円卓会議②

 セルマの発言に、その場にいた者達は驚愕を隠しきれずにいた。予想もしない答えが最悪の可能性を示していたからだ。


「……根拠はあるのですか?」


 静寂の中、エマは一声を放った。彼女は特異局のNo.2であり、局長オリヴァとほぼ同等の権限を持つ唯一の職員。そんな彼女は今、セルマに対する猜疑心さいぎしんを抱きつつも他職員の反応を探っていた。


「いいえ。勘の域は出ないわ。現状の情報だけでは何とも言えないもの」

「セルマ、憶測だけの発言は混乱を招く。控えてくれ」

「……失礼」


 安堵・苛立ち・疑惑。様々な反応はあれど怪しい者はいない。そしてオリヴァに叱責されるセルマを見て杞憂だったか、とエマは胸を撫で下ろした。


 それでも一度放った言葉は返らない。険悪な雰囲気ムードが円卓に漂う。そんな様子を察してか、ルーカスはパチンッと指を鳴らした。


「そういえばべネップ、君の研究は順調かい?」

「ん……? ああ、特殊薬物の中和ですか? 完成の目処は立ちそうですよ。成功例が日本で現れたらしいので」

「おお! それは良かった。黎明期からここ数年、特殊犯罪は増加の一方だからね。女性の被害も増えてるから僕も気になってたんだ」

 

 明るい話題のおかげか空気が変わる。二十年以上前、宇宙との邂逅によって流れ込んだ資源や道具。

その中には人類の助けになる物もあれば、逆に災いを齎す物もあった。

 医学の進歩と同時に人類の医療技術では解析出来ない"特殊薬物"は最たる例の一つだ。


「ここ最近怪しい連中の情報も耳にしますし、レイド星の件も含め世界中がきな臭くなってますね」

「南米で薬を追っていた彼の訃報を聞いた時は、さすがの僕も驚いたよ」


 違法に扱われている特殊薬物は南米を主として流通している。そしてその尻尾を掴もうとS級の一人が調査任務に着任した数週間後、非業の死を遂げた彼の遺体が港で発見された。


 極めて高い戦闘能力を持つS級が人為的に殺害されたのは星間戦争を抜けば数例しかない大事件。特異局は彼の死の真相を突き止めようと尽力したが、手掛かりすら掴めなかった。


 そして現在、エマがこの任務を引き継ぎ調査を進めている。過去の例から慎重に事を進める彼女は先程のルーカスの発言を聞き、改めてオリヴァに打診した。


「局長、事態が落ち着くまでは日本に来られるオーパーツの来賓……断った方が良いのでは?」

「それはダメだ。今回はセラグレイ直々じきじきに来られる。もし彼女の機嫌を損ねれば、それこそ庇護下にある地球は終わる」


 星間戦争以降、地球を保護惑星として治めている超巨大惑星国家。そんなオーパーツ星の後ろ盾によって現在の地球は他惑星からの侵略や攻撃を免れている。

 そして今回地球に訪れるセラグレイ姫はオーパーツ星の王位継承権第一位。非常に友好的で温厚な彼女は人類存続のために必要不可欠な人物。と局長オリヴァの意見にセルマとリーは反応する。


「だったら護衛を増やすべきね。いくら強いとはいえ、S級がイヴだけじゃ不安だし」

「なんだったら自分も行くカ? 久しぶりに弟子に会いたいヨ〜」


 護衛の増強は当然だ。当のイヴも考えていた事柄であったが、満面の笑みで皮肉を返した。


「それって〜私じゃ役者不足ってことですかぁ?」

「ええ、他にどんな捉え方があるのかしら?」


 イヴは面食らう、と同時にこめかみの血管が少し浮き出た。が、その声色を変えず、そして笑顔を絶やさずセルマへと再度質問をした。


「喧嘩なら買いますけど、もしかして今売ってますかぁ?」

「あら? シールが見えないの? 今なら半額で売ってるけど、年増には分かりにくかったかしら?」

「…………あ?」

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