」

と言った。

悩んだ末に決めた方を押して、

受け取り口へ進んだ。

双子のロボットなのかな?

ここにも、入り口にいたメラがいた。

僕達に、注文した魚定食と肉定食を

渡してくれた。

すごくいい匂いがして、温かくて、白いご飯から、湯気が出ていた。

目に涙が、じんわり出てきた。

学校から避難所までの、あの数日間?

数週間? もう、こんなに暖かい食事は、

二度と見られない、食べられないと思って

いたから、すごく感慨深かった。

僕達は、5人で座れる場所を探して、

座った。

「いただきます!」

手を合わせて、食せることに感謝した。

「すごく、おいしい! この瞬培加工肉のハンバーグ 」

僕達は、大絶賛した。


僕はレオの言った、

「瞬培加工肉のハンバーグ」という言葉に

一瞬、違和感を感じた。


「ごちそうさまでした!」

僕達は、満腹になった。

食器を戻しに行こうとした時、

リサが、僕達に近づいて来た。

僕達のことを、ジロジロと見てきたので、「何!?」

僕が聞くと、

「お風呂室、行くよ。髪の毛と顔が汚い」

と言ったので、

僕達は、

「え?」となって、

お互いの姿を観察してみた。

「ぶはっ、本当だ」

「髪の毛に、落ち葉が混ざっている」

「服を着替えたし、この風貌に見慣れていたから、気づかなかったね」

「うん、汚かったみたいだね、実は」

お互いの姿を見て、笑ってしまった。

食器を返して、僕達はリサの案内で、

お風呂室へ移動した。



ここも出入り口がアーチ状になっていて、

扉がなかった。

先ほどの庭園風のような技術を使った、

景色のいい露天風呂があったりするのかな? と思っていたら、

予想はまた、見事に外れた。

まず、脱衣所らしき場所がなくて、

男女で分かれていないし、

洗面台に備え付けのドライヤーもなくて、

体を洗う場所も浴槽も、見あたらなかった。

唯一あったのは、天井に等間隔で設置されていた、シャワーのヘッドだった。

どこで服を脱ぐのかな?

扉がないから、通路を通る人から丸見え

だよ……僕達が、戸惑っていてもおかまい

なしで、また一方的に説明をして最後に、

「面倒だから、何回も言わせないでよ」

文句を言ってきた。

リサの文句はこの際、

聞かなかったことにして、また、え?

それで本当にキレイになるの? となった

けど、とりあえず、服を着たまま、

シャワーのヘッドの下に移動してみた。

まず、シャワーのヘッドの下に立つと、

ちょうどいい温度のお湯が出てきて、

何もせず、ただ、お湯を浴び続けていると

止まったので、隣の空間に移動して、

浮いている服を手に取って、

お湯を浴びて濡れてしまった服の上から、

新しい服を着た。

すると、袖口からスルスルと、濡れた服が

出てきたので、それを丸めて空中へ軽く

投げると、服が浮いて、ウーパールーパーの

ような外見をした、アニマルタイプの浮遊

AIロボットが現れた。

これが、リサが言っていたロイかな?

宙に浮いていた服をつかんで、

肩にかけていた、明らかに服の大きさよりも

小さな鞄に入れた……というか、

鞄に吸いこまれた? ように見えた。

ロイは、僕の服を入れるだけで、もう他には

何も入らないであろう小さな鞄に、僕達、

5人分の服をつかんで、入れていった。

あの鞄はどうなっているの?

どんな仕組み!?

このシェルターには、本当に、不思議な

ことがあふれているな……と思った。

着替え終わった僕達は、乾燥室という部屋に

入った。

ここでは体に、圧力というか、

水分を奪っています! というのが分かる、

不思議な感覚を味わった。

リサの言う通りにしたら、僕達はキレイに

なって乾燥室から出てきた。

感覚的には、ただお湯を浴びていただけ

なのに、体中から石鹸のいい匂いがして、

浴槽に浸かっていないのに、

温もったかのように体がポカポカしていた。


「帰るよ」

リサが動き出した。

「不思議だね。石鹸のヌルヌル感は、1回もなかったよね?」

「うん。なのに、すごくいい匂いがする」

4人で話をしていたら、

「楽だったね」

小さな声でステファンが言った。

「うん! 楽だった。地球にも欲しかったなぁ、このシステム」

リアムが言った。

「お腹はいっぱいだし、お風呂でさっぱりしたから、眠たくなってきた」

エドが言うと、

「僕も……」

ステファンがうなずいた。

「同じく、眠たくなってきた」とレオ。

「早く寝なさい。明日は朝から、1回目の薬の服用だから」

リサが言った。

レオの目は半分、閉じていた。

「レオ、そこ壁だよ、壁」

フラフラして、危なっかしい足取りだった

ので、僕とリアムで、レオの腕を片方ずつ

持って、支えながら部屋へ戻った。

そして僕達は、倒れ込むように、それぞれ

ベッドへ横になった。

リサにもベットがあって、透け感があった

から、僕達と同じように出現させた物かな?

リサがピッタリ入るサイズの小さな楕円の

入れ物の中に、いくつかクッションが

入っていて、部屋の扉のすぐ横で、

宙に浮いていた。


このシェルターに来て、何時間たったのかな……今日は、「あの日」以来、特に色々

あって、疲れた。

目を閉じると、自分の家のベッドの上かな?

と勘違いしそうなくらい、心地がよかった。

あぁ……フカフカだ。

背中は痛くないし、

足も伸ばせるし……うっ……うっ……。

僕は、兄さんとトラックで一緒に眠った時の

ことを思い出して、涙が出てきた。

眠っているみんなの邪魔をしないように、

泣いていることがバレないように、

僕は声を、押し殺して泣いた。

自分だけ、温かいご飯にお風呂、ベッドで

眠って、ごめんなさい、という罪悪感と、

兄さんがどこにいるのか、安否も分からない

状態への不安な気持ちが入り雑じって、

胸が押し潰されそうだった。

そして、僕はいつの間にか、眠っていた。



○次回の予告○

『番外編・メンテナンスに入った、テイアとテクト』



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