第33話(絵あり)あるミステリーの真相と出発

近日ノートの☆41☆と☆42☆に挿し絵が

あります。




「スカイさん、地球付近に戻って来たので、撤去作業の続きを始めますね」

アストロングが言ったので、

「うん。よろしくね」

僕はうなずいた。


しばらくすると、

「撤去の具合はどう?」

「火星の畑は終わって、もうすぐ魚介類の培養施設の撤去が終わるよ」

「浮遊コロニーの回収は終わって、あとは月の広場だけです」

月や火星、ほかの惑星で、

撤去作業をしていたAIキュープの様子を

確認しながら、お互い、作業の進み具合を

報告し合っていた。


ヒュンッ、ヒュンッ。

「何の音かな?」

音が聞こえる方向を追っていたら、

近くにあった窓に一瞬、何かが通過するのが

見えた。

「え?」

驚いた僕は、目が点になった。

なんと表現すればいいのか分からなくて、

窓ガラスをバンバンたたいていると、

「スカイさん、どうしました?」

グルーオンが言った。

「あの、あれって……」

僕が指をさすと、

「どれですか? あぁ、あれは、横穴にためておいた、アムズにいた生体ューマンの『脱け殻』を、調理ボウルに入れて、太陽の熱で跡形もなく燃やして、処分しているところですよ」

グルーオンが窓をのぞきこんで言った。


「脱け殻」とは、

ジッタが入っていない、ジッタが脱出した、

空っぽの入れ物、ただの生体ヒューマンの

体のこと。


「横穴とは?」

「月に元々ある、大きな地下空間で、地面に対して縦ではなく、横に広がっているので、『横穴』と呼んでいます。ここに、約2万年間分の不要になった生体ヒューマンの体をためていたのです」

グルーオンが言った。

「月にそんな空間が……あ、もしかして、『風穴』かな? 縦ではなくて、横に広がった空間があるって、本で読んだ気がする。あれを、その……そんな使い方をしていたなんて、知らなかったよ」

僕は苦笑いをした。

「大量に出る脱け殻を貯めるのに、ちょうどよかったので」

「なるほど……そうか。新しい体にジッタを移したあとの古い体の行き先を、考えたことがなかったよ。どうしてその都度、処分せずにためていたの? 」

「脱け殻なので、遺体とはまったく違うけど、見た目は、『地球人』なので、みんなが見ているところで処分するのは、止めていたのです。ちょっとした配慮ですよ」

グルーオンが言った。

「あぁ、なるほど。配慮ね……確かに、太陽に向かって生体ヒューマンの脱け殻が飛んで行くのをさっき、初めて見たけど、なんだか複雑な気持ちになったから、みんなに見せないでくれて、よかった、と思うよ。」

僕が言うと、

「それは、よかったです」

グルーオンが、ニコッとした。

「そういえば、肥料に使っていたよね?」

僕がふと、思ったことを聞くと、

「始めの頃は、ほぼすべて肥料に使っていましたけど、緑化の完了とともに、必要な数は減っていったので、横穴に入れていました。80年から100年に1回、新しい体に交換するので、その都度、大量に脱け殻が出ましたし、最後はアムズにいた全員分の体がいっきに不要になったので、脱け殻の数が大量に増えました」

グルーオンが言ったので、

「あぁ、なるほど。確かにたくさんの人がいたからね……え? 全員分が不要って……それは、どういうこと?」

僕は、窓からグルーオンに視線を移した。

「どういうこと? と言われても……ただ不要になったので」

グルーオンが、困った表情をした。

「う、噂を聞いたよ」

「どんな、噂ですか?」

「ヒューマンレベルの判定日に、レベルが6にならなかった人は、生まれ変わると。動物とか虫とか人間以外に……もしくは、レベルが6になるまで、月と火星で暮らして行くのかと思っていたけど……設備の撤去をしているよね……どういうこと?」

僕が不安気に言うと、

「あぁ、その噂ですか。それは、表向きです」

「表向き? それって……つまり?」

僕は、背筋がゾクッとしてきた。


グルーオンが言うであろう答えが、

なんとなく察しがついたからだ。

でも、違うかもしれない……違って欲しい、そう願った。


「『ヒューマンレベルの判定日に、レベルが6にならなかったら、自動的にジッタが消滅しますよ』なんて、ちょっと酷ですよね? だから、本当のことは伏せて、それなりの話を作り、希望が持てるようにしてあげたのです」

グルーオンが親切でしょう?

という表情をしたけど、

僕の顔は、ひきつった。

「……あぁ……そうなの……」

予想が見事に的中してしまった。

グルーオンの話を聞いて、今、思い出した。ヒューマンレベルの判定日の翌日から、

姿が見えなくなった人がいたことを……。

「ちょっとというか、すごく酷だと思うよ……そもそもどうして、ヒューマンレベルで、避難できる人とできない人、生身の人間の体の人と機械の体の人、戻れる人と戻れない人に、わざわざ分けるの? みんな、避難させて、地球に戻せばいいのに」

僕が言うと、

「それは、できません」

グルーオンが、即答した。

「どうして?」

「ルールだからです。アムズのルールで、『ヒューマンレベル4以上と18歳未満の地球人だけが、地下シェルターに入ることができて、アムズへ避難できる。レベル5は生体ヒューマン、レベル4はヒューマンボウルにジッタを移す。ヒューマンレベルの判定日に、レベル6になった地球人しか、『地球』へ戻しては行けない』と決まっているので」

グルーオンが言った。

「何それ? 誰がそんなルールを決めたの?

今さら遅いけど、変えられないの? 」

僕が訴えると、

「変えることはできません」

グルーオンが、また即答した。

「どうして? どこにそんなルールが書いてあるの? 誰が決めたの?」

「誰が決めたのかは分かりませんが、ルールは、コンルの備考欄に載っています」

僕は、コンルを手にとって、まだ、リストの

一番上にあった地球の項目を見た。

備考欄の表示を押すと、

「再生化計画後、地球へ戻れるのは、ヒューマンレベルの判定日に、レベル6になった地球人のみ。その他は、強制的にジッタを消滅させる」

と表示されていた。

なんて、恐ろしいことを……僕は、背筋が

ゾクッとしたあと、恐怖で体が震えた。

「なぜ、こんな条件があるの? 他の天体でも再生化計画の時には、この条件があるの?この表記は消せないの? やめようよ、こんな恐ろしいこと」

僕が聞くと、

「これは、消せませんし、他の天体には、ヒューマンレベルはないですし、そもそも備考欄自体がありません」

グルーオンが即答した。

「え? そうなの!? ヒューマンレベルも備考欄も地球だけにしかないの? どうして? また再生化計画を地球でした場合、この備考欄の条件が適用されるの?」

「すいません。どうして、地球にだけ備考欄があるのかは分かりません。条件は常にあるので、また適用されますよ……あの、ちょっといいですか? そろそろ作業に戻っても。テレパも入りました」

グルーオンの頭上に、

テレパのマークが出現した。

「ごめんね、邪魔をしていたね」


僕は、また窓ガラスの外を見た。

巨大な調理ボウルが、月の横穴から、

途切れることなく飛び出して、太陽に

向かって、迷いなく一直線で向かっていた。

調理ボウルの中には、ギュウギュウ詰めで、生体ヒューマンの脱け殻が入っていた。

どれもすべて、以前は、誰かの体だった。

そう思うと、胸が張り裂けそうになった。

強制的に消滅させられていたなんて……

知らなかった。

ルーカス室長が、サミュエルさんが教えて

くれなかったのは、真実が残酷だと分かっていたからだったのかな。

それにしても、どうしてヒューマンレベルも

備考欄も地球にしかないのかな?

ヒューマンレベルなんて、

なければいいのに……。


「え? 嘘でしょう……プクル!?」

僕は目を強く閉じて、その場でゆっくりと

一回転して、背中を窓ガラスに押しあてた。そうだった……ヒューマンレベルの判定日の

翌日から、プクルの姿が僕の記憶の中に

いない。

そうか……そこにいたんだね……プクルの

姿がいない理由が分かった。

僕はゆっくりと目をあけて、

指令室の座席に行き、座った。


シュンッ、シュンッ。

調理ボウルが、高速で太陽に突っ込んで

行く音が聞こえなくなるまで、

ここで、じっとしていよう。

僕は、目を閉じた。

プクルを目撃した衝撃が強すぎて、

地球にしかないヒューマンレベルと備考欄の

ことが頭の中から、消えてしまった。

とにかくあの怖い音が、早く終わります

ように!

僕は心の中で、呪文のように何度も唱えた。


しばらくして、

「撤去がすべて、完了しました。月と火星、土星と海王星、木星と天王星に地球人がいたという痕跡も、すべて消去したので、いつでも出発できます」

シュンッ、シュンッ。

音がまだ聞こえていたので、僕は目をとじた

まま、ランダの報告を聞いていた。

「分かったよ、ありがとう」

僕は、窓が視界に入らないように薄目を

あけて、ランダを見て、また目をとじた。

ランダは首をかしげながら、

自分の席に戻って行った。


さらにしばらくすると、

あれ?

音がしないかも……と思っていたら、

「調理ボウルも、すべて太陽の熱で跡形もなく燃えつきました」

アストロングが、報告をしてくれた。

「分かったよ、ありがとう」

僕はそうっと、目をあけて言った。

シュンッ。

あの音が聞こえた気がしたので、

また目をとじた。

「スカイさん、スカイさん?」

アストロングが、僕の肩をたたいた。

「え、あ、どうしたの?」

「大丈夫ですか? 撤去作業が終わったので、いつでも出発できますよ」

アストロングが言った。

「あぁ、そうか。分かったよ。次の天体へ行こう……あ、そうだ」


本当かどうか分からないけど、

「月で、地球外知的生命体が見つかった」

という内容が書かれた本を、地球上にいた時に、読んだことを思い出したので、

この「見つかった」ものがどんなものか

知らないし、本当かどうかも分からないけど

もし、「生体ヒューマンの脱け殻」だったと

したら、また生体ヒューマンの脱け殻が

残っていて、人類がまた宇宙船を作って、

また月に行けるようになった時に見つけたら

騒ぎになると思った。


「何ですか?」

「本当にもう、横穴に生体ヒューマンの脱け殻は、残っていない?」

僕が聞くと、

「はい、すべて調理ボウルに入れて、処分しましたよ」

ランダが言った。

「調理ボウルで処分か……調理、処分……嫌な響き……軽く言わないで欲しいな……」

僕は、小さな声で言った。

「どうしました?」

ランダが僕の顔をのぞきこんだ。

「えっと……」

僕が言葉につまっていると、

「心配なら、AIキュープで確認をしましょうか?」

グルーオンが言った。

「……そうだね……お願いしてもいい?」

アストロングが、AIキュープに指示を出して

月の横穴へ向かわせた。

すると、指令室の全面にある大きな窓に、

月の横穴の様子が映し出された。

ランダが言った通り、生体ヒューマンの

脱け殻は、ひとつもなかった。

「納得しました?」

グルーオンが言った。

「うん、ありがとう」

僕が言うと、

「では、出発の準備を始めてもいいですか?」

アストロングが言った。

「後味が悪い」、まさにそんな気分……

でももう、取り返しはつかない。

みんないなくなってしまったから……。

前を向こう……「地球」にしかない条件を

変えてやる!

だって僕は、アムズの責任者、

最高司令官なのだから。

「うん、よろしく」

僕は、決意をした。



僕は、エルザとアムズの仲間達と、

コンルのリストの一番上にきた、

ペガススアリス銀河にある、アイスという

名前の惑星に、ワープする準備に入った。


長きにわたって行ってきた、

「第3回 地球再生化計画」は、ついに、

無事に完了した。

僕の住んでいた地球は、3回目の再生をへて

非公式ながら、

4回目の新たなスタートを切った。


地球に戻った人類のみんな、

どうやらもう、大規模な再生化の手伝いは、順番的に難しそうだから、

末長く、地球の環境と上手く付き合って、

みんなで、仲良く暮らしてね。

小規模にはなるけど、

サポートは、全力で任務の合間にするよ!


こうして、ここから地球を眺めていると、

おこがましいけど、なんだか、地球創造神、神様にでもなった気になって、今なら何でもできそうな気分になってしまった。


リアム、レオ、エド、ステファン!

一緒に過ごした日々を、僕は忘れない。

みんなのおかげで、楽しかった。

ありがとう、大好きだよ!



条件が揃ったら、パンドラの箱を開けるよ。

体を培養して、ジッタを入れるから、

みんなでまた、楽しく暮らそうね。




THE HUMAN LEVEL ~人類と地球の未来編「人類とAIによる、「第3回 地球再生化計画」とヒューマンレベル 」~

おわり。


○次回の予告○

エピローグ




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