第30話 太陽系ツアーと、未完成の天王星の遊園地

ヒューマンレベルの判定日の翌日から

始まった、地球に適した体の培養が、

ついに完了してしまった……。


「地球へ戻る日が、ついに来たのか」

「あんなに、絶望的に面倒だった、写真の撮りなおし……なぜか今は、すごく愛おしい」

「うん。今から撮りなおしって言われたら、喜んでやるよ。勤務が終わりだなんて、寂しいね」

また、みんながしんみりしていると、

「ほら、元気をだして。みんな地球へ行くのだから、永遠の別れではないし、アムズには、あと数日しかいられない。地球に戻ったら、木星には行けなくなるよ」

ルーカス室長が、

ニコッとしながら言った。

僕達は、ルーカス室長の話を聞いて、

お互いの顔を見た。

「確かに……そうですね!」

「よし、思い出を作ろう!」

レオとリアムが元気よく言って、

顔を見合わせてうなずくと、

ニヤニヤしながら、

ルーカス室長の顔を見つめた。

「な、何? そんなに見つめられると、気まずいよ」

見つめたまま、ルーカス室長に近づいて行き

「一緒に行きましょうよ」

リアムとレオが、ルーカス室長の腕を

片方ずつつかんで、引っ張った。


3本目の腕は僕がつかむよ!

と心の中で僕は、つぶやいた。


「仕方ないな。俺は忙しいけど、行ってあげよう」

地球環境モニター室に所属している全員で、

一緒に広場で、バドミントンや鬼ごっこ、

はんかち落としにだるまさん、

特殊な映像でできた紐を使って、

ゴム飛びや大縄飛び、土星の環リンクや

木星の流れるプールへ行って、遊んだ。

図書室へ行った時には、なぜか

ルーカス室長が本を朗読をしてくれた。

セリフの部分は、声を変えて読んでいたので

そこがおもしろくて、

本の内容が、あまり入ってこなかった。

しかも、リアムとレオが、

ルーカス室長だけでは、登場人物が多くて、声のバリエーションが間に合わないと言ってセリフ部分を読み始めたので、

おもしろくて、みんなで大笑いした。


ポプ室長の提案で、アムズの住人、全員で、

巨大なカプカ、数百機に分かれて乗って、

太陽、8つの惑星、衛星、小惑星、彗星、

冥王星をぐるりと回る、

「太陽系一周ツアー」が開催された。


月を出発して、

地球、金星、水星、火星の近くを通って、

木星へ到着した。

各カプカに、1体ずつ配置されていた

スクエアがの顔が、ポプ室長の顔に変わって

「みなさん、木星の北極付近を見てください。木星の巨大なオーロラです。地球に現れるオーロラとは、スケールが違うでしょう?

せっかくなので、 オーロラの中を通ってみましょう」

と言った。

「通れるの!?」

どこのカプカの中も騒然とした。

カプカはゆっくりと、

木星の北極付近へ近づいて行った。

「すごい!」

「地球上で見たオーロラも、月から見た地球にできたオーロラも、神秘的でキレイだったけど、木星のオーロラは、神秘的で大迫力だ」

みんなが感想を言い合っていた。

僕とエルザは、顔を見合わせた。

「キレイ……」

それ以上の言葉は、でてこなかった。

カプカは徐々に、

木星のオーロラの中へ入って行った。

「うわぁ……」

みんながその神秘的な風景に、

心を奪われた。

それはまるで、ワープする時に、

よく描かれていた、7色の渦、別の世界への入り口、トンネルのようだった。

しばらくすると、

オーロラから抜けて、

薄暗い宇宙空間に戻ってきた。


カプカは、木星をぐるりと回って、

土星へ向かった。

「結局、あのリンクの制覇はできなかったね」

カプカの後方の窓から、土星の環を見た

リアムが、残念そうに言った。

「そうだね……」

レオとエドも、残念そうに言った。

「でも、半分……いや、6分の……30分の1とかくらいは、走破したよね?」

レオが言うと、

「そうかもしれない! でも、半分は行きたかったね、せめて」

エドが言うと、

「そうだね……」

3人はまた、残念そうにした。

ステファンは、その様子を見て、

励ますために声をかけようとした時、

「あ!」

あることに気づいて、

うなだれている3人から、

そうっと離れて行った。

「スカイ、見て。土星の七不思議、六角形の嵐」

興奮気味のステファンが、

カプカの前方の窓から、宇宙空間を眺めて

いた僕とエルザの間に、割って入って来た。

ちょっと、ステファン! エルザとの間に

入って来ないで、と思いつつ、

土星が気になった僕は、

「見てくるよ」

とエルザに言って、

ステファンと一緒に、カプカの後方にある

窓へ移動した。


「本当だ! 本でしか見たことなかった、6角形が……目の前に……」

僕は、感動した。

「どうしたの?」

スクエアが、僕とステファンがのぞいていた窓ガラス全体に現れて、声をかけてきた。

「あの6角形って不思議だな、と思って。スクエア、もう少し小さくなるか、窓ガラスの表面から、出てきてくれる? 顔が邪魔で、土星が見えないよ」

僕が言うと、

「何が不思議なの?」

スクエアの正方形の顔が、

一辺、30cmほどに小さくなって、

長方形の目が、カクカクしたクエスチョン

マークに変化した。


「六角形の嵐」とは、

土星の北極にある、嵐のことで、

なぜか、六角形の形をしている。

ちなみに、南極にある嵐は、

中央部分がへこんでいる。



「なんだ、そのこと。何も不思議ではないけど」

とスクエアが言ったので、

「なぜ、円形ではなくて、あの形なのか、理由を知っている?」

ステファンが聞くと、

「あたりまえだ、みんな知っている」

スクエアが言いきった。

地下シェルターにいた、アニマルタイプの

浮遊AIロボットのリサ同様、

この場合の「みんな」は、AIロボット達の

ことだと思うけど……いや、本当に、

言い方! もっと優しく言ってくれないかな

僕は心の中で、叫んだ。


スクエアによると、

ブラックホールは、植物がしている光合成に似たようなことをしていて、

この仕組みが偶然、宇宙空間の空気清浄機や掃除機のような役割を果たし、自身の周りに天体をつなぎとめて、

銀河などを形成していた。


ブラックホールは、

表面積の3分の2が掃除機の吸引機のような構造になっているので、ここから、

特定物質圧縮加工装置でも使われている

宇宙空間や天体の中にある物質、

シアーエーテルベントに含まれている、

「テイカル」、人間で言う「酸素」を、

熱が発生するほどの勢いで吸い込んでいる。

ブラックホールは、

「テイカル」だけを選んで吸い込むことができないので、

シアーエーテルベントの「テイカル」以外や

一緒に吸い込んでしまった不要な異物 ( 天体の一部や大気 など)を処分するために、

熱を発生させている。


ブラックホールには、

吸い込んだシアーエーテルベントの、

テイカル以外を排出するめの、

掃除機の排気口のような役割を果たす穴が

たくさんあって、この穴を集めると、

表面積の3分1くらいの大きさになる。

この穴は、

ブラックホールの表面全体に等間隔で、

分布しているのではなくて、

個人差はあるけど、共通して、上部や中央部よりも、下部に多くある。

放出する時は、無数にある、様々な大きさの穴から、空気清浄機が吸い込んだ空気を

ファルターでキレイして、

マイナスイオンと共に放出したりするように

テイカルを吸収したあとの、

シアーエーテルベントを吸い込む時の

3倍以上の勢いで放出して、

テイカルを含んだシアーエーテルベントを

自身の近くに持ってくるために、

地球上に吹いている風のように、

宇宙空間をかき混ぜる風を起こしている。


ブラックホールは、

吸収したものを、ホワイトホールから、

放出しているのではなく、

吸収も放出も自分自身だけで行っていた。


天の川銀河の中心にある、

超巨大なブラックホール、「パトゥリーノ」が放出したテイカルを吸収したあとの

シアーエーテルベントの複雑な風の流れが、

偶然、どの位置にいても、土星の南極に吹きつけていた。

土星の南極と北極は、地球で言うところの、地面の一部が、ストローのように空洞で

つながっていて、ここを通る間に、摩擦熱で高温になったフルグスエーテルの風が、

円形の形に等間隔で6つある、薄い三日月の形をした穴から、

継続的に勢いよく吹き出していた。

この穴の形や位置が偶然、

土星の南極に、中央がへこんだ嵐を、

北極には、六角形の嵐を生み出している、

とのことだった。



僕とステファンは、顔を見合わせて、

首をかしげた。

「えっと……何から聞けばいいのかな?」

「そうだね……色々と引っかかる点があるよね」

僕とステファンが、

難しい顔をして、考え込んでいると、

「何? 理解できないの?」

スクエアの目が、またカクカクした

クエスチョンマークに変化した。

「不思議だから、信じられなくて。まさか、AIジョークとか?」

僕が、少し笑いながら言うと、

「何が?」

スクエアのクエスチョンマークの目だけが、

首をかしげるように、右に傾いた。

「六角形の嵐ができる仕組みは理解できたけど、嵐が円形でないのと北極と南極がつながっているの? 中心部は、地球より小さいけど、それでもけっこうな距離があるよね?

本当に、貫通しているの?」

「天の川銀河のブラックホールに『パトゥリーノ』という名前があったのも、ホワイトホールがないことも知らなかった。シアーなんとかって、ダークマターで、パトゥリーノが放出しているものは、ホーキング放射のことだったりする?」

僕とステファンが聞くと、

「貫通しているから、南極から入った風が北極から出ている。ダークマターとホーキング放射……それは、プログラムにない」

スクエアの目が、いつもの長方形に戻った。


スクエアが、嘘をつくはずはない、と思う

けど、僕とステファンは、半信半疑で顔を

見合わせて、本当かな? と首をかしげた。

僕は、ブラックホールとホワイトホールは

セットだと思うけどな……もし、スクエアが言ったことが事実なら、信じがたいけど、

驚きの真実だ、と思った。


「ここには、熱波を発生させる物がないから、地球へ戻ってから、そうだな……ガスコンロとかで、6つの吹き出し口のある模型を作って、実験してみたい。意図的に囲いを作らなくても、六角形にすることができるのか」

ステファンが、瞳をキラキラさせた。

「そうだね。もちろん、そうしよう。スクエアが嘘をついていないか、検証しよう」

僕は、ステファンに賛同したけど、

本当は、心苦しかった。

「それ、実験してないけど、学校にあったよ」

僕とステファンの近くで、

話を聞いていた様子のレイスが言った。

「学校にあったって、どういうこと?」

ステファンが聞くと、

「調理実習の時に、フライパンを洗っていたパウリが、『ここに土星の嵐がある!』と嬉しそうに言ったから、何のことか聞くと、フライパンの裏に六角形の模様があって、これが宇宙好きの目には、土星の不思議な嵐に見えたらしい。この時は、何のことかよく分からなかったけど、実際に六角形の嵐を見て、スクエアの話を聞いて、納得したよ」

レイスが、嬉しそうに言った。

「そうか、円形の形にガスの炎が出て、フライパンの底に、等間隔であたることで、土星の北極と同じ現象が起きていたのか」

ステファンも嬉しそうに言った。

「スクエアの話しは、あながち嘘ではないと思う。でも、実験は必要だよね。地球へ戻ったら、僕も一緒に参加する」

レイスが言うと、

「うん、もちろん。ね、スカイ」

ステファンが、

僕とレイスに向かって言った。

レイスは、嬉しそうにうなずいていたけど、

やはり僕は、苦笑いしかできなかった。


だって……僕は……。

地球へは戻らないから……実験しよう!

という話から、遠ざかりたいと思った。


「ど……土星まで、シアーなんとかの風は、どんな順路でやって来ているの? パトゥリーノから土星まで、どこを通っているのか、見せてくれない?」

僕がスクエアに頼むと、

「いいよ、どうぞ」

と言った。

後方の窓ガラスの全体に、天の川銀河が

映し出されて、

パトゥリーノのが映ったと思ったら、

右に左に下に上に映像が動き出して、

土星が映ると、止まった。

「えっと……どれが、風の通り道なの?」

僕が聞くと、

「パトゥリーノの穴から出て、ここにあたっているけど」

スクエアが、長方形の腕でさした、

土星の南極部分を見たけど、

僕とステファン、レイスには、

「風」と思えるものは、見えなかった。

「もしかして……ブラックホール同様、『風』は肉眼では見えないの?」

「ブラックホールは吸い込む力がすごくて、光が脱出できないから、見えないのは分かるけど、放出する時に、吸い込まれた光は出てこないの?」

僕とステファンが言うと、

スクエアが、やれやれという表情で、

「テイカルと反応して、別のものに変化するから、『光』としては、出てこない。人間で言うところの、マイナスイオンのようなものになる」

と言った。

「マイナスイオン!? そうなの? 想像もしなかった」

僕とステファン、レイスは、驚きのあまり、

目が点になった。

「そうだろうね。人間の頭では」

スクエアが笑った。

「さらっと、傷つけてくるよね」

レイスが、

スクエアを少し、にらみながら言った。

「その通り、人間を見下し過ぎているよね」

ステファンが、不機嫌そうに言った。

「うん、僕もそう思う。AIにプログラムした人って、誰? と思っていたけど、プログラムしたのは、人間ではなくて、AI自身な気がしてきた」

僕が言うと、

「確かに。そう考えると、人間をバカにした感じとか、なんか納得できる」

レイスが首を縦に、何度も振った。

「人間がプログラムをしていたら、こんなやつには、ならないよね」

僕が言うと、ステファンがうなずいた。


「スカイ、いつまで話ているの?」

エルザがやって来た。

「ごめん、つい宇宙談義に花が咲いて」

「行こう、天王星がキレイ」

エルザが、僕の腕を引っ張った。

「行って来て」

ステファンとレイスが、小さな声で言った。

僕は、あたふたしていた。

「エルザは、独占欲が強そうだね」

レイスが、ニヤニヤしながら言うと、

「そうかもしれないね」

ステファンが言った。



スクエアの顔がまた、

ポプ室長の顔に変わって、

「時間が足りなくて、未完成ですが実は、『海王星の遊園地』を作っていました。ジェットコースターしかないけど、せっかくなので、ぜひ、乗ってみてください」

と言うと、

「遊園地!?」

どこのカプカの中でも、大騒ぎだった。

「未完成なのは、残念だね」

レオが言うと、

「だったら、完成するまで、アムズで過ごしてもいいけどね」

リアムが、嬉しそうに言うと、

「それ、賛成!」

あちらこちらで、声がした。


天王星は、太陽から遠い位置にあるため、

マイナス200度の極寒の惑星で、

大気中のメタンが赤い色を吸収するので、

青い光だけが反射して見える。

直径10m以下の岩石と氷のかたまりが

集まって形成されている細い環が、

赤道と同じ方向で、13本ある。

天王星は、自転軸が98度も傾いて

いるので、 浮き輪を天王星の環、

体を天王星本体だとすると、

体の腰周りに浮き輪をはめて、

そのまま寝転んだ時の姿のイメージで、

宇宙空間にいる。



カプカが、天王星の環の底辺付近に近づいて止まった。

「では、ここにある『浮遊コロニーUN20』に降りて、スクエアから、天王星専用のベストを受けとって、着用したら並んでください」

ポプ室長の顔をしたスクエアが言った。

僕達の乗ったカプカが、

浮遊コロニーUN20に接岸して、

人型の出入口があいた。

「地球にいた時、ジェットコースターとか絶叫系の乗り物が好きだったから、すごく楽しみ」

レイスが言った。

「遊園地なんて、地球ぶりだね」

「うん、地球ぶり」

リアムとレオが、

「地球ぶり」という言葉が気に入ったらしく連呼していた。


カプカを降りると、

浮遊コロニーUN20の担当をしている

スクエアがいて、

天王星専用のベストをくれた。

それを、歩きながら着て、

ジェットコースターに乗るための列に

並んだ。

突然、エルザが僕の腕にしがみついてきた。

「どうしたの?」

と聞くと、

「怖い」

エルザが言った。

「底が見えないところは、苦手だったね。乗るのは、やめよう」

と言うと、

少し考え込んで、

「うん……やめておく」

と言った。

僕がエルザと一緒に、列から出ようとしたら

「スカイは、乗って。私は見ているから」

僕を列に留めた。

「僕は別に乗らなくても大丈夫だから、あそこで、みんなを待とう」

「本当は、乗りたいでしょう? 乗らないと、怒るよ」

エルザが僕を、じっと見つめながら、

頬を膨らませた。

「え、あ……うん」

エルザに見つめられて、照れてしまい、

僕の顔は、真っ赤になった。

そんな僕を見て、エルザの頬も赤くなった。


「なになに? 2人の雰囲気が、あれだけど」

レオが、ニヤニヤしながら、

僕とエルザに言った。

「レ……レオの、その通りだよ」

僕は、説明するのが気恥ずかしくて、

一言だけ言葉を返した。

「そうなの!? ついに?」

レオがエルザを見た。

「そうだよ。レオ、スカイは私のものだからね」

エルザが言った。

「よかったね、スカイ」

レオがニヤニヤしながら、

肘で僕の体を突っついてきた。

僕の顔は、さらに赤くなった。

そして、あろうことか、レオは、

「みんな、聞いて! スカイと僕の妹が、なんと、両想いです!」

大々的に発表をした。

「おめでとう!」

「やっとなの? じれったいな、と数千年以上、思っていたよ」

「やっぱり!? そうだろうな、と思っていたよ」

前々から知っていた、思っていた、

という感じの声が、たくさん出てきた。

「み、みんな……僕とエルザのこと、そんな風に思っていたの?」

僕が聞くと、

「そうだよ」

満場一致の回答だった。

「スカイの行動は、『好き』と言っていたのに、その気持ちに気づいていなかったよね」

リアムが、ニヤニヤしながら言った。

「そ、そんなに、行動に出ていたの?」

僕か聞くと、

「すごく出ていたよ。逆に、いつ気持ちに気づいたの?」

リアムに聞かれたので、

ことの経緯を話していると、

「そこ、前につめて!」

誘導係をしていたスクエアに言われて、

僕達が前に進むと、

ポプ室長がいて、ジェットコースターに

ついて、説明を始めた。

「天王星の13本の環、すべてがジェットコースターのレールになっています。と言っても環は、つながっているわけではないので、環に沿って透明のレールが外側に設置してあります。地球にあった物とは違って、このベストが座席になります」

と言ったので、

話を聞いていた全員が同時に、

「え?」

首をかしげた。

「あの、意味が分かりません」

エドが言うと、

「そのままの意味ですよ。そのベストが、環に沿って設置してあるレールを捉えてくれます。腕を使って体を動かすと、360度、全方向に向きを変えることができます」

とポプ室長が言ったので、

「えっと、ただ一方向を向いて、レールにくっいているなら分かるけど、色々な方向に体の向きが変わるって、どういう仕組みでくっついているのか、すごく気になるし、動き過ぎて連結部分がとれたりとかしないの?」

スミットが言うと、

「もちろん、事故のないように作られているので、そのへんは安心してください。それに、万が一の時には、キュープボールが起動しますよ」

ポプ室長が、笑った。


木星のスライダーの時と同じだ、

と僕は思った。

だから、安全性に問題はないと思う。

でもやはり、キュープボールがあっても、

宇宙空間に投げ出されたら……

という恐怖感は、払拭できない。


「見てください。安全だと、分かりますよ」

ポプ室長が指をさした方向を見ると、

ベストを着た人々が、13本の環の少し下に数十人ずつ、ぶら下がっていた。

「出発します」

スクエアが言うと、

ぶら下がっていた人達の体が、ゆっくりと

動き始めて、環を昇って行った。

「わぁーい」

みんなの楽しそうな声が聞こえた。

だんだんみんなの姿が見えなくなっていき、

次の順番の僕達や他の人達が、

環の下に移動を始めた、その時、

「うわぁ!」

「助けて! 死ぬ!」

突然、悲鳴が聞こえてきた。

その声を聞いたエルザが、

「怖いよ……」

僕の腕にしがみついてきたあと、

「こ、怖いよ」

リアムが、エルザとは別の僕の腕に

しがみついてきた。

「これ、本当に安全かな?」

レオが、不安そうな表情をしていた。


エルザとリアムのしがみついていた手を、

一旦、離してもらって、

僕は、一度着たベストを脱いで、

すみずみまで、どんな仕組みなのか、

さわって確認してみたけど、

レールに引っかけるフックや固定具などは

一切ないし、体の重さを支えられるのか、

不安になってしまうくらい、本当に、ただの布でできたベストにしか見えなかった。


「次の人、早く来て」

スクエアが言ったので、

僕はベストを急いで着用した。

すると、エルザとリアムが僕の腕にまた、

しがみついてきたので、その状態のまま、

3人でゆっくりと移動した。

「13本の中から、どれでもいいから選んで、環の下に立って」

とスクエアに言われたので、みんなで相談

して、一番はしの環の下に移動して、

一列に並んだ。

エルザは乗りたくない、と言っていたのに、

結局、僕と一緒に乗りたいと言って、

僕のうしろに並んだ。

「エルザ、本当に大丈夫?」

心配になったので、何回も確認したけど、

頑なに乗る、と言った。

僕は、進行方向を向かずに、横を向いて、

エルザと手をつないだ。

僕達の体が、勝手に浮いて、

ガチャンッ、

と音がした。

見えないし、仕組みも分からないけど、

どうやら、レールとベストがくっついた

ようだった。

ドキドキしてきた。


「出発します」

スクエアが言うと、

ゆっくりと僕達の体は、動きだした。

ぐんぐん上昇していき、

リアムとレオが、両腕を伸ばして、

「鳥になったみたい」

嬉しそうに言った。

「僕も鳥になる! ほら、ステファンもやってみて」

エドが両腕を伸ばしながら言うと、

「本当だね」

ステファンも、両腕を伸ばした。

僕とエルザは手をつないだまま、

景色を眺めていた。

リアム達は、腕を伸ばしながら、

色々な方向に、体の向きを変えて、

鳥になったつもりで、楽しんでいた。

「色が、すごくキレイだね。神秘的」

エルザが、瞳をキラキラさせながら、

天王星を見て言った。

「そうだね……」

僕は、エルザを見ながら言った。


天王星は、もちろん、先ほど見てきた惑星はそれぞれが美しい魅力に満ちていた。

これが、自然の成せる業か……。

そうか、この美しいすべての天体を守る

ことが、アムズの役割なのかな……と僕は

感じた。


「空を飛んでいるみたい」

エルザが、片方の腕を伸ばして言った。

「本当だね」

僕はエルザを見ながら、片腕を伸ばした。

地球にあった、ジェットコースターの座席

とは違って、手足は自由に動かせるので、

本当に飛んでいるかのような感覚になった。

「天王星の頂点に来たね」

「鳥って、空を自由に飛べるから、いいよね」

みんなでテレパをしていると、

急にすさまじい速さで、降下というか、

落下を始めた。

「ギャァー!」

「うわぁー、助けて!」

僕達の悲鳴、他の環にいた人達の悲鳴が、

宇宙空間に響いた。

リアム達は、

伸ばしていた腕を、さっと縮めた。

僕達は、90度どころではない急角度で、

降下していった。

天王星の13本の環は、自転軸に対してほぼ垂直になっているので、落下するスリルは、想像をはるかに越えていた。

すさまじい速さで、ベストがちぎれて

宇宙空間に投げ出されるのではないか、

という恐怖が襲ってきた。

そして、

叫び過ぎた僕達は、疲れきった状態で、

環の底、浮遊コロニーUN20に到着した。



怖かったけど、

ベストがちぎれることはないと分かったし、それなりに楽しかったので、

天王星の環、すべてを1回ずつ、

みんなでまわった。

13本の環は、少しずつ、天王星との間に

ある距離は違ったけど、

見える景色に、違いはなかった。


みんなにとっては、

消えてしまう出来事だけど、

僕には、忘れることのできない、

とても楽しい思い出になった。


地球へ戻る日が決まったので、

その日までには時間が足りなくて、

実現できていないけど、ポプ室長の計画では

ジェットコースターの他に、

地球にあった、鏡だらけの迷路の天王星版、水色の壁と霧だらけの迷路や、

3Dホログラムの特殊な技術で、世界各国の乗り物を出現させて、ゴンドラにして遊覧

または、ゴーカートのように運転できる施設

小さなカプカをアレンジした、

コーヒーカップのような乗り物、

3Dホログラムの特殊な技術で出現させた、海の生き物と一緒に泳げる、

スキューバダイビング体験、

アニマルタイプの浮遊AIロボットを、

3Dホログラムの特殊な技術で、出現させた

メリーゴーランド風にした乗り物やトロッコ列車など、

色々なアトラクションを考えていたそうだ。

想像しただけでも、おもしろそうなので、

全部、体験してみたかったな、

と僕は思った。

相変わらず奇抜な発想だな、AIはすごいな!

と純粋に感心してしまった。

人間には、ない発想だな……でも、頑張れ!

人間、人類! AIに負けるな!

僕は、みんなを見ながら、心の中で思った。


○次回の予告○

『別れの時と紙一重』




  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る