第25話 (絵あり)2人の秘密と「アムズの呪い」とエルザの誕生

近日ノートの☆27★に挿し絵があります。




アムズに着いた僕は、

またこっそり、医療塔の生体培養室から、

チウルウオプとオトゥタヌウオプ、

オ・テクノロジオグルイ、培養液、採取器

などを借りて、自分の部屋で、

自分のDNA情報と細胞を採取した。

僕のDNA情報と細胞と、エリザの体を

培養していたチウルウオプから、

培養途中の細胞を取り出して、

それぞれオ・テクノロジオグルイの容器に

入れて、スライド式のフタを閉めた。

2つの容器を合わせて、卵のような形に

すると、先ほど閉めたフタが自動で開いた。

30秒ほど、上下に振ると、亀裂が入った

ので、そこに親指を入れて、

オ・テクノロジオグルイを割って、

中から出てきたいびつな形をしたカタマリを

チウルウオプに入れた。

この作業を3回繰り返して、僕とエリザの

DNA情報と細胞をくっつけてできた

カタマリが入ったチウルウオプを3個、

作った。


エリザの体の培養を、途中で止めた理由は、

体とジッタの関係のせいだ。

ヒューマンボウルの体にジッタを移す時は、

昨日、Aさんのジッタが入っていた

ヒューマンボウルの体に、

今日、Bさんのジッタを入れても、

Cさんのジッタを入れても、

どのヒューマンボウルの体に、誰のジッタを

移そうが、まったく問題はないけど、

生体ヒューマンの体とジッタは、

この世にたったひとつの、唯一無二の

組み合わせなので、

ジッタが消滅してしまうと、

その組み合わせの体は、中に入れるものが

何もない、ただの抜け殻になってしまう。

例えば、

「体AとジッタA」と「体BとジッタB」

という体とジッタの組み合わせがあると

する。

意図的にでも間違えてでも、

体AにジッタBを入れてしまったら、

拒否反応が起きて、ジッタBは、あの権利を

行使した人と同じ状態になり、

消滅してしまう。

なぜなら、

体の持ち主とジッタの持ち主が違うのに、

「体AとジッタB」の組み合わせが

成立してしまうと、あなたは、誰になるの?

と混乱が起きてしまうからだ。


エリザのジッタが消滅して、存在しないから

培養した健康な体があっても、中に入れる

ものがないので、培養を続ける意味が

なくなったから、培養をやめたのだ。

いや、違う……やめざるをえなかった。

でも、エリザの培養途中の細胞を、

無駄にしたくない、という気持ちがあった

から僕は、新しくジッタを誕生させる唯一の

方法に切り替えることにした。

それは、新しく子供を培養することだった。



僕は、医療塔の15階にある復元・保存室

から紙に使える復元液をトレーに入れて、

こっそり、持ち出して、自分の部屋で、

サムに託されたエリザの描いた絵を、

そうっと、復元液に浸けた。

みるみる泥や汚れがとれていき、

破れた部分もキレイにつながった。

絵を取り出して、紙の角を2か所つまんで、優しく3回ほど仰ぐと、乾いた。

エリザは、最後に、何を描いたのかな?

絵をじっくり見てみると、

風景画のようだった。

この青い花、見たことある……なんだか、

見覚えのある風景だな。

この空白は、なんだろう?

そうか、サムが絵を完成させて欲しい、

と言っていたのは、この部分のことか。

なんとなく、空白の部分を眺めていると、

人が2人、いるような形に見えてきた。

あ!

僕は、ピンときた。

僕が、着陸した、

青い花がたくさん咲いていた、あの山だ!

ここに、絵を描きに来ていたエリザに、

僕は出会ったのだった。

エリザが、この絵を最後に……会いたいよ。

「この頃に、戻りたい」

エリザのそんな想いを、僕は絵から感じた。

この絵は、飾りたいな。

でも、遺骨と一緒に箱に入れる、

とサムと約束したし……。

そうだ!

僕は、いいことを思いついたので、

また医療塔、15階の復元・保存室に行って

誰にも見られないように気をつけながら、

複製が作れる機器で、絵をスキャンした。


この機器は、スキャンしたものを、

素粒子レベルで複製するので、

地球上にあったコピー機とはまったく違い、

本物が、もうひとつできる。

ただし、複製できるのは、無機質なものに

限られている。


僕は、エリザの絵をもう一枚手に入れたので

自分の部屋へ戻って、

サムとの約束通り、エリザの遺骨の入った

箱に、絵を折りたたんで入れた。

このことをサムに知らせに行った時に、

他にもエリザが描いた絵を持っているか

聞くと、あの1枚しか持っていない、

と言われたので、AIキュープ20台に、

エリザの描いた絵がないか、病院へ行って

探して持ってくるようにプログラムを施して飛ばした。

そして、地球再生化計画の責任者として、

やるべき作業をこなしながら、合間に、

エリザと僕のカタマリの観察をしていた。


順調にいけば数か月でカタマリを、

オトゥタヌウオプに入れられるはずだった

のに、3つ中3つ、すべてで培養が上手く

いかなかった。

「どうしてだろう……」

チウルウオプの中にいるカタマリを

呆然と見つめていると、


「アムズの呪いのせいだ」

頭の中で、突然、ロアンダンの声がした。


「そうだ……きっと、そうだ。ロアンダンも培養できなかったと言っていた……」

僕が好都合だ、と喜んでいた

「アムズの呪い」の仕組みから、逃れたい、この時初めて、強くそう思った。


僕は、チウルウオプをオトゥタヌウオプに

入れたあとや何かあった時のために、

サムを、医療塔の生体培養室と医務室所属に

していた。

だから、失敗したと分かった瞬間、

すぐにサムを僕の部屋に呼んだ。

「サミュエルさん、大事な話って……えっと、何事? 一体、何をしているの?」

サムは、僕の部屋の隅っこの状況を見て、

驚いていた。

「エリザの細胞と僕の細胞をくっつけて、子供を培養しようと思ったけど、失敗して……万が一に賭けてみたけど、駄目だった。どうしよう……サム、助けて」

泣いている僕を見て、

「原因を調べるわ。まだ使える細胞は、残っている?」

サムは、僕に優しく語りかけた。

「あとひとつ分ならあるけど……僕の体は、培養できないよ……呪われているから」

「呪いか何か知らないけど、しっかりして! 私が必ず、培養してみせるから。培養できない理由も探るから、諦めないで! 姉さんがいたのね、細胞が生きているわ……」

サムは、僕のことを一生懸命、

励ましてくれた。

「サム……ありがとう」

「期待に答えられるように、最善を尽くすわ」

サムに、エリザの残りのDNA情報と細胞

すべてと、僕のDNA情報と細胞を渡した。

エリザの細胞は、オ・テクノロジオグルイ

ひとつ分の量しかなかったから、

サムは、何も言わなかったけど、

本当は、僕からのプレッシャーをすごく

感じていたと思う。


サムは、通常作業の合間をぬって、まずは、培養に失敗したカタマリを調べることから、極秘任務を始めた。


サムが調べた結果、

培養が上手くいかなかった原因は、

やはり、僕の細胞だった。

エリザの細胞は、順調に増殖していたのに、

僕の細胞は、少し増殖しただけで、

増殖するのを止めてしまっていたらしい。

僕の細胞を、徹底的に調べて、

時には、遺伝子を操作した。

僕の細胞は、使いたい放題だったので、

サムは、まず僕の細胞、単体で培養できる

かを試して、問題が起きたら、改良をして、

遺伝子を操作して……を繰り返していた。


サムはついに、

原因は、これではないか?

ということを、発見してくれた。

そして、これなら、上手くいく!

と自信が持てる僕の細胞ができたので、

オ・テクノロジオグルイを使って、

エリザの細胞とくっつけて、

カタマリがひとつ、ついに完成した。

僕とサムは、

培養が、順調に進みますように!

と祈りながら、たったひとつしかない、

貴重なカタマリを、ひとつのチウルウオプに

入れた。



僕とサムの願いが通じたのか……いや、

サムの努力の賜物だ。

チウルウオプの中の小さなカタマリの培養は

順調に進んで、

数か月後、無事に、オトゥタヌウオプに、

チウルウオプを、カタマリを入れることが

できた。

とりあえず、第一関門を突破した、

という感じで、僕とサムは、安堵した。

「よかった……」

サムの心の奥底からの言葉に、

僕は、激しく共感した。

サムは、僕からの失敗は、絶対に許さない!というプレッシャーから、少し解放された、という表情もした。

ごめんね、と思いながらも、気を抜かれると

困るので、僕はサムに、

「頼むよ、大丈夫?」

と定期的にテレパをしようと思った。


オトゥタヌウオプに入れてから、

順調に培養が進んでいる時期と、

滞ってしまう時期があって、そんな時サムは

一生懸命、原因を探って、滞っている根源を

取り除いて、遺伝子を操作して、

培養が進むように、尽力してくれていた。



通常、15年もあれば、体は完成するのに、

倍の30年もかかってしまった。

ここまで時間が、かかった原因は、

100%僕だった。

サムによると、僕の細胞が、

増殖するのを拒否してしまうそうだ。

普通の人にはない、増殖を制御する遺伝子のような、「何か」があって、

これを取り除くと、培養が順調に進み出す

けど、しばらくしてまた滞った時に、

遺伝子や細胞を調べると、取り除いたはずの

「何か」が、また復活しているらしい。

しかも厄介なことに、

この「何か」は、毎回姿を変えるらく、

それが、細胞や遺伝子のどこに隠れて、

紛れているのかを探すのに、

すごく時間がかかって、とても大変で、

その作業をしている時のサムは、

「見つからない! あいつが……どこにいるの!? 出てきなさい!」

とよく嘆いていた。

まさに、いたちごっこ、

しかも、たちの悪いタイプの。

この大変な30年間を、サムは乗り越えて、

僕に、エリザとの子供を授けてくれた。

サムは、大恩人だ。


子供の名前は、

エリザと僕から、2文字ずつ取って、

「エルザ」と名付けた。

エルザには、細胞が増殖することを拒否して

しまう、「何か」は幸いなかったけど、

「代わりの何か」があって、

これをサムが調べた結果、

人の血液に過敏に反応して、

血液を飲みたい、という思考が稀に働く、

ということが判明した。

サムによると、

その稀を引き起こすタイミングは、

エルザの血液の中の一部の成分が、体の中で

作れたり作れなかったり、と不安定で、

作れない状態が続くと、その成分が酷く

欠乏するから、補給しようとする時では

ないか、ということだった。

原因の成分ではないか、と思われる成分を

薬で補って、とりあえずは、様子を見て、

次の体を培養する時のために、

「代わりの何か」を取り除いて、

体が培養できるかを、試してくれることに

なった。

僕の「何か」のせいで、遺伝子や細胞の

操作をやり過ぎて、悪影響が出てしまった

のかな……いや、違う。

そもそも、「アムズの呪い」にかかっている僕のせいだ。

ごめんね、エルザ……とても、申し訳ない

気持ちになった。

だけど、生まれてきてくれて、とても嬉しいありがとう。

僕は、オトゥタヌウオプの中のエルザと、

サムに感謝した。



エルザを、オトゥタヌウオプから、

出す日がやって来た。

本当は、僕が父親のサミュエルで、この人が

お母さんだよ、と写真を見せたかったけど、

公に堂々と言ってしまうと、

僕に協力してくれたが為に、

ルール違反をしてくれたサムにも、

ルール違反で生まれたエルザにも、

迷惑をかけてしまうので、

名乗ることはできなかった。

だから、サムの娘として、レオの妹として、

そばにおいて欲しい、と僕がまたお願いを

すると、サムは笑顔で快諾をしてくれた。

レオは、サムが突然、妹のエルザだよ、と

連れて帰ってきたから、驚いたと思う。

サムがレオに、相手は誰なの!? と何か

誤解を生んではいけないと思ったから、

レオには、エルザの母親は、伯母のエリザ

だってことは、伝えてもいいよと言った

から、レオは、もうひとりの親が誰かは

知らないけど、もうひとりの親、

母親のことは、知っていると思う。


だいたい、こんなルールを誰が作ったの?

最高司令官や幹部になると、

なぜ、体の培養ができなくなるの?

アムズは、誰が作ったの?

アムズの呪いとは、一体、何!?

よく考えてみれば、謎が、多すぎる……昔はここが、とても気に入っていたのに、

今はもう……心底、嫌になってきた。

父親だと名乗って、僕がそばにいたい……

だけど、誰が決めたか分からない、

変えることのできない、

アムズのルールに縛られて、

それは到底、不可能なことだった。

ルールをいくつも破ったのに、

他人には、アムズのルールは絶対だ、守れ!

情は、無用だ、忘れろ!

忘れるから問題ない! と厳しいことを

散々、言っておきながら、

自分には、甘くて……僕にもし、

ナノスタンプが、押してあったら、

ヒューマンレベルはきっと……間違いなく、マイナスだと思う。

そんな僕が、アムズのトップ、最高司令官

だなんて、お笑い種だね……本当に。

エリザが感じたように、

僕は、ここにいる資格がない……そう感じた――


話し終えたサミュエルさんは、

「僕は、好きな人のそばにいることができなかったから、エルザには、好きな人と一緒に過ごして欲しい……」

机の上に置いてあった写真立てを、

手に取って、抱きしめながら、小さな声で

つぶやいた。


エルザには、何か事情があるのだろうと

思ってはいたけど、

まさか、エルザの誕生の裏に、そんな物語があったなんて想像もしなかったし、

地下シェルターで、

そんな出来事が起きていたなんて……。

僕は、なんと言葉を返せばいいのか、

分からなかった。


「この話しは、エルザには、内緒だよ。ルールをいくつも破っている僕が父親だなんて、エルザの肩身が狭くなるよ」

サミュエルさんが言ったので、

僕は、うなずいた。

「少し、重たい感じの話だったね……暗い雰囲気になったから、最後におもしろい話をしょうか。服で隠れていて気づかなかったと思うけど、ルーカスには、腕が実は、もう1本あるよ」

サミュエルさんが、ニコッとして、

驚きのカミングアウトをしてきた。

「え!? ルーカ室長には、腕がもう1本、あるのですか!?」

僕は、とても驚いた。

「ルーカスの故郷、クロードロップでは、ほとんど腕が3本だったよ。4本の人もいたかな。でも、地球人は全員、腕が2本だったから、驚かせないように、隠しているよ」

「服の下に!? まったく気づきませんでした。いや、本当に、宇宙は神秘に満ちていますね。えっと、それで、クローなんでしたっけ? なんか頭の中が、混乱してきました」

僕が言うと、

「あはは。こっそり腕を見せて、と頼んでみて。なんで、知っているの!? と驚くぞ、ルーカスのやつ。想像するだけで、おもしろいな」

サミュエルさんが、先ほどの暗い雰囲気は

なんだったの? と思うくらい、

明るい笑顔で笑った。

「どこにどんな感じで、3本目の腕がついているのかは若干、気になりますけど……直属の上司なので、からかうのは、やめておきます」

僕が言うと、

「スカイは、いい人だね。話はこれで終わりだから、戻っていいよ。地球に戻るかどうか決めたら、テレパをくれる? 急かせて申し訳ないけど、なるべく早く答えが欲しいな」

サミュエルさんが、笑うのをやめて言った。

「分かりました。なるべく早く決断できるように、考えます」

僕は、残っていた牛乳で割った抹茶を

飲み干して、ソファーから立ち上がった。

「悪いね」

サミュエルさんが、言ったので、

「大丈夫です」

と答えて、

僕は、部屋を出た。

エンヴィルの中へ入って、

「7階」

と言うと、

僕の体は、ゆっくりと降下していった。



地球環境モニター室へ入ると、

「ご苦労様、作業に戻って」

ルーカス室長が言った。

僕は、通りすがりながら、

ルーカス室長の体を観察してみたけど、

腕がどこに隠してあるのかは、

分からなかった。


デスクへ戻ると、

リアムの頭の上に、テレパのマークが

出現していたので、人差し指で、

肩をつっついて、声を出さずに口を動かして

「戻ったよ」

と言うと、

リアムが僕を見ながら、うなずいた。

僕は、自分のデスクで、

サミュエルさんの部屋に行く前にしていた

作業の続きを始めた。

深海に住む魚の分布の確認で、

海の中を見ないといけなかったので、

地球にAIキュープを飛ばして、遠隔操作で

調べることにした。

地球の外からでも、透過線を使えば、

森に木が生い茂っていても、

山の中の洞窟でも、動物の有無や植物の

自生具合は分かるけど、

水の中は、一直線にのびている線が、

波や水の流れで乱れるので、透過がしにくく

特に深海は、深くて暗いし、

微生物や昆虫などは小さ過ぎて、

地球の外から確認するには、限界があるので

AIキュープの出番となる。


テレパを終えたリアムが、

「お帰り」

と声をかけてくれた。

「ただいま。何のテレパをしていたの? まさか、自分の作業をまた忘れて、環境が整った地球に、緑化の依頼はしていないよね?」

僕が、笑って言うと、

「あたりまえでしょう。時々、ここも緑にしたい、と思ってしまうけど、抑えているよ」

少し慌てた様子で、リアムが言った。

「で、何のテレパだったの?」

と改めて聞くと、

「CO区域のここに分布させる生き物は、ムササビだよね? モモンガと間違えているのかな、と思って聞いてみたら、当たりだった」

リアムが、得意気に言った。

「本当に、よく気がつくね。すごいよ」

僕が褒めると、

リアムは、照れくさそうにしていた。

僕は、作業をしながら、時折、

地球に戻るのか戻らないのか、という問題を

考えていた。

リアム達は、戻る! の一択しかないかも

しれないけど、

僕には、二択ある。

だけど、「戻らない」、この気持ちの方が、

大きい気がする……。


○次回の予告○

『サミュエルは、住みたいから譲りたい』

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