第16話 袁術、呂布を計に嵌めるも陳宮に利用される

 劉備は張飛を信じて関羽と共に袁術討伐へと向かった。


 城を任された張飛は徐州牧である劉備の椅子に座って兄の眺める景色を楽しんでいた。


「はっはっはっは~………おい、首簿はどこだ!!」


 張飛が首簿を呼びつけると首簿は慌ててやってきた。


「あ、はい!! 将軍!! お呼びですか?」


 張飛は笑って命令を下す。


「兄者はこの俺に3つの決まり事を命じた。それを書いてここに貼り付けて欲しい。」


 それを聞いた首簿はホッとして了承する。


「して、なんと書きましょう?」


 張飛は劉備の言いつけを酒母に書かせた後で張飛の座っている後ろに貼り付けさせた。


「うむ、これでいい!! 流石は首簿、仕事が早いな。」


 張飛は上機嫌で外へと出ていった。


 褒められた首簿は決まりごとを見て呟いた。


「はぁ、何日持つことやら………」


 しかし、張飛もなかなかのもので3日は耐え忍んだという。


 酒の中毒性はここからが本番、張飛は次第に居ても立っても居られなくなってしまった。


「ええい!! 兄者の帰りはまだなのか!!」


 袁術軍は大軍、それに比べて劉備は少数、劉備に勝ち目はなかった。


 兵力差は圧倒的、それでも劉備は関羽と共に前線を支えていた。


 そんな時、呂布にある知らせが届いた。


 袁術の密書だ。


 密書の内容は徐州の城を今すぐ落とし、劉備の背後を攻撃すること、さすれば金品財宝を山のように送るとのこと、これを見た呂布は大喜びして戦の準備に取り掛かる。


 そんな時、陳宮が現れて訪ねた。


「呂布様、何をしておられるのでしょうか?」


 その問いに呂布は喜んで答える。


「陳宮喜べ!! 徐州の城を落として劉備の背後を叩くだけで金品財宝が袁術から送られるのだ!! これぞ、まさに天の助けだ!!」


 陳宮は『なるほど』と思った。


「これは恐らく、袁術の仕組んだ罠ですな。恐らく、劉備を攻撃すれば必ず袁術は金品を送らず我らを次に狙うでしょう。」


 それを聞いて呂布は誠にその通りだと思った。


「ならば、どうすればよいのだ?」


 陳宮は一計案じた。


「徐州を落とすにしても内通者が必要です。なるべく、兵士を失わず、迅速に城を制圧せねばなりません。その後で、劉備を城へ迎え入れるのです。徐州を手に入れて劉備に小沛を守らせる。これで掎角の勢いを保てます。その後で袁術に褒美を貰うのです。」


 呂布はなるほど、と思うも一つ腑に落ちないことがある。


「しかし、劉備を納得させることができるだろうか?」


 陳宮が言う。


「良いですか、劉備は忠義の人物、袁術から金品財宝を貰うためにことを行い、本心では徐州を返すつもりだ。張飛では頼りないだろうと、従って、この徐州を劉備にお返しします。そういえば、劉備は必ず呂布様に徐州をお譲りになるでしょう。」


 呂布は『なるほど』と思い陳宮に従った。


 内通者には曹豹が選ばれた。


 曹豹は張飛に接近して陳宮に言われた通りに従う。


「張飛様、呂布の配下である曹豹ですが、呂布にはもううんざりです!! 張飛様は私の同士、呂布にも恐れず果敢に立ち向かいました。張飛様は酒豪、この酒を献上しますので、どうか私を張飛様の配下にしてください。」


 張飛はこの申し出に複雑そうな顔をした。


 曹豹が顔を上げると決まりごとが目に入り謝罪して引き下がる。


「も、申し訳ございません!! 禁酒の時にこのような献上品を………出直してきます!!」


 そう言って曹豹が下がっていくと呂布のもとに戻ることを天に向かって嘆いていた。


 それを見た張飛は曹豹を呼び戻した。


「ま、待ってくれ!! 呂布は天下の大泥棒、禁酒は兄との約束だが、俺と同士であるなら話は別だ!! 今日、同士を得たのなら兄者も禁酒を一日くらいは破っても大目に見てくれるだろう。」


 張飛は呂布に対しての憎悪は尋常ではなかった。


 曹豹のために張飛は酒を一杯飲んでしまう。


 その後は呂布への愚痴で多いに盛り上がり、多いに酔った後で眠ってしまった。


 曹豹も多いに酔ってしまったために使いの者に徐州の南の門を開かせて火の合図を呂布に送らせた。


 呂布の夜襲に対して南の門が開門されたために徐州は無防備となってしまって大軍が雪崩込んできた。


「張将軍!! 張将軍!!」


 張飛を慌てて呼ぶのが陳登であった。


 陳登は南の門が開くのを陳珪から聞かされる。


 陳珪が兵士を連れて曹豹と使いの者を捉えれば陳登と張飛の所にやってきた。


 張飛は『何事だ?』と聞く。


「張飛様、この者に覚えはありますか?」


 張飛が見ればそれは曹豹だった。


 それを確認させた後で陳登が曹豹に言う。


「流石は曹豹ですな。呂布様が入り込みましたぞ!!」


 その挑発にに曹豹は酔った勢いで気持ちよく言ってしまう。


「俺は呂布に中郎将を約束された。張飛とか言う間抜けを出し抜いて大出生!! 楽な仕事だぜ!!」


 これを聞いた張飛が激怒して曹豹を蛇矛で一突き、曹豹は殺されてしまう。


 それを見ていた曹豹の使いは大泣きして命乞いをするも張飛に殺されてしまう。


「おのれ呂布め!! ぶっ殺してやる!! うぉ!!? うわあああああ!!?」


 張飛は多いに酔っているために千鳥足となる。


 陳登は張飛を支えるとこういう。


「張飛将軍、正門からお逃げください。既に逃げる用意はしてあります。ここは陳親子におまかせを!!」


 陳登がそう言うと張飛はそれに従って正門から徐州を脱出する。


 その後で劉備の元へと急ぐも城を守れなかったことに涙を次第に流してしまっていた。


 辿り着くも中には入れず世を明かしてしまう。


 涙が枯れた頃には劉備の兵士が張飛を見つけて劉備の元へと連れて行く。


 劉備は張飛がここに来たことに対して驚いた。


「張飛よ!! 一体どうしたというのだ!!?」


 張飛は劉備の声を聞いただけで枯れていたはずの目から涙が滲んできてしまった。


「す、すまねぇ………呂布の野郎に城を奪われてしまったんだ!!」


 それを聞いた関羽は激怒して言う。


「なんということだ!! あれほど徐州の城を守る重要性を話されておきながら3日しか守れなかったというのか!!?」


 それを聞いた張飛は剣を引き抜いて自分を切ろうとした。


 劉備はそれを見て張飛の手を捕まえて阻止する。


 怪力張飛も多いに酔っ払い、一夜を寝ずに明かしたためにこの時ばかりは劉備に腕力で敵わなかった。


「なんということだ。お前がこんなにも非力だったとは………張飛よ。我らは桃園の契を交わした兄弟だ。簡単に死んではならん。お前が死んだら、誰が張飛の代わりになるというのだ………」


 張飛は『殺してくれ~』と叫んだ。


 劉備は張飛に激怒していった。


「城は無くなっても取り返せば良い!! 貴様がなくなったら誰が張飛の代わりになるんだ!!」 


 その言葉に張飛は要約理解して全てを悟る。


「そんなに死にたいなら私と関羽を殺した後で死ぬのだ!! 私はお前がどれだけ無様になろうとも、無二と居ない弟だ。お前一人の責任でもないだろう………」


 それを言われた張飛は大声で子供のように泣いたという。


 張飛が泣いているところで呂布の高順が劉備の背後を狙いに来た。


 劉備は挟撃の形となったために逃げることを決意、兵士は皆劉備に従って戦場から逃れることとなる。


 高順が袁術軍の紀霊と出くわすと高順は約束の品をここで貰うことを提案する。


 しかし、紀霊は報告に無いと断ったために両者の仲は険悪となってしまう。


 紀霊は袁術にことの次第をすべて話すと多いに笑っていった。


「はっはっはっはっは、これで徐州に劉備は居なくなった。今こそ徐州を攻め落とす時だな!! 今から徐州の小沛を落とすぞ!!」


 これに対して紀霊が言う。


「はっはっはっは、なんと我らの頭のいいこと、呂布と劉備、双方を争わせること無く劉備を追放させ、そのまま徐州を取る。死んでいった文官共の無能さが分かりますな~。あっぱれあっぱれ!!」


 勝利を確信した袁術は紀霊軍に加わって小沛を攻め入ろうとする。


 しかし、何故かそこには劉備、関羽、張飛が居た。


 特に張飛は並々ならぬ気迫を滾らせている。


「袁術!! この張飛の憂さ晴らしにしてやるぞ!!」


 この時の張飛は勢いが尋常ではなかった。


 張飛が3000の騎兵隊を率いて突撃しただけで袁術軍は命からがらも城へと逃げてしまった。


「なぜじゃ!! なぜ劉備が小沛にいるのじゃ!!?」


 袁術は呂布と劉備を嵌めたつもりだったが、陳宮によって利用されたとは気が付かなかったのである。


 後日、劉備だけが呂布の宴会に呼ばれて呂布に持て成されたという。


 呂布と陳宮は劉備に徐州を返却するも劉備が『これは天の意思です』と言って弟たちが待つ小沛へと戻っていった。


 呂布は溜め息をついて言う。


「劉備は誠に名君だな………それに比べて私達は………」


 呂布は決心する。


 天下統一したら必ず劉備と天下を分かち合わんと………


 城に逃げ帰った袁術は激怒して言う。


「なぜだ!!なぜ、呂布と劉備が仲違いするどころか結束を深めるのだ!!」


 それを聞いていた文官の者が笑いながら答える。


「お前は話を勝手に解釈する大馬鹿者だな!!」


 袁術は多いに怒って其の者を拷問した後、計略を吐かせてから処刑した。


「なるほど、こうなったらこいつの言う通りにするぞ!!」


 しかし、また、忠義の文官のものが袁術に言う。


「貴様は話も聞けない無能だ!! 絶対に徐州を取ることはできんぞ!!」


 これに対して、袁術は殺さずに牢獄へと閉じ込めておいた。


 また、新たなる計略を吐かせるために………

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