051. 蜂蜜酒は大変なものを奪っていきました

 キラキラとした黄金色の液体、それは美しい甘さを分解されアルコールへと変換していく魔法の薬……。


 ふふっ。詩的な気分にもなってしまうね!!


「出来てるかな〜!」


 ログインしました! ログアウト時に箱庭に居たから箱庭に出現!

 蜂蜜を手に入れたあと、用意していた瓶に水で薄めた蜂蜜を入れて、箱庭に放置したんだよね!蜂蜜酒ってこれだけで出来るんだよすごくない?


「どれどれ〜?」


[ 廃棄物 ] 腐敗した液体【レア度:F 品質:F】

とてもではないが口にできたものではない。製法や保存法を見直してみよう。


[ 飲料 ] 薄い糖液【レア度:D 品質:E】

このままでも何かと割っても。優しい甘みが舌に残る液体。


「…………」


 どうしてぇ!?!?

 いくつか仕込んだものを全て鑑定していくが、ほぼ全部失敗している。

 かろうじて飲み物として認定されたのは一瓶だけで、それも蜂蜜酒とは違っていた。


「……気温? 気温の問題? それともなんか入った? 瓶はしっかり洗ってたけど発酵進むと割れちゃうから蓋開けてたのが問題!? 酒蔵を建てて管理状態よくしてからじゃないと作らせないってことぉ!?」


 流石に建築技術は持ち合わせていませんが!!

 頭を抱えるともふっとリモが上に乗ってきた。今は遊ぶ気持ちじゃないんだごめんね……。でももふもふがちょっと気持ちいい。


 リアルに戻って一回調べ直してくるかなーとうだうだしていたら、珍しい人からのチャットが入った。


『こんにちは、今大丈夫ですか?』

『権兵衛じゃん、どしたの』

『僕の名前はノーネーム……ってまあいいです。今どこです? まとまったお金が用意できたので、利益分の受け渡ししたいんですが』

『箱庭。利益分????』


 情報料はモルトから受け取っていたはずだけど。はて?

 とりあえず箱庭からでて合流したあと、もっかい戻ってきた。お外でやり取りするのはね、やばい自覚位はあります。


 立食パーティ以来の顔見せだが、合流してみれば姿形が変わっていた。前は短髪だったのが長髪のポニテになって、スピリトゥス属特有の文様の色も黄色に変化している。

 これ、今後毎回会うたび姿変わってんのかな? 見た目変更のアイテムとか課金物とかなかったはずだし、特殊スキルなのかもしれない。


「瓶がいっぱいある」

「うっ」


 入ってきた直後の感想にダメージ。それ、失敗作なんですよ……。


「え、あ、なんか悪いこと言いました!?」

「いや。そう。失敗作です」

「は、はあ……?」

「鑑定していいよ。蜂蜜酒仕込んだんだけど全部失敗して……」

「気になりますけど、先にこちらを」


 ヌンスのトレードウィンドウが開いて、二桁万円の数字が。


「ん? んん?」

「額が少ないのは勘弁してくださいね。まだ商人ランクが低くて、ヌンスの取扱量に制限かかってまして」

「え、なにこわい」

「なんでですか。正当な報酬ですよ。頂いた情報の売上の一割なんですから」

「ボロ儲けじゃん」

「ええ、儲けさせていただいてます」


 いや、情報屋のっていうか、私の儲けがね? 先行者利益にもほどがある。

 とりあえずありがたく受け取りまして、結果初期の手持ちを大幅に上回った金額を目にして、落としたりデスペナでなくしたりしない仕様で良かったなと思う。


「で、これが失敗と。おー、見事な廃棄物」

「そうなんだよー。温度か不純物かなあっていま頭抱えてたとこ」

「【菌知識】でもヒントない感じなんです? 大変だあ」


 すっかり記憶の外にあったスキル名を出されて動きを止める。

 不思議そうにこちらを見てくるN.N.を見つめ返して、息を吸い込んだ。


「……なんて?」

「大変ですねって」

「いやその前」

「ヒントがない?」

「それ!【菌知識】!! それだ!!」


 すぐさまスキル一覧を開いて【菌知識】で検索する。でてきたそれをSP残量なんて気にせずに取得し、その流れのまま、手持ちで残っていた蜂蜜を水で薄めて綺麗にした瓶へ詰める。そして鑑定!


[ 液体 ] 薄い蜂蜜【レア度:- 品質:-】

蜂蜜を水で薄めたもの。天然酵母で元気いっぱい!

◆発酵情報◆

発酵時に温度が上がりすぎないように注意すること。20度が目安。ただし温度が低すぎても菌の活動が行われないため、冷やしすぎ禁物。


 はい、きたー!!

 やはり温度! 温度管理!! あとちょっとだけ説明文も変わっている。前回仕込んだときは酵母の説明なんてなかったもんな。


「ありがとう権兵衛! これで飲める!」

「よかった、ですね???? あと僕の名前は」

「ノーネームだろ! わかってるわかってる!」


 釈然としない顔をされたけどしゃあないじゃん。ノーネームのほうが呼びにくいんだから。まだエヌとかのがいいよね。今度はそう呼んでみよう。


「どれくらい時間かかります?」

「んー、特に時間経過のことは書いてないし、表示も出てないんだよね。気泡は出てるし、これがおさまったくらい?」

「へー。出来たらぜひご連絡くださいね」

「期待するような情報は出ないと思うけど……」

「飲んでみたいので」

「……一口だけでいいなら?」


 本当はお礼に一本くらいと行きたいところだが、いかんせん残りの蜂蜜が少なくてですね。みんなから蜂蜜を買い取らせてもらったとはいえ、数に限りがありまして。


「ルーラー・ビーの周回しないと元がないんだよね。あ、ルーラー・ビーの情報いる?」

「別口で持ち込まれてるので大丈夫です。一口でいいですよ。美味しかったら素材持ち込みでお願いしたいですけど」

「お兄さんイケる口ですか」

「いえ、下戸です」

「同士よ!!」


 思わず両手を握りしめてしまった。そうだよな! ゲームの中くらい楽しみたいよな!


「ちょ…っ! 近い近い!」

「あ、ごめん」


 焦ったような声に距離を取る。いけないいけない。フーにも注意されたことだったね! 元気してるといいなあ。お陰で酒が飲めそうです。


 出来上がったら連絡することにして、箱庭の外までお見送り。

 私もこのままルーラー・ビーのソロに挑戦しようかと思ったけど、流石に無謀なのと、発酵の温度管理のために箱庭内に戻った。


「さて、温度管理……とはいっても温度計ないしな。20度以下ってことは人肌より下だよな? 触ってヌルいくらい?」


 三本できた瓶にそれぞれ触れると、どれもやや温かい。特に温めてないんだけど、発酵時に出る熱量ってことだろうか。風よりは水で冷やす方向でいこうかな。

 そう決めて、三本持って、川の近くへ。一本は蓋をして川の流れの中、もう一本は川から汲んだ水につけて川の側、最後の一本は【ウォーター】で出した水につけて様子を見ることにした。


 増えたレモンスターが川岸まで生息域を伸ばしている景色は、緑の中に黄色が映えて大分生きた庭って感じ。やはり一種類の草しか生えてないのは違和感あるよねー。

 のんびりと座りながら、たまにリモにレモンをあげて、遊んでやって。

 そうして冷えすぎないように管理してしばし、最初に【ウォーター】につけていた瓶の発酵が止んだ。


 深呼吸して心を整え、いざ鑑定!


[ 回復薬 ] 蜂蜜ジュース【レア度:C 品質:C】

スッキリとした甘さ。甘ったるいのが苦手な人にもおすすめ。

MP回復100。


「おもてたんと違う!!!!」

< アークにて初めて生成されました。ネクソムと照合……過去データに該当あり。重要度レベルA。他アークと照合……該当なし。特産品に設定できます >


 酒じゃないことに衝撃を受けていると、ウィンドウが出現。確認もそこそこにイエスを選択すれば、大量のシステムアナウンスが流れ出した。


< 特産品が確立しました。【ark hortus】影響度を上昇させます >

< 箱庭操作機能が解禁されました。ヘルプをご参照ください >

< 箱庭クエストが解禁されました。ヘルプをご参照ください >

< ゲーム内配信機能が解禁されました。ヘルプをご参照ください >


<< お知らせします。アークにてゲーム内配信機能を開放したプレイヤーが現れました。ネクソム全体に配信機能が追加されます。なお、各固有のアークにて開放されない限り、視聴のみとなり、配信はできません >>

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