第29話 魔を喰らう塔

「ラナ、ありがとう。もうすっかり良くなったわ!」


 シズルは十分に体が温まり、ラナにお礼を言う。


「いえ、また寒くなったら言ってください」


「では、そろそろイこうか。にしてもアラタめてミるとオオきいな……」


 ラナ達は赤毛の塔より少し離れたところに来ていた。


 メテットはそこから、巨大な赤色の塔を見上げていた。


「あれは、マユか? アカイロのマユがいくつもくっついて、トウのカタチになっているのか。……あれのナカって……」


「あれ全部魔物ってこと? 赤毛の塔を作ってる魔物はどんな理由であれ作ってんのかしら」


「いえ、赤毛の塔を作っている魔物はいませんよ?あの塔を形成しているのは、赤毛そのものなのです」


「え?赤毛……そのもの?」


「はい。赤毛の本体は、魔物の血液である魔力を赤毛に変えるという魔法の持ち主だったのですが、いつのまにか、この世界から消えていたそうです」


「消えた? じゃあなんで赤毛も消滅してないの? あれも魔物の一部でしょ?」


「マモノのショウメツはジカンがかかる。トクにそのマモノがノコそうとしたトコロとかは。ショウメツのアイダにタマシイのカわりになるものがあるならそれをカクとしてソンザイできる」


 メテットが説明する。


「メテットがツクられたところなんかはニンゲンがマモノのイチブをブキとしてツカっていた。あれもオナじゲンリでタモっているのだろう」


「はい。赤毛の塔は捕まえた魔物を核として、その存在を保ち続けているんです。ついでに捕まえた魔物から魔力を吸い取ってあんなに大きくなったわけですね」


「生存本能のまま生き血をすする塔ってわけね。おっかないわ。というか、メテットやっぱり別の星とかから来たのね。改めてすごいことだって実感するわ」


 シズルはメテットをまじまじと見つめる。

 ラナも同様で、目を輝かせていた。


「そうですね! 人間なんて、見たことありませんよ!」


 ラナの言葉を聞いて、メテットはとても悲しそうな顔をする。


「メテットの故郷ってどんなとこなの?」


「……ここにクラべたらまだ、ヘイワなところ」


「いいですね。いつか行ってみたいです。メテット。よければ全て終わった時に連れて行ってくれませんか?」


「……イマは、もうないよ」


「え?」


「あるトキ、シンゴウがトダえた。センソウとかしてたから、タブンそれで……」


「戦争って……全然平和じゃないじゃない」


「ここにクラべたらゼンゼンヘイワ。メテットのホシのニンゲンがここにきたら、アワをフいてタオれる。……もう、イないだろうけど」


「……ごめんなさい。辛いこと話させたわね」


「カマわない。もう、オわったことだから」


 辺りに静寂が流れる。


「まぁ、メテットのハナシはまたベツのトキにハナそう。イマはもっとダイジなことがある。そうだろう。ラナ」


「…はい」


「準備はいい?」


「はい!」


「よし。とりあえず、林の中を探してみましょう。ここは隠れるとこもないし、林の中なら木に隠れながら進めて、上手くいけば騎士の油断している隙をつけるかもしれない」


 こうしてラナ達は赤毛の塔の方向へと進んで林の中に入っていった。

 少し歩くと、ちらほらと遠くに赤い糸が見えるようになっていた。


「あれが、アカゲ……カラまれないようにしないと」


「ここらあたりはまだ大丈夫みたい。でも一応かたまって動きましょう。もし絡まれたら引きちぎって助けるから」


「頼もしいですねシズル。頼りにしてます」


「! ラナ、シズル、カクれて!」


 メテットは何かに気づき、ラナとシズルを慌てて岩陰に隠れさせた。


「メテット何!? ってまさか!」


「キシだ。だがヨウスがおかしい」


「おかしいって何がです?」


「ブキをミにつけていない」


「……この世界一危険な場所でですか?」


「ああ。しかもタクサン。……アカゲのトウのホウコウにウゴいている」


「赤毛の塔に? 何よそれ。繭になるためにいくようなもんじゃない。生きるのに疲れたの?」


「それだけはゼッタイにない」


〈その塔をラナみたいに焼くんじゃないかしら〉


 シズルはラナの隠れ家で自分が言った事を思い出す


(……これは推測が当たっていた感じかしら)


「そうよね……ねぇメテット。そいつらってどれくらいいる?」


「シズルがムソウしてたトキとオナじくらいだが……まさかいくのか?」


 シズルは頷いた。


「あいつらをこのまま行かせるのはまずい気がするの」

「赤毛の塔にですか?」


「生贄大好きなあいつらが丸腰で赤毛の塔なんて、怪しすぎるわ。あいつら、あの塔を使って厄介なことしようとしてるようにしか見えないのよ」


「……タシかにイチリある。でもこのままトツゲキというわけにもいかない」


「キシュウをかけよう」


 ロウソクの騎士たちは一列に並んでひたすらただまっすぐに進んでいた。

 しかし、最後尾にいた騎士がピタリと止まると、他の騎士達も一様に止まる。

 その瞬間。最後尾にいた騎士の体から大釘が三本勢い良く噴き出した。

 飛び出した大釘はそのまま前にいた騎士を貫き、更に数本騎士の体から釘が噴き出す。

 それが繰り返され、釘は倍、更に倍とどんどん増えていき、最終的に先頭にいた騎士は釘の雪崩に押し潰された。


「奇襲、大成功ですね。シズル」


 窓からゆっくりとラナは出てくる。メテットから窓の流れの逆らい方を教えてもらったため、吹き飛ぶことはなかった。


「……」


 シズルは消えていく騎士達を睨みつけていた。


「シズル……?どうかしましたか?」


「なんだかこいつら、私達が来るのわかってたような……」


「まさか。……メテットのマドのヒカリをミられた?」


「いや、……気のせいかしら?」


「……それにしても、本当にたくさん来ているんですね。ロウソクの騎士達は」


「トウゼンこれでオわりじゃないハズ。キをツけてススもう」


「……そうね。行きましょ」


 シズルは違和感を感じつつも、ラナ達と共に赤毛の塔周辺を探索する。


 シズル達はまだ知らない。ロウソクの騎士の裏に潜む存在に自分達が認識されてしまったことを。


「ついに。ついに見つけた。浄化の火。この世界を清めるための。僕だけの太陽の種火よ」

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