飯はどうする

「二人は飯どうする?」

 一人ヘッドホンを装着していたマッシュが不意に言った。


 そんな奴が会話できると思えないかもしれないが、マッシュは助手席に座っており、会話ができるよう常に右耳だけ空けているのである。


 ちなみに、左耳ではradikoを使ってオードリーのオールナイトニッポンを聞いている。二月にあるイベントも参加予定だ。


「食った」


「俺も」


 タクシーとポピコのそっけない返し。マッシュは驚いた様子で不平を漏らす。


「行きの朝飯はコンビニで食う、みたいなのが旅行の定番じゃんか!」

 マッシュの家族旅行では朝ご飯を買い食いする、というのが定番であった。コンビニ飯やサービスエリア等。


「そんな定番は知らん。マックにでも寄ってやるから適当に何か買えばいい」

 タクシーは慣れた様子で案を提示した。マッシュとポピコはマッシュの突然の行動に長年付き合わされている身なのだ。


「朝マックはナゲットが注文できないから嫌だ」

 

「……」

 タクシーは無言でハンドルを切った。


「お、おい! 何か言ってくれよ、タクシー!」

 マッシュが慌てた様子でタクシーに迫った。


 タクシーはそれをちらりと一瞥して制し、口を開く。


「――じゃあすき家だ。道中にあるはずだから寄ってやる。そこで何か選べ」


「それなら俺も何か食うわ」

 後ろの席で黙っていたポピコが突如口を開いた。タクシーはルームミラーを使って視線を送る。


「飯は食ったんじゃなかったのか?」


「せっかくなら食う。すき家の山かけまぐろたたき丼がめちゃくちゃうまいんだ。さらにとろろをトッピングすると、とろろで丼を覆えて良い」

 ポピコは味を思い出すように言うと、「もちろん、ワサビは五袋ぐらいつけてもらう」と続けた。


 ポピコはワサビが好物なのである。


「めっちゃうまそう。それ食べようかな」


「食え食え。マジでハマるうまさだと思う」

 小さくこぼしたマッシュに対し、ポピコは押し強く同意した。しかし、マッシュの「ワサビ五袋はない」という言葉を受け、無言でスマホに目を落した。


「ポピコ~機嫌悪くなるよぉ――はぁ、タクシー。件のすき家に行ってくれ。あそこはドライブスルーあったっけ」


「……」

 タクシーは「お前、そのすき家知ってるんかい」と思いながら沈黙した。


「タクシー?」


 不審げに首をかしげるマッシュに対し、タクシーは「フン」と鼻を鳴らした。


「ドライブスルーは使わない。俺も何か食おう」


「いいね、そう来なくっちゃ」

 マッシュはヘッドフォンを外した。さらにスマホですき家のサイトを開くと、「メニュー、読み上げてやる」と続けた。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る