少年の失恋


 ロットはハントが迎えに来てくれて、どうにか帰って行った。


「ユニコーンに追われたって!?無事でよかったぁ…」

「ロットも来てくれたから、平気だったよ」

「俺もやっぱ毎週来る!!」

「毎週魔物は出ないかなあ…」


 昨日は用事があったらしく、その場に居合わせなかったハントは悔しげだ。

 ロットとニコラは別れ際…互いにキスしたことや、一晩共に過ごしたことを思い出し、頬を染めた。



 2人が帰った後。エリカはニヤニヤしながら…


「ねえにーちゃん。若い男女が一晩同じ部屋…何もなかったの?」

「意味分かってる!?」

「きゃーーーっ!やっぱり、チューしたのねっ!?」

「ちゅ…っ!?」


 あ、そっち!?と焦るニコラ。

 なになにー?と大騒ぎする妹3人を、とっとと家の中に押し込んだのであった。



 その夜…アールがニコラを呼び出した。


「どしたの」

「………にーちゃん。おれ…」

「(おれ?ぼくじゃなくなってる…)」


 それだけでなく、アールは完全に声変わりしていた。段々と大きくなっていくな〜と保護者として嬉しい。

 けれどアールは涙目になり、裾を握りながらニコラの目を見た。


「おれっ!!に、ニコラちゃんのこと好きなのっ!!」

「ん?わたしも好きだよ?」

「そうじゃなくてっ!ニコラちゃんを、女の子として好きなの!!結婚したいの!!」

「え…」


 アールは諦めている、けれど。前に進むため…想いを告げることにした。

 ニコラの部屋で2人、ベッドに並んで話をする。



「初めて会った時。腹が減ってて…死にそうになってたおれに、クラッカーと水を差し出してくれたじゃん」

「………うん」

「おれ、あの時ニコラちゃんと会えなかったら…もう死んでた。それから、ずっとおれの側にいてくれて。エリカ、マチカ、スピカも仲間になって…大変だったけど、ニコラちゃんはおれ達を守ってくれた」

「……………」

「そんな…の…好きになっちゃうよ…」

「アール…」


 涙を流すアール。ニコラはそっと拭い、頭を撫でる。

 ふと…目線が同じだと気付いた。12歳になったアールは、身長もニコラに追いついていたのだ。

 手や足に至っては、ニコラよりずっと大きい。


「(まだまだ…子供だと思ってた…)」


 自分の庇護が必要な…幼子はもういない。あっという間に成人して、自立するんだろうな…と今更痛感した。



「……ニコラちゃんは?おれのこと、好き?」


 あ と我に帰る。そうだ、告白の返事をしなくては。


「……好きだよ。弟として…」

「だよね…知ってた」


 アールは赤くなった鼻をすすりながら、にっこりと微笑んだ。

 そんな顔をさせてしまうことに、酷く胸が痛む。


「ニコラちゃん。おれはさ…浮気すると思う?」

「思わないよ!?そんな子に育てた覚えはありませんっ!」

「うん、しない。

 だからさ…もうちょっとだけ、誰かを信じてみない?」


 ニコラは目を丸くした。別に人間不信みたいな言い方しなくても…と思う反面。言いたいことは伝わっている。



 世の中の男性は、父親みたいなクズばかりではない。

 ニコラと母親を蔑んだ、心無い人間ばかりじゃない。

 そう、頭では分かっていたけれど。どうしても…身構えてしまうのだ。



「にーちゃん」

「ん?」


 泣き止んだアールは…吹っ切れた表情になり、部屋を出ようとする。


「おれね。いつか…にーちゃんが綺麗なドレスを着て。誰かの隣で微笑んでいる姿を見たいな」

「………………」

「あ、おれのこと変に意識しないでね。もう大丈夫だから!これからも、ずっと「ニコラおねーちゃんを大好きな弟のアール」だからね」

「…うん。おやすみ、アール」

「おやすみ」



 静かに閉められた扉を…ニコラはずっと見つめていた。






 ニコラの足が完治した頃。なんと王宮からお呼びが掛かってしまった。


「うへえ。ユニコーンのツノについて…かな?」

「にーちゃん…大丈夫?」


 アールは不安気な表情だが、ニコラは目を輝かせている。


「面倒だけど、きっと報酬を貰えるんだよ!あのツノ超貴重で、1本数千万するって噂だし!100万ウルくらいはくれるんじゃないかな!?」

「にーちゃーん…(ダメだこりゃ、ロットさんに任せよう…)」


 うっひょー臨時収入だ!!貯金して家族で美味しいもの食べに行くぞっ!!と内心小躍りするニコラ。

 双子やゼラも心配する中、ウッキウキで王宮に向かう。




 いつもの兵士の制服で、招待状を門で見せて…案内されるがままに歩く。


 だが、連れて行かれたのは。なんと…


「はえ?謁見の…間?」


 まさかまさかの、国王に謁見する場所でした。

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