第5話おまけ②【李のお世話】





剣導水 弐

おまけ②【李のお世話】







 宿に泊まっていた李、死神、拓巳の三人は、食事を取っていた。


 「ふー、お腹いっぱーい」


 ぽんぽん、とお腹を摩っている李は、ごろごろと畳の上を転がっていた。


 そのうち、すぴすぴと寝息を立てて寝てしまった。


 そこで、死神と拓巳は、李をおいて温泉に入ってくることにした。


 「ふー・・・」


 時間が時間だからか、温泉には誰もおらず、久しぶりにのんびりと湯に浸かることが出来た。


 そんな時、誰かが温泉に入ってきた。


 李たち以外にも宿泊者がいるのだから、入ってきても良いのだが、見るからに面倒そうな男たちだったのだ。


 身体中に刺青を入れた男たちは、二人を見ると鼻で笑った。


 「兄ちゃん達、さっさと出て行きな」


 「兄貴がゆっくり浸かれねぇだろうが」


 「ほら、邪魔だよ」


 さっき来たばかりだというのに、なんとも運が悪い。


 だが、素直に引き下がるほど、二人も心が清い大人ではなかった。


 「俺達今来たところなんで」


 「あん!?」


 「ここは温泉。入りたいなら勝手に入ればいい」


 「てめぇら!!!」


 腰にタオルを巻いているだけの、裸の男たちが二人に近づこうと、湯に入った。


 その時、ガラッとまた誰かが入ってくる音が聞こえたかと思うと、湯に入ろうとしていた男が、顔面から湯に突っ込んだ。


 「ちょっとちょっとー。二人とも酷いよー。どうして俺を起こしてくれなかったのー?温泉に入るなら入るって言ってよね!どっかに消えちゃったのかと思って、畳の下とか、天井の裏とか、窓の下とか、襖とか、色々探しちゃったじゃんー」


 二人がいなかったことに気付き、ここまでやってきた李。


 勢いよく入ってきたからか、男をはねのけてきてしまったようだ。


 その様子を見て、男たちが怒ってしまった。


 「マジでぶっ殺してやるからな!」


 「舐めた真似しやがって!」


 「痛い目にあいてぇぇらしいなあ!!」


 「・・・何これ、どういう状況?」


 ここで、李は男たちの存在に気付き、二人に状況を説明するよう求めた。


 簡単に話すと、李はふーん、と言って、温泉の中を移動して、男たちに近づいていった。


 「・・・プッ」


 「ああ!?」


 思わず、李は笑ってしまった。


 「すごいお腹―。運動した方がいいんじゃないー?」


 目の前の男の腹を指さし、ケラケラと笑いながら言う李に、決して悪気はない。


 そっちの方が性質が悪いのだが、それにも気付いていないのが李。


 「なんだとてめ!」


 「別に俺はここで喧嘩になってもいいんだけどさー、多分負けるのは君たちだよ?」


 「ああ!?何言ってやがる!」


 「だってよく考えてもみなよ。人数はそっちの方が一人多いかもしれないけど、そんなの大した問題じゃないよね。そちらさんはみんなお腹出てるし、動き鈍そうだもん。俺達の方が若いし、体系的にも筋肉質な方だから、喧嘩しても負けないと思うんだよね。それに、ここで喧嘩をしたとしても、刺青をしてるそっちが悪者になるのは目に見えてるし、捕まるとしてもそっちでしょ?ていうか、本当にすごいお腹だよね。初めてみたかも。とはいっても、男の裸なんて好き好んで見ないからなんとも言えないけど、人間って不摂生が過ぎるとそうなっちゃうんだね。そうならないように気をつけるよ。それにそんなナリでそんな体格だと、女だって寄ってこないでしょ?俺は別に求めてないんだけど、なんでか声をかけられることが多くてね。きっとそれは君たちと違って、それなりに鍛えてるからだと思うんだよね。てことは、君たちも鍛えればまだ間に合うのかな?いや、そんなことはないとおもうな。あれ?ていうかなんかすごく肌がすべすべしてきた気がする。これって温泉の効能かな?まあいいや。どこまで話たっけ?ああそうそう。でさ、話は変わるんだけど、男の価値っていうのは、刺青なんかであがるとは到底思えないんだよね。だってさ、そんなものでぽーんって価値があがるなら、誰も苦労しないでしょ?なんで自分の身体痛めつけてまで、そんなことするのかね?俺には全く理解できないよ。それに、君たちは髪の毛もぼさぼさだね。いつかハゲるよ?ハゲるとなんか苦労してるね、って感じになるけど、絶対に違うよね。ストレスは関係してるかもしれないけどさ、ハゲを全部ストレスのせいにするのも如何なものかな。だってさ、ハゲの原因って、ストレスだけじゃないと思うんだよね。あー、でも俺もいつかハゲるのかな、それは絶対に嫌だな。今からでも育毛剤ってつけておいたほうがいいのかな?でも今より髪の量が増えても、それはそれで困るんだよね。夏場になると蒸れるし、伸びると毛先がもっとはねるしさ。あ、枝毛。それから・・・」


 「止めなくていいのか。とっくにあいつら出て行ったぞ」


 「いいよ。放っておこう。俺達ももう出ないと逆上せるよ」


 「腹筋って割れてる人いるでしょ?あれもさ・・・」




  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

剣導水 弐 maria159357 @maria159753

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ