魔女の呪い?


「ニコラアァーーーッ!!!どこだ、ニコラーーー!!!」

「きゃああああっ!?おやめください、騎士様!」

「少しは落ち着け馬鹿!!混乱に乗じて逃げられたら…!」

「俺がこうやって陽動してんだろうが!!!テメエらで屋敷内を探索しろ!!」

「…そういう作戦なら、先に言え!!」


 まず、ハントが大声で家具を破壊しながら、注意を引きつけて。

 ゼラは捕まえた使用人を尋問、ロットが探索。


「(証人が見たのは…廊下も部屋も、窓の無い空間。つまり地下室!!)」


 そう当たりをつけて、1階を徹底的に探る。




「まあまあ…おほほ、どうなさいましたの、騎士様?」


 居場所が丸わかりなハントの前に、魔女…アリシア夫人が立つ。時間稼ぎのつもりだろう、柔和な笑みを浮かべている。


「うるせえ若作りババア!!!」

「バ………おほほ…」

「中老が無駄な足掻きしてんじゃねえよ!!!その気色悪い笑い方やめろ!!」

「……………」


 ハントの発言はシンプルに暴言だが…効果は抜群で。アリシア夫人はビキビキと青筋を浮かべた。


「……うふふ。あなた、このように私の屋敷を破壊していいとお思い?何か勘違いをなさって」

「黙れ!!!冤罪だったらいくらでも俺の首を持って行けばいい!!!ロットとゼラ卿のもだ!!」


 彼らは最初から…覚悟を決めて蛮行に及んでいるのだ。万が一アリシアが無罪なら、全ての責任を負うつもりで。

 これは、止められない…とアリシアは悟る。



「(……大丈夫、大丈夫よ。今頃地下室は火の海だもの。

 47番は惜しかったけれど、ここで終わるよりはずっとマシだもの)」


 ハントと対峙する前に…忠臣のメイドに、今すぐ放火するよう命じてある。

 そうだ、焼死体が見つかるくらい…夫の権力を使えば、最悪処刑は免れる!!




 はずだった。




「ハント卿!!ロット卿が地下室への扉を見つけたってよ!!先潜ってるって!!」

「!よっしゃすぐ行く!!!」

「……………え?」


 いや、扉の先は…燃え盛る地獄のはずでは?

 ゼラを追うハントの背中に、アリシアが手を伸ばすと。


「失礼、夫人。申し訳ございませんが、捜査にご協力いただきたく存じます」


 その腕を、3番隊隊長がガシッと掴んだ。気付けば…第1騎士団の1〜3番隊が全員集合し、屋敷を包囲している。

 それだけでなく…ツェンレイの騎士もだ。


「誰か夫人をお連れしろ!使用人も逃さず確保だ!」


 隊長の指示に、騎士達は速やかに動く。ここにきてアリシアは、ようやく状況を把握して狼狽えた。


「離しなさい、無礼な!!あなた達、私を誰だと思っているの!?この件は夫に報告させていただきます!!」

「どうぞ。もしもの時は私が責任を取りますので」


 そう言いながら、靴音を鳴らして歩いて来るのは。第1騎士団団長である、壮年の男性だった。破壊された屋敷を見渡し、ふうっと息を吐く。


「全く、あの問題児共は…

 いいだろう。思うままに暴れるがいい」


 ニヤリ… と笑う横顔に。遠くから聞こえる…「誘拐されたと思われる女性達が見つかりました!!」という声。

 アリシアは終わった…と思い知らされて。青い顔で、その場にへたり込んだ。





「ニコラ…!」


 地下室に先行していたロットは、階段に近い部屋から探して回っていた。

 合流したゼラに反対側の通路を任せる。4つ目にしてついに、女性達のいる部屋に辿り着いた。


「……っ!ゼラ卿!!!こっちだ、来い!!」


 そこは普段自分達が使う、室内の練武場ほどはあろう、だだっ広い部屋だった。

 いくつもの台座が置かれており、下着姿の女性が横たわっている。

 見てはいけない…と一瞬足を止めたけれど。彼女達が全身に傷を負っているので、照れている場合じゃない!と踏み込んだ。


「ロット卿っ!う…!」

「応援は来ているか?毛布やシーツを持ってきてくれ!」

「おう!それと…この匂い。……あれだ!あの煙!」


 部屋のあちこちにある香炉。これも証拠だ!とゼラは言う。



「うおおおおーーーっ!!ニコラはどこだ!!?こっちか!?

 …キャーーーッ!!」

「「うるせえ!!!」」


 次に現れたハント、半裸の女性に盛大に反応する。


「おーい、どこだ!」

「あっ、隊長の声じゃん!」


 大勢の足音が近付いてきた。増援だ!と3人は喜び、女性達を発見したことを上に報告等、細かな要望をゼラが伝える。


「あの煙は直感ですが、長く吸ったらやべえ。一旦外に出す、誰か手伝ってください」

「分かった!そこのお前、捜査官も呼んでこい!」

「はいっ!」


 10人前後の騎士が集まり、己の役割をこなす中。ロットは…なるべく身体は見ないようにしながら、女性達の顔を確認して回った。すると…


「…ニコラが、いない…!」

「「えっ!?」」

「隊長!他の部屋にも被害者がいるかもしれません!!」


 騎士に動揺が走った。真っ先に動いたのは…


「ニコラーーー!!!お兄ちゃんが迎えに来たぞ、ニコラー!!!」

「うるっせえってんだよお前は!!!」


 恥ずかしくて、部屋に入れずにいたハントだった。

 静止も聞かず、次々部屋を開けて回る。


「無人!バスルーム!トイレ!無人!無人!」


 無駄に広い地下室は、屋敷と同じくらいの面積がありそうだった。逆方向はロットが同じように走り回っている。



「ここはどうだっ!!……は?」

「うおっ!なんだお前!?」


 ハントが次に開けた扉の先に。

 全裸の男と…その下に。ベッドに仰向けに横たわる、オレンジ色の髪が見えた。


「この変態野郎!!汚ねえケツ見せんな死ねっ!!!」

「ぐぎゃっ!?」


 ハントは男の顔面に蹴りを入れ、壁まで吹っ飛ばした。鈍い音がしたが、どうでもいい。


「ニコラ!!」

「………っ、……」


 頬は痩けて、指一本動かせないニコラだが…

 その目は確かにハントを映し、涙を零れさせた。

 ただ…安心したのか、目を閉じて意識を失ってしまった。


「ニコラ!もう大丈夫だ…!俺が来たからな!」


 ハントもまた、大粒の涙を流して。ベッドに片膝を乗せ、力を無くしたニコラの上半身を持ち上げ、優しく抱き締める。


 が。その時…何か柔らかいものが、胸元に当たった。



「……?…???」



 とにかくニコラを見つけた喜びしかなくて。更に部屋が薄暗くて…気付かなかったけど。

 ちょっと身体を離してみれば、あら不思議。一糸纏わぬニコラは…自分とは全然違う身体つきをしていた。


「?????」


 混乱状態のハントは、上から下まできっちり観察。

 全体的に細いのに、胸は膨らんでいて。アレが…無い…


「………………」


 とにかく。自分の上着を脱いで、ニコラに着せてボタンを留めて。

 大切に…大事に抱っこして、廊下に出れば。



「ハント!よかった…ニコラも無事だったんだな…!」

「ニコラちゃーん!!よかったあああー!!」


 ロットとゼラを始めとして、数人が駆け寄ってきた。その中にはダスティンもいる。ハントの腕の中で眠るニコラを見て、目に涙を浮かべた。

 が。ハントは未だ、呆然としている。


「………………」

「…どうした?お前」

「ロ…ロット。大変、だ」

「!?まさか、ニコラに何か…!?」

 

 安心したのも束の間。ロットは絶望の表情になり、ハントの肩を掴んだ。



「に…ニコラの…

 ムスコが、死んだ…どっか行った…」

「「……………へ?」」

「魔女の…呪いか…?ニコラ、が。

 女の子に…なっちゃった…」

「「……………………」」



 これはもう…何言ってんだコイツ?という顔になっても仕方ないと思うのだ。


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