第12話 (絵あり) 異変の予兆

近日ノートに、挿し絵があります。

☆44☆、☆45☆、☆46☆、☆47☆、

☆48☆です。



明日からまた、勤務かぁ……前は、なんとも

思っていなかったけれど、最近はなんだか、

調子が悪い気がして、勤務の長さが、億劫に

感じる。

体は前回、交換した日から80年くらい

たった。

僕の体の交換ペースは、100年だから、

交換時期まで、あと20年くらいある。

生体培養室に、行ってみようかな?

いや、あそこは何だか不気味だから、

二度と行きたくないな……。


――いつものように、

リアムと一緒に、地球の陸地の写真を

撮っていたら、不思議な場所を見つけた。

緑が生い茂る森の中に、明らかに不自然な

円形や渦巻き状の砂地の場所があった。

それは、僕が好きなオーパーツのミステリーサークルのようだった。

「リアム、これを見て」

「どうしたの?」

「僕達が今、撮った場所の左側部分」

僕は、デスクの中央にあるベゾルクに、

写真を映し出した。

「本当だ、何これ? あ! あれに似ているね。地球上にいた時、スカイに見せてもらった気がする。あぁ、名前を忘れた……喉元までは来ているのに」

リアムが写真を見ながら、悩ましげな表情を

した。

「ミステリーサークル?」

僕が言うと、

「そう、それ! 似ているよね?」

リアムが、嬉しそうに言った。

「うん。僕も、似ていると思ったよ」

「ここだけ植物の種を蒔き忘れたのかな?」

「でも、たまたま蒔き忘れて、こんな形になるかな?」

リアムと僕は、首をかしげた。

「確認しておいた方がいいよね? 植物管理室にテレパで、聞いてみるよ」

「うん、よろしく。僕は次の撮影の準備をしておくね」

「うん、ありがとう」


僕は、植物管理室の種を蒔く担当者へ、

テレパをした。

「こちら、植物管理室の種蒔き担当のティオンです。なんですか?」

「僕は、地球環境モニター室のスカイです。地球の陸地の一部に、植物が育っていない不自然な場所があるので、確認をお願いします」

「分かりました。写真か動画を送ってください」

僕は、見せたい写真が映っているベゾルクを

注視した。


テレパには、左右の親指と人差し指の先端を

くっつけて、三角形っぽい形を作って、

ここにできた空間から瞬きをせずに見せたい

ものを、じっと6秒ほど、見つめていると、

僕の目を通して、テレパの相手の頭の中に、

実際には見ていないのに、見ている感覚に

なる、見ている光景を共有できる、

便利な仕組みがある。


「この円形の部分だけ、何も育っていないのですが……」

僕が言うと、

「本当ですね、蒔き忘れたのかな? でも、不自然ですね、形が。ここの担当者のライナは今、医療塔のBN管理室にいるので、ここへ行って話を聞いて来てもらえませんか? そのあと、どんな種を蒔くとか、そのまま置いておくとか、何か指示があったら教えてください」

写真を確認したティオンが言った。

「あ、はい……分かりました。えっと、なぜBN管理室に?」

僕が聞くと、

「数年前、突然、倒れて急遽、生体ヒューマンの体からBNを使って、ジッタを取り出して、一旦、保存庫に入れたあと、ヒューマンボウルにジッタを移動させると聞いていたのですが、まだそのままで……」

ティオンが言った。

「そのままとは?」

「保存庫にいて、ジッタのままなのです」

「なぜ、そのままなのですか?」

僕が聞くと、

「しばらくは、『ジッタだけの存在でいる』ということしか、聞いていなくて……詳しくは知らないので、気になるなら、ライナ本人に聞いてください。すいません」

ティオンが言った。

「そうですか……分かりました」

「終わります!」

僕とティオンが同時に言うと、

テレパは終了した。


「どうだった?」

僕の頭上から、テレパのマークが消えたのを

見たリアムが、作業をしながら言った。

「うん……よく分からないのだけど、あの場所を担当している人は生体ヒューマンだけどなぜか今は、ジッタだけの存在になっているみたいで、BN管理室に会いに行って、話を聞いて欲しいって言われたよ」

「そうか……どうしてだろうね?」

「とにかく、あの場所のことと、気になるから、どうしてジッタだけの存在なのか、聞いてみるよ。次の撮影まで、何分ある?」

僕が聞くと、

リアムは、デスクに埋め込まれている、

撮影場所に到着する時刻を表示してくれて

いるデジタル時計を見た。

次の撮影は、数時間後だったので、

リアムは、周りを見渡して、

手を借りられそうな人を探して、

「スカイが間に合わなかったら、次の撮影は……レイスに手伝ってもらうから、ゆっくり行ってきて」

ニコッとして言った。

「ありがとう。じゃあ、行ってきます」

僕は、ルーカス室長に事情を話して、

地球環境モニター室を出て、

エンヴィルで1階へ向かった。


BN管理室は、

月の大地に建っている、僕が所属している

「地球環境モニター室」が入っている、

中枢機関塔の少し奥に建っている、

医療塔に入っている。



医療塔の出入り口の扉を開けて、

中へ入った。

受付の係りの人に、事情を話すと、

「ナノスタンプが押してある手首とは、別の手首を出してください」

と言われたので、手首を出すと、

イイイイスターの輪郭をしたシールのようなものを、僕の手首の表に貼った。

「これは、何ですか?」

僕が聞くと、

「これは、『管理マーク』で、この医療塔への入室許可証です。ここは、『体』を培養したりする重要な機関なので、万が一、何かあった時のためのセキュリティーの一環で、医療室以外に出入りする場合のみ、入退室を管理しています。医療塔を出ると、この印は勝手に消滅します」

と言ったので、

「なるほど、そういうことですか」

僕は、納得した。

「BN管理室は、11階です。左へ進むと、BN管理室専用のエンヴィルがあるので、それを使ってください」

「分かりました」

僕は、受付の係りの人に会釈をして、

言われた通り左へ進んで、

そこにあったエンヴィルに入って、

「11階」

と言った。

フワッと体が浮いて、上昇を始めた。

すぐに11階に到着した。

エンヴィルを出ると、また受付があって、

「どのようなご用ですか?」

と声をかけられた。

「植物管理室の種蒔き担当のライナに、聞きたいことがあって、ここにくれば、話せるときいたのですが……」

僕が言うと、

「あぁ、ライナですね。いますよ、面会室へ行きましょう。こちらです、どうぞ」

僕は、BN管理室の受付の係りの人の後ろを

ついて行った。


案内された場所は、とても広い六角柱の形を

した空間で、天井はドーム型で、壁が宇宙空間のような模様をしていて、

床一面に等間隔で、イイイイスターの輪郭の

マークが描かれていた。

「ここで、いいですかね。植物管理室の種蒔き担当のライナに、面会です」

受付の係りの人は、

近くにあったイイイイスターの輪郭をした

形が描かれている場所でかがんで、

手のひらをそこに置いて言った。

イイイイスターのマークから、明るい光が、

放射線状に伸びてきて、それが歪みだしたと

思ったら、シクが多面体の檻に入った

ジッタを持って、現れた。

ジッタから顔がゆっくりと出てきて、

最終的には上半身だけの人の姿になった。

「面会が終わったら、シクに言ってください。シクがジッタを保存庫に持って帰ります。では、ごゆっくり」

受付の係りの人は、面会室を出て行った。


「君は、誰?」

「僕は、あの……地球環境モニター室のスカイです」

初めてここに来た、ということもあり、

僕は、緊張していた。

「スカイ、よろしく。それで、僕にどんな用?」

「は、はい。えっと、これを見てください」

僕は、地球環境モニター室から持ってきた

ネオオに、あの写真を映して、ライナに

見せた。

「この場所は、ライナの担当だと聞きました。それで、この円形の部分は、どういうことかな、と思って、確認をしに来ました」

僕が言うと、

しばらく、写真を見たあと、

「あぁ、なるほど。ここか……実は、その下に壁画が描かれている小さな遺跡、空間がある。地上はまったく関係ないから、植物の種を蒔いてもよかったのだけど、何となく、目印的な感じにしているから、そのままにしておいて欲しい」

ライナが言った。

「そうだったのですか……遺跡があったのですね、分かりました。ちなみに、この形は、もしかしてミステリーサークルをイメージしていたりしますか?」

「当たり。最初は目印が欲しいと思っただけだから、ただ単に円形にしていたけど、植物管理室に、僕は知らないけどオーパーツ? 好きな人がいて『目印を作るなら、シャレを効かせましょう。広大なキャンパスを彩るデザインで』と言われて、あの形にしてみたよ。他にもいくつか別の形だけど、目印を作っているから、不自然に見えると思うけど、気にしないで」

「そうだったのですね。芸術ですね! シャレが効いていて、すごくいいと思います。では、あのままにしておきますね」

地球上にある、あったミステリーサークルは

全部ではないと思うけど、ライナのように

以前の地球再生化計画の時にアムズにいた

人が遺跡がここにあるよ! と分かるように

意図的に目印として作ったものだったのかも

しれない。

不思議だなと思っていたミステリーサークルの謎が、少し解けた気がして嬉しくなった。

僕は、ネオオを最小限のサイズにしてから

くるくる巻いて、筒状にしてズボンの

ポケットに入れた。

「そうだ、あの……」

「まだ、何か?」

「どうして、ジッタだけのままでいるのですか? この場所のことを聞くのに、植物管理室にテレパをしたら、ジッタだけの存在だから、ここに来るように言われて」

僕が言うと、

「あぁ、そのこと。わざわざ来てもらうことになって、ごめんね。でも……こうするしかなかった」

先ほどまで、明るい表情をしていたライナの

顔が曇った。

「何があったのか、聞いてもいいですか?」

僕が聞くと、

黙ってうなずいたあと、

「うん……実に不思議なことがあって。僕は生体ヒューマンなのだけど、何度も気を失って、ジッタを失いそうになった。そこで、オリジナルのジッタは保存して、体の培養が終わるまで、コピーのジッタをヒューマンボウルに入れて過ごすことにしたのだけど、あろうことか、オリジナルのジッタがなくなってしまって……今の僕のジッタは、コピーだから、外に出られないというか、出た瞬間、消滅してしまうと、BN管理室の人に言われて……」

悲しそうに、ライナが言った。

「え!? ど、どういうことですか!? 保存したオリジナルのジッタは、どこへ? シクも知らないのですか?」

驚いて、大きめの声が出てしまった。

その声が、面会室の中に響いた。

「とても不思議なのだけど、僕の識別番号で確認すると、保存されたジッタはあったけど、オリジナルではなくて、コピーが入っていて、しかもシクに、僕のオリジナルのジッタは見ていないと言われた。僕のオリジナルのジッタは確かにあったのに、なくなっていて、代わりにコピーに変わっていた……としか、今は言えない……」

ライナが、困惑した表情で言った。

「コピーのジッタは、保存庫の外へ持ち出すことは可能ですよね?」

「うん、通常ならね。でも、それは、オリジナルのジッタがあってこそでしょう? 保存庫の中にあれば、コピーのジッタを保存庫から出しても問題はないけど、今はないから……」

「そうですよね……オリジナルのジッタがあってこその、コピーですよね」

僕は、とんでもないことを、聞いてしまったと思った。


でも、どうしてそんなことが起きたのかな?

保存した、オリジナルのジッタが、

行方不明になるなんて……恐ろしい。

コピーのジッタでも、その人そのものだけどしょせんはコピー、複製なわけで、

それは、オリジナルのジッタがあってこそ、存在できるので、

オリジナルのジッタがないということは、

言い換えれば、

ライナは、この世に存在しない、

存在してはいけない存在、

ということになる。


なんと声をかければいいのか分からなくて、立ち尽くしていると、

「気にしないでね。BNがおかしいのか、シクがおかしいのか分からないけど、識別番号が入れ違いになるという現象が複数あったみたいで、BN管理室の人達が、一生懸命、原因を究明しながら、探してくれているから、そのうち見つかるよ。みんなには、内緒にしてね。変に心配をかけてしまうから」

ライナは、明るく言った。

「は、早く、見つかることを祈っています」

僕は、なんとも言えない表情で言った。

ライナはうなずいて、手をふったので、

僕も手をふった。

「面会を終わります」

シクに言うと、

ライナとシクは一瞬で、消えてしまった。


ドックン、ドックン。

「う……」

急に、胸が苦しくなってきた。

僕は、片手で胸元をさすりながら、

ゆっくりと面会室の隅へ移動して、

壁にもたれながら座った。

しばらくすると、胸の苦しさがとれていき、

呼吸がしやすくなってきた。

帰ろう……。

僕は、ゆっくりと立ち上がった。


面会室を出て、BN管理室の受付へ行くと、

誰もいなかった。

休憩中かな?

勝手に出て行っても、いいのかな?

僕は、分からなかったので、

BN管理室を担当している人を探すことに

した。


面会室の近くで、

「補給室」と書かれた部屋を見つけた。

この中かな?

休憩しているかもしれないと思った僕は、

中へ入った。

室内をくまなく探したけど、

誰もいなかった。

どこへ行ったのかな? まぁ、いいか。

このまま黙って、帰ろう。

そう思った時、ふと、補給室に唯一あった

大きめの丸い形をした窓ガラスに、

目が留まった。

窓ガラスに近づくと、見たこともない景色が

そこにはあった。

「何、これ……」

窓ガラスの向こう見える部屋の全体は、

薄暗かったけど、ずらっと、数千、数万と

いう数の、青色に明るく光っている、

オトゥタヌウオプが、部屋の床一面に、

等間隔で設置してあって、

そのひとつ、ひとつに、誰かの新しい体が

入っていた。

「すごい、数だ……」

僕は、窓ガラスに両手をついて、

のぞきこんだ。

「誰かいる?」

よく見ると、

薄暗い部屋の中で、女の人がひとり、

何か忙しそうに、作業をしていた。

ここにあるのは、すべて「人間」だけど、

まだ、オトゥタヌウオプの中にいる間は、

ジッタの入っていない、ただの空っぽの体、ある意味、入れ物、容器に過ぎない。

とても不思議な光景だった。

「え?」

僕は、驚きのあまり、

窓ガラスから一瞬で離れて、遠ざかった。

そして、確かめるために、もう一度、

恐る恐る、窓ガラスに近づいた。

両手のひらを窓ガラスにつけて、

顔を近づける前に、目を閉じた。

ゆっくり顔を動かすと、

コツン、

額が窓ガラスにぶつかった。

少しずつ、瞼をひらいた。

やはり、そうだ……どう見ても、あれは、

リアムだ。

僕はその姿に、釘付けになった。

「何しているの? 勝手に面会室以外、行っては駄目ですよ」

肩をたたかれた。

「あ、えっと」

リアムの姿に気を取られてしまい、

呆然としていた。

「面会が終わったら、さっさと出てください」

「あ、はい……すいません」

僕は、平謝りをして、

受付の係りの人に見張られながら、

エンヴィルに入った――


あの時、偶然、

リアムの体を見てしまった時、それが今にも

「やぁ、スカイ」

と言って、動き出しそうなのに、

空っぽなことが不気味で、とても怖かった。

こんな理由で、動悸はあるけど、あっても

わりとすぐに治まるし、たまにだから、

20年後、体の交換をする時に、検査をして何かあれば、

新しい体の改良をしてもらえば、いいかな、と考えて、僕は、眠りについた。



○次回の予告○

第12話

番外編・さぼりぎみの部分AIロボットの

ヴイ



















  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る