049. たどり着いたその先に

「いいかい、シェフレラ。落ち着いて。フォローはしっかりするから、焦らず、でも大胆に」

「は、はい! 頑張ります!」


 クエスト【在りし日の蜜を求めて】の大目標、ルーラー・ビーの討伐のためにボスエリアに踏み込む直前。エールズがシェフレラへと声をかけるのを聞きつつ、木の中にある不思議空間を見上げる。


 地図に表示された特徴的な大きな木、遠目からでもわかる複数の幹が寄り合わさって一本になった大木まで来たところ、その根本にアクセスポイントと思わしき光る岩があった。触れれば幹が軋みを上げ動き、人が入れるような入口が開く。すわこの大木も敵か? となったが、ただの入口出現ギミックだったようで、とくに戦端が開かれることはなかった。

 興味津々で入口をくぐればそこは苔むした通路と、木の幹で構成された壁。ダンジョンっぽい様相に緊張と期待が高まる。ちょっとした分岐や軽い敵を超えて、最奥と思われる場所にたどり着けば、大きな部屋と中央奥にルーラー・ビーと思わしき、今までで一番でかい蜂が、左右にビーの群れを引き連れホバリングしていた。


 そして今、現メンバーでの行動打ち合わせも終わり、突入まで秒読み。

 今回、メインタンク、ボスの注意を一番引く役割はシェフレラが担当する。

 左側のビーの群れをエールズ、右側のビーの群れを私、ホップがそれぞれサブタンクとして処理。まあ私はヘイト上昇スキルなんて持ってないので、開幕どでかい魔法をぶちかますつもりだ。


「養蜂のために落ち着かすって、めっちゃ倒しまくってるけどいいんかな」

「そうねえ。でも倒さない選択肢はないでしょ?」

「もち」


 殺らなきゃ殺られるのでね! しょうがないね!


「今回はヒーラーなしの変則パーティだ。ヘイトは稼いでも極力攻撃は受けないように」

「は、はい! では……行きます!」


 エールズの言葉を受けて、シェフレラが部屋へと踏み込む。一呼吸おいて私とエールズが左右の群れへ駆け寄り、シェフレラのヘイト上昇スキル【宣誓】がルーラー・ビーに直撃した。


「特大、【ウィンドボール】!」


 右の群体を直径を大きくした【ウィンドボール】で包み込む。通常の大きさとダメージ総量は変わらないから、多分一匹あたりに対するダメージ量は減ってるんだけど目的はヘイトを向けさせることなのでね! 問題なし!

 狙い通り、中央のシェフレラには飛んでいかず、群体はすべて私に来た。


「倒してしまっても構わんのだろう?」

「フラグ立ったな」


 モルトが私の横を通り抜けざまツッコミを入れていった。戦闘中の独り言に反応するとはやるな。

 作戦的にはガンガン行こうぜ!である。粘るためのヒーラーが居ないから、回復手段は各自の回復薬に頼らざるを得ない。自分のことは自分でねっ。なおオワタ式の私は一発アウトの危険を孕んでいる。


 ま、ボス的なこいつの情報もクエスト攻略情報もなにもないんだ。突っ込んでトライアンドエラーをするのは当たり前。死に戻ったところですぐにコルトには来れるし。

 住人のエドベルのことだけは心配なんだが、自分も行くってきかなかったからなあ。やばくなったらすぐ離脱するようには言ってある。実際問題、ダメージソースは多いほうがいいですしね……住人の死亡ってどういう扱いになるんだろ。


 考えつつも攻撃の手は休めない。詠唱時間の早いボール系を順に出しつつ、避けて短剣で応戦して数を減らす。

 ああ、詠唱時間っていっても本当に詠唱するわけじゃない。発動までの待機時間ってほうが強いかな。ちょっと興味はあるんだけどねー、ガチの詠唱。本とかないですかね。


『kyaaaaaaa!』

「う、わっ」


 ルーラー・ビーの叫び声とともに衝撃波! 後ろに転倒しそうになるのをバク転で立て直す。と、咄嗟にやったけど成功してよかった!!

 あたりを見渡せば、それぞれなんとか耐えた模様。総崩れにはなっていない。っと、思ったらビーのおかわりきましたねえ!! しかも左右ではなく後ろ……ボス部屋の入口を塞ぐように出現した。一番近いのはネネだ。


「ネネ、こっち!」


 ステッラが即座に反応して入口へと移動しようとするが、ルーラー・ビーの妨害が入る。バックステップを踏んだステッラの前が抉れ、毒々しい色に変化する。っち、毒エリア生成とか小粋な真似を!


 ネネは攻撃手段に乏しい。どうにかして群体のヘイトを奪いたいが、射線上にネネ自身がいるためボール系を当てるのが難しい。さらにネネとこちらとの間が毒エリアとなったことで孤立状態に拍車がかかってしまった。


「スイッチ!【宣言】【正護の盾】! 行って!」


 エールズの声にシェフレラが駆け出す。スイッチはメインでヘイトを保つ役割を代わること。事前に軽くタンク講座を受けただけなのにこの状態でよく動けている。エールズは自己バフで増えた攻撃を耐え抜く算段だろう。だが長くは持たない。自前の回復スキルもあるらしいから、さらにこっちにスイッチできればなんとか立て直せるか?


 ええい、こうなったら最高速度で私の持つ群体を殲滅する!

 左手で腰の後ろから予備の短剣を抜き二刀流へ。そのまま弾幕の厚いところへ突っ込んで切り刻んでいく。


 前回、森で包丁で戦ったのが懐かしいですね! 投げても大丈夫なようにもう一本調達しててよかったね! なお投げナイフはあったが身につける装備がなかった。布より革だし、自分で作ってみるのもありか。


「っ」


 ピリリとした感覚。流石に全ての攻撃を回避することはできずにいくつか被弾するも、そんなことは織り込み済みである。ビー、一体一体の攻撃力が低いから出来ること! ルーラー・ビーだったら多分消し飛ぶ。

 だがリスクを取っただけあって、残り1/3まで減らすことができた。流石に全部は無理だったが!


「エドっ!! こっち残り頼む!!」

「わ、わかった!!」

「エールズ! スイッチ!」


 ルーラー・ビーの強めの攻撃を捌いた直後のエールズに声を掛ける。回避より盾で受けているから、HPの減りが激しい。それでも自己バフと自己回復で半分は維持しているのが偉い。シェフレラがメインで受けてたときは、シェフレラ自身とエールズの回復でHPを保たせてたんだろう。あと、多分シェフレラのほうが素早さは上だから、避ける率も高かったかも。


「落ちるなよ!」

「善処します! 【ウィンドカッター】! もひとつ【瞬速振り】!」


 エドが残りのビーを倒していくのを横目にルーラー・ビーのヘイトを奪う。魔法だけじゃ奪いきれるかわからなかったので、短剣のスキルも併用した。これ、両手装備だとちゃんと二回分の判定出るんだな!


「さあて、ダンスと洒落込もうぜぇ」


 ルーラー・ビーの複眼がこちらを捉える。緊張で喉がひりひりするが、同時にワクワクも上がってくる。

 自分の限界に挑戦するの、たっのしー!


 まだこちらへとちょっかいかけてくるビーをエドへと誘導しながら、振り上げられたルーラー・ビーの尾針を躱す。直後に振り下ろされるのも前進することで躱して、近づいた胴体に攻撃。

 避けるの主体ですけど、攻撃しないとヘイトが保てない。モルトは今までもルーラー・ビーへと攻撃を入れてるから、ダメージ量が蓄積してそうだし。


 避けて、避けて、攻撃して、また避けて。

 エドが残りのビーの処理が終わって、ルーラー・ビーへの攻撃に戻ってくる。

 このまま押し切れる、か!?


『Gyuaaaaaaa!』

「っぐ、」


 さっきとは違う鳴き声と再びの衝撃波! 流石に間近で食らうのはキッツい!!

 飛んで衝撃を殺したものの、HPは一気にレッドゾーン。


「スイッチ! 【宣誓】!」


 シェフレラの声が聞こえて、こちらを見据えていたルーラー・ビーの複眼が後ろへと向いた。

 素早くステッラから渡されていた回復ポーションを流し込む。……そんなに美味しくないなコレ。爽やかな草の香りとエグみが後味に残っている。飲めなくもないけど進んで飲みたくないやつ。

 でも効果は確かで、九割ほどHPは回復した。全回復はしなかったが上等!


「あと少し!」

「大技行く! ヘイト注意!」


 モルトの声が響いて、同時に持っている長剣が冷気を帯びだす。なぁにそれぇ!かっこいい!!


「こいっ、灰雪!――【雪原豹晶】!」


 中空から灰雪さんが出現し、モルトの長剣と共に爪が振るわれる。胴体が抉れ羽にいくつもの氷が突き刺さってボロボロになる。最後のあがきとばかりにルーラー・ビーが口を開き。


 バンッっという音と共に破裂した身体から出た体液が、フィールド全体にばらまかれた。






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Q. 敵のHPバーは見えますか?

A. スキルがないと見えません

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