その44。凄い人の後はやり辛いよね

「———どうだったかしら?」

「勿論素晴らしかったのですが……何してるんですか?」

「? 自己紹介よ?」


 何故かドヤ顔で此方に戻ってきたシンシア様に、俺は至極真っ当な意見を述べた。

 しかしシンシア様は首を傾げるだけで、とてもじゃないが俺の言葉が届いている様には見えない。

 

 いや、誰が自己紹介であんな物凄い魔法を放つんだよ。

 やっぱこの年頃の子供は皆んな自分の力を誇示したくなるのかね……。


 確か俺も昔はそうだったなぁ……と遠い目をして自身の黒歴史を想起していると、横からクイクイと袖を引っ張られた。

 そして横を向けば少しむくれ顔のシンシア様がいる。


「どうしたんですか?」

「———それだけ?」

「はい……?」

「それだけしか、ないの?」

「えっと……」


 俺は、まさかおかわりをせがまれるとは思わずたじろぐ。

 実際俺的には注意することはあれど、他に何か言うことはないのだ。

 ただ……。


「……」

「……」


 俺を見つめる瞳は全く逸らされる予兆がない。

 それどころかどんどん『早く言え』圧が増している気がする。

 

 ……えぇぇぇ……何言えばいいのぉ……。

 

 どれだけ考えても全く思い付かず困っていると……シンシア様がジト目でため息を吐きながら言った。


「……アリアとか言う女より凄かった……?」

「え? ———も、勿論です! アリア様の10倍……いえ、1000倍凄かったです!!」

「そう……?」

「勿論です。そもそも最初からアリア様の事は嫌いだと言っているじゃないですかっ!」


 シンシア様が道を示してくれたので、此処ぞとばかりに乗っかり、ついでに『俺がアリアの事が好きだ』と誤解してそうなシンシア様に完全に否定する。

 すると、数秒俺を訝しげに見た後……小さく微笑んだ。


「ふふっ、そんなに慌てて可愛いわね」

「……もしかして全部演技ですか?」

「教えないわ」


 こ、このお転婆娘め……!!


 俺が内心歯噛みしていると……グラウンドの修繕が終わったらしく少し疲れた様子のエデュアルドが口を開いた。

 

「———次は……セーヤ・フロント君」


 ナイスタイミングだエデュアルド!

 お前のお陰でシンシア様の口撃から逃れられる」


「はい……!」


 俺は半ばシンシア様から逃げる様に嬉々として皆の前に行こうとしたその時。


「……期待しているわ」

「…………え?」


 シンシア様が悪戯っぽく笑って言った。

 その言葉は、半ば俺が手を抜くことを禁じられたようなものだった。


 ……くそったれ……。












 ———さて、どうしようか。


 俺はクラスメイトの前に立ってから思案する。


 恐る恐ると言った感じで見渡せばシンシア様は勿論、アリアが興味深そうに此方を見ていた。

 更にはエデュアルドやレナードと言った攻略キャラの面々も当たり前だが見ている。

 唯一、レオンハルト殿下だけは見たくないとでも言うように俺と目が合うと逸らしてしまったが。


 果たしてこんな状況で本当の力を見せて良いのか……?

 

 そんな疑問が頭に湧いてくる。

 前はレオンハルト殿下だけしか見ていなかったので仕方なく少し力を見せたが……今回はアリアが居るのだ。

 それもあの少し頭のネジが外れてそうなメンタルお化けの主人公様が。


 正直力を見せたら色々な意味で面倒なことが起きそうな気がしてならない。

 ただ、此処で力を見せなくて今後シンシア様の専属執事が弱いと風潮されると、それはそれでシンシア様とシルフレア公爵家に迷惑が掛かる。


「……ほんとどうしよ……」

「セーヤ・フロント君?」

「あ、すいません。———初めまして、皆様。私はシンシア・シルフレアの専属執事を務めています、セーヤ・フロントと申します。至らぬ事が多々あると思いますが……どうぞ宜しくお願い致します」


 俺は取り敢えずそこで言葉を区切って頭を下げると同時に決意を固めた。


 

 ———ええいままよ、もうどうなってもしらねぇ!



「私の得意属性は火で、これから炎魔法を使います!」


 俺は半泣きになりながらも的の方に手を翳して魔法を行使した。




「———【炎竜王の吐息】ッッ!!」




 唱えた瞬間、俺の背後に炎で構成されたドラゴンが現れる。

 その体長は優に50メートルを超え、周りを畏怖させるには十分であった。


「……っ!?」


 おいおいめっちゃ主人公がコッチ見てるんだが!?

 本当に大丈夫だよな!?

 う、撃ちたくないぃぃぃぃ!!


 そんな泣きそうな俺を嘲笑うかの様に、炎のドラゴンは喉元を膨らませると……炎球を吐き出した。

 直径1メートル程の炎球は一直線に的へ向かうと———易々と的を溶かし尽くして空へ打ち上がる。

 

 そして、炎球は一気に50メートル以上に膨れ上がると———派手に爆散した。

 爆散したエネルギーの放出によって物凄い爆風が辺りに無造作に撒き散らされる。

 


「———こ、これで私の発表を終わります」



 俺はシンと静まり返るグラウンドで、か細く声を上げてそそくさと戻った。


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死に戻り転生者は乙女ゲー悪役令嬢の最強執事〜「死にたくなければ体を鍛えろ」と女神に言われたので、死にながら鍛えてみた〜 あおぞら @Aozora-31

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