外から来た『敵』


 ニコラが今日も獲物を探しに…と歩いていたら。見覚えのあるローブが、道の先に立っていた。

 全然懲りてない…馬鹿貴族か?とため息をつきながら、関わりたくないので進行を変える。



「あっ!?」

「なんで逃げるんだ!」

「いたいっ!」


 踵を返した直後、隠れていた3度目ましての騎士に腕を捻られた。ニコラの細い腕はミシミシと悲鳴を上げて、すぐにでも折れてしまいそう。

 だがそれに気付かない騎士は、犯罪者を捕まえるように押さえつけた。


「やめなさいハント卿!」

「ですがこのままでは、また逃げられてしまいます!」


 ハントと呼ばれた騎士は、女性の言葉により一層力を入れた。

 瞬間。



 ごきんっ



「ああああ゛あ゛っ!!!」

「え…?」

「きゃああっ!?」


 今の感触は。ハントは呆然と腕を離すと、力を失くしたニコラが地面に肩から倒れた。左腕はおかしな方向に曲がっており、青い顔で浅い呼吸を繰り返す。


「いや…俺は、そんなつもりは…」

「どきなさい!」


 女性が駆け寄りニコラの上半身を抱き上げる。その後ろから複数の騎士も走ってきたが。


「にーちゃんに何をしたあーーーっ!!?」

「っ!」


 そこへ、ニコラの悲鳴を聞きつけたアールが走って来て、女性にタックルをした。

 3人娘がニコラを受け止め、大急ぎで立たせた。



「逃げ、るぞ」

「「「うん!」」」

「あ…!駄目、手当をさせて!」

「なんだお前らは!どうしてぼくたちの邪魔をする!もう放っておいてくれよ!!」


 激痛を堪えながら、大量の汗をかくニコラは腕を庇い、どうにか路地裏に姿を消した。

 ここで気を失う訳にはいかない。エリカの肩を借りて、足を引きずるように歩く。


 アールが両手を広げて唯一の道を塞いでいるため、女性も騎士も奥に行けない。痩せ細った子供に乱暴すると、先ほどのようになる…と学習したようだ。


「違うの、私達は貴方達を助けたいの!」

「上っ面の助けなんていらない!ぼくたちの人生に責任を持てないなら!期待を持たせるな、最初から手を差し伸べるな!!帰れ、今すぐ消えろーーーっ!!!」


 アールの涙ながらの叫びは周囲に響いた。それを聞きつけたのか、路地裏の住人が姿を見せた。


「助け…?俺達をたすけてくれるのか!?」

「メシ!メシをくれ!あと酒!!」

「やったわ、やっと…!早くここから連れ出してっ!」


 女性と騎士達は囲まれて動けなくなってしまった。その隙にアールは…そっと路地に消える。





「にーちゃあん!」

「だ、い、じょう、ぶ」


 枯れ草にシートを敷いて作った寝床に、ニコラは横たわっていた。腕の痛みに、もう意識が…

 3人娘が大泣きするので、笑顔を作ってみせるが…限界だ。


「にーちゃんっ!」


 そこにアールが飛び込んできた。気絶したニコラを目にし、即座に血の気が引く。


「ど…どうしよう…!あ、そうだ!骨折には、まず固定して…」


 自分の持つ知識を総動員して考える。まず木の棒と布!外に拾いに行こうと、意味をなしていない玄関から飛び出したが。

 背の高い誰かが立っていたため、アールは思いっきり顔をぶつけてしまった。


「ぶっ!?…なんだお前はっ!!」

「うるさい。そいつを見せてみろ」


 それは騎士の制服を着た青年。さっき女性の側にいた1人だ。アールの後ろをこっそり尾けたのだろう。

 ずかずかと廃墟に入ろうとする。3人娘はニコラにしがみついて、アールは物理的に噛み付いた。


「帰れーーーっ!!!」

「う…っ!何をするんだ、そいつを助けたくないのか!?」


 ずっと無表情だった騎士は、腕が痛いのか顔を歪めた。


「うるさいっ!お前ら外の人間は、ずっと無関心だったくせに!!助けるふりをして、わずかなお金や食べ物を奪っていくんだ!!!」

「…!違う、僕はそんな…」

「今度はなんだ!マチカやスピカやエリカを連れて行くのか!!変態貴族に売るんだろう、させないぞ!!

 にーちゃんの代わりに、ぼくがまもるんだからあっ!!!」

「その仲間が苦しんでいるんだぞ!?」

「その手には乗らない!!次は右腕を折るのか!?これ以上にーちゃんを痛めつけるなら、ぼくがお前を殺す!!!」

「……………」


 アールは家族を守るのに必死で、騎士が今にも泣きそうな顔をしているのに気付かなかった。



「……すまん、恨んでくれ」

「がっ…」

「「「あっちゃん!!」」」


 騎士は強く強く唇を噛み、アールの腹を優しく突いて気絶させた。その場に寝かせて、改めて4人に顔を向ける。


「さて…どきなさい、手当をする」


 頼れるニコラとアールは意識不明。ゆっくりと近付いて来る、外から来た『敵』を前に。3人娘はガタガタと全身を震わせ…


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る