第2話・あの厨二設定を再現したい
突然だけど、僕は自分が厨二病患者だという自覚がある。だけど、それを恥ずかしがったりしない。むしろ誇りに思うくらいだ。
まあ、思想が強いとかそんなんじゃないんだけどね。
そんなわけで、僕には異世界でやりたい厨二設定リストがある。今回やろうとしてるのがその内の1つ。
そう。あの、邪竜を右腕に封印して、くっ、右腕が疼く!的なやつだ。
「こ、この先が邪竜の住処です」
金髪ボブの少女、リリィが言った。
「ここが······」
確かに、ここからは強い魔力を感じる。その辺に漂っている魔素ではない。何者かによって支配された魔力だ。おそらく例の邪竜だろう。
ふむ。この支配を上書きできないかと試して見たけど、今の僕では無理らしい。ま、今後の訓練次第かな。
「では行こうか」
「は、はい」
そう言いながらリリィはどこか不安そうな顔をしていた。
まあ当然だろう。冷静に考えて、邪竜なんて個人で適う相手ではないだろうからね。ま、僕を除けばの話だけど。
それからしばらく歩いたところにそいつはいた。全体を漆黒の鱗で覆った高さ10m程のドラゴンがいた。邪竜だ。
『おやおや。今回の生贄は2人なのか?』
「「!!!」」
邪竜低く威厳を感じさせる声がした。いや、脳に直接話しかけるテレパシーの方が近いかもしれない。
というか、僕も生贄だと勘違いされてるのか。これは僕が戦うに値しない雑魚だと見下しているのかな。だとしたらその考え、なんとしなくても否定しなくては。でないとかっこ悪いからね。
「悪いけど、僕は生贄なんかじゃない。君を倒す者だ」
『ほほぉ。この我を人間ごときが倒すと申すか』
「何かおかしいことでも?」
『ふむ。確かにそなた。人間にしては強力な魔力を持っているようだな』
おや。知能はトカゲ程度しかないと思っていたけど、案外賢いじゃないか。まあ、それを最初に見抜けなかった時点で減点50ってとこかな。
『ところで、そこの少女は?』
「ん?」
あらら。リリィを見ていたら完全に気絶してしまっていた。
まあ仕方のないことだけど。なんせ相手は邪竜だ。もしこの世にこいつを前にして正気を保てる小学六年生がいるなら見てみたいね。
「この子は生贄だよ。悪いけどこの子が欲しいなら僕を殺してからにしてもらおう」
そう言って僕はリリィを抱えて邪竜とは反対方向にある安全そうな物影に飛んだ。そしてそこにリリィを寝かせる。
流石に戦いに巻き込まれて死なれちゃ寝覚めが悪い。
そして僕は再びジャンプして邪竜のところに戻った。
「さあ、始めようか」
『貴様は強いとはいえ所詮は人間。我が負ける通りは無い!』
邪竜はそう言い僕に向かって前足の長く鋭い爪を振るってきた。そして僕は左手でその攻撃を受け止める。
こいつ、ろくに魔力も込めずに攻撃をしてきた。こんなので僕が倒せるはずがないというのに。
『ほほぉ。この攻撃をその様にいとも簡単に防いだ人間は初めてだ』
「光栄だね」
『よかろう。貴様には特別に、邪竜ファフニールとしての本気を見せてやろう』
へぇ、こいつファフニールって名前なのか。
ファフニールが翼を広げた。その瞬間気が遠くなるほどの禍々しい魔力をファフニールから感じた。
『!貴様!何を笑っている!?』
「?ああ、本当だ。笑ってるね」
僕は顔に手を当てながらそう言った。
『ふん。気でも狂ったか。まあいい。これで塵も残さず消え失せるがいい!ダークブレス!!!』
ファフニールは限界まで濃縮した魔力を僕に向かってブレスとして放ってきた。
ふむ。避けたらリリィに当たってしまいそうだ。ならば取る選択肢は1つ。僕も魔力で対抗する!
僕は手を前にかざし、魔力を限界まで圧縮して具現化させ、黒い壁を作り出して呟く。
「マジックカウンター」
ファフニールのブレスが僕の作った壁にぶつかると、まるで鏡のようにブレスが反射し、ファフニールへと放たれた。
『なに!?』
ファフニールは間一髪で避けようとしたけど完全に避けきれなかったようで、片翼が消滅していた。
「自分の魔法で食らうダメージはどうだい?」
『き、貴様ぁ!一体何をした!?』
「おいおい、そんなにみっともなく叫ぶなよ」
ま、しょうがないから説明してやろう。
「簡単な話さ。鏡が光を反射するように、この壁は魔力を反射するのさ」
『だが!ただ跳ね返すだけではこれ程の威力は出ないはずだ!』
「そこは僕が反射する瞬間に君のブレスの威力が倍になる様に魔力で加工してあげたんだよ。いやー、魔力ってのは何でもできて便利だね」
僕は笑いながら説明してあげた。
1時間でこのくらいまでできるようになったんだから、僕は更に強くなれるはずだ。
楽しみだなぁ。強くなればなるほど再現可能な僕の厨二設定が増えていく。
『い、いったいどれほどの研鑽を積んだというのだ?』
「1時間」
『!こ、この化け物め······』
ファフニールはそのまま諦めたように全身の力を抜き地面に倒れ伏した。
残念。もっと試したい魔法が沢山あるというのに。
『ふん。煮るなり焼くなり好きにしろ』
「じゃあお言葉に甘えて」
さて、ここで当初の目的を果たすとしよう。
僕は周囲の魔素を全力で支配し魔力に変換し言う。
「封印!」
僕は紫の鎖型に具現化させた魔力でファフニールの身体を囲む。そしてファフニールの姿が完全に見えなくなるまで鎖を増やす。そこで呟く。
「圧縮」
すると鎖でできた紫色の球体は段々と小さくなり僕の右腕へと封印された。そして僕の右腕には魔法陣が刻まれる。ちなみに、この魔法陣に意味は無い。つけた理由はかっこいいからだ。
これで僕の夢がひとつ叶った。
ぶっちゃけめちゃくちゃ嬉しい。だが、厨二病患者たるもの、その表情を表に出してはならないのだ。
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