第31話 怨敵

「僕の目的は簡単に言えば掃除だ。汚いものは目に入れたくない。塵一つ見ただけでも熱消毒したくなる」


 シズルはロウソクの騎士の斬撃を背中にくらう。


「だというのに。この星は至る所に醜悪な化け物が闊歩している。何より許せないのは。僕もその一匹だということさ」


 シズルは横からの騎士の自爆に吹き飛ばされる。


「だから。お前が必要なんだ。お前の火でこの星から魔物を消してやる」


 焼け爛れた男は燃える吸血鬼の方を向いた。

 シズルは爆発で倒れたところに四方八方から剣を突き立てられてしまった。そのままロウソクの騎士の山に埋もれてしまう。


 メテットは燃えているラナに声をかける。


「ラナ! メテットのコエがきこえる!?」


「……聞こえてます。……ありがとうございます。少し、落ち着いてきました」


 そういうとラナから出ている炎は段々と左目に収まっていく。


「……今まで。燃え尽きずに僕の元に戻ってこられたのは抑えることができていたからか」


「ワタシだけの力じゃありません。シズルやメテットが助けてくれたから。……お前を倒す為にここまで来れたんです」


「倒す?。 。。。まぁ確かに。僕の行いはお前らにとっては悪だろうな。この汚い世界の為に僕を倒すと。吐き気がする程立派だな」


「ふざけないで。お前がお父さんを殺した癖に!」


「死んだのか?。ならばよかった。殺したのはきっとこの星の掃除屋だな」


 ラナは男からの意外な返答に目を見開いた。


「……!? 掃除屋!?」


「マて! なんでラナのオトウサマがソウジヤとやらにケされなければならない!! ケされるべきはオマエだろ!!」


 ラナの代わりにメテットが男に問い詰める。

男はさも当然のように答える。


「当たり前だ。お前の父は悪魔となったのだから。消えなければならない」


「……悪魔?」


「堕転のその先だ。この星の生命全てがそうなる可能性を含んでいる。掃除屋は悪魔を狩るだけで根本を除去しない。仕方がないから僕がやる」


 爛れた男は片手を手を前に出す。


「もういいか?。こちらに来い。早くこの世界を変えたいんだ」


「本当に。。。どうしようもなく気色悪くて仕方ない」


(……この魔物。自分を含めた全部に嫌悪と敵意を向けている……!)


 ラナは最初、自分の体をこんな有様にして、父を奪ったあの男が怖かった。

 しかし、この男の世界への身勝手な恨み。それに理不尽に利用されたことに対する怒りがどんどん沸き上がってくる。


「行くわけない! お前だけは絶対に許すわけにはいかない!!」


 その言葉に呼応するように、山となっていたロウソクの騎士達は勢いよく吹き飛んだ。


 倒れたロウソクの騎士の頭をシズルは思い切り踏み潰す。

 男は刺されたはずのシズルに傷がないのを見て嫌悪感を顕にする。


「。。。騎士に刺された傷はどうした?。まったく。命を雑に扱ってくれるよな」


 シズルは男に大釘を向ける。


「……まずはラナを元に戻せ。次にあんたの目を奪って、あんたの命を奪ってやる」


「殺害予告とは。物騒だな」


 シズルが無言で男の肩を釘で貫こうとした時、


「〝点け〟。」


 赤毛の塔が勢いよく燃え始めた。


「な……!?」


「これは。予行演習だ。僕の太陽の火を宿した蝋人形供を赤毛に食わせ続けてきた。そして今僕がその火で赤毛を焼くよう発動させた」


 赤毛の塔は燃えながら、その形を変えていく。


「あれは……燃える竜!?」


「僕の考えてる太陽よりももっとずっと小さいが。ひと足先に体験してみろ」


 火竜と化した赤毛は、辺り一帯に熱波を発生させた。


「!? っつアアアアア!?」


 シズルは絶叫しながら転げ回る。


「シズル!?」


「ぐっうぅう……! タシかにアツいが! シズルだけなんであんなにモえているんだ!?」


 シズルをよそに焼け爛れた男は更に焼けながら満足そうにしていた。


「ああ。火よ。そうだ。我々を浄化しろ」


「……ぐっ…………う……」


 メテットも熱波に耐えきれず片膝をつく。

 シズルは未だ苦しんでいる。

 ラナは今焼け爛れている男の言葉を思い出す。


〈本来ここには別の用事で来ていた。〉


(これがその用事……! シズルさんが一番燃えているのは何か理由が……いや、今はそれよりも! あれはワタシの中の炎と同じなら!)


「〝鎮まれ〟……!」


「。。。ん」


 ラナは熱波を可能な限り抑える。

 その甲斐あって、シズルの炎上は少し抑えられ、かろうじて動けるようになる。


「ラナ……!?」


「シズルっ……! 今のうちに――」


「〝足せ〟。」


 その時、ラナの体全体が発火した。


 ラナは声もなく全身が黒焦げになって倒れる。


「…………。ラナ?」


「僕のものだと言ったはずだ。お前らが勝手に――」


 瞬間、シズルの姿が消える。

 体を支えていたはずの杖が肩ごと消え、男は体勢を崩す。


「。。。忌々しい」


 男は自分の肩を吹き飛ばし、今熱源に突っ込んでいくシズルを睨みつけていた。


「ガアアアアア!!!!」


 シズルは火竜に迫っていく。火竜の熱波は悪魔に近いものにこそ効果を発揮し、その存在を無に返す。シズルはその対象である。

 故にシズルといえども火竜に近づくのは自殺行為。

 ただ燃え尽きるだけ。

 しかし、男への恨み、守れなかった自分への怒り、そして、ラナを助けるという思いが、


 不可能を可能に変える。


 火竜は燃え上がるシズルによって、12本の釘に変えられ、その釘も灰になって消滅していく。

 これで熱波は消えた。しかしシズルも限界を迎え、頭から落下していく。


「。。。はぁ。まぁ。いいか。これで邪魔はいなくなった」


 男は一人で立ちあがろうとするがうまくいかない。


 そこへロウソクの騎士の第2陣がやってくる。


「。。。遅い。蝋人形供。僕より早く種火を。。。? どこに。。。」


 辺りにはロウソクの騎士と爛れた男と、空間に開いた穴しかない。

 そして、その穴もすぐに閉じられる。


「。。。塔があったところに迎え。今すぐに!」










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