第10話 神代の箱舟


「それで、結局これは何なのだ?」


 青い宝玉のついた杖を持ち上げる。

 それを見ながら、トアリ……

 いや、トアは答えた。


「伝説上の杖っス。

 村の近くの碑石にそれに付いての記録が残ってるんです」

 使い方も大体分かるっスよ」


「使い方依然に、用途も良く分からんのだがな。

 制御デバイスと言っていたが……」


「この天空島には四神と呼ばれる特別な魔物が存在します。

 少なくとも、天使族の村ができた頃から彼等は存在していました。

 東西南北に異を構え、不動。

 そんな怪物を討伐する事で、その者は『フロアマスター』へ至る事ができるらしい……いや、事実そうっスね。

 実際、その杖は青龍の死骸の中から現れた訳ですし」


「どうやって使う?」


「簡単っス。

 コマンドコンソールって呟くだけですから」


 ふむ。

 呟く事に躊躇いは無く。

 俺は声を出す。


「コマンドコンソール」


 その瞬間。

 青い宝玉が光を発し、空中に文字を描く。

 同時に、文字と同じ内容の音声が響いた。


『ユーザー名を登録して下さい』


「なに?」


「名前を口に出して言って下さいっス」


「ノア……ノア・アルトールだ」


 更に、幾何学的な光の線が文字を追加していく。


『ユーザー名:ノア・アルトール』

『セイリュウ討伐者として、東京マスター権限を付与します』

『機能が解放されます』


・統括精霊

・竜牙兵生成

・竜牙兵命令

・環境設定

・魔力貯蔵


『民間用魔術アプリケーションの完全開放を確認しました』

『軍事用魔術アプリケーションのインストールが実行可能です』



 そんな声。

 それを聞いて俺は呟く。


「意味が分からん……」


 その呟きに応える様に、文字と音声が再び追加される。


『さっさと私を召喚して頂けますか。ノア……』


 今までの言葉とは違う。

 それは説明ではなく、明確な意思が宿っているように思えた。


「私が使った時は、こんなの無かったっス。

 多分、討伐者の限定機能……」


 魔も邪も蛇も。

 俺にとっては研究対象でしかない訳で。

 臆すのも馬鹿らしい。


『私の名前はブルー・プラネット。

 東京制御鍵付属の統括精霊です。

 さぁ、名前を呼んでください。

 ――マイマスター』


 俺は、言われた通り口に出す。

 ここまで来て、止まる理由は何もない。


「ブループラネット」


 今までとは違うパターンで杖が光る。

 その光は、空中に人型を形成していく。


 光の糸が人型を作る。

 次の瞬間、糸の束でしか無かったそれが完全な人として飛び出してきた。


 身長は大体俺と同じくらい。

 水色のドレスを着た、真蒼の長髪の女。


 それはスカートの裾を持ち上げ、流暢に挨拶をして。


 その碧眼でこちらを捉え、言った。


天空の箱舟スカイアークの四分の一の権利を保有する貴方の補助を務めさせて頂きます。

 統括管理精霊、ブルーとお呼びください」


「すかいあーく……

 色々と分からない事が多すぎる。

 説明はして貰えるのだろうな?」


「勿論。私にはヘルプ機能も充実しています。

 まずは、この天に浮かぶ箱舟の創成から。

 順を追って、説明させて頂きましょう」


 そうして、ブルーは語り始めた。


 先ほどの青い光で、映像や画像を生成し。

 それを交えての分かりやすい説明だった。



 大昔。5000年近く前の話らしい。

 我々の祖先となる人類がこの星の上には存在した。

 けれど、その人類は滅びた。


 天空島は、その時の人類の持つ技術や生物を後世に残すための物だったらしい。


 しかし、文明がある程度進まなければその技術を使っても、また人類の滅亡に力を使われるかもしれない。


 そんな危惧から、青龍を始めとした【四神】と呼ばれる守護者を作った。

 それを討伐できる文明レベルを持ってして、技術提供が許可される。

 そんなプランだったらしい。


「つまり、この島はタイムカプセルと言う訳だ……」


「その通りです。

 けれど、まさか単独の武力で青龍が討伐されるとは」


「このお爺さんは地上でもバグに近い強さっスからね」


「なるほど、トア様のご指摘は的を射ているかと。

 マスターの生体情報をスキャンしました。

 民間用の術式アプリが戦闘用の領域に到達している。

 ロックが無いとは言え、自力で到達した記録など古代にもありませんでした」


 術式アプリ。

 ブルーが言うには、俺たちが使っている魔法の事らしい。

 遺伝する『ナノマシン』と言っていた。


 そして、この時代で神級レベル5と呼ばれる魔法行使。

 それは、古代でも特別な事だったようだ。


「本来は強化手術と薬物投与によって強制的に覚醒させる能力です。

 しかし、レベル5に至っているという事は、軍用アプリが待機状態になっているという事になり……」


「もう少し、分かりやすく言って欲しい。

 こう見えて歳は結構行っておる」


「どう見ても80を越えた見た目かと」


「はぁ? まだまだ若いですねって言われるんだが?」


「それはアレっス、社交辞令っス……」


 は……?

 言われるんだが……?


 口を開けて地面を見つめる。

 そんな驚き方をしている俺にブルーは言い直してくれた。


「マスターの空間魔法を上位属性に拡張する事ができます」


「上位属性だと……?」


「はい。空間属性の上位属性。

 それは、【時空属性魔法】です」


 ブルーはこう付け加える。

 古代でも、使える者は稀有な術式でした。


 と。


「もっと、強くなれるという事か……?」


 最強。

 俺がそう呼ばれる理由は幾つかある。


 しかし、天衣を手に入れるまで。

 つまり、数日前の俺の個人戦闘力は、そこまで認められては居なかった。


 あくまでも、一瞬で軍を進撃させる事ができる。

 それが俺の強さだった。


 けれど。

 天空島で多くの魔物を相手取って。

 青龍という巨大な怪物を倒して。

 俺はもっと渇望していたのだと気が付いた。


「この歳で怖い者も無い。

 貰える者は貰うとしよう」


 名実ともに、最強の魔術師になる。

 それも、面白そうだ。


「では……」


 そう言って、ブルーは俺に一歩近寄った。


 その作り物の様な整った顔が、俺の顔に近づいていく。


 艶やかな唇が目立って……



 ――ブスリ。



 俺の首にブルーの人差し指が。

 極太の針の様に尖った指が。


 刺さった。



「いってええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」

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