第17話 呂布の妙案、袁紹、時を与えすぎるも張郃、頭角を表す。

 呂布は劉備が駐留する小沛に秤量を送り続けた。


 しかし、徐州での悪政は劉備から呂布に代わって民達も不平不満を募らせた。


 特に、女には優しく、男には厳しいために、悪女が我儘し放題、呂布も贅沢な暮らしをするために徐州の税金が跳ね上がり、劉備に送られる食料も次第に減っていった。


 まるで、昭和とそれ以降の老害日本人のような政治である。


 そんな時、呂布の元に金品財宝が送られてきた。


 無論、袁術の賄賂である。


 呂布はその異常な献上品に思わず驚いてしまう。


「おお、これはまた、なんとも言えぬほどの金品財宝だな。」


 呂布は疑いもなく受け取ってしまった。


「呂布様、献上品と別に、袁術からの密書もございます。では、私はこれにて………」


 呂布は目を通して『はは~ん』と思った。


 呂布は密書を捨てて宴会を開いた。


 陳宮は呂布と酒を交わしながら言う。


「劉備の守る小沛がなくなれば、徐州は急所を突かれたことになります。どうするおつもりで?」


 呂布は笑っていった。


「たまにはこの呂布にも名案が浮かぶものよ。袁術の要求通り、劉備に援軍は出さん!!」


 それを聞いて陳宮は驚愕する。


「そ、そんな事したら、我らも命が危ないですぞ!!」


 呂布は笑って言う。


「ふっはっはっはっは、劉備に援軍は出さんが、袁術にも援軍は出さん。要は、援軍を出さなければ約束が果たされるのだ。さぁ、今宵は飲もうぞ!! 見ろ、月が綺麗だ………」


 呂布はその夜、多いに酔った。


 袁術の元に呂布からの返事が届く。


「はっはっはっはっは!! 呂布の馬鹿め!! 私利私欲に溺れおったぞ!!」


 紀霊が言う。


「これで徐州は掎角の勢いを失いました。後は小沛を包囲して秤量攻めすれば、我らの手の中です!! 流石は袁術様、これで我らは敵陣で酒を飲んでるだけで勝てますな。」


 早速、小沛を包囲する紀霊軍、劉備は余りの大軍に閉じこもるしかなかった。


「劉備!! 出てこい!! 呂布は援軍を出さんぞ!!」


 それを聞いた劉備は絶望してしまう。


「おお、天よ。何故我にこのような仕打ちをなさるのか!! 漢室の復興もままならずしてこの世を去ることなど、天は私がお嫌いなのでしょうか!!」


 張飛は覚悟を決めて蛇矛を手に取る。


「よさんか張飛!! ここは一つ、夜襲を仕掛けて包囲を突破し、再起を図るのだ。もう我らにはそれしか道は残されておらぬ………」


 劉備の言葉に張飛が冷静になると、なぜか呂布軍がそこへ現れた。


 紀霊はそれを見て大喜びした。


「おお、呂布よ!! 我らを助けに来てくれたのか?」


 それを目の当たりにした劉備は恐怖のあまり膝を付いてしまう。


「なに、戦争よりも宴会のお誘いをしようと思ったまでだ。」


 紀霊はそれを聞いて『何?』と思わず口にしてしまう。


 呂布が劉備に言う。


「劉備よ!! ここに宴席を用意した!! 安心しろ!! 私の軍がいるのだから!!」


 呂布は小沛の包囲を一部占領して劉備を招く。


 張飛が言う。


「兄者、行っては駄目だ!! あの野郎!! 袁術に兄者を売るつもりだ!!」


 しかし、劉備にはそう見えなかった。


「いや、私一人で行ってみよう。きっと何か、考えがあるのだろう………」


 それを聞いた張飛が怒りながら劉備の護衛に付く、関羽も張飛に続いた。


「よくぞ来てくれた!! 劉備に紀霊、そして、張飛に関羽、安心されよ。これは宴会、殺生は無用だ。」


 呂布は皆に侍女を使って酒をついで回らせた。


 呂布の態度に紀霊が痺れを切らす。


「呂布よ!! 援軍は出さぬという約束のはずだ!! 何故我らの邪魔をする!!」


 呂布は笑って答える。


「はっはっは、援軍は約束通り出さぬ。」


 続いて紀霊が聞く。


「なら、劉備を私にくれるということか?」


 劉備も正気では居られなかった。


「劉備を渡すつもりもない。俺がここにきた理由は、和睦を結ばせるためだ。」


 それを聞いて劉備は安堵する。


 紀霊はこれを聞いて激怒する。


「こちらは20万の兵を連れてきたのだぞ!! このまま引き返せというのか!!」


 呂布は侍女に方天画戟を持ってこさせた。


 そして、120歩歩いた先にそれを突き刺した。


「良いか、私は、袁術の約束を守る。そして、袁術の味方でもなければ劉備の味方でもない。あそこにある方天画戟の枝つばがある。あれを射抜けたら、天の意思だと思って和睦なされよ。もし、射抜けなければ、双方気が済むまで戦うが良い。」


 それを見た紀霊は笑っていう。


「はっはっはっは、それはいい。」


 劉備は呂布が私に援軍を送らせないことを納得させるのでは、と思ってしまう。


 これに対して張飛が怒鳴る。


「あんな紐が射抜けるわけないだろ!!」


 それに対して、呂布は侍女に酒を持ってこさせる。


「おいおい、まさか、酔って射るつもりなのか!!?」


 張飛の言葉に呂布が言う。


「天の意思ならどのように射ても当たる時は当たるであろう?」


 呂布は多いに酒を飲み、一杯、また一杯、更にもう一杯と酒を飲み干した。


「旨い!!」


 呂布が弓を手に取ると手がブレて標準も定まらない様子であった。


 これには紀霊も大喜び、劉備は天にも祈る気持ちで呂布を見守っていた。


「それでは、天の意思を聞こうぞ………」


 呂布が矢を放とうとすると両目を閉じた。


「なッ!!?」


 張飛が声を挙げると呂布が言う。


「騒ぐな!! 武運が逃げるぞ………」


 そう言われたために一同が静観する。


 呂布は弦をいっぱいいっぱいまで引っ張って矢を放った。


 放った瞬間、呂布は確信して笑みを零した。


「フッ………」


 呂布にとって小沛は重要な拠点、それを手放すつもりは毛頭ない。


 呂布の矢は方天画戟の枝つばを見事に撃ち抜いてしまう。


「なッ!!?」


 これには紀霊も驚く。


 劉備は呂布に平伏した。


「劉備、このご恩、一生忘れません!!」


 呂布は多いに笑って宴会を楽しんだ。


 紀霊が袁術の元に戻って事の次第を話すと袁術が激怒して言う。


「おのれ!! 朕の金品財宝を持ち逃げしおってからに!! 呂布のやつ朕を馬鹿にしておるのか!!」


 紀霊が宥めようとする。


「しかし、呂布の腕は神業です。『人中の呂布、馬中の赤兎』と言われるだけのことはあります。いや、想像以上………」


 袁術は地団駄踏む。


「劉備と呂布を仲違いさせるどころか、ますます結束しおってからに!! こんなことではいつまで経っても徐州は落とせんぞ!!」


 一方、その頃、曹操はと言うと、劉備と呂布が余りにも手強いために荀彧を呼び出していた。


「荀彧よ。徐州を手に入れるのにどれほどの月日が流れただろうか………」


 荀彧が答える。


「ざっと1年程経ちました………」


 曹操は激怒する。


「1年だぞ!! もう一年も経ったと言うのに何故、呂布と劉備は仲違いしないのか!! このままでは公孫瓚が袁紹にやられてしまうのも時間の問題だというのに!!」


 流石の荀彧も内心焦ってしまった。


 まさか、劉備が徐州を奪われても呂布に協力するとは思わなかったのであろう。


 しかし、袁紹はというと、負傷した麴義、公孫瓚に多大な時を与えてしまったのだ。


「麴義よ。袁紹がこの公孫瓚にこれ程までの時を与えてくれるとは思わなんだぞ………」


 公孫瓚の言葉に麴義が続く。


「あぁ………もう少しすれば『趙雲』も戻ってくる頃だ。だが、先手必勝、胡座をかく袁紹に大打撃を与えてやるチャンスでもある。」


 公孫瓚が笑って言う。


「私が負けたのは袁紹ではない。麴義、お前だ………」


 麴義が言う。


「おうよ!! 俺たちが力を合わせれば、袁紹なんて木端微塵よ!!」


 多いに時を与えてしまった袁紹は先に攻めるつもりで居たが、攻められる形となってしまった。


「袁紹様!! 大変です!! 麴義と公孫瓚がもう目の前まで来ています!!」


 この報告に袁紹は椅子から立ち上がる。


「なんだと!!?」


 横にいる田豊が言う。


「袁紹様、お座りください………」


 袁紹は田豊の言う通り着座した。


「全軍に通達せよ!! 公孫瓚と麴義を迎え撃つのだ!!」


 麴義と公孫瓚は激しく戦った。


 しかし、麴義は脇腹を抑えて逃げていく。


 これを見た袁紹は怒涛の如く攻め立てようとする。


 これに対して、許攸と張郃が袁紹に言う。


「殿!! いけません!! あれから日を数えますと、麴義はもう完治しております!! あれは罠です!!」


 しかし、袁紹並びに文醜、顔良が言う。


「ええい!! 黙れ!! 裏切り者の麴義を殺したものには莫大な金品をくれてやるわ!!」


 強欲な袁紹軍は麴義を目掛けて一斉に突撃した。


 我を見失う袁紹軍、麴義が計略ポイントへと逃げ込む。


『ドゴーーーーン!!』


 大きな音がすれば大きな落とし穴に大軍が雪崩込んでくる。


「お、おい、止まれ~~~!!」


 強欲な大軍は目の前に大きな落とし穴があるというのに皆が後から続いて穴に落ちて行く。


 それを見ていた麴義と公孫瓚は笑っていう。


「はっはっはっは、真ん中に小さな道がある。心を落ち着かせて一人ずつ渡ったらどうだ?」


 袁紹軍は大半が穴に落ちてしまった。


 要約落ち着いた袁紹軍は一人一人が渡り始める。


 しかし、その先には麴義と公孫瓚が待ち構えていた。


「馬鹿な奴らめ。」


 公孫瓚と麴義の二人に攻撃されれば袁紹の兵士たちが次々と穴に落とされていく。


「袁紹、募兵して数を増やし、結局扱えんとは愚かだな!! 少しはこの公孫瓚を見習って知恵を使ってみてはどうだ?」


 それに続いて、麴義が言う。


「こっちとら、兵士を集めながら罠も作っておいたんだ。兵を訓練させるより強いぜ!! と言っても、お前らの軍で将軍なんて居ないか、はっはっはっはっは!!」


 それを聞いて文醜、顔良が渡ってくる。


 しかし、文醜、顔良では麴義と公孫瓚の2vs2では勝ち目が無く、二人も敗走してしまう。


「おのれ、誰か!! 二人を抑えろ!! そして、文醜、顔良を救出せよ!!」


 袁紹がそう命じるといよいよ張郃が一人で渡ってきた。


 張郃が二人に言う。


「趙雲はどうした?」


 そう、無名の猛将は目立つ文醜、顔良の影となり、趙雲を足止めしていたのだ。


 麴義はこの時、初めて張郃の実力を知ることになる。


「趙雲………やはり、貴様が趙雲を食い止めていたのか………」


 麴義が槍と盾を構えると張郃に挑む。


 公孫瓚もこれに続く。


 しかし、二人がかりでも張郃の槍捌きは趙雲に匹敵した。


 麴義の槍が捌かれて公孫瓚の槍は手で受け止める。


 すると膝を使って公孫瓚の槍を『ボキリ』と折ってしまう。


「何と言う強さだ!! 趙雲が居なければ誰がこいつを止めるというのだ!!」


 張郃は自分の槍と公孫瓚からへし折った槍を二本持って構えてくる。


 麴義は張郃の姿に修羅を見た。


 この男は趙雲のように優しくはない。


 勝つためなら手段を選ばない危険な男だと、趙雲の槍捌きが『芸術』なら、張郃の槍は『暴力』といえよう。


 麴義が盾を構えて応戦する。


 趙雲の時とは違い。


 槍捌きは趙雲のほうが僅かに上、それ故に盾と腕で相手の槍を挟んで封じることは多少容易かった。


 だが、もう片方の折れた槍が麴義を襲う。


『ガシッ!!』


 麴義が張郃の槍を空いた手で受け止める。


「公孫瓚!! 今だ!!」


 流石の麴義、趙雲をなんとか止めたように張郃もなんとか押さえつける。


「あぁ、この公孫瓚に任せられよ!!」


 しかし、張郃は甘くはない。


 麴義が両手の槍を封じるも即座に膝を腹部に入れてくる。


『ごはッ!!?』


 麴義は治ったばかりの肋骨を再び張郃に折られてしまう。


「麴義!!?」


 公孫瓚が張郃に暗器を投げつけると麴義は張郃の双槍を意地でも掴み続けた。


 趙雲ほど器用でない張郃は公孫瓚の暗器を一瞬、麴義に抑えられたが故に、回避が間に合わなかった。


『ぐッ!!?』


 張郃が負傷すれば麴義も腹を抑えてその場に膝を付いた。


 公孫瓚は剣で張郃を振り払えば、張郃はそれを回避する。


「麴義、一旦退くぞ!!」


 張郃は二人が逃げるのを見守ることしかできなかった。


 趙雲なら無傷で戦い続けるだろうが、張郃はまだ若く、袁紹軍では無名故に経験が少なかった。


 袁紹が張郃の働きに驚いていると張郃が再び袁紹に進言する。


「今すぐ麴義を追撃してください!!」


 その言葉に袁紹も頷いて答える。


「あの時、貴様の言うことを聞いていれば、わかったぞ張郃よ!! そなたを中郎将に任ずる。後は我らに任せて傷を癒やすのだ。」


 張郃はこの戦いで初めて官職が与えられたのである。


「はッ!! ありがたき幸せ!!」

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