第5話 チュートリアルは今更に
着進体としての初戦闘から一夜明けた俺は、e-SPADAの仲間とセンチュリーコーポレーションの本社へと向かっている。
その道中で、俺は携帯ゲーム機で数日前に配信となった戦国絢爛記のDLCをプレイしている。
武者を操作し、雑兵をバッタバッタと薙ぎ倒していく無双ゲームとして発売されただけあり、その爽快性はゲーマーの間でも評価が高い。
まだ初めて数時間程度だが、もしかすると今年のDLCの中でぶっちぎりの出来かもしれない……
「次は品川。お出口は右側です。センチュリーコーポレーション本社にお寄りのお客様はこちらでお降りください」
センチュリー本社の最寄駅を知らせるアナウンスが鳴った。
名残惜しいが、この辺にして続きは家でやろう。
「こうしてみるとすこぶる高いビルだなぁ……」
「そりゃこの区域で1番高いからな」
駅を抜けた俺たちは、高層ビル群が立ち並ぶビジネス街で目を引くほど高い本社ビルを見上げていた。
太陽の光をがビルの窓に反射して眩しい。
「あれ。そろそろ時間じゃない?」
「そうだっけ?」
「おいおい……。昨日の祝勝会の時に送られてきたメッセもう忘れたのかよ」
昨日、「詳細は品川のセンチュリーの本社で話そう」と土御門さんに言われて、祝勝会と夕食を兼ねてファミレスで食事をしている途中に、土御門さんから細かなメッセージが届いた。
『翌日10時半、センチュリー本社前広場で待ち合わせ願う』
文面の内容は以上だった。
「でも、土御門さんもゲームクリエイターが本業だから仕方ないんじゃない?」
「そんなもんかぁ〜」
「そんなもんでしょ。ゲームクリエイターっていつも時間に追われているって聞くからな」
って、噂をしていると。
「やぁ。少し待たせてしまったかな?」
土御門さんが本社の入り口から出てきた。
天草さんも一緒だ。
「お待たせしました」
「いえ、こっちもさっき来たばかりなので」
「ならよかった。少し巻き気味に会議を進めておいて正解だったようだね」
「『来客が来るのをすっかり忘れていた』というので会議を巻くのはどうかと……」
なんてべらぼうな理由で会議巻いたんだこの人……。
まぁ、こういう柔軟な方法だからこそ、センチュリーの主任開発者になれたんだろうか。
多分俺らにはできない。
というか、できるはずない。
「さて、立ち話もこの辺にしておこうか」
ということで、俺たちはセンチュリーコーポレーションの本社へと通される。
ゲーム会社というのは、ゲーマーにとっても聖域と言っても過言じゃないところである。
ここでこんな神ゲーが、こんなクソゲーが作られたのか。と思うと少し感慨深い。というのは大袈裟だろうか。
「さ、ここだ」
そうして通されたのは、地下にあるスペース。
コンクリートでできた壁や床、パソコンやら、大型モニターが置かれている場所の先に、ガラス越しに大きなスペースがあるのがわかる。
まるで怪獣映画や巨大ヒーローに登場する防衛組織のようだ。
「土御門さん、ここって……?」
「前線基地兼訓練施設。って言ったところかな」
「すごい。こんなのが地下に……」
「本来は地下駐車場だった所を改造しただけですが」
「地下駐車場を基地に!?」
地下駐車場を基地に改造するって本当に何者なんだろうか土御門さん……。
恐らくここまで来ると開発主任も色々飛び越えてるでしょ。
「まぁ、細々とした話はまた追々やるとして、本題に移ろうか」
「昨日言っていた『詳細』ってヤツですよね?」
「そういうこと。ひとまず俊佑くんには、あそこの模擬フィールドに行ってもらおうか」
と、土御門さんが指差したガラス越しのフィールドへと俺は向かった。
言われてみると地下駐車場を改造したであろう痕跡が少し見える。模擬戦にはもってこいの広さなことには間違いない。
「位置についたね。じゃ、アプリを起動して着進体になってくれ」
「
変身アプリを起動し、着進体となる。
ふと、ガラスに映る自分の姿を見てみる。
改めて全身を見てみると、本当に変身したんだと実感する。
コスプレではない。本物のヒーローだ……!
「あ、前から思ったことなんだけど、どうして変身した俊佑って武者みたいな見た目してるんですか?」
「確かに気になったかも」
「あぁ、スキンのことか。確かに芽以くんが言ったアバターとの協調的な意味合いもあるけど、装着者の得意とするゲームスタイルにも合わせたものを最適化させたのがあの姿でもあるんだ」
「じゃあヒロが仮に着進体になったら『エイリアン・バスターズ』のキャラみたいなのになってたのかなぁ」
「かもな。じゃぁ芽以や立華だと違う姿になるんだろうな」
そうだったのか。
確かに俺の得意ゲームは「戦国絢爛記」だから、この姿は俺にあってはいるのかもしれない。
土御門さんには申し訳ないけど、この手の開発者だと「私の趣味だ」なんて思っていたら割と真面目な理由なのがびっくりだ。
「なんか今更というか、こんなこと聞くの野暮すぎると思うけど……。僕らのアバターの人格って、どういう感じで作られているんです?」
「人格?あぁ、これはアクセスしているプレイヤーの感情や意識がデータとして蓄積したデータを元にREAL WORLD上の管理サーバーが最適化してその期間となる人格を形成して、そこからプレイヤーの得意ゲームを基に性格のデータを創って、君たちのご存知のアバターの出来上がりと言ったところかな」
「は、はぁ……?」
恐らく土御門さんなりにわかりやすく解説をしているんだろうけど、どうしよう。何言ってるんだかよくわからない……。
そんな話を振った立華は若干いたたまれない顔をして、ヒロは「何がどういうことだ?」って顔をしているし、芽以に至っては意識が宇宙に飛んでいる。
「主任の言葉をわかりやすく言うなら、プレイヤーの性格で人格の骨格を作って、得意なゲームで肉付けしていく。ということです」
「わぁ、すっごく分かりやすい……」
「すまないね。こういう解説は少し不向きなのは自分でもよくわかっていることだからね」
すかさず天草さんが分かりやすく補足説明してくれた。
そうなるとすごいテクノロジーだなぁ、センチュリーのアバターって。
と、そんな事思っていたら、俺の眼前に先日の足軽たちが現れた。
違いとすれば、見た目が猿っぽいところだ。
俺は刀を引き抜き、身構える。
「嘘!?もう既にデウスに特定された!?」
「心配ご無用。アレはこっちが作ったダミーの敵だからね」
「じゃぁ今から模擬戦?」
「模擬戦であり、今更のチュートリアルでもある感じかな」
正直いうとチュートリアルを先にして欲しかったけど、まぁ、いいか。
あの時は戦いに無我夢中だったから、必殺以外にもよくわかってない事もある。
だったらあの時みたいに烈に聞いても良かったが、どうせなら開発者に聞く方がいいのかもしれない。
「さてと、行こうか!烈!!」
「あぁ!行くぜ、俊佑!」
俺は足軽に向かって駆け出そうとする……。
「ちょいちょいストーップ!」
「うぇっ!?」
土御門さんの声と共に眼前に「止まれ」の標識のようなホログラムが現れ、俺は盛大にずっこけた。
着進体じゃなければ怪我していただろう。
「あくまでここはチュートリアル。ここからはこっちの指示を聞くように」
「出た!俊佑の悪癖『説明書を読まない』!!」
「ゲーマーの意地を直で行くヤツだからな。あいつ……」
「よく説明書読まないでゲームを始めるから、変なところで詰むところを何度見たことか……」
ガラスの向こうでなんかいいように言われている……。
思いっきり聞こえているって。
まぁ、とりあえずチュートリアルだし、という事でここから土御門さんの指示を聞くことにした。
「恐らく具体的な戦闘のhow-toは昨日の戦闘でなんとなく分かっただろうけど、着進体の機能の殆どはそのスマートウォッチに集約させてある。」
土御門さんの説明を聞きながら、ウォッチの着進体アプリを起動する。
まさか日常的に使っているスマートウォッチが変身アイテムになろうとは、このウォッチも思ってなかっただろうな。
「ざっくりと説明するなら、着進体の戦闘アプリは4つの要素で成り立っている。まず1つは武器。と言ってもこれは武器チェンジができるってことだけかな」
試しに武器のアイコンに触れる。
ずらっと武器のホログラムが浮かんだ。
この前の戦闘で使った刀もあれば、カットラスにレーザー剣。
自分がさまざまなゲームで使いこなしている武器だ……
「まぁわかると思うが……。着進体同様に君のプレイしているゲームのデータを反映して、最適化してある。恐らく君の特性武器が刀剣類なのはそういうことだ」
「確かにいきなり使い慣れない武器渡されてもアレだからか……」
「武器の特性って、一発で理解する人もいれば、時間かかる人いるからねぇ」
さすがゲーム開発者、常にユーザーのことを考えて動くってこういうことなのかなぁ……。
ってこうやってみると、殆ど刀剣類しか使ってないことに今更気づく。
真面目に遠距離系の武器も練習しておくかぁ……。
あとで将大に遠距離武器のレクチャーをしてもらおう。そう俺は心に決めた。
「次にスキンチェンジ。だいたいのゲームだとこういうところで攻撃力アップとか付与されるのがお約束だけど、そういうのはないからお好みで変えてみるのもいいよって事でね」
「それいるんすか?」
「気分次第で見た目を変えるのも大事なこと。見た目くらいは遊んだっていいでしょ?」
あぁ、成程。
毎回同じ見た目だと少し飽きるところもあるから、ちょいちょい使ってみよう。
「それと、昨日直接言えば良かったと後悔している、スキル・技。まぁ使い方は昨日、烈に教えてもらったからおおよそはわかるかな」
この前使った焔車、着火のスキルのアイコンが目に入ったが、それ以外のアプリは錠前のアイコンがついている。
昨日の戦闘で烈から教えてもらった必殺のアプリにも同じようなアイコンがあった。
何だこれ?
「土御門さん、このロックが掛かってるのって」
「君はゲーマーとしてはプロだけど、戦士としてはニュービーだからね。自転車だって最初は補助輪で慣らしていく。そう言うことだよ」
なるほどそうか、使い慣れていけば経験値がたまって開放されるようなものと思えばいいか。
この先どんな技やスキルが開放されるのか、1人のゲーマーとして楽しみになってきた。
「というか、どうして着進体のシステムは人とアバターが共に戦うってのをコンセプトに?」
ヒロの言うとおりだ。
いくらゲームからの侵略者とはいえ、そこにアバターを結びつけるのは不自然と言えば不自然だ。
最初から人間が変身して戦ってもいいはずだ。
「デウスが率いているゲームエネミーは『見えるけれども実体が存在しない』ってのがカギとなっていてね」
「実体しない?」
「ゲーム的にいえば当たり判定が存在しないってことなの?」
「そういうことに近い。ということにはなりますが……」
と、天草さんがある映像を映し出した。
昨日の会場襲撃の映像だった。
逃げまとう人々を容赦なく襲い、倒していく。
ってあれ?さっき土御門さんは実体が存在しないって……!?
「この映像から若干察してるとは思うけど、厄介なことに俺たちはアバターに触れられないが、アバターは俺たちに触れられる」
「圧倒的理不尽……」
「あれ?だったら開発中止になった『VIRTURIZE』みたいに人間がアバターを使役するっていう事でも良かったんじゃ?」
「芽以、考えてみなって。目に映るもの全てを破壊しようとするゲームエネミーが大人しくアバターだけに攻撃を集中すると思う?」
「あ〜……」
立華の言うとおりだ。
もしかすると使役している人間を狙って、人生ガメオベラになってもおかしくはない。
そうなると使役する、されるの関係にある人間とアバターの関係性を一心同体にして戦う戦闘システムってなったのは合理的だ。
「まぁそう言うことだ。防御と攻撃を兼ねるのならば、人とアバターを一心同体として戦うバトルスーツにすれば問題がないって判明してね。それが着進体開発の経緯ってわけだ」
「もしかして、アキハバラ電脳事変から5年間もこのシステムを?」
「まぁね。思えばあの日から色々あったよ……。でも、こうして実用化に漕ぎつけられたけどね」
アキハバラ電脳事変から5年間も、土御門さんは開発を続けてきたのか。
この纏っているアーマーには、土御門さんの思いも詰まっているのか……
そうなると、とんでもない重みを感じる。
頑張らないとな、俺たちで。
俺は拳を握り、決意を改めた。
「……と、まぁざっくりとした説明はこのくらいかな。んじゃ、後は君のヒーローとしての戦闘力のスキルアップのために、ひとまず戦ってみようか。よーい、始め!」
ブザーがなり始めると同時に、直立不動だった猿の足軽たちが動き始めた。
東京電脳戦記~新時代の危険な遊戯~ 嶽内 輪音 @magmagma01
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