第25話 激闘


「オラアぁぁ!!」


「ヌウウウゥゥっ!!」


 シズルの大釘と、魔女の杖が火花を散らす。

 しかし、力はシズルの方が上であり、魔女は吹き飛ばされる。


「シズル! ブジだったのか! ……そうだシズル。ラナのクビが!」


「ラナは一応大丈夫よ。メテットも無事でよかったわ。ちょっとタフラと愉快な仲間達しばいてたから遅れちゃった」


(ユカイなナカマタチ?? それってまさか……)


〈他三体とは一線をカクしていル!〉


 メテットが魔女の言葉の思い出していたその時、


「〝起きロ〟」


 魔女の声が聞こえ、シズルは大きく横によける。攻撃は見えなかったがよけきれなかったらしい。

 シズルの右手がぼとりと落ちた。


「ちっ!」


 魔女を見てみると、杖の宝玉が刃に変わり、大鎌となっていた。

 シズルはよけた拍子にメテットの方に向かい、メテットに左脇に抱えていたものを丁寧に渡す。


「メテット、ラナお願い。あいつ強いわ」


「えっクビ!! あっラナ!? げんなりしてる!?」


 シズルから渡されたラナはシズルの激しい動きに完全に酔っていた。


「……オぉ……目じゃなくて、口から火が出そう……」


 メテットにラナを預けたシズルは、自分の切断された右手を見つめる。


(再生しない。いや、傷口から釘も出ていない。体が怪我として認識していないのか?)


「魔法だヨ。オマエの切断面は今、蓋に変えられていル」


「……蓋?」


「そう。だから血は出ないし、再生もしなイ。面白いことに消滅もしないのサ」


 魔女は説明を続ける。


「消滅は体を構成している魔力が霧散することで起こル。霧散するべき穴が塞がっているからそれが起こらないのだと私は考えていル」


「考えている? あんたの魔法じゃないの?」


 魔女はニヤリとしながら答える。


「自分のことほどわからないものだろウ? お前こそ、自分の魔法の原理を知っているのカ?」


「マドわされるな! ヤツのマホウはヒトつじゃない!」


「……ばらすのは良くないナ。友ヨ」


 魔女は嫌な顔をしてメテットに指摘する。


「……友? それに1つじゃないって……」


「トモダチじゃない! ヤツはホカのマモノのマホウをタめて、ツカうことができる! サイショはヨウスをミるべきだ!」


 メテットの助言を聞いたシズルだったが、


「…いや、様子見はなしよ。メテット。一気に叩く」


「そんな!? キケンだ!」


 シズルは魔女を見ながら話す。


「あれは長期戦こそが得意と見たわ。何個あるかわからない魔法を警戒するより、出させる前に決着をつけてやる」


「……いいネ、勢いのあるやつは好きサ」


(魔法をかける隙が生まれやすいからナ)


 実のところ魔女は短期決戦でも、長期戦でもどちらでもよかった。あえて最初に自分が複数の魔法を扱えることをばらしたのも、相手に警戒させ、精神を削るためだ。

 “黄金の夜明け”により魔物化した魔女は、長い年月を経て盤石の土台を築き上げていた。並の魔物では魔女の余裕を崩すことは叶わない。


 魔女にとっての誤算は、相手であるシズルも“黄金の夜明け”により魔物化した例外であったことだ。


「その余裕、いつまでもつかしら。場の有利はこちらにあるわ」


「……どういうことダ?」


「ここはでっかい魔物の腹の中ってことよ」


「――〝噴き出せ〟!」


 シズルは左手から生やした大釘を地面としている魔物の腹の肉に突き刺した。


「⁉ ぐっあぁぁぁぁぁああああ!!!!」


 釘が数本、超巨大な柱となって、魔女の本体を貫通する。

 意識体である魔女にも激痛が走り、倒れこんでしまう。

 しかしそのおかげで、魔女の意識体は巨大な釘に潰されずに済んだ。


「あら?」


(魔物の肉壁をでっかい釘に変えてそれを使ってあいつを攻撃しようと思ったんだけど…)


「ああ! ぐぅう! はぁっ! ……ははははハ! こいつは想定外ダ! なんという力! こんな戦い方があるなんテ! 面白イ!」


 シズルはうめき声をあげ笑っている魔女を見てあることに気付く。


「……もしかして、あんたこのでっかい魔物の一部かなんかなの?」


「はぁっ、はっ……ご名答。私はこの巨大な魔物の意識、魂ダ」


 魔女はゆっくりと起き上がり答える。

 それを聞いたシズルはにやりと笑う。


「へぇ~ますます得じゃない」


「シズル! 刺すのいいですけど揺れがっ! ……ウッまた気分が……」


「なんであいつらタててるんだ!?」


 魔女の本体は内側から釘で貫かれたためもだえ苦しみ暴れていた。

 それにより腹の中全体が揺れておりラナとメテットは変なところに転がっていかないようにするので精一杯だった。


「ラナ、メテット。悪いけど少し辛抱して。あともう一発……」


 シズルがもう一本の釘を魔女の本体の肉に突き刺そうとした時、


「さすがにこれ以上痛みで暴れたくはないナ」


 魔女は自分を潰そうとした釘の柱に手を当てて


「〝ホドけロ〟!」


 魔女がそう唱えると三本の釘の柱は一瞬にして溶けシズルの足元を含む一帯に液体が広がる。


「これは!? シズル! 逃げてください!」

 ラナがシズルに忠告する。


「〝顕れヨ〟!」


 釘の先端が下から一気に突き出す。


「ぐっ!」


 シズルの足の裏や腹部に釘の鋭い先端が突き刺さる。

 自身の魔力で作られた釘の為、刺さったからといってシズルから釘が噴き出すことはない。

 だが、シズルは機動力がかなり削られてしまう。

 魔女は杖についているものとは別の宝玉を取り出す。


「〝起動しロ〟」


「なっあれは……メテットのマドが!?」



 その隙に魔女はシズルにメテットを分解した時に得た窓で接近し、大鎌を振りかぶる。


「断面を、見せロ!」


 魔女はシズルに切りかかる。


(蓋にするやつか!)


 魔女はシズルに向かって縦横無尽に振り回す。

 シズルは受けるわけにいかず、よけ続ける。

 しかし体のあちこちに釘が刺さっていたため、十分に動けず、ついには左腕を切り落とされてしまう。


「っ!」


「これで釘を持つことはできなイ。次は口にでも釘を咥えるカ?」


 魔女は大鎌をシズルに向ける。


(……まっずいわね。)


 シズルは文字通り打つ手がなくなった。

 そんな時だった。

 シズルの背後にメテットの窓が開く。


「シズルーー‼」


ガブっ


「いったぁ!?」


メテットの窓からラナの頭が飛び出し、シズルの右腕に嚙みついた。

ラナは右腕の魔力を吸った。


(! あの娘ハ!)


 魔女は大鎌を振り下ろす。

 しかし鎌はシズルによって持ち手のところを釘で受け止められ、途中で止まってしまう。


「……蓋にしたところを吸われたカ」


「ええ。ついでに、さっき釘が刺さったところも治したわ。……覚悟、いいわね?」


「ハ! それはお前がするのサ」


 シズルは刃に触れたら負け。

 魔女は先端が刺さったら負け。

 最後の攻防が始まった。


「オオオオ!」


「ウラアァァ!」


 よける。刺す。刈る。目まぐるしく戦況が変化する。

 シズルと魔女の周りで火花が散り続ける。それは、永遠に続くかに思われた。


 だが、徐々に。


 魔女の動きが鈍り始める。


(……~!! 釘の傷ガ!)


 魔女はその巨体ゆえに、治すのに時間がかかっていた。


 それに加えて。


「ハアッ!」


「……!?」


(左腕ガ…!?まさカ)


 シズルにはラナがついていた。

 魔女の大鎌が打ち上げられ、魔女は大きな隙をさらす。


(しまっタ!)


「うおおぁぁぁあ!!」


 シズルは魔女の脇腹を大釘の頭部で思いきり殴打した。


「ぐ……あ…………ハ……ハハ」


 魔女はその攻撃に耐え切れず、倒れ伏した。


「……本当に危なかった……ありがとうラナ。助けられちゃったわね……」


 シズルはラナにお礼を言うが、ラナは反応がない。


「……ラナ?」


「……ウ、ウ。」


 シズルの全力戦闘の中一番動く左腕に嚙みついていたラナ。

 元々酔っていたのにシズルの常識はずれの動きに耐えきれるはずもなく。


「――ギュウ」


「ラナァーーーー!!!?」


 ラナは白目を向いてぼとりと落ちた。








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