第16話 不老不死なのに、死にそうになる

作業を4日間、みっちりこなして、

勤務が終了する時間になった。

「終わった、帰ろう!」

僕とリアムは、同じように腕をあげて、

同じタイミングで、同じことを言ったので、

面白くなって、笑った。

「帰るよ」

地球環境モニター室の出入り口で、

レオが声をかけてきて、

エドとステファンが、手を振っていた。


みんなで、エンヴィルに入って、

「1階」と言うと、

体がゆっくりと、降下して行った。

エンヴィルを出て、少し歩くと、

地球環境モニター室が入っている、

中枢機関塔の出入り口がある。

僕とリアムは、浮遊コロニーM02、

レオは、浮遊コロニーM03、

エドとステファンは、浮遊コロニーM04に家があるので、寄り道をしないで、

まっすぐ家に帰る時は、オーヴウォークで、

おりた所で、僕達は、3方向にわかれる。


僕とリアムは、浮遊コロニーM02へ帰る

ために、オーヴウォークに入った。

三日月ベンチの近くに着くと、

「お先です!」

リアムが、オーヴウォークから、

いきおいよく飛び出して、走りだした。

三日月ベンチに座ったリアムの体は、

ナノサイズに分解されて、

チューブの中に吸い込まれていった。

僕も、三日月ベンチに座った。

「転送を開始します」

電子音声が流れて、

体がナノサイズに分解されていき、

チューブを通って、

M02の三日月ベンチに到着した。

ここまでは、覚えているのだけど、

このあとから、しばらくの記憶がない。




三日月ベンチに到着して、体が復元したのに

僕は動かなくて、

「スカイ、行くよ」

リアムが軽く、僕の肩を押したら、

僕はベンチから落ちて、地面に倒れこんだ。

「え!? スカイ? スカイ!?」

リアムは、慌てて僕の様子を確認した。

「呼吸……してない!? なんで!? そうだ、キュープボール」

リアムは服のポケットから、キュープボールを取り出して、地面にたたきつけた。

「あれ? 何も起きない……どうして? ど、どうしよう……あ、母さん!」

リアムは、慌てて、

リリアさんにテレパをした。


「キュープボール」とは、

万が一、アムズの引力(※)の及ぶ範囲の外へ

不意に出てしまった時に、

そのまま外で漂っていると、

永遠に広大な宇宙空間を漂うことになり、

二度とアムズへは、戻って来られない、

という恐れがあるので、

その事態を回避するために作られた、

緊急用の直径1cmほどの球状の機器で、

アムズの全住民は常に、これを携帯する

ことが、義務になっている。

使い方は、

キュープボールに少し衝撃を与えて、手動で作動させるか、アムズの引力の範囲の外だと

キュープボールが感知した時に、

自動で作動する。

瞬時に、体が入る大きさに膨らんで、

キュープボールの中へ体が吸い込まれて、

アムズの引力の及ぶ範囲の中へ、

連れて行ってくれる。



「母さん! スカイが息をしていなくて、キュープボールも作動しないよ。何回も地面に打ちつけているのに、どうしよう」

泣きながら、リアムが言った。

「え? 何が、どうしたの? アムズの外なの!? ちょっと、リアム!」

アムズの引力の及ぶ範囲の外にいるのかと

思ってリリアさんは、慌てた。

「スカイがおかしいし、キュープボールも作動しないし、おかしいよ!!」

「だから、何!? アムズの中なの、外なの、どっち!? はっきりして!」

「中だよ……」

リアムが言ったので、

リリアさんは、安堵した。

「落ち着いて。何があったの? スカイを見せて」

リアムは、抱き抱えていた僕の体を

ゆっくりと地面に置いて、親指と人差し指を

くっつけて三角形を作り、そこから、

リリアさんに見せたい僕の姿を

のぞきこんだ。

でも、リアムの目には、涙があふれていた

ので、リリアさんには、

ぼやけた映像しか届かなかった。

「急に倒れて、息をしていないし、動かないし、キュープボールも作動しない」

泣きながら言う、リアムの話を聞いて、

状況を把握したリリアさんが、

「しっかりしなさい! キュープボールは、アムズの中では作動しないから、救急キュープを呼びなさい。それと、『息はしていない』状態が、普通だからね! 母さんは、すぐには行けないから、スカイのことは、任せたわよ! 仕事を抜けられるか聞いてみるから、分かった?」

と言うと、

「うん……分かった」

リアムは、泣きながら言った。


リリアさんとのテレパを終えたリアムは、

地面に置いた僕を抱き抱えて、テレパで、

救急キュープを要請した。


「救急キュープ」とは、

人や物が乗れる、大型のキュープのこと。


「大丈夫だよ、すぐに救急キュープが来るし、母さんも来るよ」

リアムは、泣きながら僕に、

声をかけ続けてくれていた。


救急キュープがすぐにやって来て、

僕達の頭上で、ホバリングをした。

「確認します。手首を見せて」

電子音声が流れた。

リアムは、ナノスタンプが押してある

右手首を高くあげて、救急キュープに

見せた。

「リアム・イザベライト、確認。搬入します」

電子音声が流れて、

僕とリアムが、余裕で入るサイズの

エンヴィルが、地面に出現した。

何も言っていないのに、2人同時に、

ゆっくりと上昇して、救急キュープの底に

開いた円形の搬入口から、僕達の体が入ると

中央に向かって、搬入口が小さくなっていき

閉じた。


三日月ベンチと三角ベンチ、

チューブでの移動が困難な場合は、

月と火星間の移動と同じ方法で移動するので

救急キュープは、

浮遊コロニーM02にある、ファイカプへ

移動して、救急キュープごと、プカプの中に

入って、月のファイカプへ向かった。


月のファイカプへ到着すると、

医療塔へ向かった。

「搬出します」

電子音声が流れた。

「着いたみたいだよ」

リアムが、動かない僕に教えてくれた。

救急キュープの底が、中央から外側へと

ひらいていき、

僕とリアムは、同時にゆっくりと降下した。

地上では、エア担架 ( 宙に浮いている平たい

エアボウル) と一緒に、待機してくれていた

医務室の人のところへ、僕だけが到着して、

リアムは、その寸前に、僕から引き離されて

地面に到着した。

医務室の人が走り出すと、その人について

行くように、エア担架も動き始めたので、

リアムも走ってついてきた。

移動しながら、

医務室の人が、リアムに話しかけた。

「スカイ・ウィンスティーとの関係と、倒れた時の状況と位置を教えてください」

「地球からの親友で、4日間勤務を終えて、いつも通り、三日月ベンチで、浮遊コロニーM22へ行こうとして、そこで……」

リアムが、不安そうに言うと、

「分かりました。ここで待つか、帰ってもらって大丈夫ですよ」

僕を乗せたエア担架は、医務室Cへ入って

行った。

リアムは医務室Cの向かいの壁にくっつけて設置してあったソファーに座って、

不安そうに、医務室Cの閉じた両開きの扉を

見つめていた。


僕の体には、計測する線や薬を投与している

チューブ、何かの機器にもつながっていた。

そんな様子を僕は、天井から眺めていた。

不思議な感覚だった。


自分が倒れたことを知らなかったので、

単純に、変な夢だなと思った。


せっかくだから、散歩しよう!

ルンルン気分で僕は、壁を通り抜けて、

外へ出た。

アムズの中で、一番背の高い中枢機関塔の

頂上まで、行ってみよう。

僕は、グングン上昇して行った。

その途中、

塔の窓をのぞくと、みんなが忙しそうに、

作業しているのが見えた。

地球環境モニター室に寄って行こうと思って僕は、7階で止まった。

7階にあるすべての窓からのぞいて探した

けど、リアム、レオ、エド、ステファンの

姿は、見つけられなかった。

休みかな?


そのまま上昇して、塔の頂上に着いた。

半円の形をした屋根に、六角柱の小窓が

あって、その中に人影が見えた。

誰だろう?

近づくと、

サミュエルさんに似ている人がいた。

サミュエルさんは、

ここからシェルターと交信していたのかな?

せっかくだから、中へ入ってみようかな?

僕は、屋根をすり抜けた。

部屋の中は、

メルヘンな雰囲気で、

白い棚には、写真がたくさん飾ってあった。

誰だろう?

僕は、近づいてみた。

そこには、

どこかで見たあのキレイな女の人に、

そっくりな人が映っている写真と、

サミュエルさんと、仲良さそうに映っている写真もあった。

それと、

試験管に入った、培養中の細胞らしき写真と

棚の後ろの壁には、

色鉛筆で描いた数枚の絵が飾ってあった。

上手だな、と思って絵を見ていたら、

あることに気づいた。

すべての絵に、なぜか、

人影のような空白部分があった。

「あえて、人物を白く塗っているのかな?」

色鉛筆の白で塗られているのか、

ただの空白なのかを確かめようと、

さわろうとした時、

「誰だ!」

部屋の中にいた、サミュエルさん似の人が、

僕の方を見て言ったので、

見えているの!?

「ごめんなさい、勝手に」

僕は慌てて、部屋の壁を通り抜けて、

さっきの場所へ戻った。


僕は相変わらず、

何かの処置をされている最中だった。

あー、驚いた。

「ん? リアム?」

声が聞こえた気がして、

僕は、声のする方へ行ってみた。

ソファーに座って泣いているリアム、レオ、エド、ステファン、リリアさんがいた。

みんな、ここにいたのか、と思った瞬間、

「う……あぁあ」

急に頭が痛くなって、

僕は、何かの処置をされている最中の体に、吸い込まれていった。


「意識が戻りました!」

「ここが、どこか分かる!? 名前は?」

矢継ぎ早に質問が飛んできた。

頭が何かで固定されているのか、

動かなかったので、瞳をグルッと回して、

周りの様子を確認してみた。

さっき夢で見た、線やチューブ、機器と

つながっている自分がいた。

え?

どういうこと?

痛みを感じたけど、まだ夢の中なの!?

少し混乱している僕に、質問は続いていた。

「名前は? ここが、どこか分かる?」

と言われて、

僕はうなずいて、小さな声で、

「スカイ・ウィンスティー」

と答えると、

「そうよ、正解。意識は正常のようね。こんなところで、あれだけど、初めまして、スカイ。私は、サマンマ。レオとエルザの母親よ。サムって気軽に呼んでね」

突然、

自己紹介された。

「え? レオとエルザのお母さん?」

「そうよ。みんな、心配して外で待っているから、状況を伝えに行ってくるわね」

と言って、

僕のそばを離れた。


数時間ぶりに、医務室Cの扉が開いた。

「母さん! 具合はどう?」

レオが立ち上がって、心配そうに言った。

「意識が戻ったから、もう大丈夫。原因を探るのに検査が必要で、今日はとりあえず、入院になるから、帰りなさい。何かあったらテレパするから」

とサムさんが言った。

そう言われても、心配だよ……と言った感じのレオ達に、

「色々な機器とつながっているし、ごちゃごちゃしていて、入室は難しいから、少しテレパする?」

サムさんが提案をしてくれたので、

みんなでテレパをすることになった。


テレパを開始すると、

また矢継ぎ早に質問が飛んできた。

質問の内容は、だいたいみんな、同じだったから、

「大丈夫だよ、心配かけてごめんね」

まとめて答えた。

「よかった、スカイとまた話せて」

リアムが、泣きながら言った。

そして、

僕が倒れて、ここに来るまでの経緯を、

教えてくれた。


僕のことを心配して、

気にかけてくれている人がいることが、

すごく嬉しかった。


みんなからの質問が落ち着いた時、

「スカイ、血は出た?」

意外な人の声がした。

それは、エルザだった。

質問の意味は、分からなかったけど、

「出ていないよ」

僕はとりあえず、答えた。

「うわぁ、エルザ!」

慌てた様子で、レオが言った。

「血は?」

エルザがまた、よく分からない質問を

してきた。

「しつこいよ! あの……あれだよ、あれ。前に図書塔で指を切って血が出たから、それで、倒れたのかなって。あはは、気にしないで」

レオがやはり、慌てているように感じた。

「あ、なるほど。大丈夫、あの傷はすぐに治ったから。エルザにも、心配かけたね、ごめんね」

と僕は答えた。

そして、

もう大丈夫だから帰ってね、とみんなに

伝えて、テレパを終了した。


みんなを見送ったサムさんが、

僕のそばに戻って来た。

「心配だ、不安だって顔しながら、渋々帰って行ったわ。今から検査をしていくから、眠っていてもいいし、楽にしていてね」

と言われたので、

僕は、目を閉じた。

夢だと思ったのに、現実だったな……。

エルザも心配してくれていたな、

すごく嬉しい……と考えていたら、

無意識に、ニヤニヤしていたらしく、

「どこか、くすぐったい?」

とサムさんが言ったので、

恥ずかしくて、

穴があったら、入りたい気分になった。

「えっと、大丈夫です」

恥ずかしくて、

目を閉じたまま僕は言った。

落ち着け、僕……と深呼吸をした。

そして、

4日間の勤務を終えたあと ということも

あって、だんだん眠たくなってきた。


カチャカチャ、ゴソゴソ。

音と人の気配で、僕は目が覚めた。

どれくらい眠っていたのかな?

「今、何時ですか?」

サムさんだと思って、声をかけると、

そこにいたのは、知らない女の人だった。

その人は僕を、真っ直ぐ見つめながら、

「ちっ、覚醒したか。あのまま消滅すればよかったのに」

と言った。

え?

目覚めたら駄目だったの?

消滅って、どういうこと?

と困惑していたら、

「薬を追加してやる」

と言った。

何の薬!?

この人、誰!?

怖い!

と思った瞬間、

ガチャ。

扉が開く音がして、入って来たのは、

また知らない女の人だった。

その人は、こちらに近づいて来て、

「ルテ? ここで何しているの?」

と言った。

声をかけられたルテは、慌てて、手に持っていた物を、ズボンのポケットに入れた。

「あ、えっと、忘れ物があって。もう見つけたから、行くわ」

足早に部屋を出て行った。

去って行くルテを見ながら女の人が、

「医務室に忘れ物? 変ね……ルテは、生体培養室所属なのに……」

首をかしげながら言った。

「あの……」

僕が声をかけると、振り返って、

「目が覚めたの、よかった。気分はどう?」

今度は僕が、目覚めたことが嬉しい、

という感情を感じた。

「気分は、悪くはないです。サムさんは、どこですか?」

と聞くと、

「呼ぶから、ちょっと待って」

と言って、

テレパをしてくれた。


しばらくすると、

サムさんが、医務室Cに入って来た。

「スカイ、おはよう。具合はどう?」

「具合はたぶん、大丈夫」

「それは、なにより。よかった。実はね……」

サムさんは、嬉しそうな表情をしたあと、

うって変わって、なんだか深刻そうな顔を

した。

「どうしたのですか?」

僕は、恐る恐る聞いてみた。

「スカイの体を……あ、待って。テレパだわ」

サムさんの頭上に、テレパのマークが出現

した。

数分後、

テレパが終わると、また深刻そうな顔をして

「スカイの体を調べてみたら、奇妙なことが判明して……」

と言った。

「それは一体、何ですか?」

「スカイの体の表面は、正常だけど、なぜか内臓は、80歳くらいなのよ……」

「え? 80歳? なぜそんなことに?」

僕が、驚いて言うと、

「培養して作った20歳の肉体は、80年を過ぎると老いはするけど、せいぜい、21、2歳程度の肉体になるくらいなのに、スカイの内臓は、80歳。表面と内部の年齢が違うのも変だし、原因が分からなくて困っているのに、昨日はスカイの他に10人、今も5人運ばれて来たって連絡が。その人達も内臓だけ老いていたの」

サムさんが、困った表情をした。

「僕以外の人も? もしかして、体を培養した時の不具合ですか?」

「もちろん、まずはその点を疑ったけど、検査をして問題があれば改善してから使うし、今の体を培養した時の遺伝子操作の有無や培養液の成分なども、細かく調べたけど、特に問題は見つからなくて。だから、異変が起きるとしたら、そのあとだと思うの」

「そのあとですか……なんだろう?」

僕は、くびをかしげた。

「それをこれから、調べるわ。何か、共通点がある気がするのよね。培養速度を上げても、20歳の肉体になるまではあと、約10年はかかるから、とりあえずの対処法で、この体で気をつけて生活をするか、一時的にヒューマンボウルの体にジッタを移して生活するか、どちらにする?」


このままか、入れ物か……。


急なサムさんからの質問に、

僕は、すぐには答えられなかった。

「誰かにテレパで相談してもいいし、私が戻って来るまでに、考えておいて。正直なところ、オリジナルのジッタを保存して、コピーのジッタを、今の体に入れて生活するという選択肢もあるけど、内臓が老いているから、どんな不具合が現れてくるかは未知だし、ヒューマンボウルの体にコピーのジッタを移しておいた方が、安心は安心だと思う」

「どうしてですか?」

「生体ヒューマンの体で今回みたいに、気を失って倒れて、誰にも気づかれなかったら、あの権利を行使したことになるの、分かるでしょ? この意味。コピーなら気を失っても問題はないけど、コピーを作るのに、オリジナルのジッタを削るから、コピーを繰り返すのはよくないと思う」

サムさんが言った。

気を失うと、

あの権利を行使したことになるの!?

そんな恐ろしいことになるなんて……

知らなかった。

「だから、お勧めは、入れ物に入ること。あとでまた来るから、行きましょう」

サムさんは、スピキュールと医療室Cを出て

行った。


お勧めは、入れ物、ヒューマンボウルと

言われても、やはり抵抗がある……

気を失って、そのままだったら、

あの権利を行使したことになってしまうのはすごく怖いことだけど、

できれば、このままで、過ごしたい。

動悸がして、疲れが取れなかったのは、

体の中が老いていたからだった、

と体の不調の原因については理解できるけど

体の表面は正常で、内臓だけ老いが進行して

いる不思議は、まったく理解ができない。

それにしても、今回の体はなぜ、

こんな不可解な状態になっているのかな?

これまで、何回も、何事もなく体を交換してきたのに……。

新しい体の培養が完了するまで、

あと10年。

不調の体のままで10年過ごすか、

ヒューマンボウルの体で10年過ごすか……

僕は、すごく悩んだ。

そして、

折衷案を思いついた。

6、7年間をこの体で過ごして、そのあとは

入れ物の体で、培養が終わるのを待つ案。


扉が開いて、サムさんが入って来た。

「どう? 決まった?」

サムさんに聞かれた僕は、

今、決めたことを話した。

「これから詳しく調べて、必ず原因を突き止めるから。何か分かったら、すぐにテレパするわね。それと、見た目は若くても、中身は80歳だから、無理しちゃ駄目よ。具合が悪くなったら、すぐ私にテレパしてね」

サムさんは、心配そうに言った。

「はい。色々とありがとうございます!」

お礼を言って、僕は医務室Cを出て、

医療塔の出入り口へ向かった。


「あれ? エルザだ」

出入り口の近くにエルザがいて、

僕と目が合った瞬間、

走りながら、こちらへ向かって来た。

「大丈夫なの? 歩いても」

体のあちらこちらを、見たりさわったりしてきたので、くすぐったくて、

気恥ずかしかった。

「エルザ、くすぐったいよ。大丈夫だから、ほら」

僕は、ジャンプをしてみせた。

「ジャンプできるなら……元気だね」

ホッとした表情をした。

エルザは、レオ達が勤務で来られないから、代わりに僕を家まで送るために、

来てくれたらしい。


エルザと一緒にオーヴウォークに入って、

浮遊コロニーM02に行ける三日月ベンチへ

移動して、三日月ベンチに座って、

チューブを通って、

浮遊コロニーM02に到着した。

ここからオーヴウォークに入って移動して、僕の家がある塔にあっという間に着いて

しまった。

2号塔の底の中央にあるエンヴィルの中へ

入って、

「ありがとう、ここで大丈夫だよ」

僕が言うと、

「玄関に入るまで、見届けるようにって、レオが」

エルザもエンヴィルに入って来た。

「レオは、過保護だよね」

僕が言うと、

「そうなの」

エルザが笑った。

レオもエルザも、いい人だなと思った。

「スカイの家は、何階?」

「7階だよ」

僕達は一緒に、

「7階!」

と言った。

体が同時に浮いて、ゆっくりと上昇していき

7階に到着した。

エンヴィルを出て、玄関の扉の前で、

振り返った僕は、

「ありがとう。気をつけて帰ってね」

手を振った。

「うん。お大事にね」

エルザも手を振ってくれた。

ゆっくり降下して行って、

見えなくなってしまった。

エルザの姿が完全に見えなくなると、

何だか悲しい気持ちになった。

僕は、退院して家に着いたこと、

しばらくはこの体のままで、そのあと、

少しの間だけ、ヒューマンボウルの体になることを、リアム達にテレパで伝えた。



○次回の予告○

『レオナルドの告白』

























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