43
「シュルヴィが美人じゃなくなれば、執着もしてこなくなるんじゃないか」
カイの放言に、
「美人を
「……例えば、わたしの顔が変わったとして。あなた、ちゃんとわたしのこと好きでいてくれるの?」
「……」
「そこ、すぐに頷かないわけ」
カイは「もちろん、好きだよ」とぎこちなくほほえんだ後、シュルヴィの案に話を戻した。
「だって心を変えるなんて、無理な話だろ。どんな説得したって、もう三十四の男だぞ? 考え方なんて凝り固まってて、他人の意見聞くわけないって」
「人の心に作用できる竜なら、もういるから創らんぞ」
「いるって言っても、どれも効果は半日ほどじゃない。意味ないわ。……わたしたちの言葉じゃ、きっと殿下の心に響かないと思うの。もっと、殿下がひねくれてしまった、根本的な理由が……」
シュルヴィは、下げていた視線を上げた。
「ねえ。殿下を、お母さまに……亡くなった皇后陛下に、会わせてあげることはできないかしら」
シュルヴィが挙げた内容について、三人でやりとりを交わす。世界竜はほくそ笑んだ。
「――いいだろう、おもしろい。では、
突如、シュルヴィの前に淡い光が輝いた。光の中から
「首輪……にしては、大きいわよね。どこに身に着けるものかしら」
「太ももにつけるやつだろ」
カイの答えに、シュルヴィはほんのりと頬を染めた。仕方なく、短くなったドレスの裾をさらにめくり、
「竜晶って、一頭一頭で形が違うけど、いったいどういう基準で決まるの?」
せっかく世界竜がそばにいるので、訊いてみた。
「その竜の性格による。自分が好きな宝飾の形になる場合が多い。あとは、主人につけて欲しい場所の飾りになる竜もいる」
捉え方に悩む回答だ。シュルヴィが考え授けられた竜は、主人に腿飾りを着けて欲しいということか。世界竜が、「さて、と」と腕を伸ばす。
「わしも、見物に行くかな。暇じゃし」
世界竜が
×××
中心部の街並みは、すでに半分以上が燃え尽くされていた。
「ここが、お前たちの村か」
ともに流星竜に乗る
村のみんなが集められた丘を、すぐに見つける。帝国騎士団もいて、ヴィルヘルムとマルコ、アードルフの姿もあった。みなに注目される中、シュルヴィとカイは丘に着地した。世界竜もぴょんっと背から降りる。傍観するため離れていく世界竜の姿を見て、ヴィルヘルムが「マーイルマ殿?」と小さく反応した。
マルコは、シュルヴィたちが現れたことに目を丸くしていた。すぐに口の端を、挑むように吊り上げる。
「ははっ。わざわざ、自分たちから殺されに来たんだ」
シュルヴィはマルコと対峙したまま、腿にある竜晶を発光させた。間に円陣が現れ、一頭の中型歩竜が召喚される。首が長く、薄紅色の鱗を持ち、眠そうな目をした竜だ。大陸中で、まだシュルヴィしか所持していない新種の竜だ。
竜の召喚に、身構えたマルコとヴィルヘルムへ向けて、シュルヴィは薄紅色の歩竜に近づきながら声をかけた。
「安心してください。攻撃はしません」
シュルヴィは、歩竜の首を撫でてから
「お願い」
直後、歩竜がとった行動は、首を伸ばしてマルコの頭をくわえるというものだった。見ていた全員が、シュルヴィでさえも、驚いた。
「マルコーっ!!」
ヴィルヘルムがマルコへ駆け寄る。歩竜はすぐにマルコの頭を開放したが、腰を抜かしたマルコは、頭も顔も首も竜の唾液まみれだ。シュルヴィはどういうことだと世界竜のほうを向いた。のんびりと返される。
「相手を知るための作業は必須だ。でも、方法の指定はなかったから」
そうだとしても、もっとまともなやり方はなかったのか。ヴィルヘルムが「マルコ! しっかりしろ!」と呼びかける。そして気づけば、歩竜の周囲が霧に包まれていた。
何もない雪の丘に突如現れた濃い霧の中から、一人の女性が現れる。長い黒髪で、ドレスをまとい、優雅な立ち姿だ。ヴィルヘルムが目を疑う。マルコも、呆然と女性を見た。
「母上……?」
それは、二十年ぶりに見る先帝の妃――マルコとヴィルヘルムの亡き母の姿だった。彼女が答える。
「竜の力ですよ、マルコ。でも、長くはいられません」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。