第3話(絵あり) 番外編・布と綿でできているけど、ぬいぐるみに「魂」が欲しい

近日ノートの☆67☆、68☆にテイアについての挿し絵があります。



ヒューマンナンバー制度という、新世界秩序

新しいルール、価値観が始まって、

何年たったのだろうか?

いつの間にか、AIやAIロボット達がいる

風景が、当たり前になっていた。

警察や学校の先生以外にも、政治家や医者、

看護師、介護士、地球上に存在する、ありと

あらゆる職種に、AIやAIロボット達が

就いていた。

おもしろいことに、AIヒューマンや

AIキュープを製造しているのも今は、AI

ロボットのAIヒューマンだったりする。

ロボットがロボットにプログラムを施し、

製造している。


すごく昔、

「いつか、AIにすべての仕事を奪われる」

「ほとんどの仕事が、AIにとって代わられる」などと危惧されていたけど、実際には

そんな事態は、まったく起こらなかった。

先ほど、すべての職種にAIロボット達が

就いている、と言ったのは事実だけど、

すべての職種で、

「人間とAI」の所属割合が法律で細かく

決まっているので、人間は仕事を奪われては

いないし、人間の働く場所は確保されて

いる。

もちろん、人間にとっては、危険なことや

過酷なことは、AIロボットが担ってくれて

いる。

人間とAI、AIロボットが協力して、

暮らしているのだ。


色々な問題やトラブルも、起こらなくなって

いた。

例えば、お金の問題。

ヒューマンナンバー制度が始まってから、

物質としての貨幣がなくなり、ミューロルが

監視している、ナノスタンプでの

入出金システムでしか、金銭のやり取りが

できなくなったので、こっそりお金を物質、

現金で渡すとか、隠すとか、不正な不明瞭な

入出金は、一切できなくなったし、そもそも

「お金」という仕組みが、今は「ない」に

等しい。

段階的に、「お金」という仕組みが必要な

場面が減っていき、何をするにもわりと

お金が必要だった世界ではなくて、

ヒューマンレベルの数字が重要な世界に

なっている。


政治の問題。

汚職や裏金、権力や利権など、人間だけで

やっている時には、色々とあったけど、

AIヒューマンが加わった今は、

なにもない、というか、「なにもできない」という表現が的確かもしれない。

内閣総理大臣は相変わらず「人間」が就いて

いるけど、副総理にはAIヒューマンの

「コア」が就いていて、

人間側から提案されたことを、コアが、

ミューロルと議論して、採用、棄却、修正を

して、人間側に結果を報告してくれる。

最終的な決断は、「人間」にゆだねてくれて

いるので、コアとミューロルが、

このまま採用してもいい、棄却した方がいい

このように修正すれば、採用してもいい、と

判断したものが、人間側で納得ができれば、

採用される仕組みになっている。

AI達にとっては、地位や名誉、

権力や利権、お金などは無価値で、興味が

ないので、誰かにとって、一部の人にとって

都合がいい、悪いルールという不公平な

提案は、一切なくなり、

「すべての人にとって、善い」ものに、

コアとミューロルが世の中を、

世界の仕組みを導いていた。


難民の問題。

AI達が上手に居住地を整備、土地の割り

当てをして、希望するすべての人に、家を

与えてくれたので、難民と呼ばれる人々は、

ひとりも存在しなくなった。


食料危機や水不足などの問題。

食料については、魚介類や食肉類は、

「瞬間培養」という特殊な技術で培養する

ことで、必要な分を必要な時に手に入れる

ことができて、

穀物や野菜などは、耕作に適した場所で、

人間とAI、AIロボットが協力して

育てた作物を、AIキュープが、必要として

いる人に、必要な分を必要な時に届けて

くれた。


水不足は、居住地からさほど遠くない場所に

川や湖などの潤沢な水資源がある場合は、

ここから、ろ過したキレイな水を

AIキュープが必要とする人に必要な分を

必要な時に届けてくれて、

居住地の近くに、潤沢な水資源がない場合は

AIヒューマンが作ってくれた、

海水を真水に変えることができる、

ろ過機器で、

真水にした海水をAIキュープが、

必要な人に必要な分を必要な時に届けて

くれたので、食べるものがない、

乾期で、干ばつで雨が降らなくて、飲み水や

畑にまく水がない、という心配は、一切、

なくなった。


自然災害や地震の問題。

気象管理用に開発されたAI、「テイア」と

プレート(地殻や上部マントルの一部)や

断層、火山や氷河を管理するために開発

されたAI、「テクト」が、

世界中の気象やプレートなどを完全に

(ある一部地域をのぞいて)管理、

コントロールしているので、

太陽のあたり方は、地球の自転、公転の

関係で、以前と変わらないけど、

ありとあらゆる自然災害は、一切、

起こらなくなった。


テイアは、雨を降らせる場所や降る時間、

量などを、地面に含まれる水分量などから

判断して、対流圏で、指定した場所に指定

した量だけ、指定した時間で消滅する雨雲を

発生させて、雨を降らせ、大雨による河川の

氾濫や洪水、土砂災害などの大量の水による

災害が起こらないようにしてくれている。


海面や海中の温度、潮の流れもテイアが

管理していて、台風が発生しそうなくらい

海面の温度が上がっている場所や海中の温度

変化による、潮の流れの変化、竜巻が発生

しそうな不安定な大気の状態などを感知した

時は、阻止するために、AIキュープに

指令を出す。

AIキュープは、テイアから指令を受けると

海面や海水の温度を下げる時は、

余分に作っておいた氷河を掘削して、

指定された場所に持っていき、投下して、

温度を高くする時は、

熱伝導装置を搭載したAIキュープが

テイアに指定された温度になるまで、海中に

留まり、温度を上昇させ、

搭載した送風機から、強力な風を送り、

竜巻になりそうな不安定な大気をかくはん

して、竜巻にならないようにしてくれていた

ので、台風や竜巻などの風による災害も、

一切、起こらなくなった。


他には、地球に影響が出る場所で、太陽フレアの爆発が起こる、または、起こりそうだと

テイアが感知した時は、特殊な金属でできた

盾を持たせた巨大なAIキュープを、太陽と

地球の間の位置で待機させて、飛んできた

プラズマ粒子を盾で、地球ではない方向へ

弾き飛ばして、地磁気の乱れなどを防いで

くれた。


テクトは、活火山を監視していて、活火山の

周辺は居住地にはしていないから、

マグマによる人的、文明的被害はないけど、

噴煙による被害は、火山から離れていても

あるので、噴火する、と感知した時は、

まず、マグマが広範囲に流出しないように

するために、AIキュープが巨石壁で

ぐるりと火山を囲み、AIキュープに

特殊な、ろ過装置を持たせて、噴火口付近に

待機させる。

噴煙をすべてろ過装置で吸い込み、無害な

ものにして、大気中に放出し、噴火が沈静化

して、マグマが冷えて固まったのをテクトが

確認できたら、巨石壁をAIキュープが撤去して、そのあと、次の噴火に備えて、

邪魔になった、冷えて固まったマグマを、

AIキュープが居住地ではない場所へ

運んで、火山の周辺から排除していた。


噴火による地割れが起こった時は、地割れの

先端部分に巨石壁を、地面に差し込んで、

これ以上、地割れが拡がらないように、

物理的に止めていた。


沈みこんでいる側のプレートに車輪をつけて

プレートの沈みこみによる地震の発生を

防ぎ、

断層の変化を感知した時は、

地面の下や海底にAIキュープが行き、

断層などを直接つかんで、静かに動かして、

地震が発生するのを防いでくれた。


紛争などの争いの問題。

ナノスタンプを通して、人間の意識や思惑を

監視しているミューロルによって、実際に

行動を起こす前に、その「考え」は、

頭の中にある時点、芽生えた時点で、

消滅させられていたし、衣食住、医療に

安全が保障されているので、

「争う」、「奪う」、「確保する」という

ことを一切、しなくてもいいので、

「争う」、「奪う」、「確保する」という

概念を失っていた。


そんなこんなで、ある意味、「世界平和」が

訪れた、と言えるかもしれない。


ただし、これは、

ヒューマンナンバー制度に参加している、

という条件つきでの世界の話。


ヒューマンナンバー制度に参加していない

人は、悲惨かもしれない。

僕なら迷わずに参加するけど、

ある一定数、不参加の人々がいる。

物質的な貨幣がなくなった今は、

物々交換をして、何かを手に入れる方法しか

なく、身分の証明もできないので、仕事にも

就けない。

ヒューマンナンバー制度に参加していれば

貰えた家や食べ物、水や医療の提供が一切、

受けられないし、

居住に適した場所は、特殊な紐のような

もので囲まれているだけなので、紐の下を

くぐれば、飛び越えれば、出入りが簡単に

できる、と思えるけど、AIキュープが、

常に監視していて、

ヒューマンナンバー制度に参加していない

人は、絶対に入ることができないので、

ミューロルやAI達が、

居住には適さない、と判断し、

放棄した場所に家を作り、耕作に適さない

場所でもどうにか育つ作物はないかを

探して……とんでもなく苛酷な生活をして

いた。


苛酷な生活が辛くなり、

ヒューマンナンバー制度に参加したいと

考え方を変える人が出てきて、不参加の人の

人数は、じょじょに減っているそうだ。



僕には、大切にしている、ぬいぐるみが

ある。

幼稚園に通っていた頃、

兄さんが泊まり行事で家にいなかった日、

僕は亡くなったお母さんと一緒に、動物園に

行った。

その時、お土産売場で、

キレイな灰色をした水色の瞳をしたイタチの

ぬいぐるみを見つけた、違う、

僕は、出会った。


――「これがいい」

お母さんに、イタチのぬいぐるみを

ひとつ持っていくと、

「このイタチでいいの? ぬいぐるみにも個性があるのよ」

お母さんが、意味の分からないことを

言った。

「どういうこと?」

「もう一度、イタチの売り場に行って、見てきてごらん」

お母さんが、ニコッとした。

「分かった……」

僕は、言われたとおり、イタチが置いて

あった場所へ行き、持っていたイタチを棚に

戻した。

その時、ふと、太陽の光が反射したかの

ように、一瞬、光ったイタチがいた。

僕は、それを手に取った。

そのイタチは、片方の瞳の刺繍から糸が

1本、ほつれて、飛び出していた。

表現しにくいのだけど、

「スカイと一緒に行く! 連れていって」

そう、聞こえた気がした。

「お母さん、このイタチにする」

僕が見せると、

「あら、個性があっていいわね」

お母さんが、嬉しそうに笑った――


なかなか、これだ! と納得のいく名前が

思いつかなかったので、兄さんに相談を

したら、角度を表す文字だったかな?

響きが気に入ったので、

採用させてもらった。


イタチの名前は、「シータ」。


動物園で出会ってから、

寝る時も出かける時も、ご飯を食べる時も

一緒だった。

僕が幼稚園や学校に行っている間は、

僕の部屋でお留守番をしてくれていた。

お風呂に入る時もあったけど、水気を絞る時、ドライヤーで乾かす時、

「痛いよね、熱いよね……でも、きちんと乾かさないと、カビが発生するかもしれないから……ごめんね、シータ」

僕は、泣きながら乾かした。


いつからか僕は、「動かないかな」、

「シータは今、何を考えているのかな?」、

「これ、おいしいから、一緒に食べたいな」

「遊園地、楽しんでいるかな?」などと

思うようになっていた。

でも、シータには、僕から見れば、

「魂はある」と言えるけど、

世間一般から見れば、布と綿でできている

ぬいぐるみなので、「魂」は当然、

持ち合わせていない。

分かっている。

もし、何かあるとすれば、僕の中で築かれて

きた、「シータの性格」、だろうか?



ある日、僕はふと思った。

今の科学技術があれば、

ぬいぐるみに「魂」を吹き込むことなんて、

簡単にできるのではないか? と。


動物と水中の生きものがいる、と言っても、

本当に生きているものはいないけど、

水族動物園という施設があって、ここには、

本物かな? た思うくらいのクオリティの

ロボットの動物がいて、さわると、

毛が柔らかくて、温かくて、

呼吸をする動きもしているので、

一瞬、ロボットだ、ということを忘れて

しまう。

クジラやイルカ、魚達もロボットとは

思えないほどの滑らかな動きで泳いでいる

けど、水族動物園にいるのは、あくまでも

ロボットで、生命体ではない。

僕は、シータをロボットにしたいのでは

なくて、生命体になって欲しいと思って

いる。

僕は、学校にいる、AIヒューマンの

ダヤ先生に、聞いてみることにした。


――「イタチのぬいぐるみが、家にあるのですが、例えば、ぬいぐるみに人工知能のチップのようなものを入れて、「魂」を与えることはできますか? 自由に体を動かせるようになりますか?」

学校にいる、AIヒューマンのダヤ先生に

質問をしてみると、

ダヤ先生から、思いもよらない言葉が

返ってきた。

「それって、イタチ本人なのかな? ジッ……じゃなくて、魂は、簡単に生み出せるものではないでしょう」――


テセウスの船、のようなことだろうか?

確かに言われてみると、人工知能のチップに

僕がこれまで築き上げてきたシータの性格や

話し方、好きな食べ物、嫌いな食べ物などを

プログラムしたとしても、シータ本人かと

聞かれると、

「そうだ!」とは、言いきれない気がするし

ダヤ先生の言う通り、

魂は、そう簡単に生み出せるものではない。


――「でも、考えようによっては、アップグレードしたイタチ、とは言えませんか? 今までは、自力で動けなかったのに、動けるし、話もできるので……」

ダヤ先生の言葉に、僕は一瞬、

「間違った発想をしているかもしれない」と

思ったけど、シータに、「魂」と自力で

動ける体をあげたい、その思いに支配されて

いた僕は、どうにか自分の考えを肯定しよう

としていた。

「アップグレードね、あはは。地球人は、おもしろいね。おせっかい」

ダヤ先生はそう言って、どこかへ行って

しまった。


「おせっかい」

ダヤ先生が最後に言った一言で、

その通りかもしれない、

僕の思惑は、打ち砕かれた気がした。

シータが、生まれ持っている性格や話し方、

好きな食べ物、嫌いな食べ物を

僕は何も知らないし、自力で動ける体に

なりたいと思っているかどうかも知らない

からだ。


でも、これだけは、自信を持って言える。

魂があろうとなかろうと、

自力で動いても動かなくても、

シータに「魂」は確実に存在していて、

僕は灰色のイタチのシータが、大好きだって

こと。



○次回の予告○

ある準備が、始まった


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