第14話〜脱出と危機
「とりあえずもう出るか。他に調べるものもなさそうだし」
その紙の資料は一旦置いた。後々になくなっていたことを指摘されて犯人扱いされては何をされるか分からないからだ。
そもそも、ここに入っている時点でどうなるかは想像がつく。
そして、薫田あるじが鰯節子の方を見た。この神様はずっと人の名前を連呼し続けているが、それが誰なのか全員、見当がつかない。
「神様どうする?」
「話通じないし助ける所見つかったら村人にリンチされるのだ」
「つまり?」
全員外に出ることにした。
「じゃあね〜神サマ〜」
「お達者で」
「すまねぇな…ゲームに勝ったら救出しに来るからな」
彼女は両目に包帯が巻かれているのにも関わらず、彼らの方向を見て手を伸ばしている。それを無視するのは心が痛い。
「…えびちゃん、待って」
外に出て、難なく神社から抜け出した。まだ太陽は地面を照らしている。この暑さから抜け出したいものだ。
「ふー埃が体にすげぇついてる」
「こんにちは」
体に付いてしまった汚れを手で払っていると、後ろから見知らぬ女性が話しかけてきた。
歳は四十前半ぐらいで、やけに厚化粧である。彼女は水筒を持っており、水筒の蓋をコップにして中身を注いでいる。
「神社にご参拝なんて信心深い方々ですこと。そうです、お喉乾いてらっしゃるでしょう?お飲みになって。ね?」
針口が一番近くに居たので、手を伸ばそうとする。横からヴェニアミンが入ってきた。
「あーありがとうござ…」
「すみません。ニアミン達アレルギーが多くて飲めないです」
そして彼は女子高校生に腕を引っ張られた。オバサンの好意を無下にするなんて、酷い奴らだと思ったが、すぐに前言撤回する事になった。
「なんで止めるん…」
「ばか!ばかなのだ針口!どう考えてもゾンビ作ろうとしてるのだアレは!」
「え!?マジで!?」
水は濁っており、少なくともお茶類の物ではない。かといって炭酸が入っている訳でもない。そんな怪しい飲み物、一体誰が飲むんだろうか。
彼女は舌打ちをして、コップの中身を地面に垂らした。
「あらそうなの?で、神社どうだった?」
「良い感じだなって」
「良いよね」
「良かったのだ」
個性がない返答だ。
「そうなの。で、この村は素晴らしいと思う?」
段々と質問の内容の酷さがヒートアップしていく。
「何かすごいなって」
「凄いよね」
「すっごいのだ」
「で、貴方達は神は信じるわよね?」
その眼は全員を見つめていた。
「えーまぁ大体は」
「当たり前だよね」
「そんな感じなのだ」
当たり障りのない返答をされて、彼女は肩をすくめた所か、鼻から大きな息を吐いた。
「ふーんそうなの。貴方達村長に随分可愛がられていたみたいだけど調子乗らないでね」
最後の声だけ、異様に低かった。そして彼女は去っていくが残った者の空気は最悪に近い。
「何なのだー?あの宗教狂いおばさん」
「この村こっわ…」
気を取り直して彼らは次、どこに行くのか相談した。やはり一番はあそこだろう。
「村長の家、きなこくさいのだ!」
「行くとしたらそこしかねぇよな…行きたくねぇよマジで」
この村で重要な部分はもちろん神社もあるが、やはり実際に統治している者の家には大量の情報が詰め込まれているだろう。
しかし、問題がひとつあった。
「あのおばさん、村長の家の近くに居そうだけどどうする?」
コンビニアルバイターが保育士に聞くと、彼はしまっていたフライパンを取り出して叩いた。鈍い金属の音がする。
「村長の妾にあったら…殺る」
彼に冗談は通用しない。
「フライパンが深淵を覗いているのだ」
「もう疑問形じゃねぇ所が怖いんだよ」
そして全員、村長の家へと向かった。
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