「分度」を論じる

 金次郎さんの考えでは、「分度」というものが尊ばれました。 


 江戸時代の封建社会、また当時の時代では、「「分」を守る」、「「分」を知る」ということが尊重されたのです。


 私は『大學章句』が好きです。読むことはあります。「分」という考え方は嫌いではありません。しかし今の時代にどう受け止められるのでしょうか。


 参考として『二宮翁夜話』のうちで、分度について説明してある訓話をいくつか紹介してみることにします。


『二宮翁夜話』巻四、全体の第百六十五の「分度を定むるは道の第一なる事の譬え種々」を引きます。


 翁(二宮尊徳翁、金次郎さん)がおっしゃった。


「およそ事を成そうとほっするならば、はじめにその終りをつまびらかにすべきである。


 たとえば木を伐るがごとし。いまだ伐らぬ前に木の倒るるところをつまびらかに定めなければ、倒れようとする時にのぞんでいかんとも仕方がない。そのために私は印幡沼を見分する時も、「仕上げの見分(完成状況の推定)をも一度にしましょう」と申し上げて、いかなる異変にても失敗なき方法を工夫した。


 相馬侯(福島・相馬中村藩)が興国の方法をご依賴された時も、着手より以前の百八十年の收納を調べて分度の基礎を立てた。これは荒地の開拓ができあがった時の用心である。


 私の方法は分度を定めるのをもって本とする。ここに分度を確乎として立ててこれを守る事が厳密であれば、荒地が何ほどあろうとも、借財が何ほどあろうとも、何をかおそれ何をかうれえようか。私の富国安民の法は分度を定むるの一つである。


 それ我が国は我が国だけにて限られていた。この外へ広くすることは決してならなかった。そうであるならば十石は十石、百石は百石、その分を守るのほかに道はない。百石を二百石に増し、千石を二千石に増すことは、一つの家(家門、家株)にては相談はすることはできるけれども、一村一同に(相談)することは決してできないものである。


 これは安きに似てたいへん難しいことである。そのために分度を守るのを私の道の第一とする。よくこの理を明かにして分を守れば誠に安穩にして、杉の実を取って苗を仕立てて、山に植えてその成木(木が大きくなること)を待ちて楽しむことができるのである。


 分度を守らなければ、先祖より譲られた大木の林を一時に伐りはらっても間にあわぬようになってゆくことは眼前(明らか、のような意か)である。


 分度を越えるあやまちは恐るべきである。財産あるものは一年の衣食のこれにて足るというところを定めて分度とし、多少を論じないで分度の外は譲り、世のためのことをして年を積まばその功徳は無量であるはずである。


 釋氏(釈迦牟尼仏)は世を救わんがために国家をも妻子をも捨てられた。世を救うに志があるのならばどうして私の分度の外を譲るということをなさないでいられようか」


 ここでは金次郎さんが収入の分度を定めることを説かれています。


 みんなの取り分が決められている、十石ならば十石、百石ならば百石、その分を守るのほかに道はない。


 そして金次郎さんはその分度を越えることを戒められておられます。十石、百石で余った分(例えば、十石なら五石で生活し、五石が余る、というような)は譲りなさい、そう金次郎さんはおっしゃっています。自分の分度で余ったものは人に譲りなさい、それは子孫や家族へかもしれないし、困っている人へかもしれません。


 金次郎さんの考えでは「分度」という最低基準があります。収入があります。その分度内でさらに倹約し、余ったら譲っていく。そして分度内で余ったものが投資されたり蓄えられて、みんなの生活を豊かにしていく、危機などへの備えになっていく、社会や国を豊かにしていく。


 金次郎さんの話では石高以外でとれる杉の木の話も出ています。これも分度の余りではないでしょうか。杉の実をとって苗をつくり山に植える、そしてその木がやがては大きな木になって戻ってくる。分度の外につくられたものがすくすくと育って、やがて帰ってくる。


 そして金次郎さんの考えでは、逆に分度を越えたこと(十石なのに十五石で生活するようなこと)をつづけていくとそのつけがいずれ巡ってくる。備えておいた杉林全てを売り払っても追いつかないようになる。そう説かれます。


 そして最後に釈迦牟尼仏の説話が出ます。


 お釈迦さまは国王の息子で家庭も築いていました。しかしすべてのものを捨てて、どのように世の中の人を救うかを考えられた、そう金次郎さんは話されます。


 金次郎さんの考えは神・仏・儒が一体となったものなのですが、ここでは仏さまのお話を引かれ、捨てること、譲ることを説かれているようにも思います。


 もう少し、『二宮翁夜話』から、金次郎さんの分度についての考えをもう少しみてみることにします。


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