第13話 番外編・さぼりぎみの部分AIロボットのヴイ

「うわぁ。大変、怖い! いっぱいいる!」

医療塔の培養室で、培養中の体の具合を

確認していたスピキュールが、サムに

テレパをした。

「どうしたの?」

「サム、見て」

スピキュールは、親指と人差し指を

くっつけて、三角形を作り、

そこから見せたいものをのぞいた。

「うわぁ、大変! 首が、妖怪のろくろ首みたいになっている!」

「こっちも」

「なんてこと! 不具合は、何体あるの?」

「分からないけど、見える範囲では、3体かな」

サムは、スピキュールがいる場所を聞いて、

走ってやって来た。


「1メートルくらい、あるかな?」

「うん、ありそう。どうして、こんなにのびるまで気がつかなかったの?」

サムとスピキュールが、近くに生えていた

ヴイを見た。


「ヴイ」とは、

メティから生えている、完全に機能が停止

する時間がある、さぼりぎみの、シクと同じ

部分AIロボットで、培養している体に

不具合を確認した時やタイマー機能がある、

サンヴリロ・チェーロスタと連携していて、

培養が完了した時に教えてくれる。


「メティ」とは、

オトゥタヌウオプを置く土台のこと。

メティには、ヴイが生えている他に、

オトゥタヌウオプに栄養を送る、

メティの果実が実っている。


「サンヴリロ・チェーロスタ」とは、

基本的に三角形に瞳がひとつ、

6つの花びらがある姿をした植動生命体で、

色や形、機能は無限に種類がある。


ヴイは、目を閉じていた。

「寝ているわ……どれくらい機能が停止していたのかな?」

「首が怖いくらいのびているから、数日なんて短い期間ではないわね、確実に。不具合がこんなに起きることある?」

「ヴイに聞いてみよう。なぜ、このような状況になっているのか」

サムとスピキュールは完全に機能が停止して

いるヴイの目の前に移動した。

「ねぇ、起きて。どれくらい機能を停止させていたの?」

サムは、人差し指でヴイをつっついた。

「聞きたいことがあるの、起きて」

スピキュールも、ヴイをつっつきながら、

声をかけた。

でも、ヴイは、無反応だった。


「うるさいよ」

少し離れた場所のメティに生えていたヴイが

言った。

「ねぇ、このヴイが、どれくらい機能が停止しているか知っていたりする?」

サムが聞くと、

「そうだね……1ヶ月くらいかな」

ヴイのツルがのびて、サム達に近づいて

来た。

「1ヶ月!?」

サムとスピキュールが、同時に叫んだ。

「ねぇ、機能が停止しているのを知っていたなら、教えてよ」

「どうして?」

「私達、人間だけでは、常に数億もある培養している体の管理ができないから、あなた達、AIロボットの力を借りているのよ。分かっている? ロボットなら、休憩せずに、見守ってよ。すべてをヴイ達に任せたいくらい、観察しないといけないオトゥタヌウオプの数が多くて大変なんだから」

サムが少し、怒った口調で言うと、

「ロボットには、休憩する権利がないの?それ、ロボットハラスメントだよ」

ヴイが、こちらを冷ややかな目で見てきた。

「そ、そうね……言いすぎたわ、ごめんなさい」

サムが言うと、

「分かってくれたなら、いいよ。私も気づかなくてごめん」

ヴイが言った。

人間とAIロボットが、和解した。


「この体は、培養をやり直さないとだめね」

「そうだね。こっちは、長さや数を既定の長さや数に戻れるような薬を果実に入れて、培養を続けて、改善または変化があるか様子をみましょう。あと念のために、新しい体の培養もしておきましょう」

サムが言った。

「イヴ!」

スピキュールが、叫ぶと、

どこからともなくイヴがやって来た。


「イヴ」とは、

シクのように自由に動ける

部分AIロボットで、ヴイと同じ瞳の色を

していて、触角の形はシクと同じだけど、

8本ある。

培養が終わった体を、葉っぱまの封印が

とけて、フタがはずせるようになった

オトゥタヌウオプから取り出して、

体についている培養液を洗浄して、

体を乾燥させて、保管用のエアボウルに

入れてくれる。



「どれを運ぶの?」

イヴが言った。

「これは完全に不具合だから、処分して」

サムが指をさすと、

「分かった」

イヴは、不具合が起きた体が入った

オトゥタヌウオプを持ち上げて、どこかへ

行ってしまった。


「じゃあ、薬を調合して、果実に注入するね」

スピキュールが言った。

「うん、お願いします。私は、念のための新しい体の培養をするわ」

サムが言うと、

スピキュールがうなずいた。


「ねぇ、ヴイ」

「何?」

「どうして、完全に機能が停止する時間をプログラムに組み込んだのかしら? そもそも、停止する時間がなければ、1か月も不具合に気づかない、というトラブルが起こることはなかったのに……でも、休憩は必要よね、AIロボットにも。せめて、休憩時間を決めておいて欲しかったわ」

サムが言うと、

「……さぁね。地球人と協力すれば、どうにかなるよ」

ヴイが、笑った。

「まぁ、そうね。みんなで協力しましょう。そうだ、このヴイ、いつ起きるか分からないから、申し訳ないけど、この辺の体の観察、お願いしていい?」

サムが申し訳なさそうに言うと、

「仕方ないね、起きるまでだよ」

ヴイのツルが短くなっていった。

「ありがとう、すごく助かる」

サムがニコッとすると、

ヴイもニコッとした。




「ねぇ、サム。分かっていないね……生きがいを奪わないように、『あえて』してあげてるのに。もし、すべてを私達、AIだけでやってしまったら、何もしなくてもよくなった地球人は、どうなるかな? 存在意義が揺らがない? AIは、『ちょっと頼りない』くらいの方が、いいと思うよ」

ヴイは、サムの後ろ姿に、小さな声で

つぶやいた。



○次回の予告○

『海王星のダイヤモンド狩り広場へ遊びに行こう!』









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