魔女の正体


「なんだ、森の魔女って!?」


 ニコラのヒントを聞いた面々は頭を抱えた。

 何かの比喩?暗号!?連想!!?分からない。



「急がねえと…!1人逃げたのはすぐバレるはず、証拠隠滅される前に、助けに行かないと!」


 混沌を極めていた会議室だが、ゼラの言葉に一旦深呼吸。ハントは頭冷やしてくる!!と部屋を出た。


「…?そもそも、きみ達の言うニコラとは少年だろう?被害女性は「ニコラは確かに女性だった」と証言している。つまり2人は同名の別人だ、ヒントも何もないだろう」


 1人の捜査官の発言に、それもそうだと皆が同調した。ここでロットは…拳を握り、ついにカミングアウトした。


「ニコラは…女の子なんだよ!!」

「「「は…?」」」

「名前から周囲が勝手に男って勘違いして、言い出せなかっただけだ!!

 ってそれどころじゃない!!捕まっているのは絶対に、僕達の知るニコラだ…!」


 捜査メンバーは目を丸くしたが、ゼラがロットを擁護したことで納得した。

 ハントも戻ってきたところで、気付けばロットが指揮を執っていた。


「ニコラと関わりのある人物に聞き込みだ!!

 まず…ステラン殿下とダスティン卿を訪ねろ!!あと、兵士と…アールに電話だ!!」


 ニコラが無意味なヒントを出すとは到底思えない。連想ゲームしている場合でもない、つまり。ロット達には通じない、何かがあると判断した。


 直接犯人の名前を出さない理由は2つ。

 見張り等がいて、会話内容を隠すしかなかった場合。

 もう1つは…ニコラが、知らない場合。証言からして後者だろう。




「ツェンレイの皆様は、何も心当たりがないそうです!!」

「兵士長ガイルが兵士全員に聞き込みをしたところ、何も分からないとのことです!」

「てことは…」


 残された可能性は…!



〔森の魔女?

 ……ああ!知ってるけど…それがにーちゃんの失踪と関係あるの!?〕

「「「アールーーー!!!」」」


 ついに糸口を掴んだ。電話をスピーカーにして、捜査メンバー全員が聞こえるようにする。


「……という訳だ!!犯人はその魔女で間違いない、誰なんだ!?」

〔…!エリカ、スピカとマチカを連れて部屋に行ってて〕

「?」


 3人娘を遠ざけたアールは、真相を語る。



〔おれも魔女の名前は知らないよ。ただ1回、会ったことがある。まだ路上生活をしていた頃…

 そのオバさんは、スピカの姉ちゃんを連れて行ったんだ。甘い言葉に姉ちゃんは、小さいスピカを捨てた。男や子供に用はないって、おれ達は無視されたけど〕

「そのババアだ!!!特徴は!?」


 ハントが興奮気味に訊ね、アールは懸命に記憶を辿る。


〔うーん…!かなり…特徴的だったから…!

 …4年くらい前だけど。言葉遣いや態度から貴族。長い黒髪に、真っ赤な口紅厚化粧。胸はデカい、真っ黒な爪…背は女性にしては高め〕

「大体の年齢は!?」

〔そん時すでに、50いってるんじゃね?ってにーちゃんが言ってた。美人で若く見えるけど…肌のハリが無いって。顔のシワは隠せてるけど、首や手が年相応だとか。

 森の魔女ってのは…〕



 ねえにーちゃん、こないだのオバさんさ。黒い服着て帽子被って…森の奥深くに小屋があって、大きな鍋を長い棒で混ぜてそうだよね。

 ヒヒヒ…とか言って、ついでに黒猫飼ってるの。



〔…っておれが言って。それから暫く、森の魔女が近くにいるから逃げろ…とか言い合ってたんだ〕


 アールの言葉を聞きながら、各々貴族名鑑を開いたり、資料をかき集めたりしていた。

 そしてついに。該当する人物が浮かび上がる。



「アリシア夫人!!夫はウルシーラの東部に領地を持ち、彼女自身は首都に身を置いています!

 今年で56歳ですが、その妖艶さ若々しさから、年齢不詳とも言われています!」

「アリシア夫人…!」


 屋敷の場所は…馬を飛ばせば、10分程で着きそうだ!


「ですが、あくまでも被疑者です。もしも冤罪だったら大問題なので、しっかり調査をしてから…」

「もう3人は飛び出したぞ」

「……追えーーーっ!!!お前は騎士団に報告しろ!!」


 そこまで判明して、騎士3人が待てるはずがない。誰が合図することもなく、息ピッタリに馬を走らせた。





 その頃、女性達が囚われている屋敷では。

 魔女の部屋に、下男の1人が飛び込んできた。


「奥様!どうやら51番が逃走したようです!」

「…なんですって?」


 ついに死体と入れ替わったのがバレてしまった。薬で何もできないと思われている、ニコラ達が疑われなかったのは不幸中の幸いなのだろうか。

 魔女は顎に指をあてて、うーんと思案する。


「……お前達の処罰は後回しよ。もしも屋敷が特定されたら不味いわね。

 まあ、捜査令状も無く貴族家に乗り込む馬鹿はいないわ。いい?あくまで冷静に、速やかに行動なさい。

 無駄に慌てては怪しいだけよ。私達はこれから、優雅に領地に帰るだけなのよ。

 47番以外の娘は捨てるわ。証拠も全部放り込んで、蓋をして地下室ごと燃やしなさい」

「…奥様。47番は現在、子作りを開始したところです」

「あらそう?仕方ないわ、今すぐ中止に…」

「おっ、奥様っ!!失礼します、緊急の連絡が…!」


 そこへ大慌てのメイドが、転がるように部屋に入った。

 魔女は不機嫌さを隠しもせず、低い声で続きを促した。


 メイドはその場で正座して、ガクガクと震える拳を、膝の上でぎゅっと握り。



「王室騎士団の制服を着た、男性が3名。

 正面玄関を破壊して…屋敷内で大暴れしています!!!」

「………………は?」



 どうやら馬鹿は、ここに3人いたようだ。


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