金次郎さんの人々への助言
このような農民や人々たちへの金次郎さんの助言は、『二宮翁夜話』で語られているものもあります。のちのものではありますが、いくつかをみてみましょう。
今回は『二宮翁夜話』から巻一、第三十七「飯高六藏を諭し多辯を戒む」という文を引いて、金次郎さんが常々どのようなアドバイスを贈られていたのかみてみることにします。
浦賀の人、飯高六蔵さんは多弁の癖がありました。暇を乞うて国に帰ろうとしましたが、翁(二宮尊徳翁、金次郎さん)は
「あなたは国に帰ったならば決して人に説くようなことは止めなさい。人に説くことを止めておのれが心に異見(意見か?)しなさい。おのれが心にておのれの心に異見するのは、「柯を取て、柯を伐る」(中国の古典、『詩経』の言葉、斧の
それ異見する心はあなたの『道心』(良心?)である。異見せられる心はあなたの『人心』(自然の欲?)である。ねても、さめても、坐っても、あるいても、離れることがないため、行・住・坐・臥、油断なく異見すべきである。
もしおのれが酒を好むのならば、多く飲むことを止めよと異見すべきである。すみやかに止めることができればよい、止めないときは幾度も異見しなさい。その外、驕奢の念がおこるときも、安逸の欲がおこる時もみな同じである。
百事このようにみずから戒めば、これは無上の工夫である。この工夫を積んで、おのれが身が修り、家が齊うのならば、これはおのれが心の異見を聞いたのである。
この時にいたれば人にあなたの説を聞くものがあるはずである。おのれが修まって人に(おのれの力の影響が)及ぶがためである。おのれが心にておのれが心をいましめ、おのれが聞かなければ必ず人に說くことはないように」
多弁だったという飯高六蔵さんはどう感じられたでしょうか、これは『大學』という本に説かれている、「治国平天下」もしくは「修己治人」というものに近いようにも感じますが深入りはしません。
金次郎さんの心のこもった助言は続きます。
「かつあなたは家に帰ったならば商法に従事するはずである。土地柄といい、累代の家業といい、至当である。さりながら、あなたが売買をなすとも必ず金をもうけようなどと思ってはいけない。ただ商道の本意を勤めなさい。商人たるもの商道の本意を忘れるときは、眼前は利をうるとも最後には滅亡を招くはずである。よく商道の本意をまもって勉強したならば、財宝は求めずして集まり、富栄繁昌ははかることができないだろう。
必ず忘れることがないように」
商人の道をまもる、農民の道をまもる、そして武士は武士の道をまもる。自分を責める、異見しなさいという助言と、自分の本分をわすれないようにという言葉ですが、重みがあります。
助言としては、貯蓄ではなく、お金をどう活かすかというお話ものこっています。『二宮翁夜話』巻一、第三十五「高野氏に村里復興の大意を述ぶ」という文章があります。
同氏(高野氏)は相馬領内で衆にぬきんでて仕法(立て直し)の発業を懇願した人である。そのために同氏あずかりの成田・坪田の二村に開業がなり、仕法をおこなってわずかに一年にして、「分度」のほかの米・四百十俵を産出した。同氏は蔵をたてておさめ貯えて、凶歳のそなえにしようとした。
翁(二宮尊徳翁、金次郎さん)はおっしゃった。
「村里の興復をはかるものは米・金を蔵におさめるのを尊まない。これは米・金を村里のためにつかいはらうをもって専務(先務か?)とするのである。このつかい方の巧拙によって、興復に遅・速を生じる、もっとも大切なことである。
凶荒の予備は仕法が成就したときのことである。今、
急務のことがすめば、山林を仕たてるのもよし、土性を転換するのもよし、非常の飢・疫の予備をすることはもっともよいだろう、
ここには分度のほかの余ったお米・お金を貯蓄する金次郎さんはいません。
金次郎さんはおっしゃいます。飢饉に備えることは大事だが、村を興復するにはもっと大事なことがある、と。そしてそれは村をもっともっとよくするためにお米やお金を使うことです。
でてくるものを数えあげてみれば、開拓することがあり、道路や橋梁の整備をすることがあり、福祉事業としての困っている人をたすけたり、教育事業への投資などもあげられているよう感じます。利益をあげる手段を増やし、害を与えることを除く、とあります。産業や社会をいかに育てるかに心をくばられていることがわかります。
村が豊かになってからは長期投資、木を植えたり、土壌改良、そしてようやく飢饉の対策がでてきます。社会改革家としての金次郎さんの姿がうかがえ興味深い文章です。
それにしても金次郎さんの助言はどれも身にせまり、自分のことをよく考えなさいと肺腑に刺さるものがあります。
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