第9話〜朝の会議

「で、今回の議題である夢の指令を達成するか否かなのだが…」


 布団を片付けた後に、居間で机を囲んだわけだが、二人とも眠たそうにして飲んでいる。


 薫田あるじに至っては口からジュースを垂れ流しながら寝ている。彼女がもし国宝級の顔面でなかったら、この絵面は見れなかっただろう。


「寝るな!ちゃんと飲めよ!」


 対して針口は朝にも関わらず、大きな声を出している。窓から光は入らないので、朝っぱらから電気をつけている。


 それから出ている光のお陰で、緊急会議の雰囲気は出ているのに全く空気が締まらない。


「あのぉ…従わないと…何されるか、分かんない…のだ」

「あぁ、それは確かに一理あるな。」


 仮にだが、この使命に反する事をすれば…と考えた彼の脳裏には「やれ」という言葉が聞こえ、更にその使命に対してやる気が出てきている。


 少し、気持ち悪く思った。


「本能が指示に従えと訴えてきている…あの男人間を操ることが出来るんじゃないか?じゃないとこの感覚は不自然すぎるぞ」

「じゃあ…従お…う」


 自分の感情を他人にコントロールされていると考えるなんて精神疾患を患っているに違いないと言われるだろうが、常識では考えてはいけない。


 従わないと、パルヴェリアに何をされるかわかったものでは無い。


「今やることはこの島の調査だよ。あの男の対戦相手の駒四人も調べなきゃ」

「それは相手側も同じことだな。てかこれ、勝てなかったら何らかのペナルティとかないよな?」


 彼は不安そうに言うが、二人は何の緊張感もなく涼しい顔をしている。


 このゲームの敵である駒四人の使命がどんな内容かで、こちら側の勝率が決まる。


 針口のように簡単だったら、こちら側は不利になるだろう。しかし、逆を言えば強介のように難しい使命だった場合はどうだろう。


 負けない見込みがそこに出来る。


「あったら…やる気にさせるために…いうのだぁ〜わぁ〜」

「それもそうか」

「島民でもある強介が仲間である以上、ここでの調査は少し有利になるかもな」

「そうとは限らない。強介は犬だから」

「ついに人を犬扱いか…」


 ヴェニアミンはそういうつもりで発言したわけではないのだが、訂正するのも面倒くさいのでそのままにした。


 ただ、彼は強介がこの村の住人である以上完全には信用出来ず、かえって邪魔なスパイになる可能性を考慮している。


「早くこの島を調べたいな」

「んむぅ…じゃあ支度するのだ」


 彼女はタンクトップを脱ごうとして、腹が見えてしまった。そしてその行為を止めるべく、針口が腕を掴んで下に降ろさせた。


「ちょっと待てい!脱ぐなら脱衣所で脱げよ。恥じらいを持てよ未成年」

「はーあ…い」

「話の途中で仮眠しやがった」


 そのまま座りながら寝ているので、彼は元の位置に戻った。


 すると、彼女の隣に座っていたヴェニアミンが彼女を起こして、髪で隠されている自分の素顔を少しばかり殺意を込めて見せた。


「ぎゃおおおあああ!!」

「お目目ぱっくち」


 その形相は理不尽に怒鳴られるよりも恐ろしく、冷や汗をかいて彼女の目は覚めた。


 女の子にそんな悲鳴をあげさせた彼に針口は心底軽蔑した。


「何見せたんだよ…」

「無駄省きは基本だよ」


 振り返った彼は至っていつも通りの顔である。普通に目が死んでいるだけで、何も変わりはしなかった。

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