第27話 さらば魔女の腹

「騎士達が……あんなあっさり……」


 ラナは絶句していた。自分のトラウマが怒涛の勢いで蹴散らされていったためだ。

事態を飲み込めきれずに、ただ口を開けて硬直していた。

 メテットも同様であった。騎士は決して弱い存在ではない。この魔物の世界でもロウソク頭の騎士の強さは上位の部類に入る。

 剣を巧みに扱い、痛みをまるで気にしない。分裂だってできるしいざとなれば自爆か合体をする。

 そんな存在が今シズルと魔女の前には手も足も出なかった。

 メテットは戦慄する。


(カクシン。あのカラスのカオのやつもシズルとオナじ“ヨアけ”からのマモノ。タシかにマモノはナガくイきるとそれだけマリョクがタまりツヨくなる)


(だが、シズルといい“オウゴンのヨアけ”によってマモノカしたソンザイはナニかがチガう。これはイッタイ……)


 一方、ラナは、


(シズルの強さは知っていたつもりだった。でも強化されたからとはいえ、これほどとは……! これなら、これなら本当に……!)


 ラナが復讐が現実味を帯びてきた事を実感している間、無双していたシズルと魔女はというと。


「〝ホドけロ〟」


 魔女はシズルにかけた魔法を回収していた。


「……? なんか溶けてる感じするんだけど、あんた速度変える魔法を回収する以外になんかしてない?」


「ああ、せっかくだから少しもらおうと思ってネ。」


「フンっ!!!」

「ハッ‼」


 シズルの拳を魔女は受け止める。


「怒るな親友ヨ! 君の魔法薬は黒い真珠に変えると誓うぞ親友!」


「私と! あんたは! 親友じゃない! 敵だ!!」


 魔女はどこまでいっても魔女だった。 


「ったく……」


 結局少し体を魔法薬に変えられてしまいシズルは嫌な顔をしていた。

 メテットはシズルをなだめる。


「まぁキゲンナオして。メテットなんかブンカイされてカラダのどこかのアマったネジをワタされたのだからそれにクラべたらカルいものだろう?」


 メテットの衝撃発言にラナとシズルはぎょっとする。


「えっあんた大丈夫なの? あいつのクチバシへし折ろうか?」


「メテット。怒りたかったら怒っていいんですよ……?」


「……もうオコったアトだし、カラダのテンケンしてもモンダイはミアたらなかったし、もういい」


 メテットは話題を切り替える。


「それよりもハヤくここからデよう。 “オウゴンのヨアけ”のジョウホウもエられたし、アカゲのトウのバショもカクれガにアったチズでハアクした。メテットのマドでそこまでイこう」


「……赤毛の塔まで行きたいのカ?」


 魔女がひょっこりとラナ達の会話に混ざる。


「……」


 シズルは露骨に嫌な顔をする。


「そうですけど……なにか?」


 ラナは少し不安そうにしながらも魔女に聞く。


「ならば私が送ろウ。メテットの窓よりも早いゾ」


「なっ!? ふざけたことをいうな! いくらオマエでも……!」


「君の魔法は一度道を作らないといけないから、遠いところだと形成に時間がかかるだろウ?私の方法なら今すぐそこまで飛べるぞ」


「……そんな」


 メテットは絶望の表情を浮かべる。自分の専売特許の完全上位互換を出されてはそうなるのも仕方がなかった。


「気を落とさないでメテット! 私、メテットの窓いいと思ってるわよ! ……最初吹っ飛ばされたけど」


「……スミマセン……あれはアトでナガれにサカらうホウホウをオシえるつもりで…ちょっとマがサしたってカンじで…」


「シズル心の声漏れてます! メテットの窓の中の進むあの流れる感じ楽しくて私は好きですよ」


「うーン。親切心で言ったつもりだったガ……。友よ。君の魔力だってただではないだろウ? こちらは親友からもらったのでネ。それに対する対価というわけだヨ」


「渡してないわ。そこ勘違いしないでもらえる?」


 シズルは抗議するが自分にとって都合の悪い話を聞く耳を魔女は持っていない。


「それに友ヨ。早さは確かに私の方が優れているが、その他の点では私の方法より優れていることばかりじゃないカ」


「……ナニ?」


「例えば、君の移動方法は安全性に秀でていル。通っている間は外から見えないし、危険物が迫ってきても道を動かすことで避けられル。君の親切心が形になったようじゃないカ。安全で速イ。この二つを君は高い水準で両立させていル。実に素晴らしいことだヨ。」


「……」


 メテットは沈黙する。それは、魔女に褒められて嬉しかったからでは決してない。


「なぁ、さっきのハナシをキくカギりだと、オマエのホウホウはアンゼンをまるでコウリョしていないようにキこえるんだが……」


「角度は合わせタ。高さも大丈夫」


ラナはこの後魔女がとる行動が薄々わかってしまった。


「――メテットぉ! 急いで窓を開いてください!!」


「ダメだ! クチがトじてる! これではソトにデられない!」


「では、発射」


「発射!?」


 魔女は叫ぶ。


「飛んでケ!!」


 魔物の体内に暴風が巻き起こる。

 魔女の意識体はいつの間にか足を本体と同化させ、飛ばないようにしていたが、

シズル、ラナ、メテットは逆らうこともできず吹き飛ばされる。


「イヤァァァアアア!!!?? あんた絶対しばいてやるぅぅぅ!!!」


「ひゃぁぁあああああああ!!!!!??」


「うわあああああ!!?」


 そしてついに三体の魔物達は魔女本体からとんでもない勢いでぶっとんでいった。


「アアアアアア!!! メ、メテットォォ!! 貴女の窓でどうにかならない!!?」


「……更に加速しちゃうけどいいか!!??」


「クソォ!! ……ラナ!? 落ち着いてる!?」


 莫迦みたいな空の旅で唯一ラナは騒いでいなかった。


「……そうか! もしやカゼをカンじていたりするのか!!?」


「そういえばラナ昔飛べてたみたいなこと言ってたわ!! もしかしてこの状況を打開でき――」


 ラナの顔を見てみると青ざめながら、何かを悟ったような表情をしていた。


(お父さん。多分もうすぐ会えます)


「諦めてるだけだこれーー!!!???」


 シズルの声が空に響く。


 隠れ家から始まった、魔女の腹での大騒動。

 騎士がひしめく赤毛の塔まで空の旅。

 果たして少女は復讐を果たすことできるのか。

 そもそも無事に着地できるのか?


  復讐の旅はまだ続く。










「あれは……ラナか!? 許せん。余の頭上を!」


 仲間と共に脱出した蝶人は空を見上げる。


「……必ずや、貴様を倒しこの世の王となってやるぞ! ラナ!」

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