第3話・リリィの過去と宝の山

 リリィは元々、辺境にある村で両親と共に静かに楽しく、幸せに暮らしていた。しかし、その幸せも長くは続かなかった。


 リリィが10歳になったその日、リリィは市場へと買い出しに行っていた。そしてその帰り道、リリィは夜ご飯の誕生日ケーキを楽しみにし、鼻歌を歌いながら歩いていた。家に帰ればそこで両親が出迎えてくれて、いつもより少しばかり豪華な食事が出されて、誕生日ケーキを頬張るはずだった。


 しかし、現実は無情だった。リリィが見たのは激しく燃えた自分の家と、燃えた家から脱出まであと一歩のところで息絶えていた両親だった。


 幼いリリィにはその現実は辛すぎたのだろう。その現実を理解できなかった方が幸せになれたかもしれない。しかし、リリィは全てを理解し、心が壊れてしまった。感情も何も無い人形の様な状態になってしまった。


 そして運が悪いことに、リリィはその場にいた奴隷商人に目をつけられてしまった。そして奴隷として買われたのが2年後だった。リリィを買ったのは、更に辺境にある邪竜の住処に隣接している村だった。


 そう。リリィは邪竜への生贄として買われたのだ。


 それから1ヶ月程その村で過ごした。


 そしてその時が来た。邪竜へ生贄を捧げる季節だ。


 そしてリリィは命令通りに邪竜の住処へと向かった。リリィはこんな状況になっても何も感じなかった。むしろ、これでようやく両親の元へ逝けると喜びさえ感じている始末だった。


 しかし、その道中にあった廃墟は前にし足が止まった。そこは異世界人を召喚できると噂されていた場所だった。正直な話、リリィはそんな噂これぽっちも信じていなかった。しかし、なんとも言えない感覚がリリィの足を止めたのだ。


 そしてリリィはこの廃墟に呼び込まれるように入っていった。その瞬間、今まで白黒でしか見えていなかった世界に色がついた。リリィに失ったはずの感情が戻ってきたのだ。


 リリィはこの廃墟の中を進み、祭壇のような場所にたどり着いた。その祭壇の前に立った瞬間、体から一気に何かが抜けるような感覚がした。魔力を吸われたのだ。


 リリィは祭壇に1人の少年が現れたことを確認して意識を保つのが限界に達し気絶した。




 〜〜〜〜〜〜〜〜




 リリィは少年もとい、響が邪竜を倒すと言い出した時、不思議と疑問に思わなかった。むしろこの人なら邪竜を倒してしまうと確信さえしていた。それだけ響が放つオーラは異常だったのだ。




 〜〜〜〜〜〜〜〜




 響は気づいていないが、響きが邪竜との戦いに巻き込まないようにリリィを抱えて安全な物影に避難させた時、リリィは目を覚ましていた。


 そして邪竜がリリィをも巻き込みかねないブレスを吐いた時、響が避けずに魔法で跳ね返した時、リリィはこの命の恩人に一生ついて行こうと決めたのだ。




 〜〜〜〜〜〜〜〜




「リリィ。もう出てきていいよ」


 いやー、封印したファフニールを腕に封印できるかは賭けだったんだけど、上手くいってよかったよ。それにしても、この腕に封印してある邪竜と魔法陣、我ながら完璧な出来栄えだ。思わず笑がこぼれそうになる。


「ヒビキさんはこれからどうするんですか?」

「まあ、まずはこの邪竜の住処を探検してみようじゃないか」


 僕はリリィの問に邪竜の住処と思われる城を指さして答えた。




 いやー、予想通りこの城はお宝でいっぱいだな。ドラゴンには宝を溜め込む習性があるっていうのは本当だったみたいだ。


 これだけあれば僕のやりたい厨二設定リストの1つ、なんかそれぽっい格好でかっこつける、が出来るかもしれない!


 善は急げということで早速かっこいい服を探しに行こう。


 あ、そうだ。


「リリィもその辺で服を探すといい。今の服はお互いボロボロだからね」

「は、はい。わかりました」


 僕だけじゃなくて、リリィも相当服がボロボロだからね。厨二病患者は人に気が配れるようになって1人前なのだ。


 そして僕は魔力を足に込めて脚力を強化して城を片っ端から走り回った。




 そうしてそれっぽいお宝を片っ端から集めると軽く山ができてしまった。こういう時は人に分けるのが一番かな。


 全体的に白を基調とした服に着替えていたリリィに聞いた。


「リリィもこの中から適当に欲しいの取っていいよ」

「えっと······じゃあこれが欲しいです」


 そう言ってリリィは金色のリングに青白く光るダイヤモンドがいた指輪を選んだ。


「それだけ?」

「はい。これがいいです」


 なるほど。リリィは物欲が少ない方なのかな。まだ12歳程度だろうにしっかりしてるもんだな。僕がそんなもんの頃なんてこの宝の山全部持って帰ろうとしただろうに。


「あの、」

「ん?」

「指輪つけてください」


 リリィは左手の薬指を差し出して言ってきた。


 まあ、リリィもそういう年頃だもんね。このくらいの頼みくらい聞いてあげないと男が廃るってもんだろう。


「これでいいかい?」

「はい」


 リリィは照れるように笑って返事をした。


 ん?今僕の心臓が一瞬高鳴ったような······。さすがに気のせいか。僕がこんな小さな子にときめくロリコンなはずないしね。


 それはそうと、僕も色々選ばないと──




 うん。こんな感じかな。


 まずは服。全体的に黒を基調とした服を選んだ。ズボンは黒一色のものを。上のシャツは暗めの白色のものを。そしてその上に黒のコートを着ている。しかもこのコート、魔力が篭っていて、刃物も通さないレベルの優れものだ。


 さてと、


「リリィ」

「は、はい」

「冒険者ギルドに行きたいんだけど、案内頼める」

「は、はい!私でよければ!」


 そう!冒険者ギルド!異世界と言えばこれ無しでは語れないだろう。




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