第26話 黄金無双

「……うぅ、ハァ……」


 魔女が目を覚ます。


「早かったわね。起きるの。思いっ切りぶん殴ってやったのに」


 シズルは魔女の隣で体育座りをしていた。


「……」


「何? 私見てないで早くラナ戻してほしいんだけど」


「なるほド。殴り合いの末の友情……君は今から親友なんだナ」


「早く起きろ」


 くだらないことをほざいている魔女をシズルは片手で引っ張りあげる。


「イテテテ。まだわき腹ガッ。」


「ほら、今メテットが完璧な位置に首を置いてるから」


「マジョ! イマだ。ハヤく! ずれるマエに!」


 見てみるとメテットが本当にきれいに首を置いていた。


(拘束が引きちぎられていル。さすがだな親友。)


「おぉ首が切れてるようにはとても見えなイ。……白目をむいてるナ」


 ラナはまだ気絶から復活していなかった。


「……そこは、いいのよ。あんたは戻せばいいの」


「ふム。敗者はただ従うのみカ。わかったぞ親友」


「親友じゃねぇ。」


「〝戻レ〟」


 魔女の唱えた言葉によりラナの首の蓋が溶け、きれいにくっついていく。


「……あ」


「ラナ!よかった……」


「クビのチョウシはどうだ?」


「君が無事でよかったヨ。ラナ。」


「シズル、メテット……あと、え?」


 普通に魔女が味方面していて困惑するラナ。


「気にしないで、こいつやばい奴だから。おかしいのはこいつよ」


「やばい奴とは安直だナ、それはつまらなイ。もっと別の表現にしロ」


「こいつムテキか?」


 ラナは立ち上がり魔女の方を見る。


「えっと、……これってお礼言うべきですか?」


「当然だロ」


 シズルは無言で魔女の脇腹を手で突く。

 魔女は痛みで悶えた。


「とりあえずここから脱出しましょ。次は塔だっけ?」


「そうですね。隠れ家もダメになっちゃいましたし」


 隠れ家という言葉で、メテットはあることを思い出した。


「ハッ!? “ヨアけ”のジョウホウ! おいこら、ラナのカクれガどこやった!?」


 メテットは魔女に問い詰める。


「オッホッホ。そんなにがっつくな友ヨ。あの四角柱の建物ならあっちの方に——」


「すぐモドる!」


 魔女の指差した方向にメテットは窓でかっ飛んでいった。


「メテット、早かったわね。そんなに大事なの?」


「……より良い可能性があったのなら、走らずにいられないものサ。友もまた、探求する者というわけダ」


 魔女は意味深に言う。


(しかし、 “夜明け”が友の探していたものカ。あれをどうするというのカ。今はもう、誰にも近づけないのにナ)


「まぁ、走ることが大事なのダ。探求というものハ。いつだって果てではなく、それまでの中に答えはあル」


「「?」」


 辺りいったいに束の間の静寂が流れる。


「あ、そうダ。お前たちタフラ達はどうしタ? まさか消滅はさせていないよナ⁇」


 唐突に魔女が口を開く。


「タフラ?してないわよ。なんかあいつの仲間が急にタフラ裏切ってね。降参してタフラ見張ってるって言ったから置いてきたのよ」


「急にっていうか……初手でシズルがタフラの頭を釘で殴ったからでは?」


「……ふーム。やはりタフラ以外は人間すぎるナ。魔法を多くかけすぎたか?」


「……やっぱり貴方が眷属を人に変えたのですね。貴方父の眷属をほいほいと人に変えすぎですよ!」


「別にいいだロ。ラナと私の仲じゃないカ」


「今日最悪の出会いをしたばっかりです!」


「まぁ、その話はもう終わったことダ。ラナは研究出来ないし、本来の目的のタフラを探そウ」


「まだ終わってませんよ!?」


 タフラを探すため、目を瞑る魔女。そこで異変に気付く。


「ん? タフラ達いないゾ? それになんだこいつらハ?」


「……どうしたんですか?」


「……ぬッ!? 熱ッ⁈」


 突如として、魔女の肉の壁が焼き切れ、炎が噴き出す。

 それと同時にラナの周辺に窓が開き、メテットが飛び出す。


「ラナ! シズル! カベから……! カベからキシが!」


「えっ!?」


 壁から噴き出た炎の後から人影が出てくる。

 ロウソク頭の騎士達だ。

 しかも今回は1体2体どころではない。

 魔女の本体のあちこちに穴をあけ、30もの騎士達がラナを狙いに集って来ていた。


(狙いはラナか。怠惰亭にいたやつが生き延びてて、近くにいた騎士に私達の情報を伝えたのか? それにしてもどうやってここにいるってわかって……)


 シズルは少し考えたあとあることに気づく。そしてシズルは自分が魔女に生やした大きな釘を見る


(釘か! 私のことも伝わっているんならこの釘を見てきたのか!?)


「シズル……」


 ラナは不安げな表情でシズルを見る。


「メテットと一緒に下がってなさい。ラナ。…よってたかって、子供一人を襲うなんてとても許せないことしてくれるわね」


(このくらいの数ならいける。ただ、爆発は気をつけないといけないわね)


 シズルは静かに怒り、殺気を溢れ出した。


 そして、怒りに飲まれているのはシズルだけでなかった。

 シズルに謎の液体がかけられる。


「〝発動しロ〟」


 シズルの何かが変わる。


「……あんた、こんな時に何したの?」


「それは速さを変える魔法薬ダ。今の親友なら、倍の速さで動けるはずダ」


 魔女は騎士の方を向く。


「……騎士共、お前らの通り道にタフラ達がいたはずだナ? そいつをどうしタ?」


「……」

 

騎士は何も語らない。


「……腹に穴をあけるのは構わないサ。入ったやつを実験体にするだけだシ」


「その程度の穴ならすぐ塞がるしナ」


 騎士が通って来た穴が一瞬にして塞がる。これで、騎士達は逃げられなくなった。


「だが、お前らは今可能性の枝をへし折っタ。なら、貴様らの可能性を摘まれるのもやむなしだよナァ?」


 怒り狂った規格外の魔物が二体。

 狩る側と狩られる側は逆転する。


「抉って穿って釘塚にして」

「裂いて溶かして消してやル」


 そこから先はあまりにも一方的であった。


 シズルは目にも止まらぬ速さで正面の騎士達を抉り貫き釘を噴き出させ破裂させる。

 魔女も大鎌一振りで複数の騎士の腹を割く。


 騎士達は剣を持って対抗しようとする。

しかしそれはシズルによってへし折られ、使い物にならなくなる。


 騎士達は自爆しようとする。

しかしそれは魔女に止められ不発に終わる。


 シズルと魔女は止まらない。

 騎士達は残り五体となった。


 騎士は遂に奥の手を使った。

 騎士五体が集まり合体し、一体の蝋の巨人となった。

 ただの合体ではない。合体することでそれぞれの魂の境界をぼやけさせ、意図的に堕転を引き起こす。


 その硬度も、強さも騎士が五体の時とは比べ物にならない。堕転したことで、体が膨張し、黒い雫がポタポタと流れ始める。理性が薄まり、暴れ始める。


 今ラナを手に入れることは叶わない。故に障害を少しでも削ろうとした。


 しかし、シズルと魔女は踏んできた場数が違う。

 片や島一つを滅ぼして、片や勇者と共に魔王を討ち果たした者。


 二人にとって蝋の巨人は形の悪いデク人形にすぎない。


 大釘と大釜が交差する。


 蝋の巨人は四つの蝋の塊となった。


「〝溢れろ〟」

「〝解けロ〟」


 そしてその塊達も一瞬で、液体か釘塚となる。



 こうして、ロウソクの騎士団は二体の魔物によって壊滅した。







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