第12話〜監禁されている女

 古びていて、カタツムリが全身に這っているかのような不快感がある。触り心地が悪いハシゴを降りていくと、そこには空間があった。


 あまり広くもない薄暗い部屋に、白熱電球が心許なく光っていた。


 部屋の隅には大きな化粧台があり、様々な化粧道具があった。その近くにはまた本棚があり、絵本やら怪しい本。またはノートや紙切れ等が収納されていた。


 奥にはトイレや風呂が仕切りもなく置かれており、その隣にタンスがあった。


 しかし、一番奇妙なのは部屋の真ん中に布団を敷いて座っている少女だった。


「お前ら集合」


 全員、一旦作戦会議である。


「あの人どう思う?」

「絶対ドッキリ仕掛けてるのだ」

「重症患者かな?」


 部屋の真ん中に居座る彼女は黒髪おかっぱで、赤い着物を着ており、目は包帯で巻かれている為分からない。


 ただ、この異様な空気を生み出しているの原因は彼女である。


「結論はヤバい、だよな」


 針口は冷や汗をかきつつも、この状況をどうするか考えた。


「どうする?近寄る?」

「敵意はなさそう」

「じゃあ行くのかー?」


 ヴェニアミンと薫田あるじは別に放置していても害はないと判断しているようだ。しかし、女の子を放っておくほど、全員クズではない。


「じゃんけんで負けたヤツ行こうぜ」


 彼は何をとち狂ったのかジャンケンを仕掛けた。そして、負けた。


「言い出しっぺの法則だっぺ」

「エントリナンバー1番!秋田からのコンビニ眼鏡!針口いっきまぁ〜す!」

「お前ら覚えとけよ」


 二人にからかわれながらも、彼は手を握りしめて重い足を彼女の方へと近づけて行った。


「あのーもしもし?」

「…だれ?」


 話しかけると、か細い声で返事された。意外とまともでただの被害者なのかもしれないと彼は思った。


 思ってしまったからこそ、彼は変な緊張をして滑舌がグズグズになってしまった。


「あのぉー僕はですね?ここで観光してる者なんですけど、ここってどういう所なんですか?あ、別にこた、答えなくてもいいんですけどアハ」


 特に彼女は表情を変えることなく、彼の方向を向いているだけであった。


「みみっちぃナンパなのだ」

「高得点は無理だね」

「ナンパの審査してんじゃねぇ!」


 大声を出すと、彼女の肩が上がった。怖がらせないように彼はゆっくりと方向転回して話を聞くことにした。


「あのね…あのね…まだえびちゃん帰ってない?」

「えびちゃん…?昔流行ってたやつか?」


 そのまま少女はえびちゃんという人物の話をするが、抽象的であるため、どのような人物であるか全く分からない。


 話してみて分かった事だが、彼女は少女ではなく、成人女性のようだ。しかし中身があまりにも幼いのは何故だろうか。


 このような場所に長年居ると仮定して、それに比例して目隠しされていれば、そりゃあ幼児退行の一つもするか、と針口は思った。


「ニアミンは素朴な方が好きかな」

「意外なのだ。あ、あちきは優しい人が好きなのだ」

「やっぱ優しい人は王道だね」

「わかるー優しくないのはだめなのだ」


 二人が話している裏で、保育士と高校生は女子会を開いていた。座ってお菓子を食べている姿は微笑ましい。


「そこ恋バナするなよ!」

「えびちゃん…えびちゃん…」

「駄目だ。話が通用しない」


 諦めて彼は戻ってきた。女子会に参加すると先にやっていた二人は嫌悪を包み隠しながらダメ出しした。


「女の子のせいにするなんてナンパ失格なのだ、恥を知るのだ」

「髪色二色にシーシャ吸ってから出直そう」


 その態度に彼は文句を言った。


「審査厳しいのもムカつくし、何もしてねぇお前らが審査してんのもムカつくぜ」


 薫田あるじが持っていた袋詰めのクッキーを一枚勝手に取って食べた。特に彼女は怒らず全員で仲良く食べた。


 穏やかな女子会が再開された。

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