第11話 時空属性


「全く、死ぬかと思ったぞ」


 ブルー。

 名の通り、純白の肌に青い瞳と髪を持つ女。

 透過性の高いハーフブルーのドレスは、女性的というよりは。


 神秘的で、不思議な感じ。


「私は人工知能をベースに生成された管理用精霊です。

 西暦2530年7月に製造開始。

 約5年で実用段階となり実装。

 その後、幾つも複製品が作られた中の一体。

 それは、十分な規格の元運用され、人間の身体情報と心理状態の全てを理解可能な完全知能。

 つまり、私には不明はあっても失敗は有り得ません」


 俺は宮廷魔術師として指揮官の位を持っていた。

 更に、魔術の研究者としても多くの結果を出した。

 そんな俺でも、この女の言葉は半分程も理解できない。


 それだけのベース知識の差。


 面白い物を手に入れた。

 俺の人生、まだ少し楽しめそうだ。

 そう、俺は内心ごちる。


 トアは一度、自分の村があった場所に行きたいという事だったので、竜牙兵を10匹程護衛につけて送り出した。


 俺が残ったのは、少し天空島でやりたい事があるからだ。


「拠点を作成しようと考えている。

 何かアイデアはあるか?」


「環境設定を変える事で簡単に拠点は生成可能です」


 ブルーから杖の使い方はあらまし聞いた。

 この東地区の気温や湿度、重力すらも操作できる。

 そんな機能がこの杖には宿っているらしい。


「ですが、それは推奨いたしません」


「何故だ?」


「この天空島は種の保管庫です。

 現在地上には生息していない多くの種が生息しています。

 環境を変えた場合、その種を絶滅させる事になるかと。

 蟲、植物、動物。彼等は固有の器官や生成構造を持ちます。

 例えば蜘蛛や蚕の糸等です。

 その種が絶滅した場合、科学的に再現できない物質の入手が不可能になるというデメリットが存在します」


 なるほど。

 確かに、長期的に見ればそれを絶滅させるのに得は無い。


「分かった。ならば自力で造ろう。

 しかし、この天空島には外敵が多すぎる」


 巨人。龍。幻獣。

 多くの種が生息している。

 仮に家を建てても、一踏みで木端微塵だ。

 トアたちはどうやって家を作っていたのだろうか。


「結界系の術式所有者は居ないのですか?」


「結界か、まぁ知り合いに居らぬ事も無いが今は……」


 王国には戻れない。

 王国の知人に頼るのは、その者の迷惑になり兼ねん。


「それに、どうやって結界を維持させる?

 大人数を用意するのはちと難しいぞ」


 俺の空間魔法から都市を守る結界もある。

 けれど、それは複数の魔術師がローテーションで行っている防衛だ。


 個人で結界は維持できない。

 それは魔術師にとっては常識だ。


「術式を転写して魔道具に再現させる事ができます。

 その魔道具の作成方法はクラウドからインストール可能。

 最初の一度目を使う者さえ居ればいいのですが」


 もしそれが本当なら国宝級の魔道具だ。

 何せ、魔法を恒久的に維持できると言っているのだから。


「ですが、結界が不可能ならば要塞を組む必要があるでしょう。

 土属性の高位術者が居ればいい訳ですが」


「その様な者はいないな……

 俺の知り合いでも上級レベル3が限界だ」


 恐らくブルーの言う高位とはもっと上のランクだろう。


「熟練度さえあれば階級は関係ないのですが……

 まぁ、居ない物は仕方ありません。

 であれば、現状の拠点としては洞窟しかないでしょう。

 入り口を竜牙兵に守らせれば安全は確保されます」


「……それしかないか」


 空印は既に書き直している。

 天空島の崖付近からこの洞窟だ。

 青龍に食わせた物ももう解除済みだ。


「それよりもマスター。

 当初の目的をお忘れですか?

 老化現象にも困った物です」


「忘れとらんわ!」


 く……

 この娘、偶に毒を吐く。

 余りに真剣な表情で言う物で。

 しかも、言い終えたあと「え?」みたいな真顔をする。


 殴りてぇ。


「それならば良いのですか」


 俺のツッコミ、冷静にそう返し始める始末。


「分かって居る。

 時空属性魔法の試し撃ちであろう?」


「はい。

 空間魔法の上位属性である【時空属性】

 そのレベル1は、【再活性リターン】です」


「しかし、今だに信じられん」


 ブルーから魔法の効果説明は受けた。

 しかし、それは魔法と呼ぶには奇跡的過ぎる現象だ。


「効果時間は1時間。

 その間、貴方の全ての能力は全盛期となります」



 それが、この魔法の効果らしい。


 因みに、その魔法の発動中の俺を見て。

 トアは俺にこう言った。


「誰っスか、君……」




 ◆




「戻ったぞ」


 メイベルの屋敷へ空門で戻る。


「随分、懐かしい顔になった物だね。あんた」


 少し目を細めて、メイベルはそう言った。

 髪が黒くなった。

 皺が無くなった。

 肌が艶を持った。

 それ以外にも幾つもの変化があって。

 それは、見てくれ以上に身体能力や思考能力にも影響を与えている。


「あぁ、新しい魔法を覚えたんだ」


「これじゃあ、もうジジイ呼ばわりはできないね」


 切ない。

 そんな表現は、きっとこういう時に使うのだろう。

 メイベルは手で口を隠す。


「良かったじゃないか。若返れて」


「いや、それなんだがな……」


「ん?」


 感覚的に理解できる。

 魔法の効果時間が切れる。



 ブヨン。



 そんな変な音と一緒に、俺の姿が戻る。


「へ……?」


 そう驚いた次の瞬間には。


「ぷっ……」


 と噴出していた。

 このクソババアが。


「爺さんの若作り、失敗っスね」


「強化魔法の類ですので」


 後ろから、トアとブルーがそう言ってくる。


 良いだろうがよ別によー。

 ちょっとの間でも若返れるんだからよー。


 なんて、若者ぶった事を考えてみるが。

 それでも、肉体年齢に思考も寄せられる。

 戻ってから、身体が気怠く感じ、メンタルも少し暗めというか冷静になった。


「まぁ、あんたのお笑い芸はもういいよ。

 それで、後ろのお嬢さん2人は?」


「ギルドで受付をやっていたら天空島に誘拐されました。その後大泣きさせられて言う事聞かされてるッス。

 トアっていいます」


「眠っていた所を叩き起こされ、今はマスター呼びを強制されております。私はブルー・プラネットと申します」


 お前等さぁ!

 もっとマシな自己紹介あるよね!


 ちょっと、若い思考引っ張られとるな。

 儂、爺、ジジイ。


「いや……違うぞメイベル、俺は何も……」


「うぅ……思い出したら涙が」


「私も、このスケスケのドレスを舐める様に見られていた事を思い出してしまいそうです」


 おぉし、こいつ等は後で殴る。

 顔を。


 俺は、密かに握り拳を作った。


「はぁ……夕食にしようかね。

 少し、話を聞かせておくれ。

 積もる話もありそうだ」


「え、私も手伝うッス! メイベルさん!」


「私も僭越ながらお手伝いさせて下さい。

 料理の能力も私は最上と自負しておりますので」

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元宮廷空間魔術師の天空領地 水色の山葵/ズイ @mizuironowasabi

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