第17話 レオナルドの告白

次の日、

ピンポーン、ドンドン。

玄関のベルの音と、

扉をたたく音で目が覚めた。

「スカイ、起きているかな!?」

朝から、迷惑なくらい、うるさいリアム。

寝起きは最高! とは言えない。

僕が、玄関の扉を開けると、

「よかった、スカイが動いている!」

リアムが、嬉しそうに抱きついてきた。

「心配してくれて、ありがとう」

僕は、リアムの頭をなでた。

「母さんのクッキーを2枚持ってきたから、1枚ずつ食べて行こう」

ポケットからそのまま、クッキーが2枚出て

きた。

そのままかよ……衛生的にも、調理ボウルに

入れればいいのに、と思うけど、

リアムには、ワイルドな部分があるから、

彼の行動としては、いたって普通のこと

だった。

僕とリアムは、クッキーを食べながら、

エンヴィルで7階から1階へ降下して、

いつものルートで出勤した。


地球環境モニター室へ入ると、

「元気そうでよかった。体はもう大丈夫?」

「休まなくて、平気?」

みんなから、心配する言葉をたくさん

貰った。

「1日勤務で1日休みのサイクルで勤務して。辛くなったら、すぐ言うように」

ルーカス室長が、気遣ってくれた。

心配かけてごめんなさい、今は大丈夫、

と伝えると、みんなが安心してくれた。


今日は、ステファンと僕で、

地球の写真を撮る作業をすることになった。

「カウントダウン」

ベゾルクのスピーカーから、

電子音声が流れた。

「ステファン、準備は大丈夫?」

と聞いたのに、返事がなかったので、

ステファンの方を見ると、カメラモードに

なっているベゾルクの前にはいたけど、

ピントが合っているかなどの確認をしたの

かは、分からなかったので、

「ステファン?」

少し、大きめの声で言うと、

「だ、大丈夫」

ステファンは、眼鏡型の機器をのぞいて

言った。

写真は無事に撮り終えたけど、

ステファンの様子が、変だなと感じた。

そして、1日だけ作業をして、

僕の勤務は終了した。

レオがちょうど、4日目の勤務を終える日

だったので、一緒に帰ることになった。


地球環境モニター室を出て、

エンヴィルに入って、体が降下していた時、

僕達が5階を通過した直後、

エルザが、5階からエンヴィルに入って、

降下してきた。

1階で一緒になったので、

3人で帰ることにした……と言っても、

家がある浮遊コロニーが違うから、

ちょっとの距離だけだけど。

「あ! 忘れ物、ちょっと待っていて」

レオが言ったので、僕とエルザは、

中枢機関塔の出入り口を出て、

オーヴウォークで降りた所で待つことに

なった。


今日のエルザは、具合が悪そうに見えた。

「エルザ、顔色が悪く見えるけど……大丈夫?」

と聞くと、こちらを見たエルザの瞳の焦点が

合わなくて眠たいのかな? と思った。

「スカイ、指……血」

何か、ボソボソ言っていて、

聞き取れなかったので、耳を近づけた。

「ごめん、聞こえなくて、どうした……うわっ、痛っ!」

エルザが突然、僕の腕をつかんで、

噛んできた。

その時、忘れ物を取りに行って、戻って来た

レオが慌てて、

「エルザ、何しているの!?」

僕の腕に噛みついているエルザを、

引き離してくれた。

「レオ、何がどうなっているの?」

僕が、うっすら涙目で言うと、

「ごめんね……このこと、誰にも言わないで。説明するから、とりあえず、ついて来て」

レオは、エルザを抱えて、走り出した。

レオの頭上に、テレパのマークが出現した。

僕は、訳が分からないまま、とりあえず、

レオを追いかけると、医療塔に着いた。

その出入り口に、サムさんがいて、

「母さん!」

レオが叫んだ。

レオが抱えていた、口の周りに血をつけた

エルザと、腕から血を、少し流している僕を

見て、

「早く、こっちへ」

サムさんが言った。

医療塔の中に入って、ある部屋の扉を開けて

「中に入って、あそこへ寝かせて」

サムさんが言った。

レオは、エルザをベットの上におろした。

「エルザ、薬飲んでいないの?」

サムさんが聞くと、

「飲んだよ」

エルザが言った。

「飲んだの? ならどうして? まぁ、いいわ。とりあえず、これを飲んで。少し検査をしておきましょう」

サムさんが言った。

手渡された物を飲んだエルザは、

ベットに寝転がった。

レオとサムさんが、何かを話していたけど、

部屋の扉を入ったところから、様子を見て

いたので、絶妙に聞こえなかった。

話が終わったのか、レオがこちらへやって

来て、僕の背中を押した。

そのまま、押し出される感じで、

一緒に部屋を出て、レオは僕の背中から手を離して、扉を閉めた。

「ついてきて」

レオが言ったので、僕は、うなずいた。


2人で、医療塔の外へ出て、

近くにある広場のベンチに座った。

「傷口を見せて」

レオが言ったので、噛まれた腕を見せると、

「ごめんね」

手に持っていた医療用治癒ペンで、

傷口を優しく、なぞってくれた。

「ありがとう、レオ。あの……エルザは、大丈夫?」

「エルザは、大丈夫だけど、スカイは痛かったよね」

「それは何かもう、薬が効いたみたいで、大丈夫」

「そうか、よかった。これから話すことは、内緒にしてくれる?」

レオが言ったので、

「もちろん」

僕は答えた。

「実は……エルザは僕の妹ではなくて、いとこだよ」

レオが言ったので、

「え!? そうなの!?」

僕は、驚いた。

「ある日突然、母さんが妹だよって、連れて帰ってきたから、父親というか相手は誰!? と驚いたよ。表向きは、『あの日』母さんは妊娠していて、20歳の体に培養したアムズ生まれの僕の妹、ということになっているから、エルザは、僕の母さんが自分の母親だと思っているけど、本当は、母さんのお姉さんの娘だよ」

「そうだったの? ところで……エルザのお母さんはどうしたの?」

「分からない。どこにいるのか、生きているのかどうかも……エルザは、なぜか血液に敏感に反応してしまうから、普段は母さんが作った薬を12時間に1回飲んでいて、これを飲めば、血液への衝動? が抑えられるはずだから、嘘をついたのかな? 飲んだって言っていたけど」

レオが言った。

「そうだったのか……それで、薬を飲んでいるのか」

「前にみんなで、紙の本を見に行った時のことを、覚えている?」

「もちろん、覚えているよ。その時にもちょっと気になったけど、血液に敏感に反応するって、具体的にはどういうこと?」

僕が聞くと、

「気になるよね。でも僕はすべてを知っている訳ではないから、スカイには、エルザって、そういう感じの子か、と思ってくれれば、ありがたい」

レオが言った。

「うん……分かった。それで、紙の本を見た日がどうしたの?」

「スカイの指が切れて出た血を、エルザがなめて、それが、おいしかったみたい」

レオが、笑って言った。

「え!? お、おいしかった!?」

僕が、驚いて言うと、

「本来なら、薬を飲むと、血への興味がまったくなくなるのに、あの時、図書塔でスカイの血を試飲して、おいしいってなったから、もっと飲みたくなったのかもね。これからは、うちの妹には気をつけて」

と言うと、レオは立ち上がって、

「今の話しは全部、内緒だよ」

ウィンクをした。

「内緒には、もちろんするけど、エルザは……吸血鬼だったりするの? 血を吸われたら、僕も吸血鬼になるの?」

僕が、不安げに聞くと、

「この前、地球上にあった吸血鬼が出てくる本を読んでみたけど、血を吸われただけで、吸血鬼に変身する話しは、僕が見た限りでは、なかったよ。そもそもエルザは、吸血鬼ではないし、安心して、ただ単に、スカイの血が、好きなだけだよ」

レオが、ニヤニヤして言った。

「そ、そうなの!? 吸血鬼ではないのか、それならよかった……のかな?」

「妹のこと、任せるよ! スカイはカッコイイし優しいし、血もおいしいから、エルザはスカイのことが、好きなのだろう」

レオは医療塔に向かって、走って行った。

「え、ちょっと、レオ! 話が色々、中途半端だよ!」

僕は、レオを走って追いかけた。

医療塔に昇るオーヴウォークで、

立ち止まっていたレオがふりかえって、

「先に帰ってね! 僕は、妹を連れて帰らないといけないから」

手を振ってきたので、

「あ、うん。また、地球環境モニター室でね」

走るのをやめて、僕も手を振った。

話が中途半端なままで、少し、モヤモヤ、

ソワソワした気持ちで、家路に着いた。


ベランダに置いてある椅子に座って、

背もたれを後ろに少し倒した。

宇宙空間を眺めながら、

今日、レオが話をしてくれたことを、

思い返してみた。

エルザはどうして、血液に敏感に反応して

しまうのだろう?

エルザのもうひとりの親は、どんな人かな?

と考えていたら、

なんだか眠たくなってきた。

体の中が、80歳だからか、本来ならまだ、3日間は余裕で起きていられるのに……。

眠たくなった僕は、ベッドへ移動した。




次の日の朝、

起きたけど、まだ眠いな……僕は休みだけどみんなは勤務だし、暇だな……としばらく

ぼうっとしていたら、テレパが入った。

誰かと思ったら、エルザだった。

「スカイ、おはよう!」

元気な声が聞こえて、

「おはよう。朝から、どうしたの?」

僕は、急に目が覚めて、

ベッドの上で正座をした。

「昨日はごめんね、と言いたくて。腕は大丈夫? レオが薬を塗ったって言っていたけど、気になって」

エルザが、申し訳なさそうに言った。

「腕はもう跡形もなく治っているから、大丈夫だよ。レオから少しだけ話を聞いたけど、誰にも言わないから、心配しないで」

僕が言うと、

「ありがとう。レオと一緒で、いい人ね」

と言ったので、

なぜか、「レオと一緒」という部分に

引っかかったので、

「レオより、僕の方がいい人だよ」

本気だったけど、冗談っぽく、笑って言ってみた。

するとエルザが、

「そうだね」と言ったので、

嬉しくなって、ニヤニヤしてしまった。

「そろそろ、作業に戻らないと。またね」

「う、うん」

2人で、

「終わります」と言って、

テレパは終了した。

なんだか、ニヤニヤがとまらない。

なんだろう?

この気持ちは……と思った瞬間、

ドクン、ドクン。

また、動悸がして、

「う……うぅ……」

胸が、苦しくなってきた。

僕はベッドに横になって、心臓部分をなでて

動悸が治まるのを待った。




僕は、いつの間にか眠っていたらしく、

勤務日の朝になっていた。

今日は、リアムからのテレパで僕は起こされて、身支度をして、出勤した。


地球環境モニター室に着いて、

中へ入るとリアムが、

「おはよう、スカイ」

僕めがけて突進して、抱きついてきた。

「おはよう。朝から何?」と聞くと、

「動いているスカイを見て、感動して」

瞳をキラキラさせながら、

リアムが言った。

「そこ、イチャイチャしていないで、作業して」

ルーカス室長が、ニヤニヤしながら言った。

「イチャイチャなんて、していませんよ」

僕が、リアムを引き離しながら言うと、

「はい、はーい」

ルーカス室長が、笑いながら言った。

「作業しよう」

僕が言うと、

「もちろん」

リアムが言った。

地球の写真を2か所撮っただけで、

僕の勤務時間は終わった。

一緒に帰れると思っていたのに、

僕が休みだった日に撮った写真の撮り直しをしないといけない場所があったから、

リアムは、勤務3日目だったので、

残業になってしまった。

「リアム、ごめんね。一緒に残れなくて」

僕が、申し訳ない表情をすると、

「気にしないで、大丈夫! スカイは、ゆっくり休んで」

と笑った。

「うん、ありがとう」

僕は、地球環境モニター室を出て、

帰宅した。


玄関の扉を、スクエアが開けてくれた。

「今日も、疲れたな……」

ベッドへ直行して、寝転んで、目を閉じた。



1日勤務で1日休みの勤務サイクルになって数週間がたった。

ピンポーン、ドンドン。

「スカイ!」

リアムのうるさい目覚ましで、

僕は目が覚めていた。

相変わらず、寝起きは最高!

とは言えないけど、

人間の適応能力? はすごいと思う。

最初は、うるさいと思っていただけだけど、

リアムが勤務でテレパで起こしてくれる日は

なんだか、物足りなさを感じた。

その理由は、リアムが持参してくれる、

リリアさんが作った、クッキーやおにぎり

などが、食べられないからな気もするけど。

今日は、リアムが持参してくれた、

リリアさんが作った、瞬培フィッシュの鮭のおにぎりを食べながら出勤した。


リアムは以前、緑化を依頼した場所の確認をする作業で、

僕とステファンは地球の写真を何枚か撮って

分析ブースに移動して、さっき撮った分と、撮りためた写真の分析などを始めた。

しばらく、

何も話さずに、作業をしていた。

ここ、緑化できているけど、

微妙な部分があるな……このままでいいの

かな?

自分では、判断が難しかったので、

ルーカス室長に聞こうと思ったのに、姿が

見えなかったから、

ステファンの見解を聞こうと、

「なぁ、これ見て欲しい……」

声をかけると、

ステファンは、うつむいていた。

ポタッ、ポタッ、

机に水滴が落ちてきた。

「どこか痛いの? 大丈夫?」

ステファンは、何も答えてくれなかった。

このシチュエーション、前にもあったな……と思ったその時、

突然、頭痛がして、僕の顔は痛みで歪んだ。

動悸だけではなくて、

頭まで具合が悪くなってきたのかな、

と不安に思ったけど、それよりも、

ステファンのことが、気になった。

「どうしたの? 大丈夫?」

声をかけると、今度は反応があって、首を

縦に1回だけ動かした。

僕の頭の痛みは、徐々に引いていった。

具合は悪くないみたい……どうしたのかな?

と思って、もう一度声をかけると、

また、何も答えてくれなかった。

しばらく、そうっとしておこう……

と思ったけど、ただ放っておくことはでき

なくて、ズボンのポケットから、

ハンドタオルを出して、そっと、

ステファンの視界に入りそうな場所に

置いた。

僕は、時々、ステファンの様子をチラリと

見ながら、作業をした。

しばらく、うつむいたまま動かなかったけど

僕の置いたハンドタオルを、ステファンが

手に取ってくれた。

「ありがとう」

涙を拭いたあと、

ハンドタオルを僕に返してくれた。

「休憩してもいいよ」と言うと、

「大丈夫」と言ったので、

僕はうなずいた。

何があったのか、気になったけど、

僕は、追及するのをためらった。


「ねぇ、スカイ。ルーカス室長って、どこ?」

レイスが、僕のところへ来て言った。

「知らないけど、僕も確認して欲しいところがある。テレパしてみるよ」

「さっき、してみたけど、出てくれなかった」

レイスが言った。

「そうなの? どうしたのかな?」

レイスと話をしていると、

「今日は、休みだよ」

ステファンが言った。

「え!? 休み?」

僕とレイスが同時に言うと、

ステファンがうなずいた。

「ルーカス室長にも、休日があったなんて」

意外な事実を知ってしまった、という感じで驚いた。

ルーカス室長にも休みは当然、あると思う

けど、僕が勤務している日に、必ずいたから

休日があるという概念が、

無意識になかったみたいだ。

「ステファンは、なんで知っているの?」

レイスが聞くと、

「昨日、言っていたし、出入り口にボイス球が浮いていたよ」と言った。

「ボイス球? そんなの浮いていたかな?」

地球環境モニター室の出入り口へ、

確認しに行ってみると、

ステファンの言う通り、ボイス球が浮いて

いた。

「今日から3日間、俺、ルーカス室長は休みです。何かあったら、ボイス球にメッセージを録音、録画などを保存して、デスクに浮かせておいてくれたら後日、確認します」

音声が流れた。

「全然、気づかなかった」

「おかしいな、ここを通って入ったのに、見えても聞こえてもなかった」

「あ、分かった。使ったことがなかったから、ボイス球の存在は知っているけど、ちゃんとその姿を見たことがなかったのかも」

僕が言うと、

「あ、それだ! ボイス球の姿の認識が薄かったというか、なかったかも」

レイスが言った。

僕とレイスは、ルーカス室長のデスクに、

確認して欲しい場所の写真と伝言を、

ボイス球に録音、保存して、浮かせた。

「ボイス球、初めて使った」

僕が嬉しそうに言うと、

「同じく」

満面の笑みを浮かべたレイスと僕は、

顔を見合わせて笑った。

「ステファン、ありがとう。助かったよ」

と言って、レイスは、自分の席へ戻って

行った。

「教えてくれて、ありがとう」

僕もステファンにお礼を言って、先ほど

座っていた、分析ブースの席に戻った。


僕の勤務が終了する時間になった時、

今から勤務のレオとエドが、

地球環境モニター室へ入って来た。

そして、辺りを見渡して、

「ルーカス室長は?」

2人が同時に言った。

「休みだよ」

僕が、得意気に言うと、

「えー!?」

驚く2人を見ながら、

僕とリアム、ステファン、レイスは笑った。

2人とも僕達、同様、ルーカス室長に

休日という概念がなかったのだった。

「お先です」

みんなに言って、僕は帰宅した。



1日休んで、また出勤日がやってきた。

地球環境モニター室へ行くと、

ルーカス室長がいたので、

「休みの日があったのですね」

声をかけると、

「たまにだよ」と言った。

「どんなサイクルですか?」

「数万年に1回、3日間の休みが貰える感じかな」

ニコッとした。

「す、数万年に1回!? 冗談ですよね?」

僕が嘘ですよね? という感じで言うと、

「さぁ、どうだろう? これまたミステリーだよ」

ルーカス室長は、

満面の笑みで答えを濁してきた。

本当に数万年に1回なのかは分からないけど

僕達の勤務体制とは違うことは確かで、

ルーカス室長は、謎めいたままにしておく

ことが、もしくは、「ミステリー」という

言葉が、好きなのかな、と僕は思った。




1日仕事をして、1日休んで、

リアムの目覚ましで起きて、

というサイクルの生活が、6年ほどたった

ある勤務日。

地球環境モニター室へ向かっている

エンヴィルの中で、サムさんからテレパが

入った。

「ついに、スカイのようなことが起こる原因が、少し分かったの」

「本当ですか!? 原因は、なんですか?」

「原因は、老化のスイッチを入れる遺伝子が誤作動というか、スイッチがオンになっていたせいで、老化していたみたい。でも、なぜ体の表面は老化しないのかは、まだ不明だけど、どういう時に老化スイッチが入るのか、入ってしまったのかは、分かったわ」

「いつですか?」

僕が聞くと、

「チューブの転送装置を使ったあとに、倒れたり動悸がしたりする症状が出たっていう人が多かったから、ミニチュアクローン (誰でもない小型のクローン) で、実験をしてみたの。チューブを使う時って、1回、体を分解するでしょう? 復元する時に、老化を止めるスイッチが、オンになったことが何回もあったから、この分解が原因だって、結論が出たの 」

サムさんが言った。

「そういうことだったのか。確かに、チューブで移動したあとに、僕は倒れました」

「だから今後は、チューブでの移動は廃止になって、人が通れるサイズの、底がオーヴウォークになっているトンネルでの移動方法に変えるみたい」

サムさんが言ったので、

「チューブではない方法に、なるのですね。正直、倒れてからチューブで移動するのは、怖かったので、嬉しいです」

「怖くなるわよね。原因が分かったから、すぐにトンネルに交換すると言っていたけど、それまでは、月に仮住居を設置できないか、上に聞いてみようか? それかファイカプで移動したらどう?」

サムさんが、心配そうに言った。

「僕がひとりで三日月ベンチを使う時は、その前後、リアムにテレパをすることになっていて、転送後、僕からテレパがなかったら、すぐに救急キュープをリアムが呼んでくれるシステムになっています」

「そうなの? それは安心ね。何かあったら私にもすぐ、連絡してね」

「ありがとうございます」

僕とサムさんは、テレパを終了した。


サムさんの言った通り、

定位置間転送装置は、順番に撤去されて、

代わりに、オーヴウォーク付きの、

「コロニートンネル」が設置された。

ただ、コロニートンネルと呼んだのでは、

行き先が分からないので、

「M02トンネル」や「K152トンネル」

などと、つながっている浮遊コロニーの

名前をつけて、呼んでいる。

コロニートンネルでの移動になってからは、

老化のスイッチが入って、倒れる、

動悸がする、という症状の人が、新たには

でなくなった。



○次回の予告○

第17話

機械、ロボットの体には抵抗がある










































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