円卓会議③

 セルマとイヴを中心に空気が揺れ、荒ぶる変異力が皮膚をピリつかせる。既にお互いが攻撃の有効範囲、一触即発の位置にいる。


 数秒、時計の針が進む。何も言わずして二人は瞬時に席から飛び出し得物を具現化させる────直前、その動きは


「「ッ!!!」」

「静粛に。ココは話し合いの場ですよ」


 鎖や縄にも似た"空間"がぐるぐると三人の体に巻き付く。通常の拘束具を用いて上級職員を制止することは出来無い。つまりアレは──────。


「エマ、君の能力かい?」

「ええ、ここで暴れられても困りますので」

「なんで自分マデ……」

リーも油巻いてたでしょ」


 そんなぁと項垂うなだれる李を横目に、イヴとセルマは何か言いたげな視線を送る。その意図を汲み取ったエマはやれやれ、と拘束を解く。


「個人的に皆さんの戦闘を見てみたくはありますが、ここは話を進めましょう。正直キリがありません」

「うんうん、それもそうだね。僕も部下を待たせてるし早いとこ終わらせよう」


 その発言に不満げな表情を見せつつ、二人は大人しく下がった。ふっ飛ばされた椅子を取って元の席についた。

 そしてオリヴァはそれぞれに目配せした後、ゴホン、と咳をして話を戻した。


「………よろしい。それじゃあ気を取り直して次の議題は────」



「と言うわけでA級職員を増やし、組織全体の強化をしていきたい。戦闘教育はもちろん、素養のある者には今後とも次級相当の任務を振ってほしい」 「あのぉ、一ついいですかぁ?」

「……なんだね?」


 少女が手を挙げた。いつも通りの落ち着き払った態度で、局長に意見を上げた。


「試験的に私もA〜S級相当の任務を部下に振ったんですが、前回それで死んじゃったんですよぉ」

「oh、それは辛いね」

「いやまあ、その子は生き返ったんですけど」


 職員達の頭の上に「?」のマークが浮かび上がる。あー、とイヴは反応を察しつつも説明を省き、案を提示する。


「こほん。でですね、階級が上がるごとに危険リスクが高い分、職員家族に対する"保障"みたいなのを作って欲しいんです」

「………具体的には?」


「難度の高い任務に対して高い給与が払われる。しかしその死後、高い確率で遺体が跡形も無く消える、または発見されないことはよくあります」

「確かに、さきの外交官なんてその典型例だもんね」

「そしてその結果、生命保険等の会社から認可が下りず払われない。または死亡証拠が無いため失踪扱いになる、という事例が発生しています」

「…………」


 オリヴァは顎に手を当てる。悩むその様子に、べネップが後押しをするように口を開く。


「局長、その件についてはボクも考えていました。職業柄、ボクたちの死生観は世間とズレています。死亡率の高いA級を今後増やすなら、職員家族のフォローは必須事項と思います」

「予算はどうするんだい?」

「上級職員の社会に対する貢献度はそれこそ英雄。抑えた被害コストを加味するなら、勘定としては安いぐらいね」


 職員には法外な給与が与えられている。そして家族の生活保障と精神的なバックアップもあればより良い働きが期待出来る。なら、費用対効果は高い。

 他のメンバーの意見も同様、反対も無くオリヴァはよろしい、と頷いた。


「言いたいことは理解した。イヴの案は国連に稟議を出しおく。そして必ず、通すと約束しよう」

「よろしくですぅ」


 おーー、と拍手と穏やかな雰囲気が会議室を包む。先程まで険悪な態度だったセルマも良いね、と素直にイヴを称賛していた。そんな様子に局長オリヴァは感動していた。


「それにしても───」

「ええ、まさかですよ……」

「どうしたんだい? 二人して目頭を抑えて」


 後ろに控えている副局長エマも下にうつむき、目元を指でこする。そしてルーカスの質問に二人は顔を合わせ、コクリと共感した。


「すまない……君達がマトモな意見を出してくれるなんて、思ってもみなかったんだ……」

「局長、私今、涙で前が見えません………うぅ」


 ぽたぽたと机と床の上に雫が落ちる。そんな涙を浮かべるトップを前に部下達はみな神妙な顔つき、そして絶妙なタイミングで口を開いた。


「「「もしかして喧嘩売ってる?」」」

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