第32話 空洞

「シズル! シズル!!」


 窓で塔周辺に来ていたメテットは真っ黒のラナを抱えてシズルを探していた。

 現在、赤毛の塔は焼け、巨大な空洞が出来ている。


(シズルをカンチすることがデキない。あんなにツヨいシズルを…いや、チカにオちたんだ! シズルがシぬわけないんだ!)


「ラナもシぬな…!」


 ラナにも呼びかけながら地下空洞の中を必死に探す。


「……メテット?」


「!! シズル! よかっ――あ」


 ぐしゃぐしゃのシズルがそこにいた。

 上半分と下半分にちぎれかけており、這いずって移動していた。頬の一部が割れて中からパラパラと小さな釘が落ちている。

 そのほかにも体のあちこちに火傷が出来、黒焦げになっている。


「……。シズ、ル」

「フンッ!!」


 シズルが力を込めると、シズルの傷は瞬く間に治っていく。

 ように見せている。

 それは表面のみの再生だとメテットはわかっていた。


「ふぅ。治ったわ。……ごめんなさい。今度は助けてあげられなかった。メテットがいなかったら、どうなっていたか」


 ラナとメテットを見てシズルが俯く。

 シズルの目から黒い雫が一筋流れる。


「……っ!」


 メテットは強引にシズルに肩を貸した。


「メ、メテット?」


「タスけられなかったなんて、カッテにキめるなよ」


「え?」


「……ナオりたてだろ。オトナしくタイジュウアズけて」


「え、ええ……」


 メテットとシズルはラナを見る。

 ラナは起きる気配が無い。


「ラナ……ッ!」


「ショウメツしないということはまだイきている」


「早く魔力をあげなきゃ……!」


「ダメだ! シズル! シズルもゲンカイだろう!」


「でもこのままじゃ本当に死んでしまうわ‼」


「メテットがワタす!」


 そう言ってメテットはラナの口の前に自分の腕を差し出す。

 ラナは気を失いながらもラナの本能が求めていたのか、メテットの腕に嚙みつき、吸血を行う。


「……っつぅ……」


 メテットは思わず膝をつきそうになる。


(マリョクがゼンブモっていかれる……! メテットもウゴけなくなるのはマズい!)


 メテットは少し強引にラナから自分の腕を引きはがした。


「……タショウはヨくなったみたい。けど、メテットのマドはしばらくだせない」


「本当、何から何までありがとう」


 シズルは肩を借りながらメテットにお礼を言う。

 メテットは上を見上げた。ここに近づいてくるものに気付いたためだ。


「ウエからキシがキてる。メテットタチをオってきた」


「……申し訳ないけど守り切れる自信がないわ。この地下空間を利用しましょ」


 赤毛の塔は今日まで数多の魔物を捕らえ、堕転の影響もあり、巨大化していた。


 そのため深く広く根を張る必要があり、シズル達がいる空間は巨大な洞窟の迷路となっていた。


「根で魔物を捕まえるためにも地上に出ていたのだし、この地下から騎士の包囲網を抜けて出られるかもしれない」


「……つくづくチカにはエンがある。ホウラクしないことをイノろう」


 シズルとメテットは赤毛の塔が無くなった後の地下空間を歩き出した。


「……メテット、重くない?」


「モンダイない」


(むしろカルい。……いつもより)


 一方地上では。


「……来たか」


 爛れた男はロウソクの騎士の第3陣を用意していた。

 しかし、第3陣の騎士達は形が不揃いであり、何体かはドロドロに溶けかけている。


「急がせすぎたか。まぁいい。お前らがどうなろうが構わん」


「――根が出た箇所に行きそこから地下を探せ。第2陣も今頃地下に入っている。挟み撃ちにしろ」


 男が指示を出し騎士達は無言で根が出たところに進む。


「あと少しだな。この空にもう1つの太陽が浮かぶまで」


 男は空を見上げる。輝く太陽がそこにあった。



「……ここでヤスもう。ここならミつかりにくい」


「えぇ」


 そこそこ歩いてきたので休憩をとるメテット達。

 根によってつくられた洞窟なので歩くのに適しておらず、シズルとラナが満足に動けない状態であるため思うようには進めていなかった。


(これはナンニチかカクゴするべき…キシにミつからないかが…いやそもそもラナがモつか…? シズルがカイフクしてくれるといいんだけど…)


 メテットは苦悩する。


 しかし、現状はメテットに考えさせる時間を与えてはくれなかった。


カチャリカチャリ。


「「……!!」」


 姿が見えなくても分かった。蝋燭ロウソクの火が周りを照らしていたからだ。

 シズルとメテットはラナを隠すようにして音を出さないように細心の注意を払いながら、騎士の動向を岩の陰から見る。元々赤毛がただ本能のまま広げた地下空間の為、メテット達が隠れられる場所は沢山あった。


 騎士は一度止まり、辺りを見渡している。


(キづくな……!)


 メテットは祈る。その祈りが通じたのか、

 騎士は先へと進んでいった。

 シズルとメテットは安堵する。


「カンなし。あのキシだけのようだ」


「良かったわ……ん?」


 その後メテットはすぐに周囲を警戒したが、騎士のような人型を感知しなかったため、その警戒を解いた。



 メテットもシズルも第3陣の騎士が液状だとは知らない。



 ぽたりとメテットの頭に液化した蝋が落ちる。


「上よ!」


 シズルの言葉に反応し、メテットはラナを連れて騎士の上からの強襲を避けた。


「くッ!」


 シズルは釘を液化した騎士に打ち付ける。騎士は一本の釘を体から噴き出して消滅した。


 しかし、これで終わりではない。

 

ガチャガチャ


 激しい音が聞こえる。先ほど通り過ぎた騎士が走って戻ってくる音だ。


「シズル! ツカまって!!」


「わかったわ!」


 メテットはラナを抱きかかえシズルを連れて逃げる。


(くっ……あちこちから!)


 先程の騎士が見たものを共有しているらしい。あちこちからメテットたちの方に洞窟内を探索していた騎士達は一斉に駆け出す音が聞こえる。


「どうしよう。どうすれば…!」


「メテット」


 メテットはシズルの顔を見た。悲しい覚悟をしている顔だった。


「ラナを連れて逃げなさい。私はここで、一体でも多く騎士を倒す」


「……!」


「こうなったのは……ラナもメテットもボロボロになっているのは私のせい。責任をとる。まだあいつらを蹴散らせる手段はあるから――」


「ケッシのカクゴでイったものだとしても!! そんなことをイうなよ!!!!」


「……メテット?」


 シズルはメテットの大声に思わずひるむ。

 メテットはぼろぼろと涙を流している。それは本来メテットに搭載されていなかったものであるが魔物と化したときに得られた機能である。


「セキニンをトるってなんだよ!! ラナもシズルもメテットも! キズついてるのはゼンブあいつのせいじゃんか!!!」


「でも、私は守るって――」


「それでキシゼンインとタタカうって!? シュダンってダテンだろ!! メテットのマエでミライをスてないでよ!!」


「……私だって! 好きでやるわけじゃない! これはラナとメテットを助ける為よ!」


「そのラナにまたタイセツなソンザイをウシナわせるのか?」


「え――――」


「……シズルがいなくなったら、メテットはラナになんてイえばいいんだ? どうやって。ラナのカオをミればいい?」


 シズルの目から、透明の涙が流れる。


(私、泣いてるの?)


「シズルはメテットにとってナカマなんだ。ラナにとってはきっとそれイジョウにタイセツなもののハズだ」


 メテットは相変わらず泣いている。シズルがいなくなったら悲しいから。


(そうか。……そうかぁ)


 泣きじゃくりながらも、メテットはキッとシズルの顔を見て


「メテットはよりヨいミライをネガう! それがナカマならナオサラ! ゼッタイにアキラめない!!」


 孤独だった復讐鬼は涙の意味を理解する。


(私、心配されて嬉しかったのね。私に、仲間ができたのね。)


「――じゃあ、犠牲になんてなれないわね」


「……シズル」


 シズルは覚悟を決めた。全員で生き残るための覚悟を。


「全体重と移動預けるわよメテット。片手が動きゃああいつらなんて目じゃないのよ……!!」


「シズル! リョウカイ。メテットはこれからアシとなる!」








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