頭上で神仙さまがずっと話していた。話している間中、少年の頭を交互に撫でてくれていた。それにさっきは、銀髪の神仙さまとたくさんお話をした。優しい言葉をたくさんもらった。

 少年は神仙の袂を引っ張った。神仙二人は、気づくと慌てて何かを地面から拾って耳の辺りに押しつけた。それから、「どうした?」と黒髪の神仙が訊いた。

「お母さまに幸運を届けに帰ります」


 それに抱きしめてもらえもした。撫でてもらうよりたくさんいいことがあるかもしれない。

「この人出では、お前のおつきも困っているだろうね」


 少年は、李媽リーマーのことを不意に思い出した。かわいそうになった。確かにそうだ。一人で置いてきてしまった。そして自分も帰れるかどうかわからない。青ざめていると、

「仕方がない」


 黒髪が大袈裟にため息をつき、やおら少年の背中に回って屈むと抱き上げると、肩の上に乗せた。

 あまりの衝撃に言葉が出ない。

 視界が高くなる。

 周りの人間が一斉に少年の顔を見た。皆顔に一様に驚きを刻み、そしてくすりと笑い、視線をそらした。

「ほら、おつきを呼ぶんだ。しっかり探せ、どっちからきたんだ?」

 黒髪の神仙が言う。
視線が高くなると、自分がいたと思われる方向がわかった。

「あっちです」

 指差した。

「しっかり呼ぶんだよ。お付きの名前は?」


李媽リーマー

 銀髪の神仙がよく通る声で「李媽リーマー!」と呼ばわった。


 そうして人の波の中を少年は黒髪の神仙に肩車されて歩き、銀髪の神仙が何度も何度もおつきを呼んだ。

 面白いほどにすいすいと人の波がわかれた。まるで川の真ん中に道ができるようだ。

 少年はそんなに楽しい思いをしたことはなかった。自分がこんなに特別になったことは一度だってなかった。

 程なくして、李媽は見つかった。李媽は顔を真っ青にしたり真っ赤にしたりしていたが、少年がごめんなさいと謝ると、頭を撫でてくれようとして、少年は思わず頭を抱えて避けた。これは先にお母さまに撫でてもらうんだから。

 神仙二人は李媽と一言二言、言葉を交わすと、二人は酒を買って満月を見るのだと、さっと飛び立っていった。少年は軽功を目の当たりにし、また目を丸くした。

 去る間際に、銀髪の神仙が「お前が元気でいることが、お母さまにとっては一番の薬だろうから、毎日ちゃんと食べなければならないよ」といい、黒髪の神仙は「毎日ちゃんと勉強して体を鍛えろ、そうすれば今よりずっとお前も元気に強くなるぞ」と細々といくつか言った。少年は何度も頷いた。その言葉を忘れたことはなかった。

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