到着した

「さっきまで街中に居なかったか、俺たち」

 ポピコは窓の外を眺めながら言った。


 その言葉に反応したマッシュはスマホを腿の上に置くと、同じく窓の外に視線をやる。


「確かに。広めの道を一本入ったらあっという間に山の中だ。上り始めてすぐに道がくねくねしだしたから、一瞬で街並みが見えなくなったのも大きいだろう」

 続いてタクシーも反応する。丁寧な解説をしてくれた。


「街並みが見えなくなったから? タクシー、わき見運転しないでくれな。事故だけは勘弁勘弁」

 タクシーの説明に口を挟むマッシュ。その言葉は説明をしてもらった人の態度とは思えないものだ。


「……ちっ」

 タクシーは不機嫌そうに眉をひそめて口を開きかける。しかし、一瞬ではあるがわき見運転をしたのも確かなので、強く出ることができなかった。


「――第一、お前らが黙ってスマホを見てたのが悪い。こういう時は運転手を楽しませるために雑談の一つでも提供するのが筋だ」

 強く出ることのできないタクシーは話を逸らして同乗者に水を向ける。しかし、二人はどこ吹く風で言い返す。


「いや、わき見運転自体は悪いことだよね。話逸らさないでくれる?」

 とマッシュ。


「普通、運転手の方が雑談振るもんだろ」

 とポピコ。


「それはタクシーの話だろうが!」

 マッシュの言葉は無視したが、ポピコのは駄目だったらしい。タクシーは今日一の大きな声を出した。


「でも、タクシーじゃん。お前」


「……」

 マッシュの言葉は再び無視された。




「到着!」

 駐車場に入って車を止めると同時、マッシュがそんな言葉と共に外へ出てしまった。


「どこ行くつもりだ?」

 残った二人に何も言わず歩き出してしまったマッシュに対し、タクシーは窓ガラスを開けて声をかけた。マッシュは振り返ることもせずに言葉を返す。


「その辺を見てくるから、手続きとかいろいろよろしくね」


「この駐車場、一時的に止めてるだけだからな。この後キャンプ場の前に移るからそっちに来いよ」


「りょうか~い」


「……あいつ、マジで勝手だな」

 マッシュが歩いて行ってしまった方向を見ながらタクシーが呟いた。


「まぁまぁ、いつものことだろ? 俺たちに迷惑をかけない程度でいつも戻ってくるじゃんか」


「そう……だが、なぁ」

 タクシーは「確かに。だが納得はしたくない」という風に言葉を濁した。


 マッシュはグループで遊びに来ているのにも関わらず、一人でどこかに行ってしまうことがよくある。今日は事前に声をかけられたので良い方だ。


 普通ならこんな風に勝手な奴、付き合い続ける方が変である。しかし、三人は小学校からの付き合いというのもあり、そういう奴だという認識を持っているからこそ、付き合いを続けられているのだ。


 それに、実際ちゃんと良いタイミングで戻ってくるのである。

 

「タクシー、キャンプ場への電話を頼む」


 ポピコの言葉にタクシーはうなづいた。


 今回のキャンプはタクシーが予約し、タクシーのクレジットでお会計をしているのだ。ポピコのお願いはもっともであった。


 それを理解しているタクシーは素直に電話を手に取る。不機嫌そうな対応をしない、珍しいパターンであった。

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