第30話 赤い髪

 打倒、ロウソクの騎士の為、赤毛の塔にやってきたラナ一行。


 メテットの感知能力により、比較的安全に林の中を移動できていた。

 

(このままさっきみたいに気づかれない内にロウソクの騎士達が集まっているところ近づいて奇襲が出来たら良いんだけど)


「シズルキをつけろ。チチュウにカンあり。おそらくアカゲだ」


「土の中にもいるの? 流石にそれは気付けないわね……メテットすごいわ」


「メテットもアサいとこしかわからない。それにウゴいているものじゃないとカンチしない」


 ラナは赤毛の塔を見上げた。


「地中……確かにこんなに大きい塔なら、崩れないためにも根を張る必要があるんでしょうね」


「地中でも赤毛が出てたってことは大分潜り込んでるわね。そろそろ赤毛の塔に近づくのまずいかしら?」


「そうだな。ここから——」


ズズーン…


 遠いところで地鳴りが聞こえる。

 赤毛の根が、地中から出てきていた。その姿はまるで赤い超巨大な芋虫が、地中から這い出て来たようだった。


「ねぇ、あそこ……私達がロウソク頭に奇襲仕掛けたとこよね?」


「……ああ」


「私達が来たところから今赤毛が出てきたってことは…」


 ラナは顔を青ざめる。


「ここ、確実に入ってますね。危険域に」


 大きな地震が起こる。

 震源地はラナ達のいるところの真下らしい。


「逃げるわよ!!」


 ラナ達は駆け出した。シズルがいた地面にピンポイントで赤毛が生える。


 その後次々と、ラナ達の周辺の地面から赤毛の根が湧き出て来た。


「こんなにいたの!? なんで今まで……!」


「もしかして……他の場所にも騎士がいて今まではずっと彼らを取り込んでいたのでは!?」


「キシというエサがナくなってツギはメテットタチをタべにキたということか!」


 赤毛の根がラナ達の進行方向に現れる。


「退きなさい!」


 シズルは釘を赤毛に向かって投げる。赤毛は口のように、根の先端を上下に分けて、


バクン。


「釘を……食べたぁ!?」


(刺さらないと魔法を発動できないじゃない!)


「〝ニがせ〟!」


 メテットがそう唱えると、ラナ達の目の前に少し大きめのメテットの窓が展開される。


「ありがとうございまっ!?」


「うわっ!?」


 その窓は窓の内部に発生している強い力の流れにより吸引力を有していた。

 シズルとラナは窓に吸い込まれ、メテットもそれに続く。


 そしてラナ達は今までの比ではないくらいの速さで出口の窓へ流されて行く。


(マワりはアカゲだらけ!ウエだ!とにかくヒョウコウがタカくてトオいとこに…!?)

 その合間にも、赤毛は窓を通り迫ってきていた。

 窓の容量を大きく超えた量の赤毛が一度に入ることで、窓の中のあちこちにヒビが入っていく。


「ぐぬぬぬうう〜!!」


 メテットは必死に耐える。


(デグチまで!そこまで…!)


 そう思い前を向いた時、

 出口の窓から赤毛が迫って来ているのをメテットは目撃してしまった。


「ヒッ!?」


 メテットが驚いた拍子に窓が完全に壊されてしまう。


「「「うわぁあああああ!?」」」


 落下していくシズル、ラナ、メテット。

 落下する地面は全て赤毛で覆われており、黒い雫を涎のように溢れ出しながら今か今かと待ち構えていた。

 上からも窓を壊した赤毛の根が迫ってきている。


「ご、ごめんなさい! メテットが……」


「そういうの今はなしよメテット! 舌噛むからね!!」


(にしても釘だけでいけるか……!? いや、やるしかないのよ!!)


 シズルは両手に大釘を構える。


 それを見たラナはあることを思いつく。


「シズル! そのままで! 火よ! 〝包め〟!!」


「これは……燃える釘!?」


 ラナはシズルの両手に持っていた釘に火をつけた。

 その火はシズルの持ち手の部分は燃やさないように

制御されている。


「やっちゃってください! シズル!!」


「最高よラナ!! これならいける! メテット! 窓で私を先に下に!」


「リ、リョウカイした! 〝ヒラけ〟!」


 シズルはメテットの窓で加速する。


 そして地面いっぱいに覆われた赤毛を片っ端から焼き切っていく。



「オオオォォォリャァアアア!!!」



 ラナの火は魔力を燃焼する。

 赤毛を構成しているのは今まで取り込んできた魔物から吸い取った高純度の魔力。

 燃料としてこれほど良いものはない。


 燃えた赤毛から別の赤毛へと次々に燃え移り、ついには辺り一帯の赤毛は焼き尽くされた。


 シズルは大きく身を屈み、思い切り跳躍する。

 そして上から迫る赤毛の根に向かい、


 燃える釘で赤毛を両断した。


 それと同時に両手に持っていた大釘も燃え尽きる。


「やった! 流石ですシズル!!」


「ラナ。シタミてる?」


「へ? ひゃぁあああ!」


 落下中なのを忘れていたラナをメテットは抱えて、着地する。


「アブない」


「は……はい……すみません……」


「退いてーーー!!!!」


「「!?」」


 シズルの大声にラナとメテットは慌てて避ける。


ドカァァン!


シズルは派手に着地する。


「ふぅ。なんとか着地できた。」


「シズルはもっとアブない。」


 シズルは辺りを見渡す。赤毛も林も全て焼けて、辺りは焼け野原になっていた。


「とりあえず、ここらあたりはだいたい焼けたわ。しばらく安全そう」


「そうですか。でも一応確認しておいた方が良いでしょう。メテット。お願いできますか?」


「イマしている。どうもヤけてないアカゲはトウのモトヘカエっていっているらしい」


 メテットの言葉にラナは首を傾げた。

「帰っていくんですか? 全部燃えたんじゃなくて?」


(少しでも残ってたらくるんじゃないかと思ってましたが…)


「コウテイ。カミなのに、イきモノみたいなヤツ。シズルがコワかったんじゃないかとスイソク」


「ふーん。私が?まぁそれはそれで……」


「……そこ嬉しく思うところですか?」


 その時だった。


「お前からはおぞましさしか感じられん。あれらが恐れたのは種火だ」


 背後から声が聞こえたのは。


 振り向くとそこに男は立っていた。

 男は若いが、あちこちにひどい火傷跡があり、とくに顔の上半分は焼け爛れ、溶けたようになっていた。服は白いスーツを羽織っており、白いネクタイをつけている。また足に異常があるのか男は杖をついていた。


 シズルはラナとメテットを後ろに下がらせる。


「……何者?」


「お前らと同じ化け物だ。残念なことにな」


 ラナはまばたきをすることができなかった。暑くもないのに汗が流れ始める。

 目の前の男は見覚えがないはずだ。

 初めて聞く声。初めて見る顔のはずだ。


「ラナ……? ネツが」


「メテット。絶対にラナから目を離しちゃだめよ」


 シズルは背中から感じる熱でラナの様子がおかしいことを感じとっていた。

 しかし、この男から目を離すわけにはいかなかった。この男にある確信を持っていたからだ。

 メテットもラナとシズルの様子から、目の前にいる男がどういう存在なのかを理解した。


 そこからの行動は早かった。


「……ラナ、オちツかなくていい。メテットのコエをキいて」


 汗が蒸発する。自分の頭にモヤがかかっているのに今気がついた。


「本来ここには別の用事で来ていた。だが。ここまで長く灯った種火は未だかつてない」


 頭のモヤをかき分ける。『やめて』と心のどこかが叫ぶが知ったことではない。


「返してもらうぞ。それは僕のものだ。これでようやく悲願が叶う」


 ようやく見つけた焼けこげた記憶。そこに写っていたのは、


 ロウソクの騎士の中心にいた、

 ワタシ達を襲ったあの男。


「お前はぁぁぁああああ!!!!!」


 ラナの左目から業火が噴き出す。

 ラナの叫びを聞いたシズルは最高速度で男に向かって直進する。


 男は動かず、指をあげた。

 すると空からロウソクの騎士が落ち、シズルと対峙する。


 シズルはそれを釘の一振りで消滅させる。


 男はシズルからこぼれた黒い雫が一滴頬にかかる。

 男は不快な顔をしながらそれを指で拭いながら、手で合図を出す。


「やっぱりあんたが元凶なのね!! あんたがラナから目を……! お父さんを!!」


 男の周りにどんどんロウソクの騎士が集い始める。


「……汚らわしいな。」


「あんたがラナから奪った全てを!! 私があんたから奪ってやる!!!」






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