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「うん、たぶん」
「たぶん?」
可能性ではなく確定でなくては困る。
「運が良ければってしか教えられなかったんだよ。『マーイルマは、気まぐれだから』って」
激しい不安が胸を占める中、しばらくして空洞の底に
シュルヴィも周囲に気を張りながら、カイに寄り添うように歩いた。無音の中を進んでいくうち、やがて洞窟内に音が響いてきた。水が落ちる音だ。歩を進めるごとに、音は大きくなっていく。
そうして目の前に出現したのは巨大な滝だった。広く開けた空間は、天井も遥か上だ。勢いよく落下する滝の水音が岩壁にぶつかり、洞窟内で反響し合っている。
「地下深くに、こんなに大きな滝があるなんて……」
自然の驚異に、シュルヴィは驚くばかりだ。カイが呟く。
「この滝の奥に、道が続いてるって聞いたんだけど」
滝は侵入者を阻むように、端を石壁に接しながら、半円形に降りてきている。流星竜で側面から入ることはできそうにない。滝を突っ切ろうにも水量も勢いもあり過ぎる。入った瞬間首がもげそうだ。
「どうするの? キルピィはこの水圧には堪えられないわ」
「そうなんだよなぁ」
どうするか悩んでいたカイは、
大きな円陣から出現した、山のような体躯の氷河竜が滝壺に着水する。上がった大
「ヤーティッコ。この滝を止めてくれ」
氷河竜は命令通り、巨大な滝をあっという間に凍らせた。上部へ冷気を吐き出し続け、落ちてくる水も
「長くはもたないな。――リエッキ」
今度はカイは、
「ほんと、大道芸みたいに、どんどん竜を出すわねあなたって」
「大道芸と一緒にされるのか、俺」
洞窟の天井は低く、流星竜に乗ったままでは頭をぶつけそうだ。カイとシュルヴィは再び歩いて先へ進んだ。進んでいるうちに、今度は徐々に暑くなってくる。気温が上昇しているのだ。シュルヴィは、挙式用の純白ドレスが暑くて仕方なくなっていた。
「……ドレス、脱げば?」
カイが制服の襟元を緩めながら言った。
「下着姿になれっていうの? い、嫌よ」
礼装用下着のため、胸元から
「そんな重いの着たままだと、暑さで倒れるぞ。歩くのにだって邪魔だろ」
シュルヴィはじゅうぶんに悩んだ末に、広がるドレスの裾を膝の上まで裂いた。絹でできた上質なドレスが無惨な有様になる。
「はぁ……もったいない」
「情を寄せてる皇弟殿下が、選んでくれたドレスだから?」
「そうじゃなくて」
こんな状況でくだらない
「仕立屋さんが、一生懸命作ってくれた、素敵なドレスだからよ」
だいたい、情を寄せているとはなんて言い方だ。恋慕とは違うと言ったはずだ。同情していると言い合ったことを持ち出し、からかっているのだ。シュルヴィの複雑な心を何だと思っているのか。
「いいじゃん。いまの姿も、似合ってると思うよ」
大胆に出る足を、ふざけるように流し目で見られる。シュルヴィは頬を紅潮させ、カイの首を思いっ切り絞めてやった。カイはすぐに降参して謝った。
ドレスの裾を破っても、暑さはさらに堪えがたくなった。天井はさらに低くなり、頭が届きそうなほどになる。カイは流星竜を戻してやり、代わりに
シュルヴィは、雪玉竜を腕に抱きながら歩いた。そうして先に現れたのは、赤く燃えたぎる
「どうりで、死ぬほど暑いわけだ」
道の先は、岩漿の湖の中央を横切るように続いている。天井の高さがないままなので、飛竜に乗って飛ぶことは適さない。歩いて先に進むしかないようだ。
カイは
「これで、マグマが飛び跳ねてきても平気だろ。……暑さも、少しはましになるといいんだけど」
不安で、シュルヴィはカイの手を触った。カイはしっかりと握り返してくれた。そうしてまた、二人は先へ進んだ。
×××
抵抗空しく、
「よーし! 燃やせぇーっ!」
「燃やせぇーっ!」と繰り返すマルコを見ながら、騎士団長が、控えめにヴィルヘルムへ最終確認した。
「本当に、よろしいのですか?」
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