050. リザルト:ルーラー・ビー
「う、うえええええ」
もろにルーラー・ビーの体液を浴びてしまい、気持ち悪さに顔をしかめる。攻撃判定でもあったようで、せっかく回復した体力は半分以下にまで削られていた。更にじわじわ減ってるので毒っぽい。
死なば諸共ってやつ? ご遠慮被りたい。
「っ、すまん。最後、強すぎた……」
「全損時の確定攻撃かもしれないし。みんな、毒消しある?」
苦々しい声のモルトをエールズがフォローしている。灰雪さんが心配そうに見上げていた。なんと、技が終わっても戻らないんですね。あとで問い詰めなければ。
< ルーラー・ビーの討伐に成功しました。初回報酬としてSP10、蜂の巣を取得。ワールド初討伐報酬として万華の種が贈られます >
<< エールズ率いる「引率の先生」により「ルーラー・ビー」がワールド初討伐されました。以降、ヘルプにボス情報が記載されます >>
「あ」
やっべ、エールズにリーダー渡すときにノリで変更した名前そのまんまだ。
こちらに向かってニッコリ笑う彼と目が合わせられません!
「と、とりあえずこれでクエストクリアになるかな!?!? シェフレラ、どう!?」
「は、はい! えっと、まだ、みたいです? 多分、蜂の巣を見せればいいのかな……?」
「そっか! じゃあここから出ようか!!」
だいぶん強引な話題転換とは自覚しているので、こちらに聞こえるように大きなため息を吐かれたことにビクリとなる。
わざとじゃ……ないんだ……!
「はぁーーーー、まあ、僕もしっかり確認してなかったから、今回はいいよ。次は気をつけて、ね?」
「はいっ!!」
エールズポイントが加算された音がするぅ!! なお、ぶっちぎりで加算されているのはネネ。ライン越えたらアイアンクローが待っている…っ!
「全員毒は消えた? 汚れたから一旦誰かのとこで洗わせてもらえると助かるんだけど」
「あ、それなら案がある。みんなちょっと集まって」
罪滅ぼし、というわけではないけれど、集合した皆の真上に【ウォーターボール】を浮かべ、そのまま攻撃キャンセルする。細かな水滴が降り注ぎ、ルーラー・ビーの体液を流していった。間をおかず【ウィンド】で風を送って乾燥。
「ほい、出来上がり」
< 【ラベル:精霊に興味を持たれるもの】が反応しました。【スキル:水魔法】に【ウォーター】が追加されます >
お、おぅ……久々のラベル反応。確認したら【ウィンド】と似たような、ただ水が出るもの。まあちょっと【ウォーターボール】は危なかったもんね。フレンドリーファイアあるしこのゲーム。色々重宝しそうなのでありがたく頂いておこう。
「器用ね……」
「さっぱりした。ありがと」
ステッラとネネに片手を上げて答えて、灰雪さんを伺う。水、大丈夫だったろうか。なるべく素早く乾燥したつもりだけど。
目があった彼女にはなんとも言えない表情をされた。……うん、宣言します今度から……いや今度も突然になるかもしれない。宣言して鬼ごっこ始まるのは避けたいけどもそれはそれで楽しそう。
いや、それよりさっきのですよ!!
「モルト、今のなに?」
「そっくりそのまま返してやろう。まあ、あれは俺の必殺技です」
「特殊スキル?」
「そんなとこ。灰雪がパートナーになってから使えるようになった」
ぽふ、と灰雪さんの頭に手をおいてのたまう。なにそれ。リモは何もしてくれないのに!いや、火はつけてくれましたがあれは食い意地の成果の気も。
私も灰雪さん撫でたいけどぐっと我慢して、クエスト達成を優先しよう。蜂蜜。蜂蜜を手に入れて蜂蜜酒をですね。
「なあ」
「ん?」
ぐぬぬとしているとエドベルに袖を引かれた。身長がほぼ同じなので目線が近い。
「もっかい呼んで」
「? なにを?」
「おれの名前!」
「エドベル?」
「そうだけどそうじゃなくって!」
期待を裏切ったのかちょっと頬を膨らます。え、これ以外なんと呼べと? なに? 愛称? ……あ。
「エド?」
ルーラー・ビーとの戦闘でとっさに呼んだことを思い出した。そうだそうだ。口にしやすくて。
「ごめん、だめだった?」
「違う! ホップも今度からそっちで呼べよな! もう仲良しなんだし!」
「お、おぅ。わかった、エド」
「あっ、エド、ずるい!」
「へ?」
「ホップさん! 私もレラって呼んでください!」
「え、えっと、レラ?」
「はいっ!」
ストレートに好意と笑顔を二人から向けられてちょっと照れる。シェフレラとエドベル、レラとエドのことは今度から素直組と心で呼ぼう。
「はいはい、それじゃさっぱりもしたところで戻るよ。リポップはすぐしないと思うけど念の為、ね。確認なんかも出たあとで」
エールズの一声で移動。インスタンスダンジョン扱いなのか、木の中で箱庭は開けなかったのでそれなりに気をつけながらもと来た道を戻る。うん、敵は出ませんでした。よかったよかった。
しかし、箱庭開けないのに灰雪さんが来れたってことは、本当に特殊なんだな、モルトのスキル。可愛くてもふもふで強い。さいこう。
さくっと戻ってきたコルト、レラに案内されてクエスト受注したおばあさんのところまで。
「あらあ、どうしたの? なにか忘れ物でも?」
「あの! ご心配のルーラー・ビーを倒して、これ……」
シェフレラが手のひらサイズの蜂の巣を見せる。ドロップはみんな同じだったらしく、それぞれ蜂の巣と種を持っての移動となった。箱庭開けるようになったら速攻中に入れたよね。大丈夫だろうとはいえ、蜂の巣をそのまま持っての移動はそこはかとなく危機意識が。
「まあまあ! これはあの子達の家……! 取り返してくださったのね!」
「ご希望のものでしょうか?」
おばあさんは少し背が曲がった品の良い方だった。若い頃は美人だったろうなあと思わせる容貌と、白くなった髪。後ろで纏められたお団子に結ばれた、蜂蜜色のリボンが蜂の巣を受取り掲げる動作に合わせて揺れる。
『家って言った?』
『言ったねえ。家……まあ家かな? 蜂の巣は』
『奪われてたのかしらね』
『どういう関係なのルーラー・ビーとビー』
イベントと思しき二人の会話を邪魔しないように、裏側でチャットを開いて会話する。思考入力だと身体動かさなくていいから、こういうとき便利。
「ありがとう。これであの子達も帰ってこれるわ。まだまだ全員には遠いけど、少しずつでも戻ってこれる環境を整えていかないとねえ」
< パーティメンバーが【在りし日の蜜を求めて】をクリアしました。「蜂の巣」納品クエが開放されます。今後アイテムの「蜂の巣」と交換で「蜂蜜」 が入手できます。また、一定数の「蜂の巣」納品で箱庭に養蜂システムが追加されます >
…………。
クリアと同時に流れたシステムアナウンス、その中の蜂蜜という甘美な響きに身体は勝手に動いていた。コルトの街の外まで全力ダッシュし、箱庭に入って蜂の巣を取り出す。トンボ返りしてまだみんながいる中、持ってきた蜂の巣を差し出した。
「すみません、おばあさま。これも差し上げます」
「あらあら。これはご丁寧に。もっとあの子達も帰ってこれるわ。少しお待ちになってね。あの子達がお礼に蜜をくれるらしいの」
そういって裏口から出ていく姿を祈るように見守る。
「行動が早い」
「甘い物好きだったかしら?」
「いや、ステッラ。あれは酒に対する情熱だ」
「ああ……ミードって蜂蜜が原料だったわね……」
モルトとステッラが後ろでなにか言っているが、私の視線は戻ってきたおばあさまの手に釘付けだった。小瓶に詰められた黄金色の液体。
「こちらをどうぞ、渡り人さま。また見つけたら持ってきてくださると嬉しいわ」
「はい!!」
は ち み つ を て に い れ た !
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